任務報告
▽スチュアート商会が 港についたよ!
▽モスラが 冒険者ギルドに おつかいに行った。
▽いかつい役員たちが 大急ぎで駆けつけてくれた。
役員たちは身体強化のスキルを使用しているのだが、モスラだけは実力の脚力である。
そこで実力の差がわかるというものだ。
ハイランクの者ほど、モスラの実力を評価して一目置いている。
一方、まだ商人として駆け出しと言えるアリスに懸命に仕えていることを疑問視する声も多い。
モスラがなぜ冒険者として力を振るわないのかという疑問と不満、そしてそれをねじ伏せる成長を毎度見せつけてくることで、評価がキッパリ別れるのが【トイリア冒険者ギルドにおけるモスラ】なのであった。
──ものの30分ほどでモスラは帰還した。髪の乱れすらない。
そして、モスラが指す船・海賊船・再び氷漬けにされたクジラを見たギルド員たちはアゴを落とした。
こんなもんどうすりゃいいっていうんじゃ、である。
(ですよね〜)
<ね〜>
(私たちだって驚いたもんねえ)
<冒険者ギルドの経験値にしてもらえたらいいですよね。
ミレー大陸の冒険者ギルドに所属しているのは圧倒的にヒト族が多いですから、そのぶん似たような依頼ばかり集まり、イレギュラーの種類は少ないそうですから>
(よく勉強してるぅ)
<えらい? えらい?>
(もちろんえらい)
<ハッピー♡ ……あ、マスター、あちらをご覧下さい>
もしかしたらいるかもしれない……と持ち出してきた冒険者ギルドの分厚い利用規約本がまさか即活用となり、ばさばさとめくりながら、この場における最適解を出そうとやっきになっている冒険者ギルド職員たち。
その後ろから、同じ制服を着た一人の青年がやってきた。
冒険者ギルド員としてはやけに小柄な、どちらかといえば技術班を思わせる見た目をしている。しかし彼を見た冒険者ギルド員たちは青ざめてしまったことにレナは気づいた。
従魔たちは(なぜ?)とキョトンとしている。
おそらくヒト族だけに分かりやすい「権力という力を持つ存在」なのである。
体力からくる威圧感はないのだが、その組織内の地位によって、周りから一目置かれる存在というやつだ。
彼は、周りの冒険者に混ざることなく、するーっとレナたちの方に歩み寄ってくる。
この中でもっとも影響力がありそうな人物を的確に見抜く目がありそうだ。
「こんにちはぁ」
「こんにちは。お兄さんも冒険者ギルドの職員の方ですか? 私たちはアリス・スチュアートさんに雇われてここにきています」
「ご丁寧にどうも〜。ボクは君たちの担当ではないんやけどね、そこのギルド職員の仕事ぶりを見るために来てるんよ。だからもし彼らの仕事に疑問点があったら教えてくれていいからね。あ、君たちが可愛いからこんな喋り方をしてるんじゃなくて、リラックスしてもらうために誰に対してもこんな調子なんよ」
「そうなんですね。気軽な感じだなーって、それだけ思いました」
「嫌な感じじゃなかった?」
「じゃ、ないです。ご安心下さい? っていうのも変かな?」
小型犬のような顔ができるのも才能のうちだ。
いつもは身内を守るために警戒を保つレナでも、彼の態度にはペースを崩されてしまいそうだった。
クレハとイズミをぎゅっとして、平常心を保とう。
「ううん、安心させてもろたよ。ありがとうね。さてこれをご覧下さい」
胸に光るグレンツェ・ミレー出張ギルドのバッヂを見せてくれたのだが、そのすぐそばにまた別の金色に輝くバッヂがつけられている。
<ほほう。ヒト族が定め始めた冒険者ギルド・サービスにおいて、始まりの店と呼ばれるところの職員証ですねえ。当然、絶大な権力を持ちます。おそらく監査のためでしょう>
(すごい人だあ)
<マスター・レナの後ろ盾ほどの権力ではないですけどねっ☆>
<ネッ☆>
(普段から権力慣れしておいてよかった〜)
たまたま、監査の彼がやってきたタイミングで、冒険者ギルドの有望株モスラが動くような案件があり、たまたま、ほかの案件が入っていなかったので、この港についてきたというわけだった。
これを、雑談まざりのかるーい調子で教えてもらった。
「ラッキーでした」
「ぷはは。お嬢さんたち面白い感性しとるね。怖がられなくてよかった〜」
「普段は怖がられがちなんですか?」
「まあね。このバッヂを見せただけでみんな大泣きの土下座ざんまいよ」
「それはないでしょー?」
「半分本当、まああっちが悪いことをしてた場合はね」
「冒険者ギルドの中が悪いってことになっちゃいますけど言っていいんですか?」
「だってー。こう言ったら不満があったら教えてくれるやろ?」
「確かにいいやすいかも」
「お、なんかある? 教えて教えて〜」
「それによって罰を与えて欲しい場合だけ、言いますね」
思うところはある。レナとクレハ・イズミを売り払おうとしていた懐かしいダナツェラ冒険者ギルドの職員たち。杜撰な組織はあれからどうなったのか? 何の対策もされていないのか?
しかしそれをレナが今言ったところで、どれほどの意味を持つのか……。
レナは少し震えた。もっとも弱かった頃のトラウマである。
もしその件を口にするとすれば、レナが震えずに過去を振り返れるほどの自信を持ち、また冒険者ギルドのルールを信用できたときだ。今ではない。
「けっこう恨み溜まってんね。ごめんな〜!」
「おおー。気が晴れるとまでは言いませんが、ちょっと溜飲が下がりました。本心から言ってくれてるのがわかりますもん」
「冒険者ギルドの謝り係、アイマー・ミンミン君をよろしゅうに」
「覚えておきますね。アイマーさん」
冒険者ギルド員たちは、さらに青ざめたようである。
屈強な彼らは、一見可愛らしいレナたちをあなどっているのが本心ではあったが、本部のものと関わりができてしまったならば話は別だ。
自分たちの不出来が報告されてしまう可能性がある。
今となっては、レナパーティの目が監視カメラのようなものだ。
「もう少しお待ち下さいね。前例があるか探していますから。あの〜、お時間いつぐらいまでなら待っていただけるでしょうか?」
「似た前例がない場合、こちらの判断で新たに対応させていただくことになります。ラナシュの平穏が保たれるような未来になるよう判断いたしますので〜!」
普段はムキムキマッチョ冒険者だけにみせるような対応を見せている。
ちょっと暑苦しいし下心もみえみえだが、レナにとっては最初から同等に扱われることが珍しかったし、安心できる状況には違いなかった。きちんと対応してくれるんだなあ、と納得する。
見た目と能力で判断され続けてきたレナたちだ。
慣れている。もし見た目や能力ではなく慈しんでくれ、と思うなら、レナが身内にしてあげればいいという話だ。
冒険者ギルドの荒さ、世界的なルールのゆるさからみて、ラナシュという場所はまだまだ地球のような人権は育っていないのである。いつかの未来にそうなってくれることを願うのはレナのみだ。イメージが出来る者だけがそれを願えるのだから。
だから、
(私が守る)
と、レナは、クレハとイズミを柔らかく抱きしめた。
そしてレナ自身も後ろから抱きしめられた。パトリシアだ。
「すみませーん。うちの護衛冒険者が依頼主から離れすぎてるのでそろそろ連れてっていいですか?」
「アリス様がお待ちですよ。さあ行きましょう」
と、モスラからは手を差し伸べられる。
(守られてもいる)
レナは頬をゆるめて、バイバイと手を振って冒険者ギルド一団から距離をとった。
「おっとっとー? 精一杯魅了したんやけどなあ。それくらいじゃなびかんくらい、よく愛されたお嬢さんやわ」
「あれ、レナパーティですからね……界隈では有名です……」
「あれ、とか言わんといたって。そんな姿勢やから苦情に繋がるんやで」
「す、すみません。でも苦情はわざわざ本部が集めているから増えているのでは……?」
「アホぅ。そもそも冒険者ギルド離れがこっち周辺で酷かったから、本部からわざわざ出張ってくることになってん。ちゃーんとやってたら、ちゃーんと人は集まってたはずやで」
「すみませんでした」
「ホラ、名誉挽回! な!」
ばしばしと冒険者ギルド職員の背中を叩くアイマー・ミンミン。
痛くない、という力の弱さが、これほどまでに叱る彼が意外と職員に恨まれていない秘訣でもあった。持たざるものを恨むのは難しいのだ。
「連れ出してくれてありがとう〜。それにしても世渡りが上手そうな人だったねえ」
「レーナ、あーいう奴はいつのまにか約束事をキメてきたりするからな。距離感を気をつけるんだぞ」
「はーい。パトリシアちゃんが私とお花屋さんの約束しちゃったみたいに?」
「まあお前も"そっち側"なんだけどさあ……」
雑談をしながら、クジラと海賊船の方を眺める。
観察のためにキサが氷を溶かしてやったところだ。
そしてノア率いる影蜘蛛たちが、冒険者ギルド職員と話していた。光の当たるところで立つ彼女らは、ノアが最も小柄な女王蜘蛛で、従う部下たちは2メートルを超える細長い人型が多かった。
ノアは、レナについて程よく話しただろう。
なぜ”護衛の護衛”として影蜘蛛が船に乗っていたのかを。
レナパーティの方に”ぐりん”とギルド員たちの顔が向けられたので、レナは軽く手を振っておいた。
「最初から敵意を持たれていないだけ、よし、だ」
「いきなりレナたちのスペック見せりゃあ警戒されること確定だったもんなー。取調室に連行されてたかもしれない。先に、魔王国直々の後ろ盾発言して、アネース王国名誉賞について話して、あの監査官がきたってまさにラッキーだったな〜」
「名誉賞……? パトリシアちゃ……」
「近々呼ばれると思うんだけどさ。大精霊シルフィネシアとシルフィーネたちが最近話題の暗闇現象を退けてくれた。だから、はぐくみの祖であるレナに賞を差し上げようって」
「い、いらな……」
「ミレージュエ大陸において安全保障になる」
「もらいます。やったー」
まあいっか……とレナは肩をすくめた。
アリスがやってくる。
「さっき挨拶に来てくれたけど、冒険者ギルドのみなさんすごく感じがよかったんだ。荒っぽい人も多いから実は苦手だったんだけど……こう、ちょっとトラウマというか……。でも今回はあの態度でいてくれるなら、気持ちよく取引を終えられそう」
「だな。少ししたら港を離れることになりそうじゃんね。えーと、クジラは?」
「ノアちゃん預かりになりそうだよ」
女王蜘蛛の威厳により、ノアがあのクジラを制御できる。
ノアの指示に従ったクジラは、それクルッと回って、はらだいこ! など披露している。再び、冒険者ギルド員は頭を抱えていた。その頭に海水がかかってきてびしょ濡れになってしまっている。
パトリシアは喉の奥で笑う。
「どう見ても適任だし、丸くおさまったなあ」
「ノアちゃんはお嬢様だからバイオリンも弾けるしね。モスラの旋律を耳でコピーして覚えちゃったんだっけ」
「ええ。大変聡明な方ですよね」
『『すごーい』』
スチュアート商会の財産運びについては、商業ギルドの管轄となり、スムーズに終わったそうだ。
ホルガー・ミレーゴー船長たちには雇われた分の報酬が支払われて、これにて取引終了となった。
荒れ海の中で舵を取っていたことによる頭の疲労と、海賊たちとの乱闘により負傷もしていたので、医療所にいくそうだ。
ホルガー・ミレーゴー船の修復などについては商業ギルドの管理となるので、そちらはまかせることになる。
さて、
「レナ様ー! グレンツェ・ミレー港にもいい服屋があるのじゃー!」
「みんなで試着に行こうヨー! バーベキュースペースでイカ焼きもイカが?」
可愛い従魔たちが呼んでいる。
あっちに行けば絶対楽しい。
「いいねえ。さて、では私たちもおいとましますか」
「ス・ト・ッ・プ」
「ですよね〜」
止められてしまった。
アイマー・ミンミン直々のすべりこみストップである。
やれやれとレナは肩をすくめた。
海の大問題とされていたクジラの確保。
雇用先が生まれたせいで増えていた海賊の捕縛。
その船内でなにやら企んでいたらしい科学者の捕縛。
そう簡単にレナパーティを解放できるはずもないのであった。
「ごめんな〜。実は、海賊船に同行してほしいんよ。
普通であれば、このような同行作業は求められんもんやけどね。予定外の問題があれば正直に告白する、それのみが冒険者には求められる。それすら、自分たちの業務の妨げになるなら拒否することも可能ってことになっとる。なにせ稼ぐために冒険者やっとるからね。
それはわかった上で、今回は君たちに来てほしい。あの船は"そのまま"引き渡したわけじゃないやろう?」
「そうですね。無力化するために氷漬けにしたりなどしました」
「ああ、怒るわけじゃない。普通は適切な処置や。普通は。で、何が普通じゃないのかっていうと、あの氷、どんな魔法でも溶けないんや……」
「えー」
「いやほんまに。大精霊シルフィネシアの加護があるなら、そーいうの関係あるんちゃう?」
もっともあり得そうな線だ。
原因がそれであれば、レナたちが単体で目立つよりも、精霊の関わることだからしょうがないなあと穏便に済ませられそうではある。
パトリシアは口をへの字にしていたが。
自分の代わりに不満を表してくれたようで、レナは嬉しくて、それでよしとした。
「氷を溶かせばいいんですね」
「そう。できなければしょうがないけどな。一度君たちを頼りたい」
「報酬は?」
「ほしい? 冒険者ギルドに記録書を残すために手間が増えるけど」
「冒険者ギルドが健全になってくれる方が私は嬉しいです」
「わかった、わかった」
報酬はリル支払い。
あとくされがなくていいな、とレナは承諾した。
金額についても無難だろうとキラも判断した。
「では、海賊船の船内へ。寒いのでみなさんコートを身につけてくださいね」
▽再び、探検へゴー!
読んでくれてありがとうございました!
ここらへん進めるのすごく難しいので、書くことだけに集中させてもらっています(。>ㅅ<。) イラストは描ける時にしますね。やりたい気持ちはたくさんあるので、記録しておきます! よ、余暇ほし〜!
あと少しで今年も終わりですから、風邪を引かずに走りぬけたいですね。がんばりましょ!
今週もお疲れ様でした。
よい週末を₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑




