【オペレーション:妖精の歌】クリア!
▽デッドは カブトムシを 追いかけてゆく。
▽ローズが トマトを発見した!
▽マリンが ナスを発見した!
二体はデッドの肩を飛び降りるとそれぞれ反対方向に降りてしまった。
このまま走り続けていたら置いていくことになり、はぐれることは必須であるので、デッドはしかたなく急停止した。
足を踏み締めて走っていたものだから、雑草が根を張った大地が靴の形にえぐれる。
このあたりは土の汚染がひどくなく、悪臭もなく比較的緑が多い。
(妙だな。変化があったということは、あのラビリンス産の野菜が関係しているのではあるまいか?)
デッドは算段をつけると、まずはマリンのプルプルボディをむんずとつかんでナスから引き剥がした。
「Boo!」
「半分は食べてしまったか。変質は起きていないだろうな。お前たちの体質があまりに変わるようなことがあれば、目的が達成できない。それは今の俺のデメリットだ。成し遂げるまでの経緯をみたいのであって、できるかどうかという失敗の賭けをしているのではない」
デッドは自分勝手でありながらも、その目的が一致している場合のみ、深い考察から得るものがある場合もある。
マリンは怒るのをやめて、スライムボディを膨らませたり萎ませたり、自分で味わってみたりして(※共食いである)調子を確かめた。
いつもとは違いわずかに紫色がかっていること以外、異常はないらしい。
元気に飛び跳ねてみせると、デッドにもその意図がわかった。
「ローズの方は……これはいけない」
▽トマトを 食べ尽くしている!
▽トマトの茎だけが地面に点々と残っていた。
▽ボディの色が 真っ赤になっている。
デッドはローズのスライムボディをつかんで、顔のあたりに持っていった。
いつも無表情で変わることのなかった顔つきが、どこか、獲物を見つけたような愉悦を滲ませている。そのことに気づいたとき、デッドは(分析してみようか)と自分への課題のひとつとして思考回路を増やした。その潤沢な脳領域のスペースにはこのような「答えを知りたいこと」がたくさんのタスクとして同時進行で動いている。
ここに課題を「クラウド保存」したため、デッドは一時の衝動を忘れて、ふっとまた無表情に戻った。
「Piiiiii……」
「それは鳴き声なのか? 怯えさせているようだ」
「Boo」
「違うのか? 警戒させたらしい。それならば合っているか。ふむ。俺はお前たちにも興味を持っているので俺に対してあらゆる警戒をするといい。どのような手段を用いてくるのかを愉しみに思考しよう」
ぽい、とデッドはローズを離した。
ローズもそもそもトマトの過剰摂取で栄養過多となり、興奮状態でつっかかってしまったらしい。今では消化も終わり、いつものように元気なピュアっ子に戻った。
トマトはまた実り始めている。
花が咲き、枯れて、実をつけて、赤色をさらして静止している。
ここまでが成長の終わりだと言わんばかりに。
「無限に再生するあたり、アンデッドやゾンビが多いこの周辺の地質によく合っているのだろう。倫理観だの常識だのとうるさくいう潔癖なやつでなければこれを食糧にして生き延びることもあろうな」
デッドはマジカルスライムを眺め回した。
この金髪の体には魔眼が備わっていることもあると聞いたが、さすがにそれはレアで、デッドの目にはそのような力は備わっておらず自力で観察をするしかない。
視力向上の魔法は組み込んである。
「異常なし」
眺め回されたローズとマリンは、くねっ、とした。
肩に担いだままのアンはいまだにぐったりとしたままだ。
むしろ、回復をしかけていたのにデッドが悪路を爆走するものだから、体軸がずれて気分が悪くなり気絶が長引いている節もある。
ローズとマリンは、デッドの足元に一度ぶつかった。
そして一方向にそろって走ってゆく。
「む……。……おお、カブトムシ」
それを教えてくれたようだ。
しかも一匹だけはぐれている個体である。
進撃する巨人のごとく走り出したデッドによって、そのカブトムシは手中に収められた。
一本、足がなくなっている。
甲虫特有の艶のある体はつつかれてボロボロだった。
虫の息という言葉がふさわしい。今にもその命を終えさせようとしていた。
ローズとマリンは このカブトムシを治してやることにしたらしい。
たぷたぷとカブトムシの表面を軽く叩いてやると、スライムの粘液がくっついたところが淡く光り、上からコーティングされたように体が補強された。紫がかった鎧を持つカブトムシになった。
▽※これは進化ではありません!
▽※義足や義手やカツラに該当します!
その間、デッドはカブトムシを観察していた。
「話せるか?……それほどの知能は育っていないらしい。しかし本能を少々超えた知恵くらいはあるようだ」
ふむ、と顎をなでる。
「どうやら大将戦に巻き込まれたと思っているらしい。活気のままに負けたならばもっと落ち込んでいて然るべきだろう。もしくは悔しがって興奮状態になるはずだろう。体力そのものは今回復したはずなのに、そのどちらも見られないということ、そして背中に傷を複数負っていたことから、お前は、戦いから逃げ去ったのだろうな」
カブトムシはツノを掴まれて観察されても大人しくしている。
「しかし見た目がカッコイイ」
『!?』とカブトムシは足をバタバタ動かす。
得体がしれなくて気持ち悪い感想であった。それにけなし言葉があまりに念入りにカブトムシの心を折った後だったので、おかしな動作をしてしまった。
しかし、冷静になってみると、嬉しい言葉であるとカブトムシは喜んだ。
「俺は何を言っているんだ?」
『!?』
デッドは自分の内側に潜り込むように意識を沈めて、一瞬の沈黙のうちに、頭のどのスペースがその感想を導き出したのか把握した。
この体になって以降、精神と肉体が離れていると感じることも多く、人体について知ることも旧イヴァンの好奇心の対象となっている。
「この体の持ち主が、カブトムシに興味があったらしい」
それお前じゃねえの? というようにカブトムシは首を傾げた。
「違うのだ」
話が長そうである。
それに、そんなに興味もない話をすすんで招くような気もない。
ローズとマリンもその兆候は感じ取っており、デッドが口を開いたところでその口の中にスライムボディの一部を突っ込んだ。
「もがもがもがもが。ぶくぶくぶくぶく。ふがふがふがふが。もぐもぐ……」
デッドはそれでも口を動かした。
このように外に出力することはどうやら、誰かとコミュニケーションを取るためではなく、自分の考えが内側からこぼれ落ちてくるという類のものらしい。それゆえにどんな場面であってもデッドはデッドなので合った。
(まじかよこいつ)という感情を、ローズとマリンとカブトムシは分かちあった。
スライムボディをつっこんでいるのでデッドを引っ張っていくこともできない。
あぐらをかいて、ついに腰を落ち着けやがったデッド。
しかしその膝の上にアンが寝かされているのをみて、しばらく安静にさせておいた方がアンにはいいだろうし、とマリンとローズはその場に留まることを黙認した。
カブトムシは逃げる隙を見失った。
瞬きもしないデッドのぎょろ目が怖すぎた。
*
▽夜です。
▽場所移動? してないよ!
▽ローズとマリンは 寝てしまった。
とろんとスライムボディが口から抜けてしまうと、そのまま話し続けていたデッドが咳き込んだ。潤いはありがたいものだったのだ。
このまま話し続けていたら喉の内側がひび割れるかもしれない、と喉をさすりながらデッドは考えた。
そこで、理屈的思考は途切れたらしい。
やっとですかい、やれやれ、というようにカブトムシが頭を振る。
「お前」
へえなんですのん、というような反応がある。
あまりにも青年が変なので、カブトムシは恐怖心を削がれてしまったらしい。いや、保ち続けることができずに恐怖心が「ダレた」とも言える。
「妖精の王とやらになりたいか?」
『!?』
「なぜだか大将は蝶々の翅を持つものばかりだったが、別に、勝てるならばどのようなものでもかまわんのだろう。メルガ・リッツならば喜びそうだぞ、カブトムシの妖精。それにモレックがこのラナシュがいつになく自由度が高いのだとぼやいていたし。
やるか、やらないか」
『NO』
カブトムシは即答した。
「なんだ。話せるじゃないか。……話せるように学習したのか。ローズとマリンの物言いによく似ている。ふむ。できることを隠す、できないままでいいやというタイプだったか。
カブトムシにここまでの知性が存在するのか? くそっ、カブトムシの数が少ない地域だから文献が全くなかったのが悔やまれる。思えば幼い頃に一度だけ見たカブトムシに焦がれてきた人生だった。俺は何を言っているんだ?」
カブトムシは慣れたもので、ため息すらついているようである。
そりゃあ何時間もぶくぶくしている変な奴を見続けていたらそうなる。
「王にはならないか。その気がないなら仕方ない。あれは存外、覚悟がいるものらしい」
デッドはマジックバッグから水の瓶を出すと、アンの口の中に注いでやった。喉が動いた。もうすぐ起きるだろうと算段をつける。
アンはいまや安らかに眠っているようでもあったので、アンデッドは完璧な睡眠に陥ることなどないものの、生きていた頃に眠っていた幸せな記憶、そのようなものにすがっている最中なのかもしれないとデッドは考えた。
それを聞くために起こすのである。
「青の女王というのを知っているか。シェラトニカという名前の方がおそらく有名だが。
王族の血を引く少女がかつており、その性質は欲しがりで、占い師に占わせたところ破滅の兆候があったのでなにもさせないように気をつけていたそうだ。しかし国の体力がなくなり、その少女の占いよりも、能力を頼るべきだという意見が強くなった。ようやく力を使うことができた少女はそれははりきって、思いっきり遊んだそうだ。そして実力があったので女王になれた。しかし、覚悟がなかったので遊び続けることができなかった。
王なんてものは、続けていけなくては意味がない。登ったそのときにどれだけ優れていても、続けなくてはだめなのだ。根性や容量や、愛嬌があり誰からも慕われるようなところがないとだめらしい。
やりたいか?」
『NO』
「似合わないだろうな。あいつも似合っていなかった」
あんさん言い過ぎやで、あらゆることに言い過ぎやで、というようにカブトムシは哀愁を背負った。
「どんどん成長している?なぜだ?」
ぐわしって掴むのはやめてー!吸うな!カブトムシなんて土の匂いしかしませんやん!舐めるな!ウギャアアアアアア…………
▽カブトムシは 言葉をもっと覚えなくてはならないと思った。早く。
▽アンが 身じろぎをした。
▽アンが 目を覚ました。
──夢の世界。
(なーーにやってんだかー、ですね〜〜)
(私たちはなにを見ていたんだ……)
(えーとお。盗撮!盗聴!アンデッドとゆく昆虫探索の旅〜、ですかね〜)
(盗撮も盗聴もしていないが。風評被害は止めるんだ。そろそろこのアンデッドの少女の夢もうつろになってきたな……次に眠りかけるとしたら、どこのいつになるのやら)
『なんだそのドでかいカブトムシは!? 新しいおもちゃを増やすんじゃない! ただでさえデッドのマジックバッグの中は魔境なんだぞ。整理整頓をしろ! 私のマジックバッグにねじ込もうとするなーー!』
(……)
(……)
(アンさんさあ。レナ様とお友達になれる時点でー、こーいう才能あるのわかってましたー。いいよいいよー。ボク、実家に帰ってきたような安心感ですー)
(お前の実家は草原でしかもいつ狩られるかという殺伐地帯だったと聞いているのだが)
(誰だよリークしたの〜)
(そのような情報を脳内に直接送ってくる輩がいるんだよ! 従魔の誰かなのだろう……そういうやつもいるだろう、何でも屋みたいなパーティなんだし)
(まあいるけどねー。そっかキラ先輩、ボクらの基本情報送ってたんだー。マルクパイセンって情が深すぎて失敗したくらいだからさー、生き物としての裏事情を詳しく教えておいたらねー、きっと嫌いになりきれなくていろいろ忖度してくれちゃうだろうなーって、従魔会議で話したことあんだよねー)
(今の暴露で台無しだが)
(そんでも嫌いになれなかったでしょー。ボクらのことー。さあ、もっとしってちょうだいなー。安心してちょうだい。ボクらは似たもの同士なんだから、そっちの話を聞かせてもらったらきっと同情しちゃってさ、たくさん助けてあげちゃうんだー。それが社会的に間違っててもいいのー。ボクらは力があるんだから、社会的に正解になるところまで面倒見てかまってやんよー)
(嫉妬で死にそうだ)
(もう死んでんだからリラックスして憧れていーよぉー。今ならようやくできるでしょー?)
マルクは眩しそうに目のあたりを細めた。
スイが夕方に歌っていた歌の最後を思い出す。
♫あらゆる色の翅を鳴らして その音揃えた ものが勝つ
翅の音は波のように さざめく流れで引いていく
翅の音は石のように カチカチ鳴らして盾になる
翅の音は静かになり 下降しながら槍のよう
翅の音は爆発し 上昇しながら空目指す
翅の音鳴らし 鳥も喰らう 陽光さえ吸った 白い群れの 勝ち♫
さあその背にさらなる勝利を 色を塗り替えた翅を伸ばせ──
『……カブトムシは仕方ない。……デッド、一発殴らせろ』
『よろこんで』
『そんなふうに育てた覚えはないが!?』
ドカッ。
アンの夢が閉じた。
ちょっと羨ましいと思うハマルであった。
▽ところ変わってグレンツェ・ミレー港だよ!
▽クジラライド いっくよー!
読んでくれてありがとうございました!
デッドは複雑な人みたいですね。書きながら彼のことをよく考えてみたのですが、アンさんと話して気持ちが生まれるほど、もともと体に備わっていた人格が強くなるところがあるみたいです。
ここは、イヴァンがもともと情緒面ほぼなしだったので、押されているようですね。
今後も注意深く見ていきたいと思います。
Q. アンさんはツッコミキャラになったの?
A. 一時的に怒ってるだけで冷静な方ですよ。
Q. ローズとマリンは道具みたいだね。
A. 願いを込められているクーイズの配下なのでエリアから出られませんが、もし他に願うことがあるなら、ジュエルスライムキングは聞いてくれるかと思います。
週末いい日にしましょうね!( *´꒳`*)੭⁾⁾
今週もお疲れ様でした。
よい週末を₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑




