奇妙なカフェにて
▽ミレー港 コンセプトカフェにやってきた!
「俺はデッド。さすらいの”かけだし埋葬呪術師”だ。やることはといえばゴーストなどを制御して被害を抑えること。クエストがあれば冒険者ギルドから依頼が入り、各地を転々としている」
席についたデッドが淡々と話す。
ワイングラスに入れられた青い飲み物をぐいいっと一気飲み。
濁ったような青色だがりんごのような香りがする、得体のしれないメニューは「海の底」という名称らしい。
その他、独特の見た目や名称の軽食がテーブルには並ぶ。
食欲減退色をふんだんに使用しているため、また名前のわりにセンスのない盛り付けのせいで誰も手をつけないそれらを、デッドは淡々と食べていった。
しっかり噛んで、しかし味わってはいないようだ。舌が動かない独特の飲み込み方をしている。
普通に食事をしている人とは明らかに違う違和感があるので、レナたちはそのことに気づいてなんとも言えない気持ちになった。
この気乗りしない食卓のなにが彼の興味を引いたのかという真実は、食事を体感するという習慣が当てはめられているだけであった。
ごくん、とデッドが飲み込む。
その間、れなたちは許可を得て自分達のお弁当をテーブルに広げていた。突貫工事のこのカフェならばいいのではないか、と比較的常識のあるレナであっても考えてしまう場であった。案の定、店主は「なんでもいいよ!」と適当に言った。
他にお客はいない。
デッドの話に戻ろう。
「この街のクエストを聞いたのは近場の道を歩いているときだ。冒険者ギルドが定期的に飛ばしている喋る白い鳥の魔法が『ミレー港にてゴーストが出現した。対処と後始末のためあらゆる冒険者を望む』というものだから、それならば俺の出番だろうとやってきた。
余談だが、かけだしの埋葬呪術師というのは造語に近しい。このままでは効力が弱いため、活動をしてこの世に知らしめておかないとやがてあらゆる魔法の効力が弱くなってしまう。
それならば元々有名な職業をすればいいのにというところかもしれないが、そんなものはつまらないではないか。多くのものが就業している職業は傾向が解明されている。それの端をつついていくようなものが探求者として称賛されているなどくだらない。大きな謎を解き明かしてこその刺激をもっと手に入れたい。であれば、たとえ存在定義が曖昧なところから価値を作り上げていくのがいいだろう」
「へい、お待ち!
さっき出来上がったばかりの創作料理だよ。波に乗ってるゴースト綿菓子の盛り合わせだい。毒味しとくれよ」
「毒見って言わないでください」
レナはツッコミを入れてしまった。黙っておこうと思ったのに。
この場の食事はタダである。店主をデッドが助けたおかげだからご馳走してくれるそうだ。
ゴースト襲来によってボロボロになった建物。
ならばそれをコンセプトにした商売をやればいいじゃない! 鉄は熱いうちに打て。たくましい港街根性であった。
▽それにしたってこれはない。
▽レナたちは鉄格子に囲まれていた。
▽がごん、とネジが外れた音がする。
「なにこの店ーーー!?」
ついに口をついた。
「え、なにって? ホラーカフェってところでどうだい! ゴーストが通ったという過去を持つ恐ろしい建物、おぞましい料理とくらあ」
「食欲湧かないですよ」
「でもあの兄ちゃんはよく食べてるだろう。だから行けるかもしれねえと目論んでるんだがなあ。流行らねえかなあ?」
「彼は食事を楽しんでいるようには見えませんよ。食感とかを試しているだけなのではないでしょうか」
「へえ。どーでもいいから気にしてなかったなあ」
「カフェ向いてませんよ!? お客さんの反応は気にしましょう!?」
▽デッドは 一人で話している。
▽ちょっと内容が重いので レナは店主と話している。
「かっかっか。じゃあ方向転換するさあ。しばらくやってみる、思いついたら即試す、ダメなら次へ、くるくると店が変わるのが港街の面白いところだからねえ。再開発中の今のうちならば多少の欠陥があっても注意は軽いしお目溢しもあるだろう。あれこれいっぱい試すぞお!」
▽レナは 美味しいイカフライを食べた。
▽赤の聖地のお弁当っていいなあ。
▽聞けば教えてあげるのに スルーしているあたり この店主にはカフェは向いていないようだ。
▽デッドは さすがに黙った。
▽ドリンクを飲んだ。
▽目があってしまったので レナは話を”聞き出す”ことにした。
「少し前の話に戻りますね。あなたは職業にこだわりがあるんですね。そうなった理由はあるんですか?」
「アンデッドのことを調べるという目的をしばらく前から持っている。職業選びはそのついでだ。職業に近しいことをして生活をするだろう。誰しもが。であれば、やることそのものを職業にしてしまえば手間がいらず事が済むというわけだ。この体は消耗が激しいからな」
「それは大変ですね。お大事に」
ふむ、とデッドは返した。
(ふーむ。会話はできるんだ。自分のことは結構語ってくれるし、そのことにしか関心が持てないみたい? 他人に興味が薄そうな感じ。なんであんたは魔物使いを?とか聞いてもこないんだなあ……)
ホッ、とレナは息を吐く。
まだデッドは話し足りないようだ。
言いながら、考えを整理しているようでもある。
おそらく地頭はいいのだろう。けれど体の消耗が激しいというとおり、たまにぼーっとした表情をする。頭にエネルギーを送り込むが如く、食事を口に詰めている。
ラナシュ世界のあらゆるものは魔力を帯びている。
食べ物だって、わずかばかりの魔力を帯びる。地球でいうビタミンのようなものだ。
もぐ、ごくごく。
「この職業にしてからというもの、その名称に引かれた者から相談を受けることが増えたからやはり方法は正解だった。
昔話をしよう。あるものはアンデッドに困っていると俺に告げた。対峙をするついでに調べたところ、他のアンデッドには見られない特徴が見られた。アンデッドを進んで調べようとするヒト族は多くなく、ほとんどは忌避感を抱くらしいのでこの職業ゆえにクエストの度に新発見を得られる。
ちなみにアンデッドにも区別がある。ヒト型で心臓が停止しているのに動くものをアンデッドと総称するが、新種族としてそのように存在しているものを純アンデッド、肉体の死を迎えたはずのものが復活するのをゾンビと区別をするべきだ。
その差は元の肉体の特徴がどれくらい残っているか、である。どちらもラナシュ世界に刻まれた存在として変質しているが、変化により魔物種族に寄ったものをアンデッドしよう。ヒトに近しいままの彷徨う死体がゾンビだ。
ゾンビというのは数が少なく、未練が消えた魂が消えてしまうこともあるため、昔のように死亡者が多かった時代には言葉が存在したが、浄化魔法の普及をきっかけに忘れられ、現世では考古学者くらいしか使用しないだろう」
「長く話しましたねえ。おー、頬がリスのように膨らんでる。食べ終わってから話すのはいいと思いますよ。それくらいは待ちましょう」
「そうか。違いとしては理解したようだな。ふむ、俺がほどよく話せたということでもあるだろう。
アンデッドになるまでの間については、ゾンビ化……という名称で呼ぶのが具体的かと思うのだがどうだろうか。ゾンビ変化、では語感が悪い。アンデッド未満というのは長い」
「どうでしょうね。新しい言葉を作ることには慎重な姿勢を取りたいです。あなたは挑戦的なんですね」
「ゾンビというものに”ヒト特有の現象なのだ”とすり込むことで依頼を増やす事ができないだろうかと考えている。ただ浄化するのではつまらない。そしてこのゾンビ化というものに死んだ後の動物も含めたら興味深いのではないか」
「探求屋さんなんですね」
この方向性が間違った方にいかないことを祈りたい。
なるようにしかならないだろうけど。
そんなことを、レナは半眼の視線に込めた。
「そのような話を聞かせるな、とお前たちは思ったりしないはずだ。なにせ魔物使いであるならば、生物の詳細を把握することに興味があるのだろうからな。そこに関心がなければ適正職業になどならないだろうよ」
パリーン、と補修が雑だった窓ガラスの一部が床に落ちて砕ける。
こんなところで聞く”ゾンビ”の話。
(臨場感ありすぎでしょ。忘れられそうもないなあ)
と、レナは温かいお茶をすすった。
▽お弁当、ごちそうさまでした!
▽悪喰スライムが テーブルの上を狙っている……
▽けれどレナが目をつけられないように 耐えた。
▽えらいね!
