クエストクリアの報酬?
「この辺りで割引券が使えるよ」
アリスが案内してくれたのは「看板」だ。
そこにチケットをかざすと、ショッピングマーケットが視認された。それを持っていない人には分からず、通り過ぎてしまう魔法がかけられているそうだ。チケットにはレナの魔力が込められていて、従魔もともに認知されている。アリスは自前のカードがある。
「まさか、シークレットスペースがあるなんてね〜」
箱につめられたままの商品たち。
ひとつだけ見本が出されていたり、絵に描かれているだけだったり。丸天井の大型テントのようなものの前に並べられている。
「観光客にとってはあまり面白くないっていうか、おみやげ性がないものなんだけど、商人にとってわりと面白いところなんだ。仕入するときによく使われるところなの」
「アリスちゃんも?」
「私は、どこの出店かわからないものや、たくさん製造されるものは買わないんだ。だからこの辺りの割引チケットは持ってなかった。港区を主軸にしてるわけではないしね」
チケットもらえてラッキーだったね、とアリスがいう。
しかし、レナがあまりに目移りしていると、少し頬を膨らませた。
「アリス・スチュアートが収める商店こそが、この辺りのどの品物よりもレアなものを取り扱っておりますよ?」
「わかってる」
これから、アリスが揃えてくれたクエストクリアの報酬をもらうのだ。
貴重品はそちらで満足するのがいいだろう。
従魔が欲しいものを聞き、レナはそれを買うことを認めた。そうしてあげないとまだまだ箱入りの従魔たちは、金銭感覚が身についていないから。
従魔が自分のおさいふの中から、お金を出して、それぞれが欲しいものを買った。
アクセサリーだったり、食べ物だったり、可愛らしいものだ。
その中でちょっと高価なものを買うときに、レナは割引チケットを出した。一枚しかないので従魔たちにも納得してもらい、喧嘩にならないように。
これが、ほがらかでただしい庶民のお買い物の仕方である。
▽シークレットマーケットを出た。
──夕方。
「レナさーん。こちらですー」
ノアが手を振ってくれている。
レナたちはそれを遊覧船から見ていた。
「クジラが暴れなくなったので、安全だと判断した港区のみなさんが、このクジラを港にしばらく置いてくれる代わりに、見物させてちょうだいっておっしゃいまして。性根逞しいってこういうことをいうんですねえ」
と、お嬢様らしい発言をするノア。
こちらもまた箱入りだったのだ。
その箱の名札にもなっている「サディス・シュナイゼの娘」という立場を使い、たくましくもズル賢さもある港商人が勝手にクジラを得ようとする商取引は、退けることができたらしい。
たびたびシヴァガン冒険者ギルドと組んでドラゴンで港を通過するサディス宰相のことは、この港で働く者たちも一目置いている。
海であんなに自由に動くことができたらどんなにいいか!
港町のヒト特有のライフスタイルから見た尊敬があるそうだ。
商人たちはクジラとの共存に話をきりかえ、サディス宰相への尊敬を語ることでノアを懐柔してみせたところもあり、どっちもどっち、利用と引き締めがちゃっかりしている、と言えるだろう。
せっかくクジラが安全な見せ物になってるうちに、と遊覧船は多く出ている。
その中でも豪華な造りのものには、ヒトの貴族や王も乗っているようだ。
レナたちの船を、ノアが蜘蛛の糸でもっとも近くに引き寄せてくれる。
「クジラの乗り心地を体験できるのは、つるつるの体に蜘蛛の糸を這わせることができるノアちゃんたちならではだねえ。ナイス操縦技術」
「けっこう乗り心地がいいですよ。この子は基本的に従順ですし安心させてあげたら安定しました。遊覧船のほうはいかがですか?」
「おかげさまで波もすくなくていい感じ。なんだろう、そのクジラの周りって海が凪ぐみたい、というか」
「そうなんですよね。この子、ずっとなにかしらの音波を発しているようなんです。それが波の振動と真逆だから、波が打ち消されているような不思議な状態で。なにかを企んでいるわけではないようですから、このままにしておこうかと」
「船乗りさんたちも喜んでいるしね」
そのおかげで、レナたち観光客が、船の操縦まで任せてもらえているという形であった。
遊覧船はおもに内緒話をしたいときに使われる。
港からあまり離れず、決められた航海場所に留まるようにというしくみが施されているらしい。しかし海が荒れているならば、それは不可能になる。その場合は船員経験のあるものが舵を握るか、出航停止になることもある。
「なんだかラッキー。割引券をもらえたし、遊覧船には乗れることになったし」
「レナお姉ちゃんの幸運ならではだねえ」
疲れたから、と仮眠していたパトリシアが起きる。
花の出荷が近く、考え事をしていたら頭脳疲労をするようだ。戦うよりもめんどい、でも要るからやる〜、とのこと。
「ゴマするのはそれくらいにしとけー、アリス。最近ギルドカードの表記が霞むってうわさがあったろ。そのせいでこれまでのステータスが<あいまいになる>瞬間があるんだって」
「「……」」
「でもそれって5件くらいでしょう」
「冒険者にとっちゃあ非常事態なんだぞー。商業ギルドにとってはあんまり気にしたもんではないかもしれないけど」
「どちらかと言えば、不安になって相談にくる顧客を安心させてあげるメンタルケア部門が儲かっているね」
「まったく、たくましいねえ。まあ、レナの幸運に頼りすぎるのはよくなさそーってこと」
ぐりぐりとパトリシアは友達二人の頭を撫でくり回した。
パトリシア、と船の外からモスラが呼ぶ。
木の葉の手紙を持っている。
ということは、大精霊ネッシーがよこしたものだ。パトリシアの花屋がお気に入りの彼女は、花屋のことをこうして風に乗せて教えてくれる。
葉っぱにくっついていた雫がラナシュ文字を描く。
「伝令が。あなたが育てていた希少種の花が今にも咲きそうらしいですよ」
「ほんとか!? 月光花、一夜の間だけ咲くやつなんだ。それをフリーズドライすれば王家に献上する逸品にもなるんだよな。初めての開花だからやってみたいんだけど〜……」
港にいる間も、警護を引き続き頼まれているのだ。
パトリシアの悩みは一瞬で解決した。
「モスラ、パトリシアちゃんを連れて行ってあげて」
「パトリシアお姉ちゃんの警護の仕事はここまで。報酬は商業ギルドの口座に振り込みね」
「〜〜〜ありがと! よっしゃ行くぞモスラ」
「はいはい」
「おまえ、主人との態度の差!」
モスラの背中をバシバシ叩いて飛び出していったパトリシアは、テンションが上がっているようだ。
モスラは優雅に礼をして、同じく船の外に出ていく。
先輩従魔たちが「まかせとけ」というように、レナとアリスの周りにいたから、安心したのだろう。
「というわけで。ギャラリーは少なくなってしまいましたが……」
『『ぱふぱふー!』』
「クエストクリアの報酬のお時間です」
ジャン! とどこからともなく音が鳴る。
ジャカジャンジャン……! とだんだんうるさくなってきた。
キラのBGMを真似したマシュマロの仕業でうるさくなってしまったのだ。わかるよ、とレナは子育てのたいへんさに共感する。
▽切り替えていこう!
『『ぱふぱふー!』』
「これでーす」とアリスのいい笑顔。
札が貼られた鞄。
から、札がもっと貼られた長い棒状の包み紙。
からの、札でびっちりつつまれた棒状のもの。すなわち杖。
さすがのレナもおののいた。
尋常ではないビジュアルと過剰包装だ。
「これ、セットでつけてもらった封印解除符。レナお姉ちゃんの名前を書いてあげると封印符とつながって剥がせるようになるんだ。船は揺れないから……うん、大丈夫。よく書けてる。繋がったみたいだよ」
ちなみにアリスが買い取った時は特殊ガラスケースに入れられていて、買ったときに封印を施してもらったらしい。
では、とレナが剥いてゆく。
『『ぱっふーーん!』』
なめらかな夕焼け色の、ツララみたいな形の杖。見た目よりもかなり重くて、それは歴史の重みと言われたら信じてしまいそう。ラナシュだし。
「きれいだ……」
レナは、おっとっと、と杖を膝に置き、すると重みで太ももに赤みがつく。これを振り回すならオズワルドに相談をしようかな、力持ちの従魔が欲しがるかな、と考えを巡らす。
杖は沈黙している。
「すてきだねこれ、アリスちゃん」
「それ離してレナお姉ちゃん」
「え?」
「ごめん!」
アリスが杖を払い除けた。
あいたあー!?とレナが膝をさする。従魔が心配して触ってくれたので、まるで正座の後にしびれた足をつつかれたような衝撃が走って悶絶した。
緑魔法! 緑魔法!
「すり替えられてる。うそ、そんなことあり得るの? 包装までそっくりに? いつ? 信頼できる商人から買って、信用できる警備で運んでもらっていた。どうやって……」
そうなんだー、とレナは杖を見る。
急に重くなったのは歴史の重みではなかったらしい。
「ピンときたんだけど、あの怪しい科学者たちとかは?」
レナが知る限り、最近でもっともわけがわからなかった存在だ。
アリスの船を襲ったのは偶然だと言っていたそうだし、事実なのかもしれないが、海賊ならば、最も大事にされていたものを盗もうとするのではないか?
アリスが、レナのために用意してくれたものなら大事に見えたのかもしれない。
そのわりに高級品ではないから、船が揺れたときに保護が優先されなくて奪いやすかったのかもしれない。
と、レナは思った。
「目立ちたかったなら怪盗という手もある。かっこいいしね」
「その発想になるのはレナお姉ちゃんだからこそって感じする。かっこいいかはともかく、心当たりがもっともあるといえば、そのとおり」
「なんかちょっとシュン……」
遊覧船の外、遠いところからドカンと爆発音がした。
海の上ではない。もっと遠く、街のほうからだ。
そうレナが呟けば、キサが「中央街ってほどではないのじゃ」と付け足した。
キラがマップを展開する。
<冒険者ギルドの倉庫です。爆発音はしたものの、火薬的なものが使われた時の波長ではなかった。これはもっと魔法的なもののようです>
「そうなんだ? あちらで対処できそうな感じだと思う?」
<ちょうど監査官が遠ざかったタイミングですし、仕事終わりで酒を飲んでいる職員も多そうに探知しています。海賊船とクジラ被害の解決ができたのですから気がゆるんでも無理はないでしょう>
<いや、怠慢である>
<ちょ、そーいうふうに締め付けるといずれ自分も苦しむからお互い様で社会は回るんですよっ。粒子測定中……測定中……魔法の中でも思念に属するものの爆発です。ゴーストクラッシュ>
「ゴーストクラッシュ!?」
▽なんか かっこいい。
「キラさん。つまり怨念的なものの膨張ってことなのかな。それほどのことを起こすのは呪いのアイテムなんじゃないかなあ……ちょうど海賊が目をつけてたかもって話も出てたし、押収されていたとしたらギルド倉庫だもんね」
「それを私に渡そうとしてたのー!?」
「いけるいける。レナお姉ちゃんの覇衣マントよりも呪われ度は低かったから。だから祓えるよ」
▽アリスの度胸の使い方。
「ええい、行くとしましょう。だって呪いの元がわかれば、アリスちゃんが疑われちゃうかもしれないもんね。そんなのって後味悪い」
「レナお姉ちゃん……! 迷惑かけがちになっちゃって、ごめん」
「まずは盗んだ人が悪いでしょ? もし私が杖の悪霊を祓えなかったら、その時は、ハードル高すぎたねって謝って。それ以外はいらないよ」
「わかった」
アリスは、謝り癖がついてたみたいだ、と頭を横に振った。
商人らしく、と生活している時間が長いほどに、円滑に取引を回すことを考えて、謝ることが増えてしまう。たとえ納得いかないことに対してでも、大人の対応というものをしてきた。そのせいできっと商売の楽しさが減ってしまっていたりもした。アリスは胸に手を当てる。
もっと友達に会おう、とアリスは思った。
そのほうがきっと人生が楽しい。
「ありがとう」
ニコッとアリスは微笑み、レナの背を押す。
「ここは私にまかせて。遊覧船を岸につけるくらいはできるし、傷がついても賠償金だって払える。私がいた方がレナお姉ちゃんたちが戦いづらいでしょ?
呪い特有の扱い方を知ってるわけじゃないんだけど、今を生きる生命力が呪いを上回ったら勝てるから、いつもの浄化方法でオールマイティに効くはずだよ」
ノアが声をかけてくれた。
「アリスさんのことは私たちも見守っています。そしてレナさんたちの後ろに蜘蛛のバックアップをつけますね。行ってらっしゃいませ」
「了解」
レナは、スライムを船の淵にポイっと放った。
それだけで二人は意志を受け取る。
スライムの橋を、レナたちは渡っていった。
▽港街グレンツェ・ミレー。
「いーーーやーーー! ゴースト多くない!? 多いよね!?」
「それえっ」
▽キサの 扇吹き飛ばし!
▽ゴーストは 離れていった。
『『いただきまーす』』
▽スライムの 丸呑み!
▽ゴーストは 精神的に[溶解]された。
「この辺汚しちゃってもいいよネ? イイヨネ!」
▽ミディの イカスミバブル!
▽泡に閉じ込められたゴーストが 空に舞った。
港町にはゴーストがうじゃうじゃといた。
灰色の箒星みたいに宙を流れてゆき、けれどわざと人を脅かすために下降したりして、いじわるだ。そこには自然ではない意志が存在していた。
半透明で通り抜けることができる。だからこのゴーストがさまざまなところをすり抜けて、不幸にも内側に頭を入れてしまった人々は、どんよりとした顔色になってぶつぶつとつぶやくメンタルダウン状態になってしまった。
まるで、シヴァガン王国の夢遊病現象みたいだった。
みんなが逃げ惑う中、どかどかと直線ルートをやってくるレナパーティ。ど根性である。
「ギルド倉庫だ。でっかいゴーストの親玉みたいなのがいる!」
<フーセン”オバケ”と呼びたまえよ>
返事をされるとは思ってもいなかったレナは、おおー、と感心したような声を出してしまった。場数踏んでるんで。
鞭を構えた!
読んでくれてありがとうございました!
あと少しで収まります〜!(`・ω・´)ゞ
今週もお疲れ様でした。寒かったですねぇ。
よい週末を₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑




