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港区商業ギルド

 


 ▽港区商業ギルドに 付き添いをしよう。


 アリスの後ろについて、レナパーティはぞろぞろと移動した。


 冒険者ギルドにおいては珍しいくらいの大人数の移動なのだが、商業ギルドにおいては、仲間とゆくのは当然のことであり、荷物が大きくなるほど旅の人数は膨れあがる。港区ほどヒトの多いところであれば、レナたちは少なすぎるくらいだ、というふうにギルド長は話した。


 ササンタさんでよろしい、顧客ならね、という。


 商業ギルド員としては親しみを持ってもらえたほうが財産なのだというのは本心だろう。油断してくれているうちにいい取引をするから、というのは下心という。どちらにとっていい取引なのか、察するのは容易であった。

 ササンタ・ギフティ港区商業ギルド長、けっこう悪い顔で笑う。


「港の雰囲気に馴染んだ建物だね」

「区画整理されましたからね。ヒトは改装が好きです。そこに雇用が生まれるし、新しい技術を試してみたくもなりますから。魔人族のみなさんの方は古いものに愛着を感じる方が多いそうで、ほら、そちらの宿屋はジーニ大陸からのお客様が来るようアンティークな造りでしょう」


 ギルド長はとにかくおしゃべりで、レナたちの身内の会話にも入ってくる。

 そして、やんわりと許されるような雰囲気がある。


 内輪でレナが話しているのは、内輪でしか通じないような言葉を使うことも多いからなのだが、顧客が濁したいことは追求しない、その話術によってササンタは心地よく混ざっていた。


 シヴァガン王国の一部地域で見たような造りです、とレナは宿屋を評して、すでに懐かしさがあるなあ、と心の中で思った。


 従魔たちのために、と渡ったジーニアレス大陸の方が、レナにとってはすでに馴染みのある場所になっている証拠だった。


 自分だけでは辿り着かなかったところに連れて行ってくれたのは、従魔なのだ。

 レナはその意識を強く持った。

 そうしないと、レナを代表とみて話しかけてくるギルド長に呑まれるのではないか、という心配も少しあった。


 従魔よりも彼と話していた。


 それは、あまりよくない。


「アリスちゃん」

「うん。ササンタギルド長、私たちは表から入るので、ここでいったん別れましょう」

「このまま一緒に中に入るのは? 目立つことは今のミレー大陸において意味がありますよ? 我輩寂しい……」

「レナお姉ちゃんには帰るお時間がありますから一緒の空間にいたければ物事を早く進める事をおすすめしますよ。私は譲りません。ね、モスラ」

「アリス様と同意です」

「じゃ、またねっ」


 ひょい、と上げた小太りの腕が、すでに壁に隠れて見えない。


 あんなに俊敏に動けるんだ、とレナは目を丸くした。


「「「いらっしゃいませ」」」


 正面から入ると、まるでお店のように出迎えられた。


 店内は明るいライトが多く点き、クリーム色の木材で作られていた。掲示板に貼られた書類に依頼ごとが並んでいるのはみたことがあるが、きれいにならんで掲示されており、冒険者ギルドのそれとは違う。


 細かい字できっちりと依頼書が作られていた。

 専門用語も多く、レナにはちょっと読めないくらいだ。

 一般的な教養を得ているくらいではわからない商人用の言語。


「ハーくんはシヴァガンギルドに行ったことがあるらしいけど、言葉、読めてたのかなあ」

「レナ様。妾も美容品を買いに行ったことがあるけど、こんなにも整っていなかったのじゃ」

「ありゃ。そういうことか」


 シヴァガン商業ギルドの方は、ざっくりとしているらしい。


 とある机に、試供品がたくさんならんでいる。


 おひとりさま1種1品まで。

 ここではそれが守られる。

 守るようなヒトなのか、それともルール違反をするのか、してしまう常識知らずなのかわざとなのか、品物の成分表は読むのか。どんなものに関心を示す顧客なのか。


 商人の目がさりげなく光っていた。


 ふだんから索敵に慣れている従魔たちが、あのね、とレナに教えてくれた。


(おおーっと。一昔前だったら、従魔みんなのぶんをもらおうとしていたかもしれない……家計厳しかったし……。私たち、裕福になったなあ)


 でも惜しいので、ひとつもらう。

 そんなことは習慣から抜けないレナなのであった。


 これは「日本のことを思い出して懐かしいもの」でもあった。


 アリスとモスラは、船旅クエスト完了の手続きをするため、ギルドのすみの取引スペースに座って話し合っている。

 ピカピカに白い取引用紙の上の細かい字の隅から隅まで、読んで理解する。アリスの大きな目はあまり瞬きをしないほど集中していた。


 そして、ギルドの職員と意見をぶつけている。

 どうやら文章の中に表現の曖昧な一文があり、念のため、そこを改変してほしいそうだ。


 レナたちはいわゆる「お客様」なので、追加で持ってきてもらった椅子に座り、ギルド内をのほほんと眺めていた。


 新しい。


 そんな感じがどこにもする。


 オフィスレイアウトはもちろんのこと、空気も。海風を入り口から通しながらも、天井付近で回るプロペラによって、空気の循環がおこなわれているのだ。すうっと鼻に通る空気はそうして工夫されている。


 空気清浄機のようなものがあれば、さらにお手軽かもしれない。

 そう発想したが、声に出さなくて正解だった。

 もし言ってしまえば、そのアイデア詳しく、と企画部が押しかけてきていただろうから。


「こんにちは」


 レナたちに軽く声をかけるヒトがいる。


 レナはまず、耳を見た。尖っていない。瞳の瞳孔は丸い。ヒト族だ。


「こんにちは。何かご用でしょうか」

「いえいえ。冒険者なんでしょう? その腰から下げた鞭。他の方々も気を引き締めている感じがしますよね。ここにいらっしゃるのは珍しいですから、少し話せたらいいなと」

「そういうことでしたら」


 彼女はミッツィと名乗った。


 ミレー大陸のミッツィ、覚えやすいでしょう、海を渡ってきた方には気に入ってもらえるんです。となめらかに話す。


「ミッツィ!」


 と声をかけてきたのは年若い商人のグループだった。

 起業して間もないんです、と、ミッツィは苦笑混ざりに彼らを紹介した。


 ただ挨拶しただけで去っていく。


 まるで街中で行われるようなことが、ギルド内で見られるのは、珍しいなあとレナは思った。


 それはきっと、商人たちの横のつながりの強さなのだ。


 冒険者ギルドはみんながライバルのようで、その血気盛んさを楽しんでいるようなところがある。熱意を上げることで困難なクエストをこなすエネルギーにもするのだ。


 逆に、商業ギルドでは、冷静さが好まれるということなのだろう。


 アリスをちらりと見ると、にこやかな笑顔のまま交渉バトルを繰り広げている。あくまで穏やかなまま。


「冒険者の方と繋がりをもってみたいんです」


 と、ミッツィは言う。


「でも、怖いんですよ。あちらが力を奮えば、商人が口を開く前に倒されてしまうかもしれませんからね。理屈じゃないところがあるでしょう。そうじゃないとつとまらない職業であることは理解しています。それに助けられることもあり、尊敬もしていますが、怖い目にあったことがある商人は多い。

 正直に言います。正直に言えばいいってものじゃないですけど。

 レナパーティのみなさんはそういう方が好きそうなので……」


「おお、見る目がある。そうなんです。私は嘘偽りがない言葉のやり取りの方が慣れていて落ちつくし、今、レナパーティのみなさんって言ってくれたのが嬉しかった」


「レナさん、持ち上げられるよりも全体主義ですよね」


「自慢の従魔たちなので」


「ふふ。冒険者ギルドと仲良くしましょうねっていう流れがあるんですよ。うまく言えないんですけど、商人たちがより外側に繋がりを求めている。不安になるからかな。ほら、最近外が騒がしかったり、暗かったりして、なんだかざわめくんです。はっきりとした契約書になっていないから不気味だ、って、商人は言います」


「冒険者としても、困るところですね。こんなことがあるから、こうしましょう、って指標がなくて……。前に起こったことだから解決できるクエストを出します、ってなればいいですのにね。ラナシュらしいといえばそれまでですが」


「従魔のみなさんでも?」


「ンー。ミィは美味しく食べてもらえたらそれでいいカナ?」


「それが叶わなくなったらどうする、という不安の話をしているのじゃ」


「ヤダー!」


「……ええと、魔人族の方の個性が表れていますね。彼女たちにも不安は感じられる、と受け取りましたが、合っていますか?」


「合ってます。すみません、うちの子たちは商業的な会話に慣れていないんです」


「こちらこそ、話を振ってしまってすみません」


 アリスがやってくる。

 レナの肩に飛びつくようにして、テンションが上がっているようだ。


「レナお姉ちゃん! 終わった!」


 後方で商業ギルド員が燃え尽きている。

 モスラが、命拾いはするように施しました、と微笑んだ。


 ようやく着替えたササンタギルド長が扉を開けてきたが、一歩遅かったようだ。悔しげな顔と、期待の新人が現れたことによる笑顔を、交互にのぞかせる。

(期待以上に育ってくれたのが嬉しい気持ちはわかるけど、ああはなっちゃいけないな。生理的にだめだと思う。私も気をつけよう……)と思うレナなのであった。


「ミッツィお姉ちゃん?」


「うわわ、ごめん。レナパーティのみなさんを教材にしようとしてるみたいだった?」


「そこまでのことをレナお姉ちゃんは感じてないみたいだし、いざとなったら従魔たちが怒るだろうから、責めたりしないけどさ。責めたりしないよ」


「自省します」


 アリスはそれを聞くと、ギルド長との会談に戻っていった。


 ミッツィはホッと息を吐き、レナたちに、おわびに飲み物をごちそうさせて下さい、と言う。

 これで結ぶことができるのはほんのささやかな縁だ。けれどささやかな縁がいくつもあるのは悪いことじゃない。強くなりすぎたレナパーティにはもう難しくなっていたことだけど。期待をされすぎない、ヒトの当たり前の縁結びを、ホットミルクのあたたかな湯気にレナはみた。


 ミルクの流通について、すこし話した。

 このあたりではミルクの湧き出る泉というものがある、という話を興味深く聞く。ジーニ大陸から輸入されたスパイスをすこし散らして、この港区だけのお手頃価格で売ることができるそうだ。


 ミッツィが紙をしまった。


 それなに?とレナが尋ねる。


「宿題」というのは、顔見知りになった冒険者の署名をもらうための紙だったかららしい。


<お好きなようになさるといいですよ。そのために、私たちは力を蓄えているのですから。従魔とはそういうものですし、私たちはそうできるのが嬉しいし、そう育ててくれたのはマスター・レナの優しさなんです>


(なんだか、すごく語るね、キラ)


<マシュマロにも言い聞かせていますからね。反抗期だからといって私たちのマスターを貶すことがあってはなりません>


<マロは偉大なり>


<マスター・レナはもっと偉大なんですう~!>


 レナが小さく笑ったのを、ミッツィが気にしたようなので、従魔からテレパシーで面白い話を聞いた、といえば驚かれた。

 そこであまりつっこんだ質問をしてこない距離感が、レナは気に入った。


「さっきの紙、書きます。私たちの通称でいいですか?」


「いいのなら、ぜひ。あっ、それをかざして何か頼み込むことはないから安心して。冒険者の人といい関係を結べますように、っていうお祈りみたいなものだから」


「わかりました。二つのギルドがけっこうギスギスしてるの、感じたことがあって、いやだったんです」


 小声で。


「わかります。なんで偉大な先人って意地を張り合うんでしょうね。そんなの偉大さとは全然関係ないのに。おっと、この言葉は、かけだしの若者は血気さかんで困りますねということで。商業ギルドの若い層はけっこうなまいきなんです」


「ほんとだ。なまいきだ。なまいき仲間だ」


 レナはサインした後の紙を渡した。


「ありがとうございます。また、お茶とかしましょう。レナパーティって、あのレナパーティじゃないですよね」


「どのレナパーティでしょうね??」


(そんなに噂が……)ありそうだ。


「どれでもいいです。私にとっては、心地よくお話ししてくださった冒険者の方ということで」


 ミッツィはそのつもりで、紹介名を名乗らなかったのだという。


 扱っているのはささやかな日用雑貨。

 毎日の暮らしをちょっと便利にするのが気持ちいいんです、とさわやかに言った。


「やったあ。冒険者の仲間、第一号です」


 お礼に、と割引券をもらった。


 アリスの取引も終わったので、レナたちは商店街に向かうことにした。

 花を見るために外にいたパトリシアは、レナに新しい友達ができたらしいよと聞いて、ちょっとへそを曲げていた。冒険者の気質が強いものは、がんこで情熱的なのだ。



 ▽クエストクリアの報酬をもらおう!






読んでくれてありがとうございました!


あけましておめでとうございます!₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑


今年もゆるりとお付き合いいただけると嬉しいです〜!


去年末はストーリーに種を植えることがいそがしく、なんだかおとなしいレアクラでしたが、やるべきことはだいたい終わり、今年度は徐々にはじけていきたいと思います!


楽しくしますね〜〜!


作者は書いていきますので、みなさんの読みたい時に、読みにきてもらえたら幸いです。

では、また来週に!₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑

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― 新着の感想 ―
[一言] 明けましておめでとう御座います。 更新有り難う御座います。 今回も楽しく読ませて頂きました。 ……ミッツィさんかぁ……。 ネズミかな? ウサギかな? ……干支的にウサギかな?
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