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ダナツェラ跡地

 

♫みつけてみせよう 妖精の──

 そのためささげて 生命の──

 魔力まとわせた翅の楽器に 集まる白の大群よ

 魔力まとわせた翅の楽器に 集まる緑の大群よ

 魔力まとわせた翅の楽器に 集まる紺の大群よ

 集まる青の 集まる赤の 集まる金の 集まる紫の

 集まる黒の 集まる灰の 集まる橙の 集まる茶の──

 翅の音ならし どの群れ 勝つか ♫




 デッドは頭の側面に手を当てていた。

 耳がちぎれたあとのつるりとした曲面に蝶々の翅を貼りつけている。

 それは自分で付け替えたものであった。

 ラビリンスに落ちてしまう直前に耳をちぎって放り投げ、落ちるときには手を伸ばしてとっさに一つの蝶々を、手の中におさめたその翅をまたちぎって貼りつけたのだ。そうするべきだとアンデッドとしての勘が働いた。


「つまり、虫どものなわばり争いに巻き込まれたらしい」


 デッドはそう口にした。

 ラビリンスの床は畑の土のように黒々とふかふかとしていた。

 カボチャやナスのような作物があべこべに実っていて、そのどれもが100センチを超える大物であった。ナスのなだらかなカーブに合わせてアンを寝かせた。


 姉として敬うようにしろ、というあたり、姉であるらしいアンは気絶してしまっている。頑丈さでも有能さでもデッドの方が突き抜けているが、この順列にまるで興味がなかったので、姉のように扱ってやることに不満はなかった。

 もしくは、コレに入っているイヴァンの魂の方でなく、体の素材になっているもともとの金髪の人々の気質が、アンを丁重に扱わせたのかもしれない。


 デッドは相手がなくともよく話す男である。


「ふむ。つまり、虫の大群は俺たちを巻き込んだようなものだということだ。こちらに執念があるわけでもないだろう。刺激する立ち位置にいなければ襲われるでもなく、ラビリンスから脱出してもかまうまい。出よう」


 えーー、というようにローズとマリンが跳ねる。

 スライム文字で「BOO!」を作る。


「この野菜なんかを食べていたいからか?」


 そのようだ。

 スライムボディには野菜がたくさん消化されている最中である。


「この種を持っていって地上で増やせばいいのでは」


 そんなことができるはずはない。

 ラビリンス、ダンジョン、その中でのみ特殊な生態系を維持できるのであり、外に持ち出したものはたちまち泡が弾けるように消えてしまうものである。これが空気中の毒のようになると警報を鳴らすものもいたくらいだ。ある観光地化されたダンジョンでもこれがないように気をつけられている。


 しかし、デッドは話を続けた。


「お前たちの体の中に入れていけばいい。種だけ残すことはできるだろう。それであれば、ラビリンスの食べ物の種ではなく、スライムの体内の残骸という物質だと定義ができる。お前たちがまったく珍しく新しい存在であれば可能になるのではないか。ついでに、ガララージュレ・エリアというのもまた、できたばかりの曖昧で不定着なところだ。このくみあわせであれば、もしかすると可能かもしれないことを試してみたい」


 ▽デッドの 自分勝手。


「ここに居続けるならばお前たちの存在理由が達成できずにたちまち消滅してしまうのではないだろうか。そちらもまた試してみたいから、どっちでもいい」


 ▽デッドの 自分勝手!


「BOO!……」ふんだ、というように、ガツガツとスライムたちは野菜を食べまくった。その体内に種だけを残して。そしてデッドを振り返る。


「決まりのようだな。では外に行くことにするか。出口は……」


 出口に向かっていくと、吸い込まれて、ウォータースライダーのように流される感覚を味わい、──ひゅぽん! と放り出された。


 かなり上空の方に飛ばされてしまったようだ。

 ローズとマリンがスライムシートベルトになり、デッドの背中にアンがいる。そのボディはつぶつぶの種だらけなので、まるで弾丸を大量に背負った危険な狙撃者のようであった。


 ……狙撃者。

 そのイメージはローズとマリンの中に、ある。

 ……かっこいいじゃん!


 ▽ローズとマリンの 体型変化。

 ▽スライムの一部が 連射銃のようになり デッドの手に収まった。


「ふむ」


 ▽ズダダダダダダダダ!!!!


 森の下の方にいた何やらボロボロの盗賊風のものたちが逃げていった。

 そして、どろどろの大地についでに種付けが行われた。


「もしかしたら野菜が実るかもしれない」


「Hoooo!」……それがどれほどのことなのか、ローズとマリンが知ることはない。



 難なくデッドは着地した。

 再び、スライムたちはただのシートベルトの役割に戻った。

 縛られているアンは「う”~~ん……」とうめいたまま気絶を続けている。この現実のことがおぼろげに感知でき、けれどまだ目覚めることはできないくらいダメージがあるようだ。どうやらラビリンスの異空間移動と相性が悪くて体は酔っているらしい。


 デッドは「あ、耳」と落ちていた「形のいい肌色のなめらかな片耳」を回収して、頭の側面にぺっとりつけた。

 蝶々の翅の端っこがくっついたままなので、片耳の後ろがわに、耳にかけるタイプのピアスでもしているような見た目である。


 暗い森だ。

 昼間なのに、太陽の光なんて吸収してしまうように地面が濁っており、立っている木々がその葉を不気味にしなだれさせている。ピンと立った元気のいい葉などはなく、どれもがこれからの生命活動を諦めたかのようにうなだれていた。


 野菜だけすくすく育ち始めていた。


 表皮のうねる不気味な木の陰に隠れながら、デッドはあたりをうかがう。


 けして恐れているからではない。

 自分たちが関わらなければ、自然な状態の観察ができるからだ。


 5メートルほど先を、人の形のようになった虫の大群が通ってゆく。

 それをレナが見ていたら「ランプの魔人みたいな姿、蝶々の翅付き」と称したかもしれない。



 ブウウウウウウン……


 ブウウウウウウン……


「二つの群れがぶつかり、すると色が混ざり、片方の色だけに変わってしまった。塊そのものは大きくなっていないな。すると……まずは色別の戦いが起こり、混ざった。そのあとにどちらかが勝ち、どのように勝敗を決めているのかは知らないが」


 ここで目を凝らす。異常なほど肥大した知的好奇心がデッドの瞳孔を開かせる。


「あの一際大きな虫が王なのか。ふむ。王が戦い、兵を率いて、生き残った方……ということらしい。勝者の色に、生き残った全体が染まってゆく。なるほどな。それにしても、蝶々も蜂も蝿もトンボもカゲロウも天道虫も甲虫も……とは、翅のあるあらゆる虫を従えている。……おお」


 デッドの目はカブトムシに釘付けである。

 意外にも、カブトムシやらクワガタムシのような少年趣味の虫にことさら惹かれたらしい。


「捕まえにいくのもアリか」


「Noooo!?」……スライムたちが触手を木にまで伸ばして止める。懸命な判断だ。


 どう見ても虫たちは命を散らす覚悟である。

 スライムボディならばそこに突撃しても負ける気はなかったが、アンとデッドは、中途半端なアンデッドであり、虫の大群に負けてしまうかもしれず、それはローズとマリンの大将であるジュエルスライム・キングの願いとは異なるものである。


「…………そうか。ではあれも滅すべきだと思うか?」


 デッドの称号にはアンの願いが込められている。


「NO」……というようにデッドを引っ張るスライムたちはやる気が湧かないようだ。


「ふむ。お前たちは穢れたものを浄化せよという使命のために生み出されたはずだ。そこが生存本能にもなっていよう。そのようなものを滅したいという衝動があるはず。そうでないなら、”アレ”はアンがこだわっている討伐対象でもないのだろう」


 デッドはカブトムシを諦めて、アンを担ぎ直し、歩いてゆくことにした。




 ▽アンが 一時的に目覚めた。

 ▽「避けてダナツェラに行くぞ」という指令をデッドは受けた。


 ▽途中で 小悪党に絡まれた。

 ▽子悪党「ターン」を捕まえた!


 ▽手土産に持っていこう。


 ▽※不法滞在者は 縛って国に差し出せ というルールがあるよ!

 ▽※ガララージュレ・エリアはまだ共同機構の探索がされておらず 崩壊国家指定をされていません。

 ▽※シェラトニカ女王の命令は強制力が止まっているが デッドは気まぐれにそれを守るようです。




 ──ダナツェラ跡地。


 ドロドロとした土に半分埋もれるようにして家々の屋根、窓、壁が地面に突き刺さっている。それは災害が起こった後のようでありながら、ゆっくりと飲み込まれていく現在でしかない。

 こんなところで人が暮らしていくことはできず、閑散としている。半分残った家の残骸からは中に動物や魔物が巣を作っているのであろう、小さな体のものがうごめくような気配が密集していた。


 すい、すい、すい。


 デッドはこのような地面ではブーツに魔法をかけて自分の体をほんのわずかに浮遊させる。そうすれば足元の悪さなど関係ない。


 石がみょうに固まっているところがある。

 街をぐるりと囲む石垣でもあったのだろう。


 デッドは頭の中に地図を入れている。

 中に入っている魂には異常なまでに正確にラナシュのことを理解できており、生き物の心についてだけはまるでわからなかったが、一度見たもの体感したこと、それは世界設定のように理解ができるのだ。

 すなわち、この土地は【ダナツェラと呼ばれた街】で間違いがなかった。


 そして【冒険者ギルド】──


 ここに用がある。


「『エリアにまとまった兵隊を送られたりしないように自衛をしよう。冒険者ギルドパーティとして登録をしてエリア制御に努めます。ということを完了する』……ふむ」


 デッドは青く輝く布を鞄から取り出した。

 そして入り口の扉を開ける。


 老婆が二人いた。

 一人は「わるいまじょ」として絵本に出てきそうな老婆。黒のローブに水晶玉を持っている。おそろしくカラカラに乾いた体をしていて、それなのに妙に生命力に満ちているような笑みを浮かべていた。

 恐れがないのは、狂っているという可能性もある。


 もう一人は机に突っ伏していいて、ビクッと肩を震わせた。血が染み込んだりしたままろくに洗ってもいないのであろうくたびれた服は、ギルド受付のもののようである。一度、何かに期待したように顔を上げた後、思いがけもしなかった身なりと顔のいいデッドのことを見れば、力無く睨んでまたつっぷした。


「なんだい?」


 床はひどく傾いていて、まともな人間がここを歩いていたら酔いそうだ。


「用事がある。冒険者ギルドパーティとして登録してくれ」


「ヒヒッ。ぜひ、しよう!」


「オババ。やめよう。そんなことしないように、冒険者ギルドとしてのことも、そうじゃないことも、何もしないように、ってお触れが出されただろう。あがこうとした冒険者なんかみんなゾンビになっちまった」


「お前たちは違うのか?」


「あぁん? だァれがカラカラゾンビだ、ゴラァ」


「二人しかいないが。ふむ。片方はすでにヒト族から外れたもの、片方は今にも死にそうな女か。その水晶玉があるならば冒険者ギルドとしての機能はあるのだろう。俺の要求を通せ」


 デッドに投げつけられた酒瓶、それを軽く避けて、投げたほうの女の腕が痛んだらしい。それだけでばきりと嫌な音がした。


 デッドの身のこなしを占い師らしきオババが熱心に見ていた。

 そしてニンマリと歯の少ない口で笑い、水晶玉を近づけた。


「お前さんの職業適性は……!……見えないんだよなあ、こりゃあ。なんだい、アンデッドかい。一度死んでしまいその情報がリセットされている。だから改めてどのような生き方をするのかと自分で決める魔物なのさ。ま、もちろん、持っている能力以上のことはできないがね。

 つーか、ヒト族じゃないから、職業には就けないがね」


「職業のある魔物を俺は知っているが」


「面白そうだね!? なんだいそりゃあ!?」


「お前に将来性があれば教えよう」


「よしきた」


 水晶玉からギルドカードが吐き出されていく。水晶玉は少し小さくなった。

 冒険者ギルドによってこのギルドカードを作る仕組みは様々だ。たいていは、薄く削った魔力入りの鉱石をこの水晶玉にかざして、鏡に映すように水晶玉の中の情報を定着させる。

 それはギルドチェーンで取引されているはずだが、このダナツェラギルドにはとっくに置かれていなかった。

 そのため、水晶玉そのものを分け与える必要があったのだ。


「まさか四枚分も持っていかれちまうとはね!? えーと、デッド、アン、ローズ、マリン。……んん? そいつは?」


「一人だけ明らかに毛色が違うだろう。よくみろ。盗賊崩れだ」


「あンれまぁ」


 デッドが小脇に抱えていた小男を床に置くと、べちん、と転がった。

 あとのことはまかせるとオババに言った。


「冒険者パーティになるには一つはクエストをこなすという検査があったんだけどねえ。そのあいだにとどまってもらってさあ。いろいろとさせようと思ったのにさあ。ヒヒヒヒ。尋ね人を探すっていうクエストクリアにされちまったね」


「「アニキーっ!」」


 汚い小男が二人、ギルドの奥からかけてきた。みれば腰巻きをして歯のかけた包丁を持っている小男、腰巻の端が焦げているので料理中だったのだろう。何かの魔物か小動物を解体していたのであろう短剣を持ったくさい小男。


 ▽アーン・ポーン・ターンが揃った!


 ▽ダナツェラで細々と生きていくことにしたようだ。


「あの頃は良かった」


 ぼんやりと中年女がそう言い、空になった酒瓶をラッパ飲みのように傾けて、何も入っていないはずなのに喉を鳴らすような動きをする。もう半分ほど妄想の中に生きているのかもしれない。


「アンタぁはどう思う?」


 オババは痩せ面にギラギラと目を輝かせてデッドに尋ねた。


「知った後の過去に興味はない。今後なにをどれだけ知ることができるのか、それが課題というだけだ」


 デッドはダナツェラギルドを去った。

 オババには少々の情報をやった。


「スライムは大嫌いだ。縁起が悪い」


 と酒瓶女が捨て台詞を吐くので、


「BOOoo!」……ローズとマリンが膨らんで威嚇する。


 妖精の歌が聴こえる方に、デッドは歩いていった。カブトムシが諦めきれないらしかった。






 ──夢の世界からのコメント。


(…………アンさん、起きないねえー)


(……もうしばらく見ておくか。ちっぽけななにもできないような街だ。中心街からも離れていて活力がない。こんなところで危険に晒されることはないだろう)


(……そーだねー)


 ハマルはアンニュイなため息をついた。


(この街のことは秘密ねー。レナ様が知っても嬉しくないだろうからー。嫌いなものが苦しんでいても気が晴れなくてー、好きなものが幸せなのが嬉しい人だからさー)


 何かあったらしい、まあ黙っておく、とーーーは言った。


(スイが少々疲れている。アラタはそれを慰めている。……。水を飲んだらまた歌うだろう。アラタのためになるからとスイには言ってあり、アラタは歌を楽しんでもいる。これで彼女に嫌われてもいい)


(マルクパイセンにもいいことあるといいよねー。それにしてもアンさん、起きないなー。もしかしたら起きるつもりなくてー、半覚醒でー、この間にデッドのことを育ててやりたいのかもねー)







読んでくれてありがとうございました!


次くらいでひと区切りになると思います。

ゆるゆると楽しんでいただけますと(*´ω`*)


今週もお疲れ様でした。

よい週末を₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 今回も楽しく読ませて頂きました。 野生の(!?)小悪党をお土産って……。(親に似たんだな)
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