スライム・モム
▽ここは アネース王国とガララージュレ・エリアの中間地点。
▽アンが 現れた!×1
「なんだ、そいつ、どうした?」
「丁寧なお尋ねをありがとう。アンさん。えーとね、マダムミディファアミリーのフレッシュな新人・クーイズおにねえさんがなんとか体の形を変えようとして柔軟をしているの!」
「何にもわからん。勝手な造語を使うのをやめてくれ。そうすれば、かなりこっちも聞き取りやすくなるから。ただでさえやっていることをそのまま説明しようとしても難解になるんだ。ほら、やり直してくれ」
「すみませーん……。この個人ギルドカードをご覧ください」
▽レナは アンに 作りたて従魔個人を見せた!
「クーイズさんという魔人族がおりまして、冒険者ギルドに所属しているゆえに、技を磨こうとしてえんやこらと練習をしているところなんです! えらいね!」
「えんやこらとかいらないんじゃないか。そういうややこしい擬音が多いんだ。まあ、癖なんだろうけど」
「おっしゃる通り」
「なんでなんだろうな」
「きびしい旅の最中にテンション上げようとしてきたからじゃないかなあ……ほら、このあたりの自然ってきびしいしさあ……」
アンは頷いた。
いつ何時、腐った魔物に襲われるかわからない。
少し前であっても、魔物の発生が多い場所だった。【ガララージュレ王国】周辺であれば毒を含む魔物の被害が続出していた。
そのあたりをレナは歩んだことがあるらしいとアンはあたりをつける。
「それなのにこんなところで練習を、と? ずいぶんと強さに自信があるようだな。レナパーティのみなさん」
「他人行儀っ!?」
「おさげ髪の色」
「黒髪のままだーー!」
「ぬかったな。会いやしないと思っていたのか? それほどまでにアンデッドになんて会いたくなかったようだ」
「逆に。アンさんは私に会いたいなあって思ってて欲しかったってことですか?」
「お前……こいつと煽り合いバトルでもしろよ」
苦い顔をしたアンが、手持ちの紐を引っ張った。
▽デッドが 現れた!×1
▽ぼうっとした表情をしている。どうやら疲れているようだ。汚れているので戦闘後なのかもしれない。
「いやですよ」
「まあそう言わずに」
「アンさんがからかってくるなんて。さてはあなたも疲れてますね? どうりでこの辺りに魔物の気配がないと思った。私たちが来るよりも前に、この辺りの危ない魔物を狩ってたんでしょう。まったくもう。助かりましたよ」
「それは私たちの勝手で、レナのためじゃない」
「ふうーんだ。あ、そうだ。ちょうどアンさんに用事があったんです。はいクーイズ、こっちにおいで。かまって欲しい時期なのに、ここまで口出ししてこなくて待てていて偉かった」
「「えへー♡」」
「後頭部に口ぃ!?」
アンが後ずさったら、デッドの腰にくくられた紐も引っ張られて、彼はこけてしまった。
どうしてデッドのことを紐で縛っているのかは、かんたんに想像することができる。
あちこちにふらふらと行ってしまうデッドのことを捕まえておくならばこれがちょうどいいのだろう。幸い、という表現を使いたくもないのだが、デッドは遠距離攻撃型のアンデッドなのでアンの近くに置いておいても除霊作業ができるというわけだ。
では、ワープしてしまわないのか?
アンの持つロープに赤いリボンが結ばれていたのが理由かもしれない。
レナが、よければ使ってくださいと、以前渡したものである。
まさかの使い方をされてはいたが、アンにとって一番の問題を解消するためにリボンが役に立っているならば、よかったものだとレナは頷いた。
以前揉めた事のある呪術師・イヴァンの魂が入ったデッドのことはまだ苦手ではあるが、どうやらレナへの執着が薄いようであるから、それならば半径1メートルくらいまでは近づかれても大丈夫そうだ。
「「聞いて! アンを助けてあげるつもりなんだ~」」
クーイズが、待ちきれない、というように話しかけた。
その言葉は無邪気で、だからこそアンの周りの空気をひりつかせた。
(まずい)とレナは思う。
(アンさんは意志が強いしプライドもある。助けてあげる、っていう言い方のせいでまず好意が伝わらなくなっちゃうよ。あー、クーイズたちはなまじ見た目がすごく綺麗だから、誰かに嫌がられたりしたことってほぼないもんなあ。美人で愛嬌があってコミュニケーションは成功ばかりだったし、私も失敗の機会を作ってあげなかったから、クーイズがいちばん望んだ時に失敗させちゃったんだ)
子育てのむずかしさを痛感するレナである。
まだ少女だというのになんという心労。
「「アンの助けになるように。アンの手足になるように。けれど、世界の敵にならないように。傷つけるのではなく守るように」」
クーイズはそのように唱えて、そのゆたかな宝石の髪の先っぽを、それぞれの手で包み込んだ。
右手にローズクォーツのような、左手にアクアマリンのような、淡く色づいたスライムが生まれた。オリジナルのスライム・モムだ。
唖然とアンはそれを見た。
アンを前にしたからこそクーイズのイメージが固まったようだった。
レナの従魔なのだ。
誰かを助けてあげたいと思うときに、ばつぐんに力を発揮することができる。
「「今はこれが限界みたいだ~」」
クーイズはぐにゃりとうなだれて、レナの肩にその頭を預けた。
ふぁさり、ゆたかな紫色の髪の毛がレナを包んでしまうかのよう。
「「んでも、できたよ」」
クーイズが説明をする。
頭のてっぺんに口が現れて、そこから話しているのを、アンは距離をとって警戒しながら聞いていた。
「「アンがやっていることをこないだ聞かせてもらったでしょ。いいなあって思っていたの。それを我らも手伝ったりできないかしらって、けれどまだレナの側にいることも譲れなくて悩んでいたの。レナが進化を手伝ってくれたんだ。我らはアンを手伝うの」」
むにゃむにゃと純粋な子供が星に祈るみたいに口にするクーイズ。
けれど、アンは頭を横に振った。
こなければよかった。
こんなに誘惑されるならば。
戦力的に困っているのは事実だしすぐに手を出してしまいそうになる。しかし清らかな好意を素直にもらおうとするにはアンもデッドもとっくに歪んでいた。
好意をもらうこともまた才能なのだ。アンはそうではない。胸のうちがいくつもの思惑でざわざわする。そのうちの一つを搾り取り、口にする。
「そのスライムのようなものが私たちを攻撃してこないという保証がどこにある? ガララージュレ・エリア付近にいるスライム種は凶暴なものばかりだぞ。溶かして体内に取り込むという作用を持つ魔物だ。土の底から現れ出た怨念のようなものが多いエリアでその影響を受けている。スライム・モムとやらが、ソレと、同じになってしまわないとどうしていえる?
こっちには連れて行かない」
いらない、とさらにアンは距離をとった。
好奇心旺盛で芋虫のように這って行こうとしたデッドを足で踏みつけて静止する。
「「ががーん」」
クーイズはショックを受けてしまったが、もともと安定した性格で、厄介な後輩の面倒も見てきたことにより反抗への耐性がある。
(よかった、反抗期とはいえ、アンさんに掴みかかって行かなくて。もしそうなったら二度と警戒を緩めてくれなかったかもしれない。でも、今ならまだ、彼女と話せそう)
レナは「ちゅうもーく」と白い髪に変身した。
あなたに近づくための姿で話すから、という交渉である。アンに伝わったらしく、彼女はため息を吐いた。
もともとレナには好意を持っていたから、こうして姿を現したのだ。もし知らないならば、この辺りは危ないと注意をするつもりで。
そのレナが「話そう」というならば、という気になった。
港にて、もう会うこともないと決意したことが馬鹿みたいだ。
でも、レナが手品を披露するかのような馬鹿馬鹿しい仕草をしてみせるので、どうせ馬鹿なら、もういいや、という気にさせられた。
やってもやってもキリがない、怨念を鎮めるというただの自分達の意志。
そんなことに疲れ切っていたから、馬鹿馬鹿しいエネルギーをかわしきれない。
アンは横たえたデッドの上に腰掛けた。
▽レナの オカンマジックショーが 始まるよー!
▽※もうしょうがないわねえ、と 従魔のためにやらかすことである。
「ここに二本の赤の祝福を浴びたリボンがありますね。スライム・モムに結んでおきましょう。あらかわいい! そして、悪運をとおざけるような働きがありますよ」
「とんでもないものが出てきたな……。その赤のリボンの効果は確認済みだが。
悪運だの怨念だのを寄せつけないとして、弱いスライムに近くにいられても迷惑であることには変わりない。どうせ守りながら戦うことになるんだ」
「守ってくれるんだねスライム・モムのことを。見捨てたりしないようなところがアンさん素敵だなあって思うよ。
今すぐだとまだスライム・モムはやわやわなことは事実だね。けれど長い目で見てほしい、きっと力になる。それまで待てないということだよね、であれば主人が力を貸しましょう。
魔物使いレナは、いわゆる持ち物が強いタイプの冒険者だから、これはセーフとします。
スライム・モムの二体にはこれを貸してあげましょう。核になる宝石〜」
「待て。なんだそのヤバそうな杖は」
▽アリスからの報酬のヤバい杖!×1
▽マナリオ国王からの褒章のヤバい杖!×1
▽フューージョン☆
▽もぐもぐもぐ…………
▽スライム・モムは 核を手に入れた!
▽【スライム・モム】→ 【マジカルスライム】
▽魔物未満は 魔物に進化した!
レナもアンも目を点にしている。
ぎぎぎぎ、とお互いに顔を見合わせた。
「体内に取りこんだらいい感じに力になるだろうなって、そう思ってやってみたんだよね。ちょうどよすぎた。そういえばスライム・モムって核がなくてアメーバみたいな見た目だったし、核を与えてあげたらスライムになるのかも?」
「そんなにポンポンポンポン新種が作られてたまるか!」
「やっぱり新種なの? マジカルスライム。あ、私のギルドカードには出てないけど、クーイズの個人カードの方には表示が出てる……。家系図みたいだな……私グランドマザーになっちゃうかも……」
【名前:クーイズ 職業※魔人族
所属:レナパーティ
配下:マジカルスライム
冒険者ギルド連盟保証】
(こんなミラクルなの冒険者ギルドが保証しちゃっていいのだろうか)と、思うレナであった。
▽配下という表示は マジカルスライムが消えてしまわないように キラがつけておきました。
▽ラナシュ世界の不安定度が 増している──。
▽気をつけて行こう──。
「「アン! マジカルスライムを連れてって! 悪いスライムじゃないよ! 悪いスライムになったりもしないよ! 世界を綺麗にしてあげるからおねがーい!」」
クーイズはふたつのスライムを抱えて、アンの方に突撃していく。
アンは少し逃げ回った。
こんなの、心が追いつかないに決まっている。
親切を押し付けられるだなんて、アンの枯れた涙がちょちょぎれそうだ。
読んでくれてありがとうございました!
次、アンのほうから事情と交渉がありそうです。
レナさんの旅路に関わってくることなのでもうしばしお付き合いくださいませ!
今週もお疲れ様でした。
よい週末を₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑




