目をつける者★
▽クレハとイズミは 進化した!
▽【ブリリアント・ジュエルスライム】→【ジュエルスライム・キング】
▽お泊まり会はまた今度に……
▽クレハとイズミは 不安定だ。
──アネース王国冒険者ギルド。
昼間なのでクエストの真っ最中の冒険者ばかりだ。
リフォームしてある広い冒険者ギルドの中は、がらんとしておりレナたちが移動しやすかった。
▽レナ、クーイズ、モスラが 現れた!
キサとミディはお留守番。
そんなにも連れてきたら今話題のちんどん屋になってしまうので。レナたちがアネース王国に入国した時のことは怪談や民話のように地方の話題となっている。
「さて。目的は進化後のクーイズのギルドカードを作ることです」
「「えいえいおー! あれ? 声が二つに……」
「首の後ろに口が開いていますね。紫のクーイズ先輩でいらっしゃるのに不安定なようです」
「わわわっ。曖昧だとギルドカードに登録してもらいにくくなっちゃう。多分……。だから、今はおしゃべりしないようにしてみよっか」
「先にギルドカードで存在を固めて立て直すか。存在を固めてからギルドカードを作るか。となりますが、クーイズ先輩の意志が固まっているのですから先にカードがいいですよね」
レナのギルドカードには、本人のステータスの他、従魔のことやたくさんの魔法アイテムのことが反映されているので、パソコンで重いデータを扱うときのごとく、動きが遅いのだ。恐ろしいことに他の従魔の情報が混ざって表示されることもあり、ラナシュ世界のバグは深刻そうである。
それよりは気軽な一人用のカード、かつ進化したてのクーイズの情報を確立しておこくことになった。
クーイズのカードとして一枚を申請して、クレハ・イズミの情報を付け加えるという構成にする予定だ。
レナは、二人分の人格をわけなくてもいいのかと悩んでいたが、本人たちがあっけらかんと「我ら似てるからそれで良くない? レナがちゃんと覚えてくれてるから大丈夫でしょ! 申請簡単な方にしよ!」と決めた。
▽申請書類を書こう。
書類を書くための台があるのは銀行などのロビーに似ている。
このあたりが使いやすくなっているのもリフォームの成果だろう。
▽ギルドの受付嬢に 書類を渡した。
【名前:クーイズ】と書いたときにレナは感慨深くなった。
新しい彼らの意志でもあると思うし、クレハとイズミという名前がベースになっているのは、レナが最初に名付けた名前をずっと大事にしてくれているのだということだから。
「はい、個人ギルドカードの申請ですね。従魔でありながらアネース王国民モスラさんと同じように、と。前例がありますので通せますよ。不安そうになさらなくても大丈夫です。ただ一点、ギルドカードの表示があやふやなところだけは承知していただきたくて……」
「知っていますよ。大丈夫です。ステータス表示が薄くなったり簡略化されたりするんですよね。そのせいで弱体化するものではないみたいですし、気にしないようにしてます。そんなに恐縮しないでくださいね」
「かたじけない」
「か、かたじけない!?」
「最近流行っているんですよ。とある冒険者の方が使っていましてね。それは便利な物言いですし、こちらの誠意も伝わりやすいので、最近ではよく職員が口にします。それはそうと、寛大に受け止めてくれてありがとうございます。それではこちら個人カードです」
「ありがとうございます」
▽クーイズの 個別ギルドカードを受け取った!
「個人証明としてお使いください。しだいに、以前のように詳細なステータスが見られるようになっていくよう、アネース王国の研究者たちも頑張っていますからね。そのうち以前のような表示になるかもしれません。
面白い話がひとつありまして。確定したものから情報が追加されるといいますか……傾向としては、活動をしていなくて成長がないヒトほど数値が現れやすいんです」
(ペーパードライバーみたいな人ってこと?)
「その点、モスラさんたちは成長が早いので、カードの反映が遅れるかもしれませんね。それほど成長が早いなんてすごいです」
ギルド員は頬を染めた。
それから咳払いをした。
「正直なところ、シンプルな表示を歓迎する動きもあるんですよ。数値に縛られずにのびのびと動くことができるようになった〜って。数値だけでなく相手そのものを見てパーティを組む冒険者も増えました。数値を馬鹿にするという風潮もなくなり、冒険者のみなさんの雰囲気が穏やかになりましたね。我々もこのようにやんわりとした接客もできるというものです」
「なるほど。以前のアネース王国の冒険者ギルドって、もっとこう、ピリピリとかムンムンとかしてたような気がしますからね。今はまるで……うーん、なんでもないです」
「商業ギルドみたいでしょう。言っちゃってもいいですよ。商業ギルドの方を訪れる冒険者もたまにいまして、似ているって言ってたんです。あちらがシンとせず騒がしくなったって意味もありそうですけどね。シルフィネシア様が恩恵を下さっているから、薬草などの成長が早いんです。薬のストックを作ろうと商業ギルドがクエストを作り、冒険者がそちらを引き受けるということも増えました」
「そうなんですね。冒険者ギルドとしては困りませんか?」
「困りませんよ。今では、冒険者の方があまり国の外に行けませんからね。ほら、ガララ……のね。そちら付近でアンデッドを討伐してもお金になるものじゃないし。あの辺では健康な動植物が狩りにくくなっている。
冒険者のみなさんが外で稼げなくなってきている中、国内の薬草採取などで生計を立ててくれているなら、まだ、冒険者で居続けてくれるかもしれないでしょう。うちとしてはキープしておきたいんです。いずれまた元の環境に戻ったとき、市民のためにすぐ動いてくれるありがたい力ですから」
「おお。お姉さん、冒険者をサポートしてくれることに誇りを持ってくれていそうです」
「あ、分かります? 私好きなんです。冒険者ギルドの受付嬢の仕事」
へへん、と受付嬢は勝ち気に笑った。
「それでは失礼します」
「お気をつけて。あ……ちょっとお待ちください。それにしてもモスラさんだけでなく、そちらの従魔の方も目立つお姿をしていますよね。どちらかといえばレナさんの方が妹さんみたいです。けれどレナさんが主人なんですよね。失礼、従魔の方が成長したばかりのようですし、周りからどのように見えているかというリアルな意見があったほうがいいと思いまして。あと最近は事実を口にして自己を確立するという風潮もありますから」
「かまいませんよ。お気遣いありがとうございます。
ほーんと、すぐに身長追い抜かれちゃったりして、この子たちこんなに、手のひらに収まるくらい小さかったですのに、うっうっ、すこやかにこんなに育って……! しかもいい子たちなんですよ。最高でしょう? ぐすぐすっ」
「え、ちょ、泣かしちゃった? 受付嬢としてあるまじき失言だった?」
受付嬢があわてたのを見兼ねて、ついでに主人の涙にジーンときたので、従者らしく後ろに控えていたモスラとクーイズが前にきた。
そこだけ空気がラグジュアリーである。なんかいい香りもするし、目がくらみそうな綺麗な容姿をしている。
「いえ、主人は感性が豊かなんです。素晴らしいことでしょう!」
「待て待てモスラ。キミまで暴走してどうすんの。先輩がいるからって気をゆるめすぎでしょ~。んもーしょーがないなあ。二人とも帰宅するぜ! パトリシアお姉ちゃんちに!」
「私んとこかよ!」
出入り口で待っていたパトリシアがツッコミを入れた。
アネース冒険者ギルドで顔が知られているパトリシアだ。周りの冒険者たちはワハハッと笑い、先ほどまでのレナたちへの好奇の視線が薄れるのが感じられた。パトリシアが周りに説明しておいてもくれたのだろう。
パトリシアの横にはゴルダロたちがいた。
淫魔ルルゥは「ルルー」として冒険者業のみを細々とこなしているらしい──。
──アネース王城。
マナリオ国王は書類を受け取った。レナパーティが冒険者ギルドに申請していたという書類の写しである。
彼がその後のレナパーティのことを気にかけないはずもなく、どこで買い物をしただとか、どこでクエストを行っただとか、そのようなことを見つけるようにしていた。
冒険者ギルドでは、進化後従魔の個人カードと、クエスト完了の報酬払いの申請をしたのだということがわかった。
(まっとうな行動だ)
と、マナリオ国王はホッとした。
(あまり大きな行動をしないでくださいね。まだ、大事が起こった時に僕では庇いきれない。今に権力を頑丈にしますから、どこかにつつかれた時に支えられるよう、シヴァガン王国における後ろ盾のようなものになりますからね。けれど、今は、まだ)
マナリオ国王は復元された水ガラスを眺めながら祈った。
祈ることくらいしかできない自分を悔しく思う。が、体のスペックと立場を思えば、じっくりと力を蓄えることがもっとも力を大きくすることを知っていて、グッと我慢する。
(久しぶりに会えて嬉しかったです。あの水ガラスの登場劇は綺麗だった)
ちなみに、彼もまたレナパーティと長く一緒に過ごしていたため、あの謁見のやり方くらいではまあ普通の範疇だなという、きわめて非常識な常識が根付いている。
また、シルフィネシアが訪れてくれるようレナパーティが頼んだということも、彼女らならそれくらいはやってくれるだろうなと、あまり気負わずにありがたく受け止めていた。
それに見合うほどのものを返さなくてはと思うくらい、マナリオ国王──フラワーショップ・ネイチャーのアルバイトであるリオは、真面目なヒトである。
ネッシーが『きいてよ〜!』と吹き抜けてきた。
『あのね~♪ クーイズってばすごいのよ~♪ こう進化したいなって その通りにしちゃったの~♪ わたし わくわくしちゃった』
「………………というと?」
『こう成長したいから こういう訓練をするといいわ こういう願いを世界に届ければいいのだわ 貴種でも 希少種でも 新種でもない 彼らだけの願いを込めたジュエルスライム・キング~♪』
「ただ進化しただけではないと?」
『願いを形にしたのよ ロマンチック♪』
「………………誰にも聞かせていないですよね」
『マナリオだけよ。それくらいもう 分かるもの』
「内緒話をしませんか。はあ…………」
『音をこもらせたらいいのね~』
ネッシーが空気を丸くして二人だけを包んだ。
「感謝します。……今の歌の通り、僕が想像した構造ならば……。それはもうレア進化どころか、世界を根底から創り上げるユニーククリエイト。レナさんの言動から察するにレア進化を成し遂げられるお力を持っていると見ていましたが、それだけでなく従魔と力を合わせたらそんなことまでできてしまうのか……。
おそらく主人の言いなりの従魔であれば至れなかった領域でしょう。
よりにもよって、その力が必要とされそうなこの時勢に、そんなことまでできるようになってしまったのが、レナパーティだなんて……」
『泣いてるの?』
「泣きたい気分なだけですよ。けれど泣いても仕方がないので」
『大人だって泣いていいのよ~♪』
「大精霊様がそのように言ってくださるのであれば」
マナリオは一雫だけ涙をこぼした。
「不安の涙が体からなくなりました。感謝いたします。だからもう、前向きにだけ考えることにしますよ」
『うん。わたしが許してあげるから いっぱい 好きなようにしちゃっていいんだからね~。あ でも 悪いことが好きじゃないリオだから言ってるのよ。いいことが好きだから あなたは周りの空気をよくするから 許してあげるの』
「しかし、今は必ずしもそうではないでしょうけど」
『今の玉座の周りは あなたの空気じゃないからでしょう~。これからあなたの空気にしてくれるでしょ?』
「そうですね。そうします」
よしっ、とマナリオ国王は拳を握った手を脇に引き、グッと背筋をのばした。
敬愛する大精霊シルフィネシアにここまで言われたら、頑張れる。
「神の領域に近づいたなんて難癖をつけられてレナパーティのみなさんが叩かれかねませんね。そんなことにならないように手を尽くします。我が国の上層部を整えることと、外交と、どちらも同時に進めますよ」
『レナパーティを叩くなんて すごく広いところを 叩くことになるのに~!?』
そんなことするヒトいるの? なぜ? とネッシーが可愛らしく首を傾げる。
リオは空気中に指を指揮するように振り、自分の頭の中の情報を仕分けしているようだった。弱い体と小さな力でうまく生存戦略を立てることについてだけは、リオは自信がある。
「叩けるものをいつでも探している集団がいるんですよ。【聖域の鎖】と称しています。叩けるものを見つけた時には飛んできますよ。なぜそんなことをするかって、その行動によって、自らは動きたくないが牽制をしたい別の集団が、お金を出してくれるからです。商業団体でもあるのです。
そのようなことを仕事にしているヒトらがいます」
『やーん。空気が濁っていそうね~……』
「ヒトは本能を手放し、社会の歯車になってしまってはもう自ら空気を清めることができない。どうにかしなくてはなりませんよね。この世のシステムの方が変えられ始めるとラナシュ世界そのものが反応してしまうという研究が報告されていますし……昨今のギルドカードを発端とする情報の荒ぶりもそこからくるのかと」
『わかんないな~☆』
「シルフィネシア様はただ歌ってください。どうか僕たちのために。我々は大精霊様たちを敬愛しながら動きます。その心をどうか信じくださいますように」
『それならやるわ。ねえ、好きと好きだけで 動けたらいいのにね~。レナパーティみたいにね~。世界は広いけど けれどわたしの風で包むこともできるから 精霊で足りなければ大精霊になることもできたから ラナシュはそれを許したから 完全に不可能なんてないのではないかしら? ラララ~♪』
マナリオの難しい説明が通じなかったように、ネッシーがそう歌う心のすべてもまた、マナリオには分からないところがある。
わかりあうことができなくても、お互いを大切に思っていれば最悪の事態にはならないだろうと信じて。そうできるように。
(すがる指針があるのはありがたいことだ。ヒトは一人だと折れそうになってしまう。新国王を任されてそれをまざまざと実感したけれど……シルフィネシア様やパトリシアさん、レナパーティのみなさんがくれた旅の杖のおかげでなんとか立っていられそうだ)
旅の杖──心の方針のことをマナリオはそう思った。
体が弱くて、国から出られなくて、やれることなんて限られていたから、やりたいことなんてわからなかった。
けれどパトリシアたちと過ごすようになり、やりたいことが今は心の中にある。
コンサートがあるから行くね! とシルフィネシアが去っていった。
彼女が空に吹き上がりくるりと回転するその自然の芸術を、マナリオ国王は微笑んで見上げた。
『『ドーロドロ~』』
「ぎゃー! クレハとイズミ~!」
『我は……クレ……イズ……』
「不安になるからやめようねってば! 変な感じに情報固定されちゃったらどうするの~。はいっ、もう一度、一人のクーイズから二人のクレハとイズミに。クレハとイズミから一人のクーイズになってごらん」
『あーきーたーよー! ねえ~早くモムを作ってみたいぃ~』
「まだだってば。しっかり体を固定できるようになってから。足元がドロドロになっちゃいがちだもん。地面にしみこんで、体積が少なくなっちゃうのは危ないよ」
レナパーティは アネース国外にやってきた。
一番近い国境門をくぐり 野外で分裂の練習中。
けれど なかなかうまくいかないよ。
マーブル模様になってしまったクレハとイズミ並びにクーイズは、ぷくーっと膨れた。
『『でもレナが回復してくれるもーん!』』
「もちろん回復してあげるけど、キラキラの地面をいくつも作るのって自然なことじゃないでしょ? あえて先に進みすぎなくても一つずつできるようになっていこうよ。そこまで時間もかからないはずだし……あっ逃げないのっ。んもーどうしてこんなふうに荒れるかなー?」
『『反抗期だよーん』』
▽スライムが 逃げ出した!
本気ではないのだろう。歩みは遅いし、ただ、エネルギーが有り余っていてひと所にジッとして訓練していられないらしい。
「キサ、凍らせて確保。ミディ、地面の下に逃げちゃったらもぐり込んで捕まえて」
「「先輩、待て待てー!」」
『きゃーっ♪』
▽クレハとイズミ・クーイズを 完成体にしたい。
▽けれど蛹の中みたいに まだドロドロなの。
▽蝶々めざしてファイト!だけども……
レナは水筒から冷たいレモンティーを飲んだ。
(まさかここで主人の命令に背くようになるとは……。けれど私のレベルに対してジュエルスライム・キングはそこまで離れていないし、私の言葉を聞かなくなったわけじゃない。
本来よりもかなり早く進化しているから、これまでボディは強くなっていても心は幼体だったもんね。それが私の休眠中に悲しみを知って、それをふまえた上での進化により、ルーカさんいわく心の成長率が不安定だ……と。
今のクーイズは、決して悪くなっちゃったんじゃなくて、心が段階的にきちんと成長できている証なんだろうな。背伸びした長男長女の子供から、今は、中学二年生の反抗期? 走り回って逃げちゃうのは困るけれども、つきあってあげなくちゃね)
従魔たちと戯れているクレハとイズミ並びにクーイズは、楽しそうである。
魔法攻撃は魔物のコミュニケーションである。
さてどうしたものかと、レナは頬杖をついた。
「……何をやっているんだ?」
呆れた声。
▽アンも 来ちゃった!
▽アンデッドのアンが 現れた!




