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海賊船だー!?

 

 ウーウーウー!!──けたたましく鳴る警告音。


 テントで休んでいたレナたちが慌てて出てくると、船員が大きく声をかける。


「この船は北の名残で、この辺りでは不要なはずの海賊出現警報のブザーがあるでやんす〜!」

「それが発動したってことは、海賊なんですかー!?」


 レナも負けじと声を張った。警告音がうるさいのだ。それくらい、北西の民は海賊を恐れていたという歴史もありそうだ。


「船長の勘で鳴らされてるから、間違いないでやんすー!」

「そのしゃべり方、なぜですか〜!?」

「敬語間違えて覚えちったぜ〜!」


 うへへと頭をかく船員は、早足に持ち場に戻っていった。個性的だ。


 代わりに船長が直々にやってくる。ずんずんずんと大股で、テントの前まであっという間に着いた。

 ワイルドを通り越してそちらが海賊っぽいですねと思ってしまうような表情で、ニヤリと笑う。

 レナは小柄なので、立ち尽くす船長の影にすっぽりと隠れてしまったくらいだ。船長が大きく口を開いたら、尖った犬歯が見えた。


「海賊相手ならホルガー・ミレーゴーに任せて下さい! 船に乗ったヒト族の荒くれもんのやり方にゃあ負けやしません!みなさんはアリス・スチュアート様と品物の護衛をよろしくお願いします!」


「わかりました!そちらの誇りを信じますね!……ところで今、舵は!?」


「見渡すかぎりの快晴! 海も荒れてねえ! 船を止めておいて迎え撃つ作戦をとりますよ!」


「そうするんですね!私たちは船には明るくないので頼もしいです!」


「おうともよォ!!!」


 にかっと笑うくらい船長は自信があるようだ。


 船というのはヒト族が積み上げてきた技術の結晶。北西の民は生まれながらに船を組み立てる設計から学び、小さな一人用の船を幼い頃から乗りこなし、大人になればグループを組んで航海をし、船を体の一部のようにして育つのである──。


 現在、ぴたりと船は静止している。


 まるで餌に狙いを定める海獣のよう。


(へえーあれが海賊船? 一見ごつい船にしか見えないけど、船長さんたちにはわかるもんなんだなあ。あちらの海賊船もまさか、アリスちゃんが雇っているのが海賊対策バッチリの船乗りさんだなんて思ってもいなかったんだろうねー)


