港区ゴースト退治
▽冒険者ギルド倉庫に やってきた!
▽フーセンオバケが 現れた!×1
白く大きな袋が膨らんだような形をしている。ひゅーどろろと日本の創作物でよく出てくるような形だ。足はなく、手だけはやけにリアルである。
(中途半端に質量があるオバケって感じ……オバケって、あれが自称してるのはへんてこだけど。ホラーっていうよりは、バイオレンス? 血みどろではないからちょっと違うかもしれないけど)
観察したレナは、ふむ、と鼻を鳴らした。
フーセンオバケが身をよじると、ギルド倉庫の扉がさらに壊された。
中の様子がすこし覗けて、他にも捕まっていたはずの罪人たちは気絶しているようである。もしくは、その魂がゴーストとなり街の人たちをおどろかしているのかもしれない。
『ア"ーー捕まえやがってムカツクーー』
『モットー、驚かせたいよー、モットー、びっくりしてくれよー』
『ハラヘッタ〜……食い物……食い物屋ダ〜〜』
周りの道には、ゴーストが移動する風圧に吹き飛ばされたどこかの店の商品や、看板が散乱している。木箱のようなものがぶつかり、軋む音がした。突然発生した台風のような光景だ。
(早く収めないと危ないね。アリスちゃんの責任問題にもされかねないし。よーしやるぞ~。
珍しい戦闘だから従魔への指示はちょっと詳しくしたほうが良さそうだ。働け、私の勘!)
「クレハ、イズミ、二手に分かれてスライム状態で清掃」
『『あいあいさー!』』
赤と青のスライムがうすく伸びて滑りながら地面を掃除していく。
「キサ、質量が多そうな害のあるゴーストを凍らせてほしい」
「しょうもない怨念を唱えとるものばかりなのじゃ。やれやれ」
キサはレナの背中を守ることにしたらしい。
背中合わせになり、街の方から近寄ってくるゴーストを凍らせてゆく。
ボトッ、と地面に氷がぶつかれば、エネルギーが霧散したのか消えてしまうゴーストもいた。
「ミディは中サイズになってあのオバケの攻撃を退けて、できればイカゲソで捕まえて」
『やーるーのーヨー!』
水魔法を使い自分の体積をふくらませる。
長く伸びたイカゲソをからませた。
▽フーセンオバケは 動けない!
「いい感じ。私も、できることを……! キラ、サポートよろしく」
<かしこまりました☆>
レナは走る。戦闘の脇をすり抜けて倉庫に向かう。
前だけ見ていられる。道に落ちている障害物を避けられるようにキラがうっすらとルートを出してくれているから。
どこかにアリスのところから盗まれた呪われた杖があるだろう、原因はそれだろう、と目を凝らす。
しかしゴーストの怨念が集まるからなのか、やけに視界が暗くて目を凝らしても見つけられない。
四連倉庫なのだ。
どのあたりに行くべきなのか検討がつけられずにいると──レナの背後から倉庫に向けて、ツララがすっとんでいく。
「レナ様、妾は暗いところでも目が効くのじゃ」
「助かったよ、キサ!」
レナが呪いの杖を手に入れて、浄化すれば、事をおさめられるだろう。まずは手で触れるだけだ。
今のところそれが最も得策。
即浄化しようとして、港街が壊れてしまってはいけない。レナの浄化はハイパワーなのだ。
(私が杖に触れても浄化できなければ、魂の浄化をする。そうしよう)
レナは足を早めた。
『聞け!!愚民ども!!』
(うわっ!?)
フーセンオバケの隣をすり抜けようとした時、不協和音があまりにも強く響き、レナは立ち止まってしまいそうになった。硬直して耳を押さえられたらどんなに良いだろうか。
びりびりと空気を震わす音は麻痺のような作用をもたらし、レナの足を鈍くする。
だから、抜き足差し足、バランス崩し、ぐらいの速度だ。
『ワレワレは──、────という──を発表するために──を行い、途中────や────など、また────を──だが、完成したのだ。──があれば──でも──でもなく、────、────は、──……であろう!』
演説中らしいフーセンオバケの足元をすり抜ける。
上は見ない。視線は送らない。
気付かれていないならそれに越したことはない。そーっとそーっと。
(あった)
▽レナは 呪いの杖を発見した!
▽倉庫の壊れた扉の 真下にある。
キサのツララが溶けて杖にかかり、その部分はキラキラとしている。もう見逃すことはないだろう。
しかし落ちている場所が悪い。
(スライディングしながら扉の下にいくアクションすべき?)
<泣きます>
(やめとく! ムチの先っぽでつつきながら引き寄せる。うちのムチが負けるはずないもんね)
▽ムチは 心なしか得意げだ!
レナは近づいてしゃがみ、ムチをかまえる。
背中を狙われないように、後ろをチラリと見る。
レナには構わずフーセンオバケは喋り続けていた。
しだいに声の速度が上がっているということは、熱意がヒートアップしているのだろうが、しかしそれに比例して、途切れ途切れにしか音が聞こえなくなっていた。そうではない間のところでは空気が全く震えない。
呪文か何かというわけでもなさそうだ。魔力は込められていない。意志が凝固してカタチになっただけのまだ魔物ではないゴーストは、生命エネルギーしか持たない。
ミディが首を傾げているくらいだ。
おそらく口は動いているのに、音はないのだ。
そういえば、音がない時はレナは動きやすかった。
(なんでだろう。キラ、急がないけど、どうしてなのか解析できる?)
ついつい……っと。ムチを小刻みに動かしながら。
レナはちらちらと後ろを見る。
<予想であればすぐに伝えられますよ。おそらくラナシュ世界に登録されていない言葉なのでしょう。彼らの造語か、古くて忘れ去られた言葉。途切れているところを拾えば、論理的に話をしているであろうことはわかります。
彼らが伝えたかったことは、どうしても伝わらないというだけのこと>
(なんか、悲しいね。ゴーストになるほどの気持ちで言っている言葉なのにね)
<侮辱や驕りも含むけして良い言葉ではないはずですけれどね。マスター・レナがそう感じていらっしゃるお気持ちはわかりますよ>
「……話してるうちに、とれた! っていうか、扉の真下よりはこっち側に寄せられたよ」
<フーセンオバケは良い頭脳を持っているようですから、そろそろ興奮が抜けて自分たちの現状に気づくでしょう──>
「杖、触るよ」
これまでレナが関わってきた呪いのアイテムほどではない。だからできるという確信はあった。
ざらりとしている。
鯖や砂粒がこの杖には集まっていた。そのせいでちょっとした横長の石のようでもあった。おそらく内部に短めの杖が閉じ込められているのだ。
レナにはよくわからないが、キサは美的センスによりこれを「宝」だと見つけ出したのだろう。すごいなあ、とレナはキサの舞うような戦いぶりをみて呟き、キサは主人に見つめられて照れた。
「ぽろぽろと剥がれていってもうすぐ杖が見えてきそうだ。うん、浄化できるよ。でもすぐには無理……早くできないかな……」
<マスター! 敵が逃げて、海の方に行こうとしています>
ミディのイカゲソで捕まえようとするが、イカゲソが触れたところから半透明になりすり抜けてしまう。
キサの氷漬けにはならず、クレハとイズミにも溶かされない。
「スキル[伝令]目的は船──!」
それだけ言えば、従魔はそれを阻止しようとしてくれるだろう。
レナは浄化を早めようとする。
ヒトが集まってきて野次馬のように眺めてる気配もあるから、高威力の魔法は使いたくない。ここでは時間さえ稼げたらいいのだから。
従魔たちに倣って同じようにゴーストを処理してくれている冒険者の姿が見られ始めたので、レナは小さく微笑んだ。
「私の生命エネルギーを高めるとかよさそうだよなあ……。どんだけ従魔が可愛いか話しましょう!」
▽テンション上がるうーー↑↑!
▽全員紹介したいので早口で語るレナ!
▽二周目でもっと詳しく語るよ!
▽三周目は出会いを語るのもいいね!
「おーっほっほっほ。仲間がステキなことも聞く!?」
<称号を使わずともついにお姉様気分に。今はどうかそれでしのいで下さい。
……白状しますと、称号を合体整理したばかりなので不具合が心配なのです。うむむ。地面が丸く凹むくらいの威力が出そうですから、海面を埋め立てて作った港区のこの場所でそれをしては大問題です。
……うう、完璧なサポートでありたいですのに……>
「これが可愛げと向上心のある私の大事なキラでしてよ!」
<従えてえーーー!!>
▽※独り言です。
レナは、杖をぐいっと倉庫の方に向けた。
▽ゴーストは 杖に引っ張られているようだ!
▽ゴーストは 執念で船に向かう!
▽進んで 下がって 行ったり来たり!
『『あーん。キラパイセン、レスバしてー! あのオバケ話してたら気が逸れるからバリバリ集中力乱しちゃってどーぞ!』』
▽港の放送システムを キラがジャックした!
▽空気の振動 微弱運用!
<そんなにあの船が大事ですか?>
「あたりまえだ、あたりまえだっ。うおおおあれらを世に出すのだああああーーーー!」
▽煽ろう。
<悪いんですけど、今はだめです。そういうのは、ちゃんと魂をきれいにして世間に戻ってきてからやるんです。押しつけのサプライズはいらない。世に出して誰かに評価してほしいなら、その相手のことも考えなくちゃいけないんです。
マシュマロは覚えましたね?>
<マロはいたずらも好き>
<毒マロになるのやめなさい>
『他人の話など聞いたりせぬ! うるさい! ワレワレの話だ!! ワレワレの話を聞け──』
レナが杖を抱きしめる。
汚れが落ちてみれば、艶やかな飴色をしていた。
まだ経年劣化などで色がくすんでいるらしいので、磨けば美しくなるだろう。
呪いの力が減っていき、レナの手にこそ馴染み始めた。
「よし、浄化できたよ。街のゴーストはもう消えちゃうみたいだね……!
オバケはしぶといな。でも、これだけ戦力が揃っていれば……。……!?」
大きな風船ほどもある目玉が、6個ほども、ぎょろり。
体をねじれさせたフーセンオバケがレナの方を凝視した。
(ひいいいい! 生理的な鳥肌が……っ!)
『なんだ……そのエネルギーは……!?』
しぶといものの、フーセンオバケの体はもう半透明に透けている。だからレナは慎重に話してみることにした。
時間経過が勝ちの方法だ。
それに、話すことは、怨念の軽減にもつながるから。
「えーと、私の周りのエネルギーってことですよね? いうなれば、ウルトララッキーハッピーエネルギー。分かりやすいでしょう」
『それにしても大きいとは思わなかったのか?』
「大きい……? まあそうなのかもしれません。浄化のためにエネルギー高めてましたからね。だから私に直接攻撃してもだめですよ」
レナは警戒している。
じり、と下がろうとしたが、後ろが危ないことを思い出して踏みとどまる。頭の中に従魔とのラブラブフレンドな思い出をエンドレスで流してテンションを高める。
ぐいー、とフーセンオバケが覗き込んできた。
『ふおおおお!!! それは──それは、そうなのか。凄まじい吸入力!! はは! ワレワレのエネルギーがその手に持った棒に吸い込まれていく。生命半ばにして絶たれた命の未消化だった運がことごとく集まっているのではないか。いや、棒は力を沿わせたにすぎぬ。ワレワレが研究していたものの一つ、秤の不平等の生きた証明。お前こそが吸収装置といえるのか!!』
レナは目を丸くしている。
ゲラゲラガラガラと空き缶でも転がすような音でフーセンオバケは笑った。
『フン! いいだろう気が変わった。そなたらの今後の経過を見られるならば、ワレワレはこのオバケ姿を解消してもいいとも。船を道連れに海底にまで行くつもりだったがな。やめてやる。
このままオバケを放置したら困るのだろう? 無骨で迷惑な冒険者め。力をふりかざす者はきらいだ。まあお前たちは力という言葉が似合わないか。希少種、希少種だなぴったりなのは』
ゲラゲラ、ガラガラ。
『これまでの研究結果を発表して賞賛を浴びる以上に探究心をそそるものが現れたから、うむ、ワレワレは理解してやろう。観察してやろう解読してやろう!
そのためなら不名誉な獄中でもいいとも!!
さあ逮捕してくれたまえ! 縄で手首を縛るんだ! 早く!』
「なんか嫌です」
レナはげんなりした顔で、肩をすくめた。
他の冒険者に捕縛してもらった。
まずは倉庫内に倒れていた科学者たちを拘束する。
フーセンオバケはしゅるしゅると怒気が抜けたようにしぼみ、しょぼくれたしわだらけの三体のオバケの姿になった。あまりに長らく意識体でいたので、幽体離脱後遺症だそうだ。
研究用らしきスコープをつけている者。
目を見開いてまばたきもしない者。
大口を開けてずっとキテレツな笑みを浮かべている者。
▽港区のゴースト退治 完了。
▽レナは 周りに慰められた。
▽なんか大変だったね……。
片付けの最中、フード姿の一人がワープしてきた。
冒険者ギルドのものに依頼された証だと、証書を見せる。
「俺は死者の声を聞いてやるもの。死者の声に関心を寄せるもの。そういう設定で売り出している、かけだしの埋葬呪術師だ。そのような職業がないと思ったならばそれは正しい。造語だから。しかしこれからスタンダードにしていくため名乗っている。覚えておいてもいいだろう」
ひたすらにすらすらと喋る。年若い青年のような、熟した老人のような、ふしぎな響きの声だった。
「そして、俺が観察するにふさわしいゴーストとはどこにいる?」
今回はあまりに収束が早く、レナたちがもう仕事納めしてしまったというと、彼はやれやれと棒読みした。
読んでくれてありがとうございました!
今回はなんだか頭がぼんやりしてて書くのが大変でした汗
土日にできるだけ休みたいと思いますー><
みなさんもあたたかく過ごしてくださいませ♪
今週もお疲れ様でした。
よい週末を₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑




