スチュアート商会の護衛依頼
▽アリスから 手紙が届いた!
▽タブレットの 手紙マークに[11件]と表示された。
▽身内しか使わないので 件数があまり溜まりません。
図書室で従魔たちと紙芝居づくりをしていたレナは、アリスのメールを驚いた顔で読み上げた。
「”レナお姉ちゃん並びにレナパーティの皆様へ。
クエストとして発注したいことがあります。
スチュアート商会が海を渡るときの船の護衛任務です。
その場合、冒険者ギルドと商業ギルドのどちらに発注したらいいのでしょうか?
そのあたりのことも含めて相談させてください。
3日後にうかがってもいいですか?
アリス・スチュアート”
……だって。律儀だなあ。
いつでも遊びに来てちょうだいね、って言ってあるのにね」
<おそらく企業としての側面が大きいので、いつもよりかしこまっているようで御座います。我々も知名度が上がりスカーレットリゾートグループとしても範囲が広くなって参りましたし、企業メールをフォルダ分けした方が良いかもしれませんね。覚えておくのですよマシュたん>
「マロは優秀なのでな」
<はいはいよく出来ました>
「ふふ。じゃあ二人にフォルダ分けをお願いしてもいいかな? ラナシュ世界の魔力混ざりの空気の間に電波を飛ばして……それを受信するところを分けて……とか、私は分からないから。おまかせするね」
<かしこまりました☆ 得意分野で御座います>
そしてレナはすみやかに返信の文章を作る。
待たせてしまうとアリスが不安に思うだろうからだ。
なにせ、この世界にメールシステムなど普及していない。使い慣れていないシステムが機能しているのか、時間制限もある物事なら祈るように待っているだろう。それでも、相手がゆるいレナパーティであるという安心感はあるだろうが。普段油断のできない大人たち相手に商業交渉をしているアリスにとっては、レナとの取引は癒しである。
「”アリス・スチュアート様。
丁寧なメールをくれたから、丁寧な書き出しにしてみたよ。
3日後に来てもらうのはもちろんOK!
赤の聖地にいるようにしておくね。
もしも私が外出する用事ができたら、ルージュがお留守番しててくれるから待っていて。
きっと船の護衛任務を受けることができると思います。
相談をしようね。
レナパーティのリーダー・藤堂レナより”
……どうかな?」
<分かりやすくていいと思います。お上手ですね☆>
「ありがとう」
レナはメールを送信する。
地球のメールよりはタイムラグがあるものの、10分もすればミレージュエ大陸にまで届く。それは当然すごいことだ。この世界の学者が卒倒するくらいの技術である。
ラナシュにはまだ早すぎる技術でもあるため、身内だけで使うつもりだ。
最近は、ビデオ通話は控えている。
キラ曰く、通信を繋ぎ続けるために、鋭い誰かがその空気中の違和感に気づくかもしれないから。普通のヒトや魔物ならまだしも、世界情勢が不安定な今はわざわざリスクを冒すべきではない。とのこと。
会いたければレナたちは高速移動の手段を持っている。
アリスがどのような交通手段で「3日でジーニアレス大陸に行く」を成し遂げるのか、それは当然のごとく”ヴィヴィアンレッド・バタフライ”である。
──そして、3日後。
朝の10時ごろというちょうど邪魔になりにくい時間帯に、アリスは赤の聖地についた。
卵型のカプセルのようなものをモスラが抱えていた。
プシューと圧が抜ける音がして、合金製の扉が開くと、アリスが顔をのぞかせた。
お揃いでオーダーメイドした赤の衣装を着てくれている。
そしてパトリシアも同行していた。
迎えに玄関先に来ていたレナがぱああっと顔を輝かせる。
「「「久しぶり!」」」
少女三人の声が、ほがらかに重なった。
商談の席ということで、キラがそれらしいものを整えてくれた。
応接室、重厚な机、硬めの一人がけソファがいくつか。
それをみてアリスは苦笑した。
「レナお姉ちゃん。キラさん。きっとこのお部屋はシヴァガン王城の内装を参考にしたんじゃない? 私がマモン様と商談した時に誘ってもらった部屋に似ているから。実は、国によって応接室の内装って雰囲気が違うから、赤の聖地らしいものにしたほうがしっくりくるんじゃないかな。余計なお世話だったらごめんね」
「ううん、ありがたいよ。アリスちゃんは見識が広くってすごいねえ。キラ、参考にさせてもらう? どうしたい?」
キラがあっという間に駆けつけてくる。
「お待たせしました! ぜひ私も同席させて下さいませ☆ この応接室を作るために制御室におりましたが、もう安定したので離れても大丈夫なんです」
「相変わらずとんでもないなあ。はい、私のアイデアでよければいくらでも。赤の聖地らしいレイアウトを提案しましょう。それ専門じゃないからざっくりとね。もっと詳しく知りたかったら、お部屋レイアウトに詳しい専門業社の方にも繋げられるけど、あまり聖地によその人を招かないほうがいい?」
「そうだねえ。どちらかといえば身内の仲良しさんと暮らすところだから」
「じゃあ私が、違和感を抱かないくらいのレイアウトまでは教えられるよ」
「ではこちらのカタログから……」
「カタログ!? あははっ」
キラの電子カタログ(地球のレイアウト例)を見せてもらったアリスは目がキラキラしている。いや、だんだんとギラギラしてきているほどだ。
レナは気を使って「先にそっちを優先してもらってもいいよ。のんびり行こう」と声をかけた。「ごめんレナお姉ちゃんこっちを先に吸収させて!これすごい!」とのことだ。
とりあえず重厚なシヴァガン応接室のまま、レナとパトリシアが雑談をすることに。
マイラがお茶を持ってきてくれた。しかし、白い。ホワイトコーヒー茶葉を作り出すことにパトリシアは成功したのだ。原材料は天界から持ち帰ったおみやげの花である。
わずかに透き通っている白い液体。けれど香りはコーヒーの香ばしさがある。
たっぷりと花蜜を入れてみる。
「おお〜。後味がすっきりしてて飲みやすい。美味しいよこれ!」
「コーヒーっていうのに似てるんだよな? コーヒーって香辛料と同じ地方の珍品だから、私は知らなかったんだけど、この味はいいもんだって思ったよ。だから味が固定されるように、ホワイトコーヒーフラワーってそのまんまの名称をつけた。ハーブティーを淹れるのと同じように、花をお湯に溶かしたら完成なのもいいな」
「これうちが生花を買い取ってもいい? 天界に分けてもらったお礼として、また持って行こうかなって。喜んでもらえそうだもん。天界って娯楽が少ないから新しいものがみんな好きなんだよね。けれどそれを公に言えないご老人もいてね、もともと天界の花だったものなら受け入れやすいかなあって」
「賄賂だな?」
「賄賂です」
「悪い子になったな〜レナ〜」
「もともといい子じゃないでーす。ふふふ」
「安心できるようになったわ。トイリアに来たばっかの頃のレナって今思えば危なっかしくて」
「懐かしいね〜」
ホワイトコーヒーを飲みながら、レナとパトリシアの話が弾む。
マイラは褒められたのが嬉しくて、退室したあとは何杯もホワイトコーヒーを淹れる練習をして、この聖地に遊びに来ている従魔みんなにふるまった。
キラとアリスの話し合いがいったんまとまったらしい。
パチン! とキラが指を鳴らす。
「わっ。椅子が変形し始めてるけど、私たちも座ったままで大丈夫?」
「問題ありません☆ でもペアシートにしておきますね」
「なぜ? あっ」
「そんなんレナが転げ落ちる可能性があるからだろ。そんで私なら支えられるからだろ。ほれシートベルトだ」
「「あーっそれクーとイズがやるやつーっ」」
▽クレハと イズミが 乱入した!
▽レナたちの席に 上からダイブ!
『なんか空間が面白そうナノヨー♪』
「待て待て待てー! 妾がイカパックしている途中であることを忘れないでー!?」
▽ミディの [シー・フィールド]
▽キサとともに乱入してきた。
▽キサは イカのツルスベボディに興味を持ち イカゲソを肌に当てていたようです。
▽シャワーをしたばかりのミディは クラーケン姿でもシャンプーの香りがするよ!
▽つまり キサはバスタオル一丁であった。
「アリス様はバランスを取れていますね。レナ様が落っこちる心配もなさそうです。私も安心して控えていられますよ。それにしても愉快ですが」
▽モスラはいつのまにか当然にここにいた。
▽蝶々とラミアに 羞恥心は芽生えません。
▽キサは ブレスレットで衣装を変えた。
▽赤の聖地 応接室 ベルベット・ルームが誕生した!
赤い壁に金の縁取り模様。床は白のふんわりした素材。普通、靴のまま上がることが多い応接室において床に白を使うことは珍しい。もしも汚れたらキラが瞬時に元に戻してくれる。
そして四角の大窓。それは外のガーデンを映し出す他、時に精霊の泉(分家)であるとか、マッチョなお花や、スウィーツ・モムを見ることもできる。まるごと会議用電子ウィンドウとすることも可能だそうだ。
「すごいんだけどさあ。それ以上にいろんなことがあって、部屋の完成に感動する暇がなかったなあ?」
「がーん!」
「でもそれを頑張ってくれたキラに感謝してるよ」
「それが一番の喜びで御座いますぅ♡」
「キラさんがこだわるのは趣味や性質、喜びという点ではレナお姉ちゃんに褒められることが至上なのね」
アリスが面白そうに言った。
しかしその目の奥は笑っていない。
微笑ましいこの原理だが、商業の場においては異質であり、このレナパーティの本質をわきまえていなければ、けして心地い取り引きなんてできないからだ。
お金や条件、名声に物を言わせてはいけない。
レナパーティにとっては快適に仕事ができること。従魔の能力を活かせること。それをやらなかった場合にかぶる被害との兼ね合いによって、クエストを受けるか判断するのだろう。
そして、やらなかった場合にかぶる被害というのは今回の場合、アリスが困るということだ。
(私は友達として大切にしてもらっているって、自覚しておくことが必要なのね。照れるけどね)
アリスはいつもの大人びた笑みではなく、ふんわりと笑った。
それを見たモスラは、同じように嬉しそうに笑う。
「”レナお姉ちゃん”。取引の相談をしましょうっ。
私が今回お願いしたいのは
[クエスト:グレンツェ中央海横断の船旅護衛]──レナパーティのみなさんに、海底・船上・空を護衛して欲しいの。メンバーはそちらが必要と思う人選で。メンバー一人につき、私が倉庫に所有するレアアイテムをなんでも持って行っていいよ」
「そ、そんな条件出しちゃっていいの?」
「レナお姉ちゃんは私の依頼だからここまで招いて話を聞いてくれている。だったら私からも、これくらいの信用をしたっていいじゃない。レナお姉ちゃんたちなら高いものだけ狙い取りとかもしないだろうし、それにどれだけ高価で珍しいものであっても、レナパーティとの縁の価値には敵わないよ」
「アリスちゃん……」
「ああ一応言っておくね。所蔵しているコレクションでもっとも高価で珍しいのは、古代の杖だよ。黄金と琥珀、それに吸い込まれそうなくらい透明の宝玉がはめ込まれているの。呪いのアイテムとも祝福のアイテムとも、専門家の評価は分かれている」
「な、なかなかの」
「コレクター界隈ではけっこうよくある話なんだ。考古学者やトレジャーハンターの職業のヒト族が発見して、商業ギルドで高位ランクの間で取引されている。
と、ものの話はここまでにしようか。
これを選んでもいいし、他にもいろいろと仕入れてあるからお楽しみに。
船の護衛にどうしてそこまでかけるのか、聞きたくない?」
「「聞きたーい!」」
「それはね。活動拠点をジーニアレス大陸にも作りたくて、私財の分散をするためなの。トイリアのスチュアートの屋敷からの持ち出しは、お金。これは小切手でOK。けれど私財を勝手に持ち出されすぎるとアネース王国が困るから、それと同等の価値があるものをジーニアレス大陸からアネース王国スチュアートの屋敷に入れなきゃいけないのね。
税金対策のためにも」
「大人だなあ……」
まだまだ子供の域を出ていないのかもしれないな、と思うレナであった。
▽職業が違うだけだから あまり気にしなくていいよ!
▽経理担当はルージュがしてくれています。
「で。ジーニアレス大陸の”高額の良いもの”を運びたいわけ。船便だと、一般的なやり方だから”スチュアート商会が商品を運んだのだな”ってわかりやすいの。港で検査も受けるしね。アネース王国としても優遇しすぎていないというアピールができ、外聞がいい」
「アリス、その辺で。レナが(わかったつもりで聞いてるけど理解しきれているだろうか!?)って顔になってきてるから。おーいレナ、あんたは頭いいから大体入ってってると思うよ。落ち込むな」
「パトリシアちゃーん!」
「ごほん。まあこのあたりは、空気感ってものだから、私とかパティお姉ちゃんみたいに地元の人の方がわかりやすいんだよ。
まとめます。
私が望んでいるのは、空・船・海底の護衛。報酬はレアアイテム。船で運ぶのはスチュアート商会の私財」
「まとめてくれて助かる〜。えっと、船旅って危険? けっこう重警備だよね」
「うちくらいの規模の商会にしては重警備になるかな。大商会ならまあ普通の範疇。ちょっと多めにしているのは、嵐が来そうだからで……そんな時に頼んじゃって申し訳ないんだけど……」
「でも今がいいんだもんね」
「そうなの」
「わかった。引き受けまーす」
「ありがとう!」
「うん。スケジュール的には大丈夫かな? キ……」
「問題ありませんよ。そのタイミングを狙いましたから」
モスラが会釈をし、キラに(言わせてもらってすみません)と視線を向け、キラが(ええ、可愛い後輩のためですもの☆)と美しい譲り合いを見せていた。
レナは従魔の仲良しを見るのが好きだ。ニコニコしている。
「じゃあ、アリスちゃんの買い物をしてから……?」
ピンポーン、と来客時のチャイムが鳴る。
これは来客をOKと見てからルージュが鳴らしてくれるものだ。
『アリス・スチュアート様宛にお荷物だそうですわ』
「さすが」と、レナは頷いた。
▽出発は 明後日!
▽メンバーは モスラ、クーイズ、キサ、ミディ、パトリシアに決定!
読んでくれてありがとうございました!
すこしホッとしてもらえたでしょうか?
しばらく暗い話が続きましたので、レナパサイドを楽しんでいただけると幸いです₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑
今週もお疲れ様でした。
よい週末を!




