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ミレーゴー船団

 


 ▽ [クエスト:グレンツェ中央海横断の船旅護衛]

 ▽スタート!


 レナたちは涼しげな格好のまま船に乗り込んだ。

 木組みの階段を登っていくとき、とんとんとん、と軽快な音がした。


 するりと海風が吹く。服には防水機能がついているので、湿気をためずにサラッとしている。船旅には適していそうだ。

 いざ戦闘があればブレスレットを使って変身したらよい。まずは快適性重視で過ごそう。可愛いし!


 従魔はみんなヒト型になり、この船の歩き心地を確かめる。

 おっちょこちょいなレナが、転んだりしないように気をつけたいのだ。


 出航した船はゆったりと揺れているので、床の状態によっては転びやすそう。


 幸いにして、板張りの床は清潔に掃除されていて水滴は落ちていない。

 それに待機室のあたりは布張りなので、靴の裏がきちんとひっかかって滑り止めになってくれて”ツルリ”の心配がなさそうだ。


「窓が多めにある」


 レナが物珍しそうに近づく。

 小窓を開けることもできるらしい。換気のために半分開けられた窓からは潮の香りが漂ってきて、しかし風は通さないように結界が張られていた。そのため空調もいい。暑さ、寒さに悩まされることがないだろう。


「すごいね」

「「でもシンプルすぎなーい?」」


 装飾らしいものはほとんどない。

 すべてが、合理的に作られているようだった。


 ──前に乗ったことがある大きな客船では、旅目的のお客様を目で楽しませるようなところがあったが、この船はまるで逆だ。商船とはこう言うものなのだろうか?


「レナお姉ちゃん、どう?」


 船員たちに声をかけに行っていたアリスが、散策中だったレナパーティを見つけて手を振る。

 レナはふりかえった途端、少しよろけて、従魔全員から支えられる。

 いつもの光景に、みんなが和んで少し笑う。


「アリスちゃん。すごいね、この船! 過ごしやすいよ。どこを見ても綺麗に清掃されてて快適ですって、あとで船員さんに伝えて。あ、私たち、はしゃぎすぎないように気をつけるからね。装置や設備が、けっこう私たちも触れちゃうところにおいてあるっていうか……」


「そうだよね。そこは触れないでくれると助かる。船員さんが使いやすいところに置くのがこだわりなんだって。それはお客に気を使わせるワガママじゃなく、乗せる人たちを危険にさらさないようにするための良いサービスの一つなの」


「おお〜そう言われると気分がいいなあ。アリスちゃん伝え方がまた上手になったね。戦闘になったとしても大事な設備を壊してしまわないようにします」


「だ、そうですよ?」


 うむ、と満足げにして見せたアリスが、ツツツと視線を横にそらして、とりわけ頑丈そうな扉を”コンコン”と叩いた。ガチャリ、鍵の開く音がする。


 そこからは大きな体の男が”ぬっ”と出てきた。

 2メートル近くありそうながっしりした体格に、ぱつぱつの海洋スーツを着ている。海洋スーツというのは海の気候に合わせながらも礼装的にかしこまった格好だ。つまり、船長クラスの人が身に付けるもの。色黒の肌には生傷が走り、にいっと笑えば白い歯がのぞく。


 どう見ても「海賊風」であった。

 さらに重低音のバリトンボイスだ。


「頑丈な船ですから大丈夫ですよ。ええ、ええ、暴れていただいても?」


(え、ちょ、むしろ要求ーー!?)


「こちらの船長さんは誇りある”船上地域”の出身なの。頑丈な船であることがウリだから、そう言ってるの」


 アリスは怯えることも驚くこともなく、フランクに伝えた。

 船長とはどうやらいい関係を築いているようだ。


 対して、船長はどちらかといえばこの”ナリ”は急ごしらえのものらしい。

 胸を張ったことでボタンが一つ弾け飛んだし、「そういや自己紹介忘れたな」とぼやいて頭をかいている。


 ドォン、と分厚い胸板を叩き、


「ホルガー・ミレーゴーです。船の進行はお任せを」


 と告げた。

 ボタンはすべて弾け飛んだ。


 ▽着替えました。


「うーん、船長さんは大きな仕事はこれが初めてなの。だから慣れてもらうためにも、ちょっと多めに見てもらってもいい? レナお姉ちゃん」


「もちろん。というか私たちも同様に雇われた身で、お金を払ってるのはアリスちゃんだからね。こうやって合同任務みたいなのは珍しいの。私たちも学習させてもらうね」


「さすがの柔軟性、助かります。船長さんも適応能力があるから、もうボタンを飛ばしたりするほど負荷をかけたりしないはず。一度失敗したことはすぐに取り返して次の事故は起こさない。だからミレーゴーの人を信頼しているんだ」


「海の上での事故は下手したら死んじまいますからね。運良く一度目の失敗で助かったなら、死ぬ気で二度目から改善しろって、海の民の教えですな」


 ▽船長が 再登場。


 アリスたちの会話を聞いていたらしく、わずかに照れ臭そうに苦笑した。

 そして、ドン、と胸を叩いた。今度はボタンが弾けなかった。


「少し語る時間をいただいてもよろしいですかな。我らが故郷はミレージュエ大陸の北西に位置し、とくに海が奥深いところでした。まるでコレクションのように世界中の海の特徴がひっくるめられているのですな。

 その潮の節目を見極めて、あらゆる状況で船を動かすことを、集落全体として極めておりました。豊かな海産物目当てに人が集まり、やがて小さな国となった。

 しかしそれでもこの地域のヒト族はよそから蔑まれがちでした。海賊が出ることもあり、よそ者をとくに狙って襲ったからです。そのため内海での漁は盛んだったものの、船乗りがよそに出て商売をするのは難しかった。魂の色が白くても。風評被害というやつです」


 船長は無意識にだろうけれど、葉巻を吸うような仕草をした。

 それだけで煙の香りが漂うようなワイルドさがあった。

 それを”リスク”と判断されてきたらしい。


「その無法者どもとひっくるめて海賊もどきの民のくせにと揶揄されることが当たり前でした。さて、話は現在に戻りまして、普段はまかせてもらえないようなこのような高額依頼を、アリス・スチュアートどのは我々に望んでくださった。コンペに出てはいたものの、商業ギルドにも有名な海洋船団がいる中で、驚きましたよ」


「みなさんの操縦技術がすばらしいのだと噂には聞いていました。それをプロモーションで見せてくださったでしょう」


「はは。コンペでは他の船団が立派な船を見せていた。だったら我々はこの地元の荒海を超える便利な船と、操縦技術を見せつけるしかありますまい」


「船を作るための資金を用意することも、適切なコミュニケーションをとることも、スチュアート商会ができます。ですから船旅に願いたいのは、とにかく技能や質が素晴らしいことでした。それは商業の性質でもありますし、バイヤーでありコレクターである我が社が守らなくてはならない方針かしら」


「アリスちゃんかっこいい〜」


「んもう。レナお姉ちゃんてば……」


 アリスはまじめな大人の顔で語っていたものの、レナの合いの手に、ふにゃりと格好を崩した。


 そしてアリスは船長に耳打ちする。


「今です。名刺を渡すのです。私が信頼している冒険者ということはつまり、レナパーティもみなさんにとって快適な取引先ですよ。こういう時に使うのが名刺なのです」


「なるほど。ご教示感謝いたします、アリス・スチュアートどの。こちら名刺ですが、ぜひ受け取って下され」


「ありがとうございます。これ、私たちの名刺です」


 レナも、作ったばかりの赤い名刺を渡した。


 ▽名刺交換をした!


(このためだったのか〜! アリスちゃんに言われて用意しておいてよかった。アリスちゃんはどちらもに商業的な練習をさせてあげようと思っているのね)


 どちらもから感謝される。

 さらにこれからの取引先が強くなる。

 二兎を追い、どちらも手に入れたいのが商人のサガである。


 船長はドンと胸を叩く。


「とにかく、暴れる海での操縦はおまかせください。そのことを伝えたくて昔話までさせてもらったのです。どうか安心して戦闘をなさってください」


「無いのが一番ですけどねえ。でも、はしゃがせてもらいますね」


「転覆などさせませぬ、ええ、ええ。地域限定のヒト族の職業[荒海船長]と、そのバフを受けながら働く[荒海船員]どもの働きをご覧ください。その代わり、だいたい海が荒れるというデバフはありますがな」


 船長の咳払い。


「ア、アリスちゃーーん!?」


「いやー、レナお姉ちゃんたちが依頼を快く受けてくれてよかった」


「たしかに、嵐の予感って説明はされてたけども。こんなに人為的な選ばれ方だったとは」


 こそこそと(高額商品を運ぶタイミングでの荒波って正直リスキーなのでは……?)レナが一応確認をしておく。


(”成功しても、失敗してもラナシュの天秤はきっと平行になるのだ。”──これが商人たちの信念とされている言葉なのよね。願いでもある。私だって当然リスクは考えたんだけどね。状況が、レナお姉ちゃんたちの予定が空いていて、荒海船長さんたちが廃業寸前で故郷に帰ろうとしていて、そこでスライムジュエル特需のあるスチュアート商会がいたならば、業界のためにひと肌脱ぐときだったのではないかしら? ってね)


「やっぱり、アリスちゃんはかっこいい」


(レナお姉ちゃんみたいになりたいもん)


 アリスはクスリと笑ってみせた。


 アリスとしては、改めて、レナは憧れの存在なのだ。

 商人として活動を本格化させてこそ、そう思う。


 アリスはまだ少女といっていいほど若く、年齢や出自、経験や実力など自分に足りないものを自覚して悔しく思ったことが人生の半分以上を占めている。もうムリだと思ったことだらけ。


 けれどたまたま会うことができたレナを思い出す。

 自分に余裕がないようなときでも、ちっぽけな少女アリスのことを精一杯助けようとしていて、その姿勢に救われたし憧れた。


 それに力が足りなければまたたくまに増やしてしまうレナの技能。それはつきつめればレナではなく従魔の力だけど、それをさせたのはレナの指示であり、なにより人望であると見る。


 ──人望。

 冒険者ギルドに駆けこんだ頃の弱いアリスがもっとも”無い”と絶望したものだし、レナたちと会ったことで”ずっと先代に期待されているのだ”と思い出したものである。


 アリスから見れば、レナは”与える人”だ。


 ”バイヤー”にもっとも望まれている役割でもあった。


 だから、アリスはレナに憧れる。


 ずっとずっと、生涯憧れて目標にするだろう。


 だっておそらくレナは、生涯そのレナのまま変わらずにいてくれるだろうと信じさせてくれるからだ。


 従魔たちに(そろそろ構ってアタック)をされたレナは、キョトンとしてから笑う。その幸せでレナが守られている限り、レナのままいてくれるだろう。


 アリスは願いをレナに込める。

 支えにさせてもらった分だけ、アリスも強くなってみせる。

 これはアリスの願掛けである。


 今来ている、赤の衣装はアリスの勝負服。アリスはそれがいちばんのお気に入りだし、これから先もずっとお気に入りにするのだ。


 ちょうど裏モモのあたりの上質な赤の生地を、手先ですうっと自然に撫でるその仕草をする。アリスの地位が上がった分、緊張するようなことも増えたが、こうすると、いつもの自分に戻ることができる。

 レナに助けられたあの頃の自分の心を思い出す。


「──よぅし! レナお姉ちゃんたち。ご飯を食べてお腹を満たしましょう」


 レナの手を引く。


「いいねえ。そろそろ嵐も来そうだし、クジラにも会うだろうしね。……あ、ご飯、ノアちゃんも誘わない? でもそういうの仕事中だからダメかな? アリスちゃん、教えてくれない?」


「いいよ。普通の護衛依頼中だったらNGだけど、ノアさんの場合は、食事をとったほうが戦闘力が上がるからバフとして食事に誘うのはアリだと思います。彼女だけが食事をしたとしてもグループの指揮は乱れないでしょうしね。打診してもいいはずだよ」


「ありがとう! 船長さん、船員一人の体重が暴れん坊になっても船は耐えられますか?」


「どんとこい」


「助かります!」


 この話を聞いていたノアは、申し出に感激したようだ。

 さらに食堂についたら大盛りの舟飯が次から次へと出るので、満喫していた。


 ▽ノアの 戦闘力が 上がった!

 ▽みんなのお腹も満たされた。

 ▽いつでも応戦できるよ!





 ──海中。


 巨大な質量が動いている。グレンツェ・ジーニからも観測されていたクジラだ。

 馬車4台ほども大きな心臓が、ドクンと鼓動するたびに魔力が全身に送られて、ヒレが雄大に海水をかきわけてクジラはぐんぐん進む。そうして進む先に何があってもけして恐れなくてもよい。それくらいの圧倒的海の王者であった。


(──音ガ──音ガ──聞コエル──)


 ふだんならけして近づいてこないはずの他の物の移動音。


 それが進行上にある。


 クジラの本能に”怒り”が上る。


(──破壊──破壊──スル。──ガッデム、クジラ306号、ガッデムゥゥ──)


 ぶわりと攻撃的な魔力が身体中から滲み出る。

 それはようやく訪れたこのクジラの本能を刺激するためのシチュエーション。


 クジラは歓喜した。吠える。

 その振動は周りの海を揺らし、邪魔者をつきあげた。……はずだったのだが。


 空に打ち上げたはずの船は妙に安定感があった。


 ようやく見すえると、船底に貼りつくような”イカ”の形。


(──捕食──)


 再びクジラは大きく口を開く。



 ▽クジラ VS ミレーゴー船団 バトル、ファイッ!!!







読んでくれてありがとうございました!


船長の言葉遣いがふらふらしているのは、衣装のように、とりつくろう練習中なのでまだ馴染んでいないようです。



今週もお疲れ様でした₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑


よい週末を!

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 今回も楽しく読ませて頂きました。 ”ツルリ”は無くても転ぶのがレナちゃんクオリティー! ……さぁ! 今でしょ!?
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