天界への訪問
▽レナたちは 天界の入り口にやってきた!
「まさか依頼をきっかけに尋ねる事になるとはねぇ……」
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探索クエスト【曇り空の謎を追いかけて】
緊急度 [A]
攻略条件:謎を解くきっかけになる証言を提出。
謎を解くきっかけになる事象を報告。
現状共有:ジーニアレス大陸上空は太陽の光が遮断されている。
日中でも暗いという自然環境の異常事態。急激な変化ゆえ元に戻すことが望まれている。
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このように書かれているのは薄っぺらい黒紙、銀のインク。
悪魔契約書ほどは高価ではなく、一般の書類よりは格が高い。
予算ギリギリを攻めたのだろう、ということがわかる。レナパーティ以外にも配られている。
名指しで指名してこなかっただけ、前回のペチカへの塩対応が効いていたようだ。
「でも、冒険者ギルドの改革が行われているってひしひしと身近に感じられるね。これまでの悪いところを直すって言っていたこと、達成してほしいなあ。そのためなら、こーんな報酬:出来高制、みたいな中途半端な依頼書を作ってきたりとか、改革途中がそれなりに雑でもガマンできるからさ」
<冒険者ギルドに”あー改革してよかった!”って思ってもらうために今回は成果を上げるおつもりですもんね>
「この方針続けてほしいもん。冒険者ギルドにもいい進化をしてほしいから」
すなわち”都合がいい進化”をしてほしいという欲求だが、レナの魂はあいかわらず魂の輝きが善人のそれだ。
魂をしっかりと”視た”ルーカとリリーは、にこりとした。
キラはホッとしている。
ラナシュにレナの考えは認められ続けている。
今回は”探す”ことに特化したメンバーとなった。
ルーカ、リリー、クレハとイズミ、キラとマシュたん。
メンバー選別のもう一つの条件は、シュシュの特異性を受け入れられる人材であること──。
シュシュ履修歴の短い後輩たちであれば、久しぶりに会った先輩が異常者になっていたなどというショックを受けることになるかもしれない。
それくらいシュシュの”ご主人様禁断症状”は高まっているであろう、と満場一致の意見であった。
「ズーズーさんのことは、ラズトルファさんやハーくんが見てくれているし。こっちは捜査に集中しちゃおう」
「「了解ー!」」
「クレハとイズミのそれは、スライムボディで作った翼だね。似合ってる」
二人は嬉しそうに翼を動かした。宝石をうっすらと伸ばして一枚一枚羽根にして重ねたような、おそろしく美しい工芸品の翼を背負っている。とんでもないものがなじんでいるのは、二人が宝石にも劣らない煌びやかな容姿を備えているから。
けれど「ニコッ」としているのはレナからすればひたすらに可愛い。気軽にいえーーい!とハイタッチ。
「天使族のみなさんは翼がある存在しか天界に受け入れてくれないんだっけ。さて、ルーカさん進化のお時間ですかね?」
「からかうのやめて?笑うから。緊張が途切れたら僕も己を律することができなくなるからね? はじけすぎた金色猫を見てみたい? アイマスク取ろうか?」
「すみませんでした」
「というわけで、僕はシヴァガン政府から買った魔法道具で翼を。マシュたんには翼細工のリュックを背負ってもらって。キラはもしも姿を現すなら立体映像でカバーしてね。リリーはあいかわらず蝶々の羽が綺麗。これでいいだろう」
