街直し
▽グレンツェ・ミレー港街をゴーストが襲った!
▽レナたちは ボス・フーセンオバケを倒した!
▽ゴーストはいなくなった! が……
▽街が破壊されているよ!
深夜になりくらい空に、光魔法がいくつも放たれた。
冒険者ギルドが召集を出し、近場にいた冒険者を集めたのだ。
光球が街を照らすと、明るい月夜くらいに周りが見えた。
崩れた壁。穴が空いた屋根。ばらばらのぐしゃぐしゃになった商品棚、ときおり風にふかれてチリンと音を鳴らす硬貨を商業ギルド員が総出で鑑定してもとの持ち主に返すよう努めている。
もともと区画整理されていた港街は何が誰のものなのかわかりやすかったが、だからこそ自分の財産が破壊されたことも一目瞭然だった。
保険に入っていたものはホッとし、保険に入らなかったものは悲惨だと嘆き、やってきた保険会社の営業は「イ”ヤ”アアアア」と頭を抱えている。最近、ミレー大陸中で建物の損害が大きいそうだ。秩序あるヒトの社会が乱れている。
冒険者ギルド員に説明をせねばと、歩きながら、レナは街を振り返る。
「大損害になっちゃったね。わかってくれるとは思うけど……」
説明をしたら、逆に謝られた。
冒険者ギルドとして心構えが甘かったと。まだ近くに監査官アイマーがいるだろうと思い低頭なのかもしれないが、その反省の様子は、非常にしおらしく見えたのでレナは信じることにした。
やっちまったもんはしょうがない。
直していく気がある人は、応援した方が未来が良くなる。
レナたちはきちんと感謝された。
しかし、冒険者としての責任は伴う。
壊れた街の復旧は、誰かがやらなくてはいけないことだから、レナたちも手を貸すことになるのはしかたがない。原因の一つはレナがもらうはずだった杖なのだし。同時に、この杖が持ち出されたことも主な原因の一つだ。
アリスはできる限りの対策をしていたとレナは思う。杖はきちんと封印されていた。それなのに……というのは……。
どんなものごとにも、完璧はないものだ。
「え、皆さんも? いやあ、さっきあんなに戦ってたのに、疲れてるだろう……」
「いえ。規則ですし心配ですし、やらせてくださいね」
ルールに伴いレナたちも清掃作業を手伝うことになるが、周りの人々はとても申し訳なさそうだ。
けれど、この大損害を片付けなくてはならないので清掃の即戦力が要る。明日にはまた港を使えるようにしなければ!──そういう土地なのである。
気まずい雰囲気の中、清掃をするのは、レナはもちろん、従魔にとってもやりづらそうだった。
以前は空気を読むことをしないくらい幼くて、このような場面でもはしゃいで力を発揮していた従魔たち。ラナシュの社会で生きられるほどの心が育ったんだなあ、とレナはちょっぴり感慨深い。
ミディでさえも、周りの様子を見ながら自分の動き方を調整している。いきなり巨大化して怖がらせたりしない。さっきのフーセンオバケの怖さがまだ残っている街の人たちは、きっと大きなクラーケンを怖がるだろう。そんな想像ができているらしい。──大人の階段を登っている。
レナは街の人たちと話す従魔の背中を見て、微笑んだ。
ああ、ほろりと嬉し涙もでそう。
……その一方で、街の一角ではこのような会話もなされていた。
「なに? 片付けを手伝ってくれ……と? そのようなことに興味がない。荒らした奴が片付けるのが道理なのでは」
「おいおい。でもなあ兄ちゃん。ゴーストたちに片付けをさせろってったって、無理だろう!? 屁理屈言わないで手伝っとくれよ。あんたガタイがいいんだから助かるんだよおー」
「ふむ。ゴーストに片付けをさせたいが無理だから俺に頼むのか。であれば、片付けができれば問題はあるまい」
「だーかーらー……」
言うや否や、返事も待たず、青年は杖を振り上げた。
その勢いに驚いた街の親父が、しりもちをついても視線をよこしもしない。
(こいつ、自己中だ。街の仲間にゃ入れたくないタイプだぜえ!)
と、睨まれてもなんのそのだ。
まさに自己中。
「白魔法[浄化][浄化][浄化]──スキル[従順][伝令]”壊した部分を元通りにしろ”」
青年の声は音そのものになり、波紋のように広がった。
もう一度杖をふり、すると、波紋はすぐに消え去った。
一定範囲にこの指令を届かせた。
「どうしたの? クレハ、イズミ」
『なーんだろー?』
『むずむずするのよねー』
『『レーナ。抱きしめて♡』』
「まだまだ可愛こちゃんだなー! うりゃりゃー!」
レナたちが戯れていると……。
そのすぐ脇を青白い光がすり抜けていく。ぎょっとしてその光のいく先を見る。例の杖をぐるぐる巻にした鞭をつかむ。(しまった、赤の祝福アイテムにするために固定してたけど、鞭、使うかも!? まあいざとなったら素手でやるか……とりあえず伝令姿勢を保とう)レナはじーっと見つめる。
「うそ、またゴースト!?」
▽青年はゴーストを復活させてしまった!
▽レナたちは再び、警戒する。
だが……
▽ゴーストは ゴミ拾いをした!
▽ゴーストは 落ち込んでいるヒトの肩を揉んであげた!
▽ゴーストは ヒトの喧嘩を止めた!
「どーなってるの? まるで様子が違う……」
<敵意はないようですね>
<マロもそう思うぞ>
「うん。なんていうか一目散に清掃してる。おりこうさんになってるし、誰のことも傷つけてないよ。誰かに当たりそうになったら道を譲ってるし、ああ、腹いせに叩かれたら叩かれてあげてる……」
みるみるうちに街は片付いていった。
ゴーストたちはさまざまな形をしていて、大きな物を持ち上げたり、ばらばらになった壁をまとめて固めてしまったりするのだから、ヒトがちまちまと直すよりも都合がいいようだ。
やがて、ヒトの方が働くのをやめてしまった。
いきなり夜中に叩き起こされたのだ。
明日のためにも寝たいのに、起きてゴーストを見張っているだけでも十分よくやっている。そのように上方修正されてしまったようだ。
「レナ様。どうするのじゃ?」
「私たちは……。やれるところだけやろう。眠くなったら交代制でね。責任も感じるし、それに、この現象の理由がわからないからただのラッキーで受け入れるわけにはいかないよ」
「レナ様……もしかして、さっき言われたことを気にしてる?」
「余分の幸運を引きつけてるらしいっていうやつ? うーんまあ、気にはなってる。自分のラッキーさがどこから来るのかなんて、考えたことなかったもん。うん、気になるよ。だから判断を間違えることもあるかも……。ねえキサ。私、今、ちゃんとした判断をしてるかな?」
「これでいいと思うのじゃ。だからレナ様はおかしくない。でも、不安に思っているなら、妾たち従魔に今のように聞いてほしい。おかしかったら、ちゃーんとお叱りしてあげる!」
「あはは。よろしくね」
(よかった……。私……。この子たちと一緒でよかった)
レナはそっと息をはく。
それだけでは足りなかったので、従魔のところに行き、一度ずつ抱きしめてもらった。
「すみません、また、保護人たちが気絶してしまったのですが……うわっ! なんだこの光景!?」
大柄なギルド員がどすどすと走ってくる。
保留保護人をまとめる場所に勤務をしている腕章があり、さっきまで自身も気絶していたので目を覚ますために冷水を浴びたようで、上半身がびしゃびしゃに濡れていた。
保護人たちを縛り直していたら出遅れたのだ、とあちこちに謝罪をしてから、街の様子について聞いている。
おそらく現場には上司が留まっており、下っ端の彼が情報収集を任されたのだろう。
「すいません。そこの、ええと、冒険者の方ですよね。杖を持っているあなた」
レナは自分かと思って振り返った。
けれど、別の、黒灰色のローブをかぶった人が話しかけられていた。大きな杖を持っている。魔法使いなど魔力制御技術を必要とする職業者なのだろうか。
「──ああ。この光景のことかを俺に聞くのか。ん? それと保護人の事情を照らし合わせた推測も欲しいと。探偵のようなことを俺に要求するんだな。頭が良さそうに見えるからか。そうか。どうだろうな。
まあいい。答えよう。──それは当然だ。魂を外に出して働かせているのだから、外に出ている魂の器である体は、くたびれたようになるだろうよ。なに、ことが終わったら元のように体に戻る。それまでは動かないから扱いも楽になるだろう?」
「つまり。あんたがやったっていうのか……」
「駆け出しの埋葬呪術師と認知してくれ」
「むしろ埋葬の逆じゃないか!?」
「ム……」
ローブは首を傾げた。
ずるぅり、と変なふうに首の辺りが動いたような。
レナとミディは顔を見合わせた。クーイズとキサも顔を見合わせた。
──変だぞ。
魔物的な第六感がそう告げている。
レナは、キラに「彼の位置情報をマッピング」と頼んだ。
キラとマシュマロの主導権争いが勃発した。こちらもそのうち大人の対応になるだろう。
冒険者ギルドからゾロゾロと人が集まってくる。
半数は申し訳なさそうにしている人々。半数は腕っぷしで雇われており、万が一の事態に備えて警戒を怠らないものたちだ。
「ほら。終わったぞ」
街を指差して、ローブの男は言った。
年若いような、しわがれているような、不思議な声の響きをしていた。
無機質なものいいも相まって、とにかく一度聞いたら忘れられないような声だ。
大柄なギルド員がすごんだ。
「……いや、まだだナ。おおかたの保護人は元に戻ったがナ、一番の大問題を抱えていた三名がいないんだよ。あんた、どこにあれを隠した? なあ? もしや召喚師のように魂を回収したのではあるまいな? ……違ってたら謝るがね。何せ今、ミレーでは召喚師らしきグループが悪行をしてるんだ」
「謝ってもらおうか」──ドン!
「……悪かったよ。すまないな。脅かして。……で?」
ローブの男はしれっと続けた。
話好きなのか、説明しないと気が済まないだけなのか。
「駆け出しの埋葬呪術師なのだ。であれば、うまくいかないこともあるだろう。
それよりも街が壊滅することや、街が元に戻らないことの方が問題になったのではないか? 罪状未確定の時に保護人がいなくなったならまだタイミングがよかったのでは? そうだろう。であれば、この話はここで終わりにするといい。そうしないとより面倒なことになるだろう。解決の目処が立たないことを、さぐれ、と言われたって業務が滞るだけではないのか。それよりも港の復旧を優先するといい。ここの冒険者ギルドは厳しい評価にさらされていて失敗によっては支店がなくなると聞いているが。
俺は召集に応じた身であるから、まあここのことを知っているんだ。風の噂だけでもこれだけある。俺は耳がいいことも理由ではあるが、深読みしてもそっちの損にもなるまい。さて、冒険者ギルドに招集されて冒険者として活躍したこの俺が、ことの経緯をちょうどよく説明してやることもできる。今回のようにな。必要になったら呼べばいい。なにせ耳がいいんだ」
「ぐうううううおおお……!」
ギルド員は頭を抱えているが、私利私欲も絡むことなのだろうし、レナたちがお行儀よく仲裁してあげることは難しそうだ。
そっとしておくことにした。
彼曰く、ここでのゴースト騒動はもう終わりとするらしい。
そして、レナにちょっかいをかけて消えた三体のゴーストは、元に戻るのではなくて消滅した。──おそらく無理矢理働かされたことによる精神力のすり減りのせいだろう。
従えるならば同意がいるが、同意なしに従えようとすれば、おそらくものすごい「反則判定」となる。その結果なのではないか……と、レナはイメージした。
レナは従魔たちの方を見る。
頷きを返してくれた。
レナは、自分の身だしなみを整えた。
▽なめられないように!
でも、女王様に見られたいわけではなく、ふつうの冒険者に見えるように。
レナ自身が駆け出しの頃から愛用している、冒険者コーディネートだ。
そして、「またあとでな!」……と言われてひとりぼっちになったローブの男の後ろに近寄る。
「すみません。街直しお疲れ様でした。あなたが活躍なさったんですよね」
「ああ。そちらもゴースト退治ご苦労だった」
レナたちも見られていたらしい。
どこからだろう。まあいいや、目的を果たそう。
彼は手を差し出してくる。
「名のある冒険者なのだろう。名乗ってもらえるだろうか」
「私たちはレナパーティと呼ばれるグループです。リーダーである私がレナ。他の子たちは私の従魔なんですよ」
『『フシャー!』』
「凶暴だから触っちゃだめですよ〜」
「ム……」
彼は手を引っ込めた。軽くため息を吐く。
「俺は”デッド”。どうぞよろしく」
再び差し出された手を、レナは取らない。
小声になり、ほんの少しの音で、彼に呟く。
耳がいいなら彼だけは拾えるはずだ。
「もしかして、この騒動をしかけたのはあなたではありませんか?」
「どうしてそう考えるんだ?」
返事はふつうに声が大きい。
別に聞かれても構わないのか、無神経なのか……。
あまりいない性格の人だ、とレナでも思った。少なくとも、これまでレナが会った人の中にはいなかった。レナは人の特徴を覚えるのが得意だ。
そうそう忘れてしまうことはない。けれどこのような人は、会ったことがない。
「あなた、内情を知り過ぎていると感じました。さっきのこと盗み聞きしてしまってごめんなさい。少し前に来たばかりなんですよね? それにしては説明している時に理解が及び過ぎています。気のせいでしょうか」
「気のせいだ。気になるなら魂の色でも見てみるといい」
「うちには魂の色を見ることができる子がいます。曰く、あなたの魂の色はグレー」
これははったりだ。違えば否定してくるだろう。しかし、ここまで言い切るならおそらくグレーだろうと、レナが想像した通りだった。
もしも本気で鑑定するならルーカを連れてくるということもできる。少々の照合ならキラができる。
「魂がグレーでも、ラナシュ世界ならではの魂が染まる基準がありますから、そこを把握すれば抜け道もあるでしょう。そうやって過ごす人が最近多いんだって聞いたことがありますよ。そんなの間違いだって笑いますか?」
「いや。把握している通りだ。続けるといい」
青年が笑っているように感じたのは一瞬だった。また無感動になる。これまで厄介な性格を多数引き受けてきたレナでも、やはり読みきれない。
「何より──あなたの波長を船の上で観測したと、私の従魔が言ってます! 盗んだりしませんでしたか」
「杖を? どう証明する?」
「うぐぐぅ」
確実にこの者だ。杖だと言った。
レナが杖を取り返しに行ったことを知っているものは身内くらいだ。
他の人は何らかの方法でレナが突っ走ってくれたのだ、と思っている程度。ことを収めたレナに冒険者ギルドもそこまでの説明を求めなかった。容疑者ではなく、功労者なのだから。
けれどこの男は知りすぎている。
レナはびしりと指差した。少し語気が強い。
「そーいうのやめてください。私たちはちょっかいを出されても止めるだけの力があります。ゴーストは倒せるし、時間をかければ街を直せる、賠償金だって払える財力がある。
だから得策ではありませんよっ」
「それはたしかに」
青年はフードをとった。
くすんだような金髪に深緑色の目をした、なかなか浮世離れしたイケメンだ。
レナは警戒した。
目で混乱を誘うかもしれない。髪が逆立って強くなるかもしれない。口からビームが出るのかもしれない。正体を暴いたのだから!
「デートでもしよう」
「なんで!? ……ははあん、フードをとったのはそれですか。かっこいいなら誘えるって考えましたね。あいにくですが可愛い子もかっこいい子も綺麗な子もワイルドな子もたくさん見てきて目が肥えています。ノーセンキューです」
「それでは不利だな。では、ここまで会話をした俺に興味はないか」
「なくはないですけど……。警戒的な興味ですよ……?」
「では警戒を解きたいのではないか」
「いや、警戒から安心したいんですが。あっ」
「安心のために席を設ける。成立だな。あそこの店に行こう。さっき俺が最初に壁を直してやったから恩がある。大人数だろうと場所を開けてくれるだろう」
「もうちょっと心あるコミュニケーションをした方がいいですよ!?」
レナは考えた。
何かを話すつもりがあるなら、情報は気になるし、こちらは戦力があり、冒険者ギルドにはまたしてもアイマー・ミンミンが引き返してきたようだ。であれば、いざとなれば援護も頼めるし、公共の場で話し合うくらいはしてもいいだろう。
とくにレナたちに興味が薄そうなのがいい。マシなのだ。
レナの従魔をどうにかしたくて声をかけてくるなら警戒するし、それを目的にレナを誘う場合も近頃は散見される。
しかし彼はレナパーティだから興味があるようではない。むしろ、話したがりに見えた。それを聞いてあげるだけなら。
(私はラッキー。……急に実感が出てきちゃったよ)
さっき、消えてしまった魂がある。
その魂がまだ受け取っていなかった幸運が、あるのだとしたら。
レナの中に溜まっているのではないか。
レナは自分の中を思う。
自分の中に何があるだろう。
どのようなしくみの人なのだろう。
▽Next! 話したがりのデッド
読んでくれてありがとうございました!
Twitterの凍結祭りらしいですね汗
そうなっちゃったら、おそらく別のアカウントを試みますので、その場合はここでも連絡をしますね。
それでは、今週もお疲れ様でした。
よい週末を!
PS、デッドはあのやり方が効率良いので使っているだけです。あるものは使うタイプ。ヒトの心とされるものが少ないですからね。ルーカとは真逆です。