──カランカラン。
来店者だ。やけにおしゃれな鐘の音がするのがちょっとむかつくぜー、と思うクレハとイズミなのであった。機嫌が悪い。ごろごろと床を転がってそのへんのゴミを溶解していく。いい子。
店主が来客を見て目を輝かせた。
来客はなぜか別のごっつい鉄格子をかついでいる。扉くらいの大きさの鉄格子を重ねて肩にかけていて、どこのプロレスラーかと思うほどだ。
「店主。ここの鉄格子、もっと豪華にしてみませんか? 追加オプションを相談申し上げます」
「おおっ、あなたもそのような趣味でいらっしゃる? 意外にも需要あるんかなあ。ホラーカフェがいけるかもしれんなあ。うひひ。立派なアイテムを持ち込んでいらして、それにしても、あんた自身も様になっておりますなあ。こーいうんがお好きであれば、ぜひ当店で働いていただければ~!」
「違いますけど」
ぴきり、と額に青筋が浮かんだ音が聞こえてくるかのようだ。
▽モスラが 現れた!(アネース王国から帰ってきた)
店主の誘いにばっちり拒否を示している。
モスラが安易にウエイターなどをしたとして、スチュアート商店の名に傷がついたらたまらないからだ。この店主を見る限り外的評価などあまりに気にしていなさそうで、商人としてはマイナス評価である。
それにモスラがぴしりとした立ち振る舞いをするのは執事業に誇りを持っているゆえであって、けしてこのようなカフェの店員をやるための技術ではない。
安く見られるという侮辱を放置しておくと、自分のためにならないしそれはアリスの評価も下げる、ということをもう商業の場で何度か経験した後だった。その苦味を仕方ないとするモスラではない。
浮かべていた笑みを消して、ぎろりとひと睨み。
強大な魑魅魍魎に脅かされたほどの恐怖が湧き上がり、店主は泡を吹いて倒れた。
▽あとは無法地帯である。
▽モスラは 鉄格子をかついできた!
(※いい感じのものをマジックバッグのスチュアート倉庫から選別しました)
▽デッドの周りを 鉄格子で囲った!
▽まるで檻。
▽施錠した。
「よくできました。モスラ」
「はい。そうして欲しいでしょうと予想するのも執事の務めですから」
レナはこの時を待っていた。
相手を逃げられなくして、自分たちが大きく戦力アップしてから問いかけられる時を。
鞭の先端を突きつける。
絶対にサディストの称号は使わないぞ、絶対にだ。とくにこの相手には。
「あなたは”イヴァン”ですね?」
イヴァンか、と聞かれた時、青年は大まじめに首を横に振った。
「そうではない。俺の存在証明は”デッド”──と返事をしよう。
しかし、民間社会で必要なのは、その質問がなにを聞き出したいがためなのかという空気を読むことだと最近叱られたところだ。実践してみせようか。ここまで話を聞く相手もそうそういなかったからな、それくらいの労力をかけやってもいいだろう。光栄に思うといい。
お前が聞き出したいのは、そのような名前で呼ばれていた魂かという問いとして変換しよう。
であれば、”イヴァンだ”と答えよう」
人を喰ったかのような物言いがさらに濃くなった。
レナは予想していたとはいえ口の端を引き攣らせざるを得なかった。
「……ええい、まどろっこしい~!」
「よく言われる。俺と知り合ったものは9・9割がそのように評価するから、気にしなくてもいいぞ」
「こっちが気にするんですが!? この感じ、紛れもなく”そう”!」
頭をかきむしりたくなるようなこの感じ。
話しているほどストレスがマッハになるこの感じ。
対してイヴァン──デッドは「そうか」と言ったきり、食事をしており、まるでノーストレスなのがさらに煽りとなっている。
イヴァンだということを問題視されていると判明しても、向けられているのが敵意でも、レナパーティのどぎつい威圧感を前にしてもその態度は変わらない。まるで感情がすっぽ抜けてしまったかのようだ。
もともと感情が濃い人物ではなかったような気がするが、そして感情の方向性ゆえに問題を起こしていたようでもあったが、感情がないというのは、ヒト族としてひどく不気味に見えた。
無感動な目を向けるのみであって、そこには思い出による変化も、特殊な感情もみられない。演技をしているとすれば大したものだが、この数の従魔たちが警戒している中でごまかすことはできないのだろう。
▽その理由は?
「──あなたもゾンビになったから、でしょうか」
「俺の経緯の話をしよう。イヴァンという生体から別の肉体へと魂が移ったという過去がある。それについては先ほど話したゾンビ化そのものだ。察しがいいではないか。なるほど、空気を感じ取ることによってすべてを説明しなくても会話が成立するならば、これは効率的でクセになるな」
「なんかこう、あなたは、クセになるとかしないほうがいいと思いますよ……」
「なぜ?」
「歪んだ変質をしそうだと私の直感が告げています。今のままがいいかと」
「まあお前に決められることでもないのだが」
「そうでしょうねえ!」
「理由がある一言なのだろう。頭の片隅には留めておいてやろう。それによってどのような結論を下すのか、下したのか、再び会った時にでも楽しみにしておくといい」
「別に楽しみではないですね……」
「気にするな。ただの社交辞令だ」
「ぐわあああーーーっっ」
▽モスラは 目覚めかけた店主を 手刀で落とした!
▽ウエイターが コーヒーを運んできた。
「記念すべき1人目来店のサービスでっす。本日からバイトに入りましたバトリマスと申しますでっす。んでも茶の淹れ方などはけっこう上手いんで、はいどうぞ。一気に飲むのがおすすめっすね」
「アツアツのコーヒーを?」
「飲ませてくれるサービスまで欲しいって? おらあっ」
▽バトリマス……ではなくパトリシアは コーヒーを水球にした!
▽ホールインワン! 客の口に一気!
▽デッドは コーヒーを飲んだ!
▽デッドは 深く眠った!
「ふいー。この失敗作コーヒーが役に立つことがあるなんて思わなかったぜ。普通のコーヒーは目が覚めるんだけど、これは深く眠っちまうんだよな。天界のホワイトコーヒーの反対だから、冥界のブラックコーヒーでどうかね」
「チョココみたいな商品名だねえ」
「そういやそうか」
アンデッドは食料を必要とせず、その代わりに空気中の魔力などを吸収する。それならば魔力に作用するコーヒーならばよく効くのではないか、とモスラと相談をしたそうだ。
まさしく友達はレナの意を汲んでくれた。
「大人数対一人で、まるでこっちが悪いことしてるような気持ちになるけれど、魂が例のあの人なのであれば、それが必要な対処になるからねえ。
この体になってから悪事をしているわけじゃないのか魂がグレーゾーンで冒険者ギルドルールで捕まえることもできない。
けれど野放しリリースをするには危険すぎると思うんだ。
でも私がテイムする方向性はなし。ていうかヒト寄りのゾンビなのかもしれないしね、わざわざ自主的に語ったところを見ると。自分について言いたがりな感じがしたもん」
▽ デッドは 頑丈な檻に 囚われている!
▽檻に 赤いリボンを結んだ。
▽いいことが起こりますように。
▽レナは 二礼ニ拍手一礼をした。
「このミレー港が心配なんだよね。アリスちゃんがこれから取引をするところだし、港街のギルドの人たちはこの場所で問題改善して生きていこうっていう前向きな空気が感じられた。だからこの場所で悪いことがもう起こってほしくないんだ。そんなに何度も脅かされるのはいいことと悪いことの天秤が崩れてるじゃないの。
だから、ミレー港周辺の安全確認ができてようやく、レナパーティの依頼は完了なんだって思うんだ」
パトリシアがレナの肩を抱いた。
落ち着くお花の匂いがする。そして急いで帰ってきてくれたのであろうミレー大陸の風のにおい。シルフィーネたちの風特有の清らかな水のにおいに、空気中のどこかで紛れたのであろう濁りのにおいもある。
レナが拒否をせずに誠実に見ようとしたときに、イメージされるものの範囲は大きい。
魔物たちの成長した姿を信じてあげられるだけの度量の大きさがもともと備わっているのだ。
だから、デッドを捕まえたら、接触があるかもしれないと想像していた。
彼女がホラーカフェの扉を開ける。
──カランカラン。
「久しぶり。アンさん」
▽Next! 「迷惑かけてごめん」「どんまい」
読んでくれてありがとうございました!
先週は急な休載になってしまい、すみませんでした><
メッセージをくださったみなさま、ありがとうございます。おかげさまで回復しています。
今回は張り切って多めに進めました。
引き続き、がんばらせてもらいますね。
今週もお疲れ様でした。
よい週末を!₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑




