なんちゃって海賊劇
尋問。
ラナシュにおいては特殊技能の持ち主が行えば、比較的早く終わらせられる。あるものは嘘を視抜く目で、あるものは本意を喋らせる魔法で、するりと欲しい答えを抜き取ってしまえるのだ。
それに対抗するレジスト魔法をしかけていれば、暴力に訴えかけられたり、身内が人質に取られることもある。
けれど、海賊船を暴走させた罪でお縄になった科学者たちは、そのようなレジストを施していなかった。
もともと外に出るつもりなんてなかったのだ。
外に出なくていいならば、もっとこもっていたかった。
それなのに、世界が待ってくれなかったものだから。
そんなことを話した。
アイマーはそれらの証言を記録した。
「尋問完了~」
ほがらかに手を振りながら、アイマーが港に現れる。
軽食をとっていたレナはホッとした様子だった。
早く終わったということは、そんなに抵抗せずおだやかに尋問が終わったのだろうから。パトリシアから怖ーい「もしも抵抗した場合の尋問」ほぼ怪談のあれやこれやを聞かされていたレナは、ビビっていた。
「いやその目。引いてない?」
「お気になさらず」
「いや気になるよ。自分の評価やもん」
「”なぜ海賊業なんてやり始めたのか”、聞いてもいいですか?」
どうやって進行するのかはもう決めていたらしい。
レナはメモを取ろうとしている。それをどう活かすのかはわからないが、有望な冒険者の成長をさまたげるのはアイマーの望むところではない。
かるくため息をつきながらも、ていねいに語ってくれた。
▽さあさあみなさま集まって!
▽赤の教団ならびに赤の聖地ならびにスカーレットリゾートの劇画はっじまっるよーーー!
▽クレハとイズミが伸び上がり 光の広告塔になる。
▽レナの かみふぶき!
▽知名度を上げとこう!
「きゃー! 海賊船よー!」
アリスが叫んで、よよよと崩れる。
海賊のふりをしているのは冒険者ギルドの職員たちだ。
さすが普段から荒くれ者を見ているだけあり、迫力の演技である。木刀をふりまわして威嚇するさまは、ふだんからそのように振舞っているヒトのようであった。
アイマーが小声で(もっと小物っぽく!)と指示をする。
ガニ股で歩き始めた。
集まってきた子供が笑う。
すると大人たちの興味も引く。
「みなさん、どうかその場で、近寄ってはなりませんよ。スカーレットリゾート、スカーレットリゾートでございます」
モスラの誘導が冴え渡る。
「きゃー! なぜ私たちの船を襲うの? さてはこの船に乗せられているお宝が目当てなのね? あげないわ。だってジーニアレス大陸からのおみやげをたくさん乗せているんですものー! ミレージュエ大陸にもいいおみやげがたくさんあるじゃないー!」
「「「我々はそんなの知らないぜ」」」
ギルド海賊員たちがわっはっはと声を上げる。
「我々は海の底から来たのだからな」
「なんですって?」
「ずっと引きこもっていたのさ」
「だから地上のことを知らなかったの? まるで海底の魔物みたい」
「ノンノン。クラーケンでも海上のことを知ってるヨー!」
「きゃークラーケン! 美味しそう」
「イカ焼きをどうぞ」
「舞台を見ながらイカ焼きにビールか。こりゃあたまらんなあ」
「ぼく、麦茶」
ミディは下半身をイカ型にして接客中。
「話の筋を持っていくなよぅ! 我々は海底で研究をしていた科学者なのだ。久しぶりに海上にやってきたから船が何を積んでいるかなんて知らないねえ。でも船を襲いたかったから、その辺の海賊と組んだのさ」
「「「オラー!オラー!」」」
「きゃー! 追加の海賊よー! 護衛のパトリシアさーん」
「いっちょあがり」
▽モブ海賊を 倒した!
「こ、こりゃやばい。逃げるっきゃないぜ我々」
「とはいえ海上からどうやって逃げたらいいのかわからーん!」
「こうして、我々はお縄についたのであった。現在冒険者ギルド預かりになっているからもう海上には現れないよ。ペットのクジラもすっかり躾けられちまったから、もう海を荒らすことはできねえなあ。クジラの被害と海賊被害の一部は取り除かれたとさ」
「「ギルド、ブラボー」」
「お待ちになって」
縄に縛られて退場しようとしたギルド海賊を、アリスが引き止める。
「私、気になります。引きこもっていたのにどうして、船を襲いたくなったのですか?」
「「「このままじゃ忘れられちまうじゃん! 我々のこと知ってるヒトー!?」」」
▽しーーーーん。
「「「今知ったヒトーーー!」」」
あははは、と笑いが起きる。
「覚えておいてくれよ。ゴーザブロウだ」
「ステイジロウさ」
「モンクイチロウでござる」
「おじいちゃんみたいだ」と、子どもが手をふる。
名前が古かったようだ。
「「「さらば!」」」
▽ギルド海賊たちは 幕の向こうに 姿を消した。
はしゃぐ観客の後ろで、アイマーが髪をかきあげて一息つく。
「……なるほどなあ。自分たちが理解するための復習と、せっかくなら楽しみながら港の人たちにアナウンスしてやろうって、こういうことになるんやなあ。レナパーティ面白いかもな。
そう、あいつらが求めてたんは、名を売ること。せやから見た感じ立派なホルガー・ミレーゴー船に喧嘩を売った。もし強奪が成功していたら新聞でグレンツェ・ミレー中に広まってたことやろう。クジラの被害もあわせて世間を賑わせてたんやろうな。
そりゃあ、困る」
アイマーはかみふぶきを終えたレナに手を振った。
レナは手を振り返して、転がり落ちそうになったところを、スライムクッションがぽよんと受け止めた。
あれやりたーい!と子どもたちが寄って来る。
注目ほいほいである。
魔物はどちらかといえば敵対するもの。そのような認識が強いミレージュエ大陸の人にとっても、レナパーティ一同は警戒することができない相手のようだ。
可愛らしくてきれいな見た目。
礼節をそなえていて話の通じる安心感。
なにより、パーティ内の雰囲気があたたかく、そこに混ぜてもらいたくなる気持ちが沸き起こる。
「カリスマ」
アイマーが呟いた。
<マスター。称号がもっとも強く検知されました。世界に深く刻まれたのは[カリスマ]です>
(なんで私!? 今回はむしろ黒子なのに)
<マロにはわかるぞ。誰かをみかたにしてしまう、それがカリスマである>
(お子さんたちに気に入ってもらえたからなのかな〜……)
<この称号に、他の称号が吸い込まれているようです。複合して[カリスマ]となりました。称号欄がすっきりしましたね。しばらく挙動を観察します>
(急がないから、整ったらあとで見せてね)
<承知いたしました>
<しょうちのすけ>
<コラッ>
反抗期の対応をするようなキラの声を聞いて、レナはクスッと笑う。
そして集まってきている子どもたちに、スライムとの遊び方を教えてあげた。
にゅーんと伸びるキラキラボディ。
核の宝石はその見た目を遠隔の[幻覚]で隠されている。
成長したリリーの魔法ははるか海を渡ってもクレハとイズミを守っていた。
「優しく接したら、スライムたちも遊んでくれるからね。あっ、そこ、つねったりしちゃダメだよ。怒っちゃうぞー」
『『がおー!』』
人の手のような形をしたスライムがぐーん! と上に伸びる。
いたずらっ子はしりもちをついた。
「おねーちゃんの仲間なんでしょ? ダメって言ってくれないの?」
「言葉で謝ったらちゃんと伝わるよ。この子たちはちゃーんと話を理解してくれてるからね」
ごめんなさい、仲直りの握手。スライム触手の大きな手で包まれた子どもは「高い高い」されて、はしゃいだ。
▽退場ーーーーー!
「レナお姉ちゃああああん! あれ欲しいよおおおお!」
アリスがレナの服の袖をひっぱり荒ぶってる。
「珍しい。どうしたの」
「思いっきり頼んで下さいって商業ギルドの人が言ったから」
「あっバラさないで下さいよう、もう〜」
へらりと太眉を下げて頭をかく、まるでサンタクロースのような見た目のおじいさんがアリスの隣に立っていた。ついつい目を向けてしまうような存在感だ。
彼はササンタ・ギフティ港区商業ギルド長。
アリスの今回の取引先である。
「おお、冒険者ギルドの上役までいらっしゃるとはしめたもの」
「しめたもの、とか言わんといたって。その見た目で言われたらなんか和んでしまうんやから、あいかわらずズルイですわ〜」
「アイマーさんとササンタさんはお知り合いですか?」
「せやね。僕がここに来た時に挨拶をしたよ」
「人の顔を覚えているのは商売人のたしなみですので」
ほっほっほう、と商業ギルド長はほがらかに笑う。
「船が欲しいんじゃーー!」
「またしても本題。んー、船は冒険者ギルドで所有してもしょうがないから商業ギルド預かりになると思うんやけどね。レナパーティのみなさんもほしくはなさそうやし」
「いらないですね〜。長距離移動もこなす従魔がいるので」
「ね?」
アイマーがにこりとする。
どうやら彼が味方として交渉の席についてくれそうなので、レナは一歩下がることにした。
商業ギルド長はどうみても海千山千の老人という感じがする。油断して口をすべらせたらありったけの権利を持っていきそうである。サンタみたいなのに、取られる予感のほうが強い。
アリスは商業ギルド長に着くようだ。
あの船が欲しい、というのは彼女の本心でもあったのだろう。
アイマーと商業ギルド長の舌戦を背後にして、レナはアリスに話しかける。
「アリスちゃん。あの船にはそんなに価値があるの?」
「あるだろうね。経緯を聞いてても、科学者の技術の結晶らしいし。それを欲しがりそうな先があるから、確保しておくのもいいかなって思ってる」
「そうなんだ。お客さんが喜んでくれそうなら、欲しくなっちゃうかもねえ。ササンタさんに確保されそうだったりしないの?」
「あちらは私に恩を売るためと、手数料のためかな」
「なるほど」
「ねえレナお姉ちゃん♡」
「んー? 今度はアリスちゃん渾身のお願いごとって感じがするなあ」
「そうだね。冒険者ギルドに交渉して欲しいことがあるんだ。あの船に乗っていた科学者の人、捕まったけれど早めに釈放されるんだよね。魂がグレーだったらしいし」
「話が読めてきた。うん、初めての悪事が失敗に終わったから、魂が黒く染まらなかったみたい」
「よしっ。白寄りのグレーになるくらいまで更生するんでしょう。だったらそのあと、船のメカニックになってくれないかなあ」
「それもセットで売り込むつもり?」
大丈夫かなあ、と考え込むレナの横で、アリスは声を小さくした。
レナの邪魔にはならないように、けれどせっかくなら聞いておいて、というくらいの話のようだ。
「顧客先っていうのはドワーフ族なんだよね。彼らは自分たちがジーニアレス大陸でも有数の金属加工業者だと思ってる。でもだからこそ、新しい技術が生まれにくい。地元の火山付近から離れようともしない。
そこにヒトの技術を持っていけば生み出されるものがありそうでしょう。ヒトは魔人族を怖がるところもあるし、力で勝る魔人族たちにアイデアまで持って行かれたらどうしようって警戒してるところがある。その点、さっきの科学者たちは名前を売りたいんだよね。
共同開発としてブランド化したらいいんじゃないかって思ったんだよね」
「壮大!」
「そうでもないよ。できそうだって第六感がビンビンきてる」
「はあー。アリスちゃんセンス積んだねえ」
「そうかも。おかげさまで」
「ん〜〜〜」
「そこをなんとか!」
「ちょっと外道な話をするとしようかな」
レナが苦笑する。
その顔は大人びてきていた。
「科学者の人たちには従属の首輪がつけられると思うんだ。ジレたちにつけられたもの。ルーカさんがつけられたもの。アレは反抗心を抑えて、時には痛みで分からせるためのもの。
従順のルールが課せられていて、更生期間中の奉仕作業なのであれば、彼ら本人の意思はどうであれ、ジーニアレス大陸で働いてもらうことはできるんだと思う」
「レナお姉ちゃん……。言いづらいこと言わせちゃってごめんね」
「ううん。向き合ってきたことだから、大丈夫だよ」
「私、やんわりと綺麗事のまま進めちゃおうとしたのはズルかったな」
「商人さんたちは夢を見させるのも仕事だから、アリスちゃんのやり方でもいいのかも。冒険者ギルドはもうちょい生々しいから、これから取引するなら覚悟しておくといいかも。あと背後にモスラは連れて行って」
「わかった。頑張るぞっ」
ところで、とアリスはまたレナにお願いの目を向ける。
レナからすれば自分たちに得はない。もしも問題が起こった時に、推薦したのはあんたじゃないかと言いがかりをつけられる可能性が高い。
▽言いがかりが怖くて冒険者やってられるかってんだ!
▽友達の喜びが報酬だぜ!
「聞いてみるね」
「やったー!」
「というか、もう聞かれてそうだけどね」
「えっ」
いつのまにか気配を消して、アリスの背後に立っていたアイマーと商業ギルド長。
今時の若い娘は恐ろしいですねえ、などと歓談している。
おーこわいこわい、などと言いながら、有望な才能をみて目を輝かせていた。
「ええよ。今聞いた方針で調整しといたろ。未来あることのようやしね」
「うっひょー! ありがとうございますう!」
「ギルド長の方がそのテンションで喜ぶんかい」
「吾輩、新しい商売というものが何より好きなんですう」
ほっほっほ。ラナシュの未来は明るい。と言いながら空を見上げた。
▽暗闇の気配がある。
「……」
「……」
「……」
「……ほな! これにて方針が決まったんやし、それぞれ次の仕事に行こか。僕はさっきの話を持ち帰って、かつ預かりもんの管理を整理してくるわ」
「吾輩はアリスさんとホルガー・ミレーゴーの信用度を上げる手続きをして参りましょうかね。さて、どちらについていらっしゃいますか?」
▽冒険者ギルドに行く?
▽商業ギルドに行く?
「商業ギルドに一緒に行かせてもらってもいいですか。アリスちゃんの後ろにモスラがついていた方がいいでしょうし、うちの従魔の数名がジーニアレス大陸の商業ギルドで取引をしているんです。中を見ておきたいなと思って」
「それは嬉しい! おもてなししましょう」
「どうか普通に」
「そうですか? 今時、目立ちたい人の方が多いでしょうに」
「何もしていなくても割と目立っちゃうので。ひと息入れたいときは目立たないように気をつけてます」
「なーるほどっ」
ぽん、と商業ギルド長がお腹を叩く。
荷物を持ってきますね、と言って白い袋をかついだのは、それそのものみたいだなあとレナは思った。
▽港区商業ギルドに 付き添いをしよう。
読んでくれてありがとうございました!
協力してわいわいやる回は書いていて楽しいです。このあと、クエスト成功の報酬もらったりしますからね。
今週もお疲れ様でした!
メリークリスマス!
よい週末を₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑




