朝のパン配り
▽レナたちは お着替えをした!
▽街の警備隊に協力するため 探検隊服+臨時スタッフ腕章をつけた!
シヴァガン王国では有事が起こった際に、その末端の誰にでもできる作業を、街の魔人族たちが行うというローカルルールがある。魔人族によって風習が違う中で、自分たちのエリアは自分たちで守りたいという意思を持つ者も多いため、むやみに政府が方針を押し付けるのではなくて、エリアの有力者が手伝いの姿勢を見せるという成り立ちだ。
例えば、針子のハペトロッティたちは壁に囲まれたところでひっそり作業することを好む。夢遊病にされてしまい外に出てきてしまった個体も、その異常を診察してもらう前に、さっさと壁の向こうにこもりたがる。
その意向を、代表が魔道具折り紙で駐在所宛に飛ばして伝え、ハペトロッティたちのコミュニティにはメデューサ族が派遣されている。
メドゥーサ族は無闇に目を使わないようにテレパシーや協調技能が発達しているため、壁を挟んだところから、ハペトロッティの診察ができる。そして非常物を渡したら、それは代表のハペトロッティが受け取って身内の看病などを行う……といった具合だ。
それぞれの魔人族が、自分たちにはどのような生活支援が必要なのか自覚し、できるものが周りを助けることによって、快適に過ごせるし、政府としても負担が少ない。
このルールを教えてもらったとき、レナたちは「へえー!」と声を上げた。
そしてそれを覚えていて、物を運ぶくらいならできるからと申し出てくれるので、街の警備隊たちは、レナパーティにほっこりとした好感を抱くのであった。
基本的には前に出過ぎない、誰かの仕事を変えてしまわない、けれど気をつけて周りを見ているらしいレナパーティの距離感は、「冒険者ランクもはや詳細不明の激レア技能集団」という恐ろしすぎる評価を「でもいい子たちだからなあ」……と平和に和らげている。
▽しかも可愛い!
▽探検隊服で蔦編みのバスケットを持って 朝食を配ってくれている。
▽包装紙に包まれたホカホカの惣菜パンは たくさんの種類があるよ。
▽肉食の獣人にはハンバーガー 草食の魔人には豆乳パン 海産物が好きな魚人にはサバサンドをどうぞ!
「癒されるなあ……またこの光景が見たくなる……」
▽近日プレオープンのスカーレットリゾートの売店付近で見られるよ!
▽今後ともよろしくねー!
街の人出はすこし控えられている。
混乱状態になっておらず、むしろ醜態を晒したのかもしれないという不安ゆえに室内にこもっている魔人族も多いそうだ。
ヒト的な恥じらいという概念は薄い魔人族たちだが、種族的タブーを無意識に破ってしまったのかもしれない、という点をかなり恐れるらしい。非常事態だったから、という問題ではなく、習性との戦いと言えるだろう。
「まあ不安定な魔人族は大通りにはいないし、レナパーティのみなさんが外で接するのは安定した奴らだけってことになりますから、変にあの子らに危害を加えられないので、安心して歩いてもらえますよね」
「大事なところだな」
警備隊たちは深く頷いて、追加補給用の食材を、近寄ってきたレナパーティに渡した。
それをレナたちがぴょこぴょことした足取りで配っていく。
ああ~癒される~。
残業継続のささくれた心に沁みる~。
ちなみに主にぴょこぴょことした足取りなのはレナで、それは部屋全体がお布団というお宿♡特別室でちょっとおかしな寝方をしてしまったので、足のしびれがなかなか取れないのだった。このくらいは緑魔法でちょこっと治すほどのものでもないので、そのままの状態で回復を待っている。それを面白がった従魔たちが楽しげにスキップしてくれているので、レナの楽しみにもなっているのだった。
「「レーナ! あっちに配りに行ってくるね。ルンルーン♪」」
「ありがとう、クレハ、イズミ。高くスキップしすぎて驚かさないようにしてあげてね」
「ご主人さまっ。妖精姿になって……高所の窓辺に、届けてくるのっ。あそこは知り合いだから……声かけてくる」
「了解。リリーちゃんの宝飾職人仲間さんのところだね。ちょっと話し込んできてもいいよ、話し終わったらキラに連絡してくれたらオッケー。行ってらっしゃい」
「ねーレナ様ー。街のみなさん、朝ごはんを食べたらけっこう元気が出たみたいだねー。なんだか空気が活発になってきたみたいなー。ズーズー安心すると思う~」
「そうだね。良かったね~」
<伝えておきますね☆>
朝日がやわらかく差し込む中、人々は似たメニューの朝ごはんを食べて、なんだか一体感があるようだ。
悪夢の夜があったけれど、それについてはお互い様──。
覚えていないことは怖いけれど、魔王様が許してくれて今も自分たちはここに暮らしている。
だんだんとそう切り替えられていく街の空気を、レナたちも心地よく浴びた。
レナたちの「臨時スタッフ腕章」を見て声をかけてくれる住人も現れ始めた。
お手伝いありがとう、と。
レナたちは手を振って応える。
いいことをして、心地よさが返ってくる、なんともハッピーな朝の時間を過ごせた。
▽噴水広場に やってきた。
マーメイドたちが水場に浸かりながらおしゃべりをしている。
「ここが壊されなくて良かったわ。水場があるから私たちは出先で体が乾いた時にすぐ潤せるんですもの。もしこれがなくなったら随分と暮らしにくくなるわ」
「そうだよね〜。昔はよくあったもんね、水場が壊されちゃうような戦闘が街中でもさ。それに比べたら今代の魔王様はよく気をつけて戦ってくれてるんじゃない?」
「炎と咆哮で外敵を追い払ったって、獣人なのにスマートな戦い方でかっこいいよねえ」
(……? ……??? 誰の話だろう……?)
ベンチで遅めの朝食をとっていたレナたちは思わずマーメイドたちをガン見してしまった。
視線に気づいた彼女たちは投げキッスをしてくれた。
「……ええと……炎と咆哮で追い払った、ってのは魔王様で間違いないはず。この場合はドグマさんって言った方がわかりやすいか。でも……スマート……?」
「「十分獣人的ワイルドかとー!」」
「今回のことだけはスマートってことー? ボクたちけっこう迷惑かけられたこともありますしーなんか腑に落ちませんけどー」
<その件についてはサディス宰相始めとした企画者がスマートキャンペーンを行なっているようですよ。スマートな印象が広がったらドグマ様にわざわざ勝負を挑みにくるものが減るそうです。ワイルドだと思われたらワイルドな戦い方を挑まれるもので、以前は、突発的挑戦者の対応に苦労させられていたのだとか。現在世界情勢が不安定なのでその面倒ごとを避けたいというお考えのようですね☆>
「くわしっ。キラ、そんなに裏事情を聞いててもいいの?」
<もちろん喋っていいことしかサディス宰相は教えて下さいませんよ。この情報がうっかりよそに漏れたからといって挑戦者が増えるわけでもないでしょう、ドグマ様が戦闘をする気がないのであれば。世界情勢が不安定なのは情報通の方であればすぐにゲットできる情報です。シヴァガン政府とヒト族の交易が活発になったことで伝達手段が増えてきていますからね>
「「ほえぽよ〜〜」」
クレハとイズミが「理解すんのめんどくさそうだな☆よし考えるのまーかせた☆」とばかりにほんわかした声を上げた。ぽっかり開いた口が可愛い。
レナはその口に金平糖を投げ込んであげた。即座に溶かしたクレハとイズミは、甘いスライムになった。
「んでも、被害が少なくてほんとよかったですねー。ズーズーも安心させてあげられるし〜、オズも嬉しいんじゃないのー?」
「そうかもしれないね。魔王ドグマ様は自分がどう思われているのかって気にしたことなさそうだけど、オズくんはわりと周りからの目を気にするタイプだったからなあ。よーし褒めにいこうか」
「「「さんせーい」」」
「ただいまご主人さまっ。オズのとこ……行くの、そろそろだと思って、帰ってきたの。だってご主人さまが、頑張った従魔のこと……褒めないはずないんだからっ」
リリーが飛んできてレナの首にまとわりつき、すりすりと頬ずりする。それからレナの肩に座った。
クレハとイズミはスライムになりレナの腕に収まる。
ハマルが羊型になって、レナの足元で巨大化した。
『めええええ〜いっくよーーーー! スキル[夢吐き]空中階段〜』
『もちろんスキル[幻覚]を……忘れずにね』
やっと朝がやってきたシヴァガン王国の空に、まさかの夢の靄がかかり夢属性の魔物が走り抜けていく。しっかり手綱を握ってくれる主人をその背に乗せて。
メデューサたちは空を見上げてぽつりと口にした。
「めちゃくちゃだ」
▽それはそう。
▽外聞気をつけてるから大目に見てね!
▽シヴァガン城に行こう。
▽なんでかって魔王をサポートしたオズワルドを褒めるためだよ!よくできました!
▽おや? サディス宰相の部屋が騒がしそうだ。
読んでくれてありがとうございました!
コロナ陽性で二週間おやすみをいただきました(。>ㅅ<。)
まだ咳がおさまらないので困りものです汗
みなさんは罹らないようにお気をつけてくださいね。
ゆっくりと執筆再開してまいります。
それでは、今週もお疲れ様でした。
よい週末を₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑




