ダークマター
▽レナたちは 隣の部屋へ。
ドアプレートがついていて【レナパーティ御一行様】と書かれていた。
(旅館かな?)とレナは思った。
そろり、とドアを開ける。
視界いっぱいに飛びこんできたのは宰相の娘、影蜘蛛のノアだ。
なにやら黒ゴシックロリータドレスを身につけている。似合うね。牙を見せてウフフと笑うと、ほら見てくださいと言うように両腕を広げた。
「応接室を飾り付けました。ジャーン!」
▽ハロウィンっぽい仕様だなあ、とレナは思った。
「そしてそして、食べ物バイキングなんです。みなさんに日頃の感謝を込めて。ジャーン!」
▽ハロウィンっぽい仕様だなあ、とレナは思った。
黒い蜘蛛のぬいぐるみがいくつも置かれた蔦の這うテーブル。ろうそくや武器などの「っぽい」小物が飾られている。それなのにカーテン全開の明るさなので台無しだが、そのおかげでかろうじてこの雰囲気でも入りやすくなったと言える。
ジャーン!と再びノアの料理アピール。
見たくなかった。
お皿にドロォンズオオンと盛り付けられた”ドス黒いやつ”。
「ノアお嬢様には料理の天才的センスがあった……! このニスロク、驚愕の至り!」
▽手作り料理。
「たまに毒性の強いものが生まれちゃうらしくてそれは魔道具開発のために引き取ってるヨ☆」
▽ダークマター。
ノア、ニスロク、グルニカが悪魔的トリオになってしまったようだ。仲良く三人で並んでいる。黒いヤツが乗った皿を持って。
レナは、お父様サディスのほうをチラ見した。
こめかみを揉んでいる。そういうことである。
「クレハ、イズミ、ゴー」
「「おーいしいー!」」
食べ始めたクレハとイズミがそんな声を上げたのでノアが嬉しそうにしているが、これは、不安が増す。
涙目のレナのところにクレハとイズミがお皿を持ってきて、こっそりと「「きっとレナも食べられる味だよ?」」と教えてくれた。
(助かる!!)
レナは頑張る。従魔のため。従魔のおかげ。ノアとの友情。信じる心。行けーーー!!
「お、美味しい」
「「「やったー!」」」
「え、というかこれすっごく美味しい。なにこれー!? 尋常ではない旨味のハーモニーを味わっています。風味の重なりが多すぎて素材の正体がわからないけれど、食感も味わったことのない……なんというか……ああ……ンン……!みたいな感じだけど……! 食べる手が止まらないぃぃ……!?」
「とっておきのスパイスは愛情です」
「「可愛いー♡」」
レナはもぐもぐとフォークでほおばっていたが、次第に勢いが出て、ガツガツと皿を傾けるほどになった。
さすがにこれはと、ハマルとリリーが目配せする。
「つまり……影蜘蛛の、魅了スキル、ふりかけた……みたいな、コト?」
「リリー先輩するどいー。リリー先輩も食べてみるとインスピレーションをもらえるかもしれませんよー。クーイズ先輩は危ないもの勧めませんもんー」
「うーん、うーん。そうねっ。ハーくんも食べる……?」
「ボクみたいな純粋なオスは効きすぎちゃうかもー。女の子ならアレを食べさせてもらってもいいと思いますよー」
「ハーくん、効きすぎちゃうのっ?」
「女王蜘蛛の魅了ですからねー。一応遠慮しときますー。蜘蛛と相性が良くない種族が料理を食べてもお腹下しそうですしー」
身内にも教えといてやろー、とハマルは心のメモ帳に書いておいた。
絶対NGであろうルーカに恩を売っておこう。
もちろんノアにそこまでの下心はないのだろうが。
▽レナの食欲が止まらない!
▽リリーも味を気に入ったようだ。
▽女子力が上がっ………………た!(※能力数値的上昇であり、外観センスは下がった)
宰相サディスは食卓にともに座り、いたってリラックスしたような雰囲気で、暗黒グラスを傾けた。(※暗黒カラーの飲み物が入っている。ザクロと黒ブドウから練られたこのワイン風の飲み物はどのような蜘蛛をも酔わせる)
「世間話でもしましょう」
(まさか。どうしちゃったんですか?)
……と思うものの、レナの頬にはたくさんの暗黒料理が入っている。この複雑な味わいを感じることに思考の半分を使われており、真剣になることができない。
まあいっか、と宰相の話をBGMにする気である。
「このような趣向はあなた方の好みでしょう? かつてノアがそちらにお邪魔していた頃、この景色を見せられたことがあるそうです。そしてとても盛り上がったと。ああ、魔王ドグマ様が子供姿になったアリス嬢を囲うパーティでも、似たような趣向を凝らしていましたね」
「ごっくん。……ええ、好きですよ〜こういうの。楽しくって。普段の自分とは違うどんな格好をしてはしゃいじゃおうかなって、ワクワクしますもん。現実離れした雰囲気だから、マジメにしなきゃなーって気持ちから解き放たれてはしゃげるし、はしゃいでいい場所だよって許されている感じもいいですよねえ。好きです、ハロウィン」
「そういうネーミングなのですね。覚えておきます」
「どういたしまして? そんなの覚えててどうするんですか?」
「こちらの皿もどうぞ。黒トカゲデコレーション風デザートです」
「わ。チョコレートで造形を作ってるかのごとくだけど、素材がやっぱりわからない? 甘い匂いは……しますけど? でもでも??すっごくいい匂い??? はわわわ??? ではありがたくいただきま……????」
「「クーとイズが味見してあげるねっ」」
「あははは〜。みんなで食べようね」
▽クレハとイズミが毒味をした。OK。
ほっくりと頬を赤くしたレナたちはもぐもぐとデザートを食べていく。
▽実は一口につき500カロリーだ。
▽レナの頬がつやつやとしてきた。
「【ハロウィンイベント、スカーレットリゾート】……いかがでしょうか」
ゴフゥ、と咽せるレナ。
そしてジュースを飲み、またデザートが食べたくなる。やめられない。
(レナ様ー、ボクが話聞いておくからゆっくりしてていいからねー)
従魔のありがたみをかみしめる──。
「あなた方のスカーレットリゾートの進行はずっと気にかけておりました。今朝方の情勢によって周りの警備を進められる目処が立ちましたので」
「ほえーボクびっくりー。仕事が早いですねえー」
「このたびの襲撃を”退けた”ことによって、シヴァガン王国ならびにジーニアレス大陸での不審な動きが一気になくなりました。よからぬ者は去ったのだろうと私どもは見ています」
「まじめなときに言ってようー。でも公式にしたら制限がきつくなるから逆に優しさなのー?」
「つっこみますね」
「お子様羊だものー」
「……使える技ならば使い倒すその姿勢は大変宜しい。さっき言った方向でとらえてもらってかまいませんよ」
レナの口には得体の知れない暗黒料理が詰め込まれている。
ただ聞くことしかできない。
「シヴァガン王国が撃退勢力を持っていることが判明したからこその静寂。……つまりは魔王ドグマ様を超えてくる戦略でもない限り敵は動かず、しばらく安全ということです。そしてリゾート立ち上げとともに魔王決定武闘大会も進めてしまえば、その告知を待ってしまうことでしょうね。こちらが、"襲撃されるタイミングを選べてしまう"ということです」
「襲撃とか聞いちゃうと怖いのにーっ」
「レナが泣いちゃったらどうするのーっ」
▽だからお菓子の幸せで相殺してる。
▽相殺のしかたが 雑!
「おかわりもありますよ」
「えーい、いただきます」
「貴方がたには一般常識で測るべからず。そして心して接してきた結果、セーフの距離感はわかっているつもりです」
「ごっくん。いろいろ思うところはありますが、それよりもまあ、嬉しいですね」
「影蜘蛛と知り合ってそのような言葉を述べるのは貴方がたくらいですよ。ところでこのハロウィン料理をスカーレットリゾートに卸すのはいかがかと、まあ雑談なのですが」
(……娘の手料理をどこかで活用してあげたい親バカなのでは?)
▽レナは 親近感を覚えた。
▽対レナにおいて 有力な一手!
──どこかふっくらした姿になったレナパーティが帰っていく。
レナは帰り際、ヒツジライドの練習をしていくと決めた。
なぜならね、と呟くレナには哀愁が漂っている。
「これじゃいけないんだよ……。だってハーくんにフォローしてもらった時、隠居したおばあちゃんみたいな気持ちになっちゃったもん。いやいや私はまだ魔物使いの主人として働き盛りでしょっ。それに太っちゃったからね」
ノアがレナの頬を触る。うーん少しは、と口ごもる。
「とはいってもあまりお肉が増えていませんよ。もしかして太りにくい体質なんですか? それはもったいない」
▽純粋なノアの笑顔。
「だって、太ったら痩せる。痩せたら太る。そのサイクルで私はずいぶんと強靭な影蜘蛛になれましたもの。だからみなさんにもオススメしたんです。たくさんのカロリーが取れる圧縮料理。あらゆる美味を感謝とともに詰め込みました。私がいただいた祝福をお返しできたらいいなあと。うふふ」
▽ありがとうございまーす!
▽運動してきまーす!!
「行ってらっしゃいませ〜」
レナたちを追って、オズワルドが飛び出していく。火炎獅子レグルスに乗っている。
「主さん俺もいく! 特訓終わらせてきたから明日までフリーなんだ。カルメンソレイユ、あんたらも一緒についてきて」
▽ロベルト残業決定。
▽しかし開業前リゾートスパで癒されることができそうだ。
賑やかなレナたちが去っていった。
オズワルドがいることで、街中を通るときは、まるで英雄の凱旋のように声をかける町人もみられた。
蜘蛛糸をたくみに操り会場の後片付けをする宰相の隣に、キラがするりと現れる。
「そのくらいの酔いはどうってことないでしょう? 情報交換を済ませておきましょう」
もはや勝手知ったる相手である。
宰相は手を止めずにひとりごとのように語り、キラはそれを電子ウィンドウに書き込んでいった。
「この騒動は”突発的ではなかった”。その根拠を語ります。
まずは全体的な動き。──かの暗闇に覆われてしまった夕刻から、ジーニアレス大陸の各地でいっせいに襲撃等がみられました。村一つが集団に襲われる事態もあったようです。この傾向は、単一行動を主とする魔物の強者には見られないもの。また、弱い魔物が集団となって生き延びている群れの場合は、魔人族の村のような格上箇所を襲う動きがあるのはおかしい。
なにかしらの大規模な指揮が見られる」
「それはこちらからも相談していたところですね。確証が得られてしまいましたか」
「そして小さな動き。しかしこれがおそらく核であるはず。
夢属性の魔物ズーズーが魔王国内に放置されていた件、かなり長い間放置されていたにも関わらず”認識できないようにされていた”、スキルの痕跡をピーチィが発見しました。
推測するに、ズーズーはもともと時限爆弾として置かれていて、それは貴方がたの関与がなければ、かの暗闇が訪れた際に悪夢を増幅させることになったのでしょう。
夢属性魔物のような貴重なものは、たいてい、両親の魔物の愛情から生まれます。それを奪ってくるのも大変なはず。しかしズーズーは用意されてしまった。
入念な計画なのか、それともすぐさま邪悪を思いつき動けるくらい実力が高い悪人が関与している」
キラは唇を尖らせた。
これは、レナが悲しむだろうから、間違って読まないように議事録を文字化けさせておく。
「そちらの主人と従魔も巻き込まれたことですから、言うべきだろうと。ただ、国民ではないみなさんが外敵に突っ込んでいったのであり、我々としてもフォローに尽力したため、謝罪はできません」
「マスター・レナが求めていないでしょうからいらないです。それを求める従魔もいないでしょう。きちんと対応して下さっていますよ。
私含むレナパーティはそのレアスキルで本質を知ることは得意なのですが、細かい慣習や伝統からくる動きだとか、蜘蛛をはりめぐらせた各地の生の情報収集だとか、癒着とか、その辺りは得意ではないので情報提供助かりました。ちょっと多めに教えてくれましたよね?
そのお礼をいたしましょう。夢属性の魔物ナイトメア・マルクが接触してきていますよ」
「……捕らえていた塔の倒壊とともにメデューサの目を持ってしても魂の痕跡がなかったのですが。それは申し訳御座いませんでした」
「わかってくれていたならいいんです。今のところ、それによって利益もありました。また後ほど。ちなみにいったん亡くなり魂が……意識が、どこかに残っていた場合の罪状は?」
「魂の色によります」
「ですよねー。今度マルクさんに会ったら確認してみます」
「また、後ほど、改めて、話しましょう……」
「はい、改めて。あれはレアケースなのでしょうからね、それよりは大局を優先すべきですもの」
「まるで同じ政務官と話しているような感覚にさせられますね。こちらとしては理解が早くて助かりますが。
これから先しばらくは敵方の動きがなさそうだと見ていますが、その水面下にあるものは根絶できていません。知らないものは知るように努めます、先に潰すために。我々は生活を守る努力をいたします」
「同意です。マスター・レナが笑ってくださる毎日のために」
「この国の民の暮らしを保証するために」
「あれ? 影蜘蛛の伝統のためにって言わないんですか?」
「同義でしょう」
「でも言い方の違いで心持ちがわかるものですよ。今のサディス宰相の方が好きっ☆」
「そうですか。あなたがたに好かれていて損はありません」
「イケズっ」
「イケズってなに?」
「こらマシュたん、そんな言葉を覚えてはいけませんよ!?」
▽キラと宰相の秘密の記録ができた。
▽半分はオープン 半分はクローズ 思いやりです。
▽Next! 暗闇様の帰る先
読んでくれてありがとうございました!
どこまで書いていいかな〜〜って悩みながらの執筆になりました。書きすぎると面白くなく暗くなっちゃいますもんね。キラと相談しながら進めていきます!
待たせまくっちゃったリゾートも進めますね。
遅くなっちゃったのは私の実力不足でした、申し訳ない。
これからも精進と可愛がりを頑張りますー!₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑
それでは、今週もお疲れ様でした。
よい週末を!