 さっきの船長はまさに”狩る側”であった。


 レナがそっと胸の前で合掌する。


「スキル[伝令]──船内の商品を守ってね」


 従魔への指示も忘れずにね。


 アリスがひょっこりと出てきた。


「あれ!? アリスちゃんいつの間に!」

「それはねぇ! 船長の後ろにいたの! レナお姉ちゃんでも気付かなかったなら私の[隠れ身]も大したものかもね〜!」


 もともと着いてきていて、交渉下手な船長や、引き受け気質のレナのことを心配して後ろで見守っていたらしい。

 それにしたって気配を消すのが上手、というのは社交界で培ったスキルの賜物だそうだ。商人は、ときには壁の花になりややこしい会談に加わらないことも大切なのだから。


「いっけね忘れてた。アリス・スチュアート様のことは頼みましたぞー!!」

「はい、受け取りましたー!」

「いやっほーう!!」


 ▽船長は 今度こそ去った。


 ▽レナと アリスは 額がくっつくくらいの距離で噂する。


「故郷の血がさわぐってやつなんだろうねえ」

「あんなに取り繕っていたのにバレちゃったみたいだね。ふふ、後で恥ずかしそうにする船長が見れそう。あれ?」

「どうしたのアリスちゃん」

「クジラの体の色が……なんていうか、退色してるような」

「退色?」

「濃い黒紫色だったじゃない。けれど生命力が薄くなったような。ほら、皮膚の一部にシワが寄ってきてるし」

「ああっほんとだ! 氷の中だから冷えちゃったりしたとか……? でも”そんなことなさそう”と思ったんだけどな」

「レナ様」


 キサがしゃなりと立ち上がり、クジラが収められた氷山の前に立つと、手のひらをかざした。

 そこから出た冷風が氷山の表面を包む。


「さらに冷やした!?」

「ふふ。驚いた顔もまた愛いのじゃ〜。何度見てもいいものじゃ〜。妾のやることでこの表情を引き出したとなれば愉悦。……こほんこほん。生命力を分け与えたので、捕えた時よりもずっと体力は回復しているはずなのじゃ」

「ありがとう。でもシワがあるのは変わらないね。というか震えてるかも?」

「緊張してるのかも。あのね、クジラって生き物は私も初めて見るけれど、古書で読んだことがあって、音をよく感じ取るらしいの。警報音がきつかったのかもしれない」

「ありえそう」


 レナとアリスは、クジラの氷山を支えているロープの近くに体育すわりした。

 ふたりに危険がないように、とキサが後ろから抱きしめて守る。こっそりと役得だ。


「大丈夫だよ。って伝えられたらいいのにな」

「レナお姉ちゃんと私たちが平穏そうにしている姿を見せたら効果あるかも。慌てる上司って不安になるものだし」

「私はまだこの子の主人じゃないけどね?」

「まだ、ってことはちょっとは予感してるんじゃない?」

「んー。縁がありそうだなあ、とは」

「どちらになったとしてもレナお姉ちゃんなら上手くやるよ」

「そうかもね。これまで従魔を育てまくってきて、自立までさせたので正直自信はあります」

「そのいき!」


 背後が騒がしくなってくる。

 海賊映画でよく聞くような、剣と剣が打ち合う硬質な音も聞こえてきた。

 なぜ魔法を使わないでいるのかというと、お互いが船の上だからだ。自分の船は傷つけたくないし、相手の船もできれば傷浅く横取りしたい。もともと積載量が決まっている船だから、もし相手が降伏したとしてもその質量を陸まで持って行く手段は必要だ。ヒト族は海上の生き物ではないのだから。


 それゆえ、剣や棒術の白兵戦になることが多いのだ。


「……ねえレナお姉ちゃん」


 アリスが声を掛ける。


「大きな生き物だね、クジラって。古書で眺めていたものよりもすごく迫力があってびっくりしちゃう。そんなにまで成長したクジラでも捕まっちゃうことはあるし、怯えるような物事だってあるんだよね」

「そうだね」


 レナはとりあえず聞くことにした。

 アリスはただ聞いて欲しいだけのようだから。いわゆる愚痴なのだろう。いつも計画的に言葉を伝えるアリスにしては珍しい。


 大きなサイレンの下で、他の誰もが自分達に注目していないという状況が、アリスを自由にしたのかもしれない。それならば束の間の自由につきあってあげようと思ったのだ。


「正直なところ私はちょっとこのクジラに自分を重ねてるんだ。スチュアート商会は大きくなったよ。私が努力したからだって自負はあるけれど、そもそもの下地が整っていた。それは責任だしエネルギーなんだ。……けれどいつか障壁が現れるんだろうな。いつか足を引っ張られるんだろうな。目利きして選んだ人から、裏切られたことも最近続いててさ。最近なんだよ。やっと足場が整ってきたなって時期だったから、めげた」


 よしよし、とレナはアリスの頭を撫でる。


「なんかお姉ちゃんみたいだね。よく効く感じがする、そんな風に慰められたことがあるの?……ふうー。ちょうど折れかけていたときだから気分転換しようとしたの。財産を分けたのもそれがきっかけ。踏みきれたんだから必要な傷だったの。けれどまだ痛いなあ」

「痛いね。そういうの」

「そうなの。これからもあるんだろうな。もっと大きなびっくりするような裏切りも失敗も、っていうことが、このクジラと重なってね」

「それは申し訳ない」

「いえいえ。ふふ。そうじゃなくてね。クジラに乗越えてみせてほしいなって期待しているんだ。この戦闘ぼろ負けの氷漬け、の状態からでもね。なんだか勇気をもらえそうだから」


 勝手だけどね、とアリスは付け加えた。


 けれど、ただ呟くだけなら自分だけの気持ちは勝手なものだ。すぐそばにいるレナやキサにしか聞こえていない。それきり、アリスはこの気持ちを胸にしまいこみ、クジラへの視線にはぶつけないことにした。レナたちに聞いてもらうことでもやもやを消化できたのだ。


 レナにできるのは単純なこと。

 綺麗な包装紙につつまれた飴玉をひとつ、アリスに譲る。

 ありがとう、とアリスははにかみ、胸のポケットに入れた。そういうものは嬉しいほどとっておきたいのだとレナは知っているので、アリスがとても喜んでくれたのだと、嬉しく思った。


 どおん!!


 船が揺れる。


 海面が異常な揺れ方をした。


 ぶるぶると振動するように小刻みにリズムを刻んだのだ。


 ノアが、シュッと蜘蛛の糸をたぐりながらレナたちの側に現れた。


「ここにいてもいいですが一応この糸で体を固定させてもらいますね。キサさんは海中でも堪えられますが、お二人はそうはいかないでしょう。ミディちゃんもヒトの呼吸確保など細かい作業は苦手なはずですし。モスラさんは対人戦で大活躍、クレハイズミさんは財産を守っていらっしゃいます」

「ありがとう。あ、もしかして」

「はい」

「蜘蛛の糸で”振動の性質”わかる? お父さんみたいに」


 サディス宰相はその蜘蛛糸の振動により、どの種族がどのような作業をしているのか、おそるべき把握力を見せていたのだ。

 あきらかに奇妙な波の正体もわかるのか、とレナは期待はせずに軽く尋ねた。


 ノアは、ニコーっと親子の縁を嬉しがる顔をしてから、赤くなり表情を引き締めた。


「わかります。小隊、現状を私に伝えてごらんなさい」


 水色、橙、黄色、やってきた小さな蜘蛛たちは部下たちが遣わした情報連絡軍だ。

 ノアは把握している音と現状をつなぎ合わせてから、レナに共有した。


「襲撃者が、機械のボタンを”ポチッとな”したそうです。機械は壊れて音波が海面を揺らしました。この音波は魚人系が海中で使うものと似ていて……解読したところ【暴れろ】かと」

「クジラだ!」


 レナが口にすれば、キサが氷をぎゅっと引き締める。


 それによって、クジラは大きく揺れたものの、氷は壊れなかった。


 けれどヒビが入っている。


 ものすごい力! と全員が驚愕する。


 もちろんクジラにダメージは大きいのだろうけど。自分にダメージが入るのにもかまわず動いたので、レナがせっかく治した体にはまた生々しい傷ができていた。

 せっかく保護したものだからエネルギーを送ってあげたいけど、暴れるならばいっそ制圧したほうがいいのか? キサはそこまでの判断はできずに、困り眉でレナを見つめている。


 レナが口を開こうとした時、船が傾いた。


 ──音が。


 ──音が。


 ──音、音、音。


 ──【暴れろ】。


<……ガッデムぅぅぅーーー!!>









読んでくれてありがとうございました!


海賊船の狙いは、宝は宝でもクジラのようです。

詳しくは次からも書きますね〜!



今週後半には小学校がおやすみだったので(学年閉鎖です)更新が危ぶまれていましたが、なんとか、時間をとれてよかったです₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑

みなさんも引き続きコロナに気をつけてくださいね。



今週もお疲れ様でした!

よい週末を₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 今回も楽しく読ませて頂きました。 ……せめてクジラさんは素直に真面目に普通に(!?)育って欲しい。 そう![真っ当クジラ]に!?
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