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パトリシアのガーデン

 



 ▽パトリシアに お土産を渡そう!


 レナがこそこそとガーデンに向けて移動する。

 後ろからは、クレハとイズミがついてきていた。

 こそこそ、こそこそ、そろり、そろり。


 朝早く、薄黄色の朝日に照らされているところでパトリシアは水やりをしていた。

 すらりとした立ち姿。土いじりに適したシンプルなシャツとズボン、長靴。


 気配に気づいたパトリシアは振り返る。

 レナがいるなあ、と確認すると、にししと笑った。


 パッ、と水やりのホースを向けるしぐさをする。

『『しゅわっち!』』とクレハとイズミが盾になったので、レナの視界は、紫のジュエルフィルターがかかったように輝いていた。


 よくできました、とパトリシアは声をかけて、また作業に戻る。


 レナとパトリシアは、例の一ヶ月を終えたあとに、電話で会話をしたり、ガーデンで一緒に作業をしたり、できるだけ時間を取るようにしていた。再会したすぐは必死に時間を作っていたけど、ようやくお互いの存在が当たり前のものになってきて、最近では、会った時のテンションは落ち着いている。

 再会当日には泣いていたのも、思い出だ。


 クレハとイズミを「遊んでおいで」と解き放ったレナは、パトリシアににじり寄る。


「パトリシアちゃん〜、パトリシアちゃん〜」


「なんだよレナ。そんなにつきまとって」


「ふっふっふ。なんだと思う~?」


「いい知らせかな。レナは、期待させながら悪い知らせを持ってくるような性格悪いことしないからな」


「正解です。……なんだか遠い目をしてない? そんな意地悪されたことあったの? 私たちがぶっとば……」


「両親」


「じゃれ合いなんでしょうね?」


「あくまでぶっとばす方針を保つんじゃない。まあいいや。天界からも元気に戻ってきてよかったよ」



 パトリシアは慣れた手つきで薔薇の葉っぱを切っていく。レナがカゴで受けとる。


 葉っぱは先端が少し黄色味を帯びていて、妙に傷んだ様子であった。先日の空の暗闇の影響を受けたらしかった。


 基本的に頑丈な花々を育てているはずなのだが、新種や珍種が中心であるため、世界情報的な環境変化には弱いのかもしれない。

 大事な薔薇を、世の流れのために失ってなるものかと、パトリシアは薔薇の商標取得などに忙しくしている。

 花が有名な品になれば、ラナシュ世界に頑丈な情報として根ざすだろう。


 段になったガーデンスペースには、さまざまな種類の薔薇の鉢が並べられていた。


 どれもよく咲き誇っている。


 たまにマッチョマンフラワーが混ざっている。


「で、レナは何をしてくれるんだ?」


「お土産だよ。はい、これをどうぞ」


「ただ土産を渡すまでの話にどれだけ時間をかけたんだ……」


「ゆったりと触れ合いたかったんだよ〜。ゆったりと。そうやって冒険者ギルド職員さんと話したから、影響されちゃってねぇ」


「そんな影響を受けるようなことがあったのか? 私がぶっとば……」


「ペチカ氏だよ」


「許容範囲」


 パトリシアはからかい、ひと息つく。


 レナが渡してくれた袋は厳重に閉ざされていた。

 なんと、透明なやわらかいガラスの入れ物で、出し入れするところには二つのロックがかかっている。

 夢産のこの袋は、いざとなれば冷凍庫で凍らせるときにだって役立つ。

 日本の家庭によくあるジッパーでロックするアレだ。


「すげえ。見たこともない、光る花だ……」

「天界の特産品なんだって。下界では咲けないの。だから天界の空気に包んで持ってきたの」

「それで保てたのかよ」

「筋が通っていたら、ラナシュ世界に稟議が通りやすいってキラが言ってました〜」

「おおもとのルールの方を変えるんだからなぁ、お前たちは……」


 ささやかな光を帯びる花びら。

 形はスズランに似ていた。

 これが花畑になっているという天界は、さぞ綺麗なのだろうと、パトリシアは尋ねる。


 けれどレナは、天使族たちの容姿の方が光って見えるから、花が引き立て役のようだった、と正直に話した。

 レア種族、周りの存在をくってしまう。そういうところがある。


 レナとパトリシアは、ガーデンの隅に目をやる。


 土を運んで働いているジレ(ヒト型)は珍種特有の容姿の整い方をしていて、その側でひなたぼっこをしているハマル(羊型)や、ズーズーを抱えたままうたた寝しているラズトルファ(希少血筋のダブル)もまた圧倒的な存在感を放っているのだ。目立たないということができない。


 そのまま雑に写真を撮っても絵として完成しそうだ。


 さて、花の方に向き直って。


「光る花……ライティング効果としても、いいかもしれない。引き立て役ってことからイメージしたんだけどさ【この花のそばにいると、顔色が明るくみえて綺麗になれる】。そんな売り込み方はどうだろう」


「おお~お客さんの気をひくことをよく考えてるね? アリスちゃんのそばにいる影響なのかな」


「どちらかといえばモスラからの流れ知識だな」

「そっちか。うん、今の売り文句なら〜……」


 レナはイメージしてみる。

 例えば、おたくの子達がもっと可愛くみえます。と売り込まれたら。


「買いたい! 好きな子に贈ったら、その子の素敵さが増しそう」

「いいね。贈り物としての、天からのプレゼントか。ロマンチックな響きになるじゃん」


 ふよふよと飛んできたスウィーツモムをパトリシアが掴む。

 マシュマロの一反木綿と、チョコの野ネズミだ。


 野ネズミをぐわしと掴んで(けれど優しい力加減で)尻尾を筆のようにして、パトリシアは図を描いていく。

 ”天からの贈り物”──どちらかといえば可愛らしい丸みのあるラナシュ文字に、ささやかな花のイラストが添えられている。

 いいねぇ! とレナが頷いた。そして、あっ、と小首をかしげる。


「花そのものの綺麗さをアピールする広告ではなくなっちゃうけど……パトリシアちゃんはそれでもいいの? 前は、花そのものの美しさにこだわってたのに。無理してない?」


「あー。確かに前はそうだったよ。でも、私のエゴだなって気付いたっていうか。花に芸術性を求めるのは、私の勝手じゃん。買い求めているお客さんは、そこまで花に情熱かけてないわけで。お客さんは、その花を何に使うんだろう、どうすれば買いたくなるんだろう、ってことまで考えるようになったんだ」

「成熟してる〜!」

「あざす」


 パトリシアはジレを呼ぶ。


 すぐにやってきたジレはワンコのようだ。トカゲ系の尻尾がゆるやかに揺れる。

 そばにいたレナが手を振ってあげると、余計に嬉しそう。

 ご主人様の庭を保つべく、ガーデナーに指示をもらって働くのである。


 薔薇の器がさらにいくつも並ぶ。


 そして天空の花とどう組み合わせようか、イメージをして、真剣な表情のパトリシア。


 レナはその隣にいて(もしかしたら進化させやすいのかなと)まったりとした時を満喫していた。


 会話がない間、さわさわと風がそよいでいる。そよぐ音が耳に届く。──しずかだ。


 いつのまにか従魔たちはぐっと大人びてしまって、騒がしい声が減ったのを自覚すると、少しさみしい。けれど、嬉しさもあるさみしさである。


 レナは、ほーーう、と息を吐いた。


「よっし。イメージできた。おそらく上手くいくと思う」

「頑張れ♡ 頑張れ♡」

「今日の私は、朝起きてすぐにベッドカバーも直したし、洗濯をして、日が昇る前にルーティーンを終わらせた。とてもえらい。だから確率が低めの花の種を作ることもできる!!」

「攻めてるう〜。花の成分を解析して種の情報にしちゃうんだっけ」

「私はキラみたいな分析はできないから、感覚で捉えているその植物らしさを映す、って感じだけどな。いける、いける、きっといける……」

「いっちゃえ」


 ▽パトリシアは 花の種を生成した!


 ▽種が 生まれた!

 ▽種が 生まれた!

 ▽種が 生まれた!

 ▽光る マッチョマンフラワーが 誕生した!


「なんでだよ! 薔薇の花粉が飛んできてたのか……?」


 がくう、と膝をつくパトリシア。


「失敗だ……。……昨夜寝るときにベッドに飛び込んだりとか、洗濯物に洗剤を適当に入れたのとか、花に水をやっていても私自身のごはんをおろそかにしたのがいけなかったのか!?」


「それはパトリシアちゃんが悪い。自分を大事にしなかったらスキルが働いてくれなくてもしょうがないよ〜。スキルの顔色をうかがって、おうかがいを立てて成功をだね……いや、しゃらくさいな」


「自分で言いだしたくせに」

「なんか、ラナシュの顔色をうかがうみたいでしゃらくさくない?」

「あー」


 ナイナイ、とパトリシアとレナは顔を横に振る。


 光るマッチョマンフラワーは、繊細な細マッチョだ。

 けれど種なのに空気中の水分を取りこんで根を生じさせようとする胆力がすでにある。たくましい。


「ちょ、ステップ踏み始めた。なにあれ!?」

「舞踏家の動きだな。どこで学習してんだよ!?」

「誰か呼んだ方がいいかな」

「スライム触手で捕まえる絵面は見たくねえな〜」


「もう来てますよ」

「「モスラ!」」


 二人の背後にガーデンテーブルとチェアを(よっこいしょお!※優雅)と置いてティーセットのセッティングもしてから、初夏仕様のモスラがさわやかに礼をする。もう安心だとレナたちは緊張を解いた。


 モスラはすうっと瞼を半分降ろした。


「変質もともなう性質を持つお二方ですから、よりご自身の体調に気をつけるべきでしょう。と、アリス様からの伝言です」

「まさかの未来予知」

「アリスすげえええ」

「いずれは起こるだろうとアリス様は予想されておりました。お二人ともは、大切なものが他所にあるタイプの性質ですから、ご自身の方をおろそかにするでしょうって。そんなお二人だからこそ、”願いを込めて変質させる”というスキルやギフトを持っているのでしょうから、責めませんけれどね」

「「叱られる前に気をつけます!!」」

「すばらしい」


 にっこりとモスラが微笑む。


 ▽"ソフトライト"マッチョマンが 踊りながら蹴りこんでくる!

 ▽モスラの鉄拳!


 ▽ソフトライトマッチョマンは ひらりとかわした。

 ▽なかなかできる。

 ▽ソフトライトマッチョマンに 天使の翼が生えた。

 ▽今度天界に見せに行っちゃおうか。


「コレと戯れてきますよ」


 そのまま戦いに赴くモスラ。

 その様は狩りのようだった。


 麗しい執事と、咲き誇る薔薇、背景はガーデン、といえばうつくしい絵面になるはずなのに、どうしても「怪獣大戦争」に見えてしまう。


「はたして、作っちまった私への気遣いなのか、それとも”これから気をつけろ”って戒めなのか……」

「どちらもの意味があるんじゃないかな。両方の意味を持たせられた方がコスパいいってモスラは考えそう」


 狂ったガーデンを鑑賞するしかないようだ。


 レナとパトリシアは用意されたハーブティーをすする。冷たく冷やされていて、濃いめのお茶にはカランとふたつぶの氷が入っていた。


 レナとパトリシアもクールダウンだ。


 ガールズトークでもするとしよう。


「そういえば、リオくんは元気? トイリアの町で花屋さんのお手伝いをしてくれてるんだよね。最近体調が良くないってシルフィネシアの噂で聞いたんだけど……このハーブティー持って行ってあげるのはどう?」


「ありがとう。トイリアに帰るときにもらってくよ。ハーブティーいい味だな」


「樹人族が魔物姿になったときに生成される養分を選りすぐったものらしいよ」

「どうりで効きがエグい」


 ぐんぐん回復していく感じがする。


 ハーブティーはささやかな若草色で、リオの淡い緑色の髪の毛を連想させた。

 パトリシアはしんみりと呟く。


「なんかさ。あいつは……シルフィーネの側で療養が似合う妖精みたいなやつなんだよ」

「リリーちゃんみたいな?」

「例え話だから。妖精王族のリアルはちょっと横に置いといてくれ。まあ、はかなくて神秘的ってこと……。ほら、リリーは力強い神秘だろ? けなしてはないからな?」

「うんうん。それで、はかなくて神秘的なリオくんについて、パトリシアちゃんは何をどうお悩みなの?」


 レナはマジックバッグに手を突っ込み、クッキーの籠をつかむとテーブルに出す。

 しっかり話を聞くというアクションである。


「リオは生命力が弱くて、シルフィーネやシルフィネシアの側にいたほうが体調がいいらしいんだ。それをきっかけにうちの花屋にも来たんだと思ってるし。でも、最近はシルフィーネたちのところに行ってない」

「うん……」

「あいつは、私みたいな親なし子じゃない。家の何かに巻き込まれてるんじゃないかなー。そこにかかりきりだから姿を現さなくなってて、みたいな。心配してるんだ。でもさあ、私が顔をつっこんで即解決できるような問題でもない気がするんだよー」

「高貴な人特有のしぐさをしてたもんね」

「それな。そっちの金色ネコみたいにな」


 パトリシアは、カリカリとかじっていたクッキーを、まるごと口に入れて豪快に噛み砕いた。


「だから、待つことにした」


 これは相談ではなく、報告のようだ。

 決意を聞いてほしいのだろう。


「リオと私は、よっぽど困ったときに頼りの一つも出せないような関係は築いていないつもりだから。いざという時に、ここにさえ来たら話ができるっていうような帰る場所になればいい。うちの花屋か、赤の聖地のガーデンか。私はここでしっかり仕事をこなす」

「助かると思うよ」

「だろ? なあレナ、そうやって、待ってるのはやっぱりきついかな……?」


 パトリシアの眉がハの字に下がる。

 すぐに問題に飛び込んでいけばスッキリするだろうが、相手のためにアクションを控えよう、というのはまた、パトリシアの成長だった。


 レナは言葉を選ぶ。


「私は、お兄ちゃんを待ってる。お出かけしてる従魔のことも待ってる。そんなとき、自分の足場を固めていようって色々してたら気は紛れるよ。……ううんごめん、ごまかしちゃった。”きつさ”はある〜!!」


「やっぱりな〜。時々ふと、さみしそうな顔してるもんな」


「気づいてた? そうなんだよ。でもね、まったくの幸福だけの日ってないからさ」


 レナはほくほくとクッキーを放り込んで、丸くなった頬のまま、ハーブティーを飲み、むせた。

 お腹は膨らんだし口の中は美味しいけれど、ちょっと涙目だ。


「良いことと、悪いことと、両方のバランスがあるのが普通なんだよ」

「ラナシュみたいだ」

「ふふ。良いことがやってくるのを待とう。私たちらしく地盤を固めながら」


 最後の一枚。

 パトリシアは当然のように手を伸ばし、半分にクッキーを割った。レナと分け合って食べる。


「私たちが”幸せな場所”でいられたら、きっと会いに来てくれるから」


『『チョコレートだね〜!!』』


 プヨーーン、ポヨーーン、とスライムが視界を横切っていく。

 その先には、ちょっと珍しめのスウィーツ・モム・板チョコヘビがいた。

 端っこからモグモグシュワリと食べ溶かしている。


 なんだか、はじまりの草原での蛇との戦いを思い出すような。あの頃も、今も、良いも悪いも両方あるのだ。

 その天秤が、できるだけ「良い」に傾くように。

 いずれやってくるであろう「悪い」に対応できるように。


「パトリシアちゃんの地盤を固めるお手伝い、もちろんさせていただきましょう〜♪」


「もう、自信はないとか地元だけでいいとか言い訳はしないよ。私は仕事がほしい。遠くまで届いて、ちょっとやそっとじゃ揺らがないくらい、知る人ぞ知っていて忘れられない、有名処になりたい」


「頼りにしてくれてありがとうね」



 ▽スカーレットリゾートに【アトラクション・花狩り】が追加された!

 ▽スカーレットリゾートに【アトラクション・チョコ食い競争】が追加された!


 ▽名誉演出家として パトリシアが就任した!

 ▽予定補佐として リオの名が書かれた。







読んでくれてありがとうございました!


自由に訪れる友人たち。今誰がきてるの?ってレナさんたちに尋ねてから書き始めました。



六月も頑張ってまいりましょう!

今週もお疲れ様でした。


よい週末を₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑



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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 今回も楽しく読ませて頂きました。 おぉ! お久し振りの【乙女チック】パティー【ロマンチスト】さん。 ……すっかりと商売人になって……。
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