逮捕しちゃうよ!
海賊船ではなく、正しくは改造船と呼ぶのがいい、とアイマー監査官は教えてくれた。
けれど私たちにとって海賊船だったんですよね〜、とレナが詳細を話す。
「ああ、それはそうか。おやどうしたん、驚いた顔なんてして」
「あっさりだなー、と思いまして」
「せやね。もっとねちっこい奴もおるもんね〜」
と、アイマーはニコニコしながら部下を見た。
部下もニッコニコしながら上司を見るのは、笑顔の水面下バトルが行われているようであった。
「同行者を気まずくさせるのはどうかなって私、思ってます」
「すんません」
「私が不安そうにしてると従魔のヤル気が上がるので気をつけてもらえたらと」
「それ、殺気的なやつやんね?」
そして、めあてはアリスの財産だったみたい、とレナが話した。
「ふーん……変やなあ……」
なぜ、そんな流れになったのか、疑問なのだとアイマーは少しづつ話す。従魔を刺激しないように、かつ、レナに受け止めやすい言葉を探しているようだった。
「商人の財宝──ただそれだけを奪いたいにしては、改造船の設備が凝りすぎてるんや。長年をかけて改造し作りあげた科学芸術的とも言える船を、ただただ強奪行為のために使うやろうか?
……なんて、独り言を言いたくなる」
責任を排除したうえで、レナたちに問いかける視線を投げた。
「考えなしな人たちって感じはしなかったんですけどね……」
「船内に親玉がおるんやったっけ。氷漬けで」
「そうです。引き渡したらいいんですよね?」
「尋問はこっちでやるでー。そういうのは君らの業務外やからね。結果は聞きたいなら教えるけれども」
「うーーん。私たちに関係がありそうなら、聞いておくべきかもしれませんが……。秘匿される情報を特別に教える、ってことになりませんか?」
「公に出してもいいと思っとるよ。海に現れる海賊なんて危険やからね、みんなで気をつけるんがええ。気をつけてることがあからさまになれば犯罪はグッと減るから効率がええんよね。それでもし冒険者の仕事がなくなったなら、新しい業務をこさえてやるんも、上の仕事やんなあ。アイマー君たちあまりに忙しくて困るわあ」
「よろしくお願いします」
「言ってくれるね。こちらこそ、今後ともよろしゅうに」
レナたちは船の前に来た。
船自体が海用ロープでぐるぐる巻きにされていて、ビットに繋がれている。さらに蜘蛛糸での補強もされている。
もともと海賊船には上陸用のロープが積まれておらず、完全に海のどこかから”現れた”かんじなのだと、見張りのギルド員が不気味そうに語った。
魔法がある世界なのだから、何が起こっても不思議ではない。
レナはそう思っているけれど、ヒト族たちの雰囲気を見ている限り、魔法にも何らかの法則があるのだろう、それがけっこう上層部では共有されているらしい。そこから外れていると「不気味・危険」という判断になるのではないかという気がする。
(一定のルールがある魔法だけど、ラナシュゆえに抜け穴も多くて、私のレアクラスチェンジ体質はその抜け穴をことごとくついたものだから、”不思議は普通”って思いすぎていたのかもしれないな。
魔法のルールは気になるけど……。
まあそれよりも、こういうもんかも、って感覚を磨くように成長した方がよさそう。この方針でいいのか、あとでルーカさんたちにも相談してみよーっと)
レナたちは近くの桟橋から船に乗り込む。
海流によって船がくるりと半回転してしまったので、凍っていない面が後ろ側に行ってしまったからだ。
乗り込んで内部調査をするのがレナパーティ、反対側をふたたび観察するのがギルド事務員という流れになった。
「ギルドのコートを貸そうか?」
「自前のがあるので大丈夫ですよ」
「は、派手!!」
シヴァガン王国エルフィナリーメイドで作ってもらった凍土も耐えられる赤コートである。しかもレナと従魔みんながそれを着用するので目立つことこの上なかった。
見失うことはなさそうやね! とアイマーは言った。
壁一面、氷で覆われている。
キサが氷を溶かしていく。
どのように溶かすのかというと、本人は「溶けよと思っているだけなのじゃ」らしい。
アイマーが詳細を説明してくれた。氷に含まれていたキサの魔力を抜いているのだろう、そして魔力が抜かれることを水が受け入れているのだろう、とのことだ。
水や草、空気にまで意思が宿りやすいラナシュである。
それらは時として、新たな生き物へと存在定義され新種となる。
魔力が多ければ、魔物となる。
新たな生き物となりながらも魔力制御に長けている種が運よく繁栄した結果がヒト族であり、すなおに己の魔力を誇ったのが魔物である。
「面白いです。ジーニアレス大陸ではそういう知識を聞く機会があまりありませんでした。こう、分類するっていうより、体感するのが得意な方々だったので」
「ヒトは短命種やからね。残したがる。紙に書くものがはやったわけや」
「それはたしかに。魔物の感覚は子孫の本能として受け継がれるものらしいですから、物に残さなくてもいいのかも……」
「それ、誰が教えてくれたん? 従魔のみなさん?」
「従魔がしてくれた一族の話からもありますし、魔王様が得意げに語っていましたね。書類仕事がすごーく嫌だそうです。意味わかんないんですって。とおぼえのほうが早いのにって。
魔王国で紙を使うときって、どの魔物にも贔屓がないようにあえてヒト族のマネをしてみせているんだって。サディス宰相が言ってました」
「合理的やねえ。ていうか登場人物のラインナップ!」
「あはは」
教えてもらった分より少し多いくらいの価値を、レナは提供した。実在の要人からの証言ともなれば、価値は高い。
狙った通り、アイマーはまた喋ってくれた。
▽キラの知識として蓄えよう!
冒険者ギルド本部には研究職も数多く在籍しているらしい。
そのものたちの知識を、冒険者相手にもわかりやすく伝えることが、人と人との間をわたりあるくアイマーたちなのであった。
レナは少しだけ、遠くのヒトの文化に思いを馳せた。
氷が溶かされてひんやりとした冷気がただよう船内は、冷蔵庫のよう。壁一面が金属で作られているのもその機械的なイメージを助長する。
ホルガー・ミレーゴー船のような木枠のあたたかみというものがなかった。
「ふつうの金属なんでしょうか。鉄とか……?」
「魔力が練り込まれてるやろうね。そちらのキサお嬢さんの氷みたいに」
ヒト族の認識としては、一般的に普及したやり方らしい。
アイマーの説明はなめらかだ。
「表面は頑丈になるように金属で覆っている。その内側にまた付与魔法装置をもぐりこませて、浮遊の魔法をかけたら金属の船であっても浮かぶことができるやろう。そんなん、いくつの丸い宝石が必要なんやって話やけどね。まるで伝説の船やなあ」
「ウワー大変ソウダナー」
スライムジュエルのことは知られたくないな、と思うレナであった。ややこしいので。
(キラ。私の進む道を、ほどよく間違えさせて)
<承知いたしました。たった一度だけ戦いながら乗り込んだ船内を、まっすぐ歩けてしまったら怪しいですもんねえ>
(無駄に警戒させちゃってもいいことないからね〜)
別の道に逸れたりもする。
アイマーはとくに咎めなかった。
新たに発見されたものもある。水族館の裏側のように並んだ水槽だ。上の蓋は開いていて、餌を入れたりなどできる。金属の線がいくつか水面に入れられていて電気や魔力を流せるようになっており、実験が行われていたようだ。
生物はここには存在していなかった。実験後の施設をなぜか、そのまま船にしたらしい。
ここも、キサは雑にすべて凍らせていた。
「氷の息吹って便利やねえ」
と言われると、
「えへん」
レナの方が胸を張った。
主人が誇ってくれると従魔は嬉しいのでキサの抱擁が発生した。
「そろそろ制御室みたいなところです」
レナが扉を開けようとしたけれど、開かない!
重くなっている扉は、キサが冷やしたことで動きが鈍くなったのだろうか? いや、キサがひっぱっても開かないほどなのでちょっとした異常と言える。
アイマーがかっこつけて試したけれどダメ。
非力を証明することになった。
部下ギルド員が自信満々にひっぱったけれどダメ。
剛力ですら歯が立たない。
「クレハ、イズミ」
『『ぬるぬるにしてやんよー!』』
「ミディ」
「隙間からイカゲソ忍ばせるヨー♪ 腰から下はイカにしておくのがイイカナ?」
「いざという時のためにそうしておいて」
扉がこじ開けられ、レナたちは中に飛び込んだ。
この時、アイマーは素直に驚いていた。
レナたちがまっさきに前に出たのだ。
リスクを進んで負う冒険者は少ない。誰かをかばうように戦うことができるというなら、その素質は勇者のようであった。
従魔を前にしつつも、レナ自身も、同じように戦いの場に駆けていった。
「いないよー! 科学者みたいなヒトたちが氷漬けになっていたはずなのに。どこかでヒトが動いてないか、探知して!」
<はーいっ。あらゆる認識阻害が発動しているようですが、ラナシュに普及していないサーモグラフィで探すことはできるんですよね。さてマシュたん>
<マロ>
<ええい、自己主張が強くなりましたね。いろんなパターンを学んでおくんですよ、マロ。マスター、いました! 脳内に直接送りますね>
「頭いったーい! んでもキター! あっち!」
『『突撃じゃー!』』
「いいとこ見せちゃうノヨー♪」
「妾も! 妾も!」
「ちょ、レナさん従魔みんな向かわせてええんかい!? 包囲網とは言えん方法に見えるけども、ええんやね!?」
「外でモスラが控えているのでご安心を。やるのは追い込み漁です」
***
漆黒の裏廊下に暗視ゴーグルのにぶい緑の光が点々とあった。
周囲の設備を蹴飛ばすあらあらしい足音。ときどき薄氷に足をすべらせて転んでしまい、こんなところにまで魔法が入り込むなどどういうことなのだ! とガラガラ声の悪態が吐かれる。
スイッチが押されると、ようやく裏廊下はぼんやりと明るくなった。
いかめしい顔をした学者たちが、まわりの金属壁に歪んで映った。
「作戦は失敗」
「クジラは制御不能」
「くそったれ」
「「そんな言葉は使わないのだよ。ワレワレは崇高な科学者なのだから」」
一人の首めがけて、二人がラリアットをかました。
彼らなりの矜持がブツブツブツブツと呟かれた。
そして科学者たちは走った。
「船内から移動」
「現在地把握。ひいいい陸ううう」
「「そんな風に恐れたりしないのだよ。ワレワレは崇高な科学者なのだからガクガクブルブル」」
なぜ、自分たちがつくった要塞を追われて走らねばならんのか! など考えてもしかたがない。しかたがないのだ。その結論をもって、せっかく作ったのにー!という癇癪をなんとか押しつぶす。
勝手知ったる潜水艦だ。今となっては海上船であるが。
目的をもってこの船へと改造したのだ。こだわりを持って作り上げたのだから細部まで知っている。そこの動線一本だって、なんのために配置されているのかすぐさま長文で説明できるくらい詳しいのだ。
「誰よりも努力したワレワレが、誰よりも優先して認められるべきなのだ」
「それなのにゲームエンドなんておかしい!」
「まったくこの世界ときたら!」
「どうどう。ワレワレよ落ち着くのだ」
ステイ、と科学者の一人が声をかけ、みんなが止まった。
「船外に出たら?」
「包囲網を退ける。ヒトなんて怖くないぞガクガク」
「すぐに海底にゆく。魔物なんて怖くないぞブルブル。あっクジラがいないんだった」
「「ぎゃー」」
「落ち着くのだワレワレ。船外に出たらまた”壁をひっくり返す”魔法を使おう。それによって中の氷は外に出て、また温暖な船内でワレワレが活動できるはずである」
「そしたら、再挑戦をしよう」
「もっと凄まじい改造生物を──!」
そして、と声を合わせる。
「「「どどんと発表して世界中から注目を集めるのだ──!」」」
バン! と緊急扉を開けた。
▽超巨大蝶々が現れた!
▽レナパーティのしんがり モスラである。
「「「ぎゃあああああ”オバケ”!!」」」
『失礼な。いつ時代の話をしているんでしょうね。現代ではこういう巨大生物並びに魔物については、該当させるなら”怪獣”というのですよ! 蝶々ですけどね。まあ、種族は天帝ヴィヴィアンレッドバタフライですのでそちらでお呼びください』
「し、信じられん」
『おや。私の言葉がわかるとでも……?』
▽科学者たちは 失神した。
▽レナパーティが 追いついた。
▽お縄となった!
読んでくれてありがとうございました!
さーむーいーですねー!><
急に寒くなったのでみなさま風邪をひかぬようにしてくださいね〜!
今週もお疲れ様でした。
よい週末を!




