枝分かれの先で達者に、ね!
▽クレハと イズミは 手招きされて レナの方へ。
▽マジカルスライムが アンを追いかけている。
「クレハ、イズミ。追いかけているのを止めてあげて。アンさんもちょっとうっかり私たちに声をかけちゃっただけで、自分の都合もあると思うし、疲れさせちゃったら良くないよ」
「「そりゃそうかー。カモン!」」
▽変化なし。
▽ただの生まれたてのスライムのようだ。
「アンさーん。万策尽きました。そのマジカルスライムたちはあなたについていくことを望んでいるので、受け入れてあげないとこの場が収束しません。よろしくお願いします」
「断定!?」
「いいことばかりですよ」
「そりゃそうだけど……! 天秤が傾けば悪いことが今後多くなるだろう」
「その対策として、赤いリボンをつけてあります」
「あーもう、お前たちは、あーもう」
▽アンは 逃げるのをやめた。
▽アンの服のポケットに マジカルスライムは 収まった。
「ステイ」
▽スライムに手を出そうとしていたデッドが 停止した。
▽興味関心を引いてしまったようだ。
「おとなしくしておけ。でないと、この困った弟がお前たちを実験に使ってしまうぞ。魔物であるならば、本能があるだろう。こう生きるべきというお前たちの心が発揮される前に死ににいくべきじゃない」
「本能か……ゼッタイ浄化スルスライムとか……」
「発言力がある自覚をするんだレナ。つまり、黙れ」
(アンさんって、場を収めるまとめ力のようなものがあるよなあ。長子ってかんじ)
レナは妹になったような気分で、その場にしゃがんだ。
ひと段落したとみてレナが安心したら、周りの従魔も同じように安心したため、ぎゅむっとよりそい森の一角には太陽の日差しまでさしこんでひだまりができた。
呆れたように、アンが小さく息を吐く。
アンは、肩掛けカバンをさぐった。
(代わりにあげられるものなんて……あ)
「代わりになにか渡すべきだと思ってはいる。有益なものはといえば、デッドとか」
「いらないです。いじわる」
「冗談だ。これをやる」
「えっちな本!!!!」
▽アンは 顔を背けて 本を差し出した!
▽水着の表紙がアハーンしている。
▽レナは 大声で叫んだ。
▽この本の情報が えっちな本 贈り主:アン と確定した。
アンは真っ赤な顔をして、ぱしんとレナの口元を塞いだ。この森の中でえっちだえっちだと叫ぶんじゃない。
クーイズはなんとこの話題を咳払いのみで済ませた。はしゃいで騒ぎたい気持ちになってはいたのだが、一緒にいるメンバーがまだウブで真面目な性格だったのでやめておいたのである。
レナの一人負けだ。
「いいかレナ。これを持っていれば防げるものがあるから、渡してやる事にしただけだ。よく見ろ。表紙だけだろう」
「本当だ。袋とじとかないんだなあ。……。……?」
(というかこれ、中身は漫画だ。漫画!?)
レナの頭の中に、ハッと電流が走る。記憶が思い起こされる。
(見覚えがある……兄のやつだ……)
それをアンが持っていて、防げるものがある、とは?
レナは慎重になろうと思った。
「変な本ですね」
「そうだろう」
アンは、レナが何かを察したようだと気づいたはずだ。
だが、そこを探究していいことはないと疑問を切り捨てた。そのように好奇心を探究するような余暇の時間などアンはもう諦めている。であれば、今やるべきことをやるためには……と、必要な手順のことと、それを邪魔するものか否か、という点だけを判断すればいい。
この二点の判断以外のものをいつもマダムミディ・ファミリー……もといレナパーティは持ち込んでくるので、アンの心を困らせるのだが。
「彼、この辺りにきていたんですね」
レナは、少しづつ、アンの反応を見ながら話す事にした。
情報を取りに来られている訳ではないので、少しは気楽だ。
(私が異世界人だってことまでは気づいていないかもしれない。だから、情報として知っているとか、知り合いかも、くらいのところで納得してくれているのかな。アンさんと私たちは、信用するとかしないとか、そういう間柄ではないからなー。
距離があるけど話すことはできる友達。それくらいの空気感で話そう)
▽レナは コミュニケーションが得意だよ!
▽アンは コミュニケーションが苦手だよ!
だが、アンの場合は場数が足りていない事に由来する不器用さだ。
相手と伝えあうために話す、というコミュニケーションの基礎はその心にふまえている。
よって、レナに必要になりそうなことを言える範囲で語った。
「……シェラトニカが離さない”あいつ”。おそらく同じ人物を思い浮かべているのだろうな。あいつのことは、ガララージュレ・エリアのことを探っているものたちは大体目にしたことがあるし、隠されていない。……。
少し教えておいてやる。あいつは、今、黒い全身鎧のようないでたちだろう。苦しそうに見えるかもしれないが、案外、気持ちは気楽にやっているようだ。それなりに自由に動く。しかし、いずれ、シェラトニカの意志で動かされることがあるかもしれないな。そうなれば奴の力がレナに向かうかもしれない。そんなとき、奴を止める方法がある。──それだ」
▽本!!
「あーーーーーーー。なるほど?」
レナは半笑いで表紙のグラビアを眺めた。
アンは大真面目に語る。
「シェラトニカに命じられている配下の者は正気を保てない。しかし、正気に戻すために私物のアイテムが有効であるという噂を耳にした。だから私は能力が高い奴らの私物をいくつか持っている。予防として」
「つまり、彼の心を現実にもどってこさせるための、彼が彼であるための思い出なんですね」
レナは本を破らないようにそっと抱えた。
(古い日付……だろうな……)
液体が染み込んでしまったのか紙がパリパリとしているし、端の方は古めかしく破れているところもある。そのせいで表紙がにじんでいてぼやけていたが、有名な「コミック誌」のロゴが入っているようだ。
くっついたページを少し剥がして中をめくってみると、漫画が載っている。そして、レナにはもう「日本語」を読むことができないらしい。
レナが普段書くのも、読むのも、話すのも、ラナシュ世界のふしぎな言語。
キラが保存している昔のデジタル写真に映っている看板なども、もはや読めなくなってきている……レナはうすうす気づいていた。
藤堂レナは、今となっては、レナ・藤堂。
(でも、お兄ちゃんもこっちにきているならば、元の世界に未練はないかな。私が、そう思えたからこそ、こういう変化が訪れているのかもしれない)
ぎゅぎゅぎゅ。
レナのしょんもりとした気持ちを慰めてくれるのは、いつだって可愛い従魔たち。ともにいた時間はもうかなり長く、今のレナの大切な守るべきものだ。
「アンさん。対ガララージュレ・エリアのお守りってことね! ありがとう。……私の従魔のうち、とびきり運が悪い人がいるから、渡しておいてもいい?」
「自分で持っておかないのか?」
アンは驚いた顔をした。
正直なところ、魔物使いパーティの主人であるはずの彼女が、自分のことを軽く見ているように感じられたのだ。理屈ではそうなのだが、レナが自信のある表情だったので、聞き直す。
「私は超幸運タイプだからなの!」
(それに、私を見てなお現実にもどってこれないお兄ちゃんならば、そもそも思い出の漫画雑誌も効かないと思うしね。リスク分担。あとはアンさんに安心してもらうべく自信を見せるべし)
▽胸を張る!
「レナは……、…………分け与える主人だな」
アンはシェラトニカとレナを比べたのだろう。遠い目をしている。
「私たちみんなが”パーティ”だから。みんなが良くなることは、私が良くなること、って繋がっているんじゃないかな。逆に、私だけが良くなることって何かある……? 自分が良ければいいって独り占めをする才能がある人じゃないと、申し訳なくて辛くなっちゃうだろうし、そんな人ってほとんどいないはずだよ」
「そのままでいてくれ」
「そうする!」
アンは握手するようにレナの手をとった。
(苦いだけの世界はあるさ。でも、だからレナパーティも苦しんでいなければ、という結論をふりかざすのは違うんだ。きっと彼女もわかっている。それでも幸せになろうと周りに声をかけている、それならば、なんとも得難い強さだと思う……。私の手でこれ以上、けがしてしまわないようにしたいな……)
アンは後ろを向き、デッドを結んだロープを引っ張る。
「私は、またここらで身内の不浄をくいとめる。デッドにはアンデッドの浄化をさせまくり、興味を持たせることにするよ。こいつはやってもやっても終わりがない限界まで追い詰めたとき、ものすごく興奮して天才的な力を発揮するんだ。せっかくならこの傾向を世のために活かさせてやる。
私たちのようなものが存在するにはそれくらいのことが必要なんだ」
「ラナシュ天秤理論?」
「ああ」
レナは手を振る。
アンの背中のその向こうに、黒々としたがララージュレ・エリアの森や、今だ足が震える始まりの草原、恐ろしかった街のことを想像する。
あの時、明るく可愛い従魔たちがいてくれたから、なんとか思い返すことができる……。
「あのねー! その子たちを大事にしてあげて下さい。そうしたら、大事にしてくれる気持ちを返してくれるような子たちだから。そのように私たちが育ててきたから、きっと!」
「「達者でなー!」」
レナの両側から、クレハとイズミが抱きついた。
とろけてしまって両腕がスライムアームになったレナであった。
「ふ……」
笑いかけ、アンは遠ざかる。
もう二度と会うこともないかもしれない、と、いい思い出にさよならをして。
パトリシアの家で休憩中のリビングにて。
レナは、スチャ、とキラのデジタルタブレットを取り出した。
▽ポチッとな!
「もしもーし。こちらレナパーティ。聞こえますかー」
<なんっで、すぐにそう連絡を取ろうとするんだ!>
「現代っ子だからですねー」
<そんな時代は聞いたこともないが!>
▽マジカルスライムには キラの分身体も 埋め込まれていました。
「浄化は順調ですか?」
<まあ……それは……そう……。……ええい、このマジカルスライムたちはなんだ! 強すぎるんだ! しかも……こら、ローズ、マリン、デッドを挑発するんじゃない。ああーもうー! 誰がどれだけ浄化できるかを競っているんだ。これはとんでもないことになるぞ!?>
「名前をつけてくれたんだ。嬉しいです!」
<いやそこか! 名付けておかないと存在が消えてしまっては困るからな! いや、困らないけど……それくらいしてやってもいいと思った、それだけだ! デッド、ハウス!!!!>
「愉快〜」
<そんな場合じゃない>
「すみませんでした。──あの、うちの参謀からの助言なんですけど。それだけ浄化が進めば、こっそりと活動することは難しいですし、シェラトニカ女王様からも目をつけられてしまうのではないでしょうか。ですから先に『エリアにまとまった兵隊を送られたりしないように自衛をしよう。冒険者ギルドパーティとして登録してエリア制御に務めます』と国に申請するのはどうでしょうか。──ダナツェラ冒険者ギルドであればまだ連携削除はされていないそうですから……」
<分かった。そうする>
「あら、随分素直……」
<細かい策略をしてる暇がないんだよ。生まれたての魔物と精神更新したバカタレを追いかけるのがこんなにも大変だとはな! 『ぎゃーーっ』 あ、モレックと研究員にしかけてしまった……またな! 混乱させてるうちに丸め込む!>
「はい、また」
レナは通信を切った。
隣で聞いていたパトリシアと、アリスと、シルフィネシアがそれぞれ(しょーがないなあ〜)の表情でポンと肩に手を置く。
「アンさん優秀だなあ……プロオカンへの道にようこそ」
レナがぽつりというと、クレハとイズミが寄り添う。
「「レナのおかげで余裕ができたんだよ」」
「クレハとイズミのおかげでしょ」
「「もっともっと根っこのところは、レナが我らを大事にしてくれたからだから」」
▽お待たせしました。ハートフルふれあいタイムです。
──翌朝。
「帰ろうか。私たちは私たちの旅をしよう」
「あいあいさー!」……従魔たちは声を揃えた。
読んでくれてありがとうございました!
細く長く、アンとは付き合いが生まれたみたいです。コートのポケットにふたつのスライム、デッドを紐で引っ張って、ダナツェラから出発です。
時々レナパから助言がありつつ、彼女も、やってみたいことをやってみる、そんな旅みたいですね。
伝えやすいタイミングで背景も書いていきます!
これからも宜しくお願いします₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑
今週もお疲れ様でした。
よい週末を!