「あとは、あちらには、私の従魔が進化したのかもしれないって勘ぐってもらえばいいわけですね」
「そういうこと」
実際は違っていても、レナパーティの特異性を知ってしまっていれば、深読みしてしまう。その誤解を期待しているのだ。できるだけシンプルにことを済ませたい。
レナだけはそのまま行くことにした。
飾らない、シュシュのご主人様として。
「髪飾りに翼を仕込んでいるからオッケーにしてもらいましょう。大丈夫です、これはヒーロー少女の正装スタイルなんですから……!」
三つ編みの根元のところをクルリと丸めて、おだんご結び。翼風の飾りをつけたら、はい完成。
ちょっぴり己の赤歴史と向き合いながら、レナは、天界の扉を叩いた。ここでレナのスタイルが認められたかどうかがわかる。
天界の扉は、シヴァガン王国からしばらく離れた白土地帯にある。
白土を中央に向かって歩いていくとやがて星砂のようにサラサラしていき、その砂に埋もれて死んでしまうので浮遊力のある者しかその先には進めない。やがて地上の雲がわたあめのように丸まった地帯があり、真っ白な空間にポツンとある扉を見つける。これは魂が黒くなった者には触ることができないのだという。
レナは「あった」とすぐに見つけた。
そして扉が開いた。
レナはやったー!と大げさに喜ぶ。
扉の先には、階段がえんえんと続いている。それを浮遊しながらの軽いステップで登っていくのだ。
この階段は、魂の綺麗さによって上がってゆく速度が変わるという魔法がかけられている。
体感として、レナたちは10分もかからずに登っていくことができた。
「なんだか僕は主人の魂の綺麗さを分けてもらっているだけのような気がするよ……」
「ルーカさん何おちこんでるんですか。そんなの、ラッキーでハッピー♪でいいんですよ。私がいつまでも魂が綺麗とも限らないんですし、階段を登りたいときにたまたま魂が綺麗だったの、ね、ラッキーでしょ?」
「そうだね」
ルーカが震えているのは、笑いそうになったのを堪えるためである。
ここから先はよその種族のパーソナルスペースなのだから、丁重に訪問したい。
定期的にそれぞれの翼を羽ばたかせるような仕草をする。
リリーがスライムジュエルに[浮遊]を付与したアクセサリーがこっそりと活躍していた。
▽上の扉に たどり着いた!
▽コンコンコン。
天使族がずらりと並んでレナたちを迎えた。
ふかふかした雲のじゅうたんは浮遊力があるものだけが沈まずにいられる。
注目されまくっている最初の一歩をレナが進むと、ちいさなざわめきが生まれた。
そして静まる。
どうやらレナたちは条件を満たした訪問者とみなされて、どうやって条件を満たしているのかはわざわざ尋ねないことにされたようだ。
天使族たちが淡い桃色の髪を揺らし白の布をふんわりと巻きつけている様は、淡い梅林が広がっているかのよう。清らかな、清らかすぎるほどの空気が止まった空間だった。
その人垣を割ってくるように近づいてくるのは、黒装束の数人。
濃い桃色の髪をゆうゆうとなびかせて、ゴスロリに匹敵する重装備を見せつけてくる。
レナは空をあおいだ。
(うん、うちの子が影響を与えた一団だろうな……!?)
(レナ、シュシュはあの中にいないよ)
(そうなんですか?)
(四人が担いでいる御輿に乗っているように見せかけて、あとでシュシュだけ現れるつもりかもね)
(ちょ、バラさないであげてください。私、知ってても見事にリアクションできるかな!?)
結論、レナは見事にひっくり返るリアクションを披露した。
「あ、引っかかってくれました?」と無邪気に喜んだのは、天使族総長の座をもぎ取りつつあるディス(正式名称略)である。まわりの若年層の天使族は「「「「ウェーイ」」」」と紙吹雪をふりかける。
ここだけ空気感が違うのは明らかであった。
レナは、うちの子がどうもすみません、という気持ちになった。
「あ、えっとですね、安心してもらおうって思ったんですよ。もしもここでシュシュが主役をやってたら”くおら!この非常識娘はこれだから!”って長老たちに言われていたはずなんですけど、それを私が変わったのでトラブルは生じませんでした。このように日々、お嬢さんを大切に守っていますからね」
「ありがとうございます」
▽レナ、思わず熱い握手をかます。
そこまで先回りして考えてくれる存在がいるなら、シュシュはこの天界でも、苦労もあれど幸福に日々を過ごせていると想像することができた。狙ってもらったとおり、安心できたのだ。
黒い衣装によって、ディスたち若人の桃髪の色の濃さが引き立っている。
ワナワナと震える白髪の長老たちが口出しをできないのは、天使族の血統を保ちたいという、彼らのプライドが刺激されているからだ。
立派な桃色髪を持つことを自信に変えることができたディスは、もう長老たちの言いなりにはならないと決めているらしい。前よりもしっかりと立っている。
「さあ、シュシュが来ますよ」
ふんわりと微笑んだディスが、空の高いところを指す。
たっぷりの白の布地を羽衣のようにまとったシュシュが、六枚の翼を大きく広げながら降りてきた。
赤い瞳がつややかに光る。
唇が嬉しそうに弧を描いた。
すたんっ、とシュシュは足先を揃えて着地する。
翼をたたんでから、布地のすそをさりげなくさばき、なめらかに体に沿わせながら礼をする。
それはそれは優雅な光景だった。
「ようこそおいで下さいました。……どう?ご主人様」
「またすごく素敵になったねシュシュ〜!歓迎してくれてありがとう」
「もちろん。もちろんだよ。ずっとこの時を待ってた。ずっとずっと今日を待ちわびて、天使族のみんなと修行をしてたの。シュシュはすごく素敵になったかな」
「すごくすごくすごーく、素敵!」
(まさかのおしとやかさだ〜!)
レナは感心していた。
久しぶりに会ったら暴力的に飛びついてくることも覚悟して足腰を鍛えていたというのに(毎日スクワット100回、腹筋100回)。
シュシュに握手のための手を差し出す。
そっと握り返してくる感触が優しくて、キュンとさせられてしまった。
(シュシュ、無理はしていないみたい。こんなに私が近寄っても様子が乱れないんだから。ああよかったぁ)
ちょっと荒療治だったかも、とかまえていたレナは心底、安心することができた。
「あのね。天界の扉に近いところにいた時から、もう会話は聞こえていたの。冒険者ギルドのクエストで来たんだよね」
「そしてレナパーティのみなさんは天使族のふるさとの困り事に心を寄せてくださっているのですね。私からも感謝の気持ちを伝えさせていただきます」
シュシュは依頼用紙を覗き込み、内容を確認して、ディスはまわりの様子をチラリと見てから発言する。よく息が合っている。さすが、キラオンラインゲームで連日共闘をしているゲー友なだけあるようだ。
(ディスさんたちも異常現象を把握していたんだ。地上だけではなく、このふるさとでも異常が現れていたんだね。もともとの光景を知らないから比べにくいけど、雲の上っていうにしてはまぶしさが少ないような? 天使族のみなさんが並んでるから遠くが見えにくいけど……)
「シュシュ。案内しよう」
「うん、みんなついてきて。シュシュが案内をする以外の場所には行っちゃダメだよ、お願いね」
レナにずいっと近寄って渾身のお願いポーズをするシュシュ。
レナはホワーーと見惚れて、こくこくと頷いた。
手を取られてレナは歩く。
シュシュは気取りながらもぴょんぴょんと飛び跳ねるようなステップで進む。抑えきれない喜びくらいあるに決まっている。
ここは久しぶりに会ったばかりのシュシュに華を持たせてあげよう、と他の従魔は生温かい目になる。
(だって、ねえ。シュシュのあの様子は新たな愉しみ方をしていそうだよね)
(("おしとやかな自分を見て驚くご主人様を観察して萌える新境地開拓"))
(クスクスクスッ。シュシュ、工夫してて……えらいっ。ご主人さまの、新たな表情、見れて……よかったね♪)
目と目があっただけでもこれくらいの意思疎通はもはや可能な従魔たちである。
<そうそう、シュシュさんからあらかじめオンライン相談が来ておりました。天使族の里でレナパーティが受け入れられるようにしたい。そのためには自分が暴走するためにはいかない。どうすれば己を律することができるか? 目の前にロールキャベツをぶら下げてご褒美を意識させるが如く、おしとやかな自分を演出してみるプランをとりました。提案したディス氏は星3つ☆☆☆で御座います>
周りからはあまり好意的ではない視線が依然として存在している。この環境下でのディスの判断はじつに適切だったのだろう、ということがよくわかった。
今も彼が、レナの視線をわざわざ誘導していた。
「あそこに見えるのが天使族の皆が暮らす家々です。下界の家のような屋根はなく、ふっくらと雲を積み上げてそれぞれの好みの寝心地にします。ベッド周りの空間を家と呼びます。その周りにある植物は天空花というツル植物で、香りを嗅いでいたら食事は必要ありません。貴重なので食べないでくださいね」
「シュシュ、葉っぱを食べちゃったことがあるの。お腹がまあるく膨らんだよ。だからご主人様も…………お腹がまあるくなったら可愛いいいいいだろうけどやったらダメだよ……?」
「はい、やりません」
「……」
▽シュシュの目から ハイライトが消えた。
▽きらめきを取り戻した(気合い)
▽えらい!
「家々の方はまたの機会にしましょう。このたびは”暗闇雲”が湧いた泉を見てもらおうと思います」
「湧いた……?」
「突然現れたんです。見てもらったほうが早いかと」
レナは周りを眺める。
雲の上は明るいし、空には太陽も見える。どのような仕組みになっているのか、地球のように宇宙に浮かぶ星なのかはレナにはわからないけれど、世界内の理屈は同じらしい。
それなのにこの淡い色合いの世界に"暗黒色"があるという告白が不思議だった。
「……(いやこれもある意味暗黒色か)ディスさんの服装はどこで調達を?」
「キラオンラインショッピングで」
(いつの間に!)
どうりで地球的なゴシックデザインである。天使族が着ているからこそ背徳的な魅力が醸し出されている。
ぞーろぞーろ、レナたちの少し後ろを天使族たちがついてきている。
どの天使族も一見若者のように容姿年齢が止まっているため、この世ならざる神聖な行列のようであるが、実際にはご老人たちの散歩であった。
なかなか地上に降りていかないご老人ほどレナパーティに興味津々であるため、世間話がさかんである。音色を奏でるような透明な声が幾重にも重なった。
「くうう。ふるさとの空気を乱しおって……!」
苦い声でこれ見よがしに言ったのは、現天使族長である。
レナにも理由はわかる。
シュシュの登場で天使族をとりまく未来が大きく変わることになり、それなのに狙い通りにはことが運ばないどころか、若者のフレッシュな感性の波が天使族を垂らしこんでいるのだ。ゲームという魔のものに心酔している若者の多いこと、と彼の愚痴には疲れが混ざる。ゲームを手放さない若者がよほど堪えたらしい。
そんなものに触れたこともなく、それでも不便を感じずに生きてきた長老たちには理解ができないしする気もないのだろう。
しかし世代のニューウェーブはいつでも押し寄せるものである。
平成日本のインターネット時代を生きてきたレナはその移り変わりをよく知っている。
「いいところだね」
だからこそ言った。独り言だ。今のここがいいところだと話しかけた。
「あっ、そうでしょ、そうでしょっ? ご主人様、この光景を気に入った? この光景の中にいるシュシュのことが美しくて大好きになってる?」
「その通りだよ」
「ししし従えちぇうっ……!」
「そこまでですシュシュ! それ以上はいけない。またあとで夜通しの推し語りを聞かせてもらいますから今は耐えて」
「うぐうぅぅ」
(あのシュシュが時と場所をわきまえている……!)
レナは胸を押さえる。
ああ、会えない間に可愛い従魔はすっかりと常識を身につけていたらしい、と。
<それは”擬態”と呼ばれるものであった>
▽と、キラのツッコミは冴え渡るのであった──。
目的地の泉が見えてきた。
淡い空色が溶け込んでとろとろの雲になった不思議な泉は、中央に向かって窪んでいて、そこを覗き込めば棚田のように段がありささやかな滝になっているのだという。ふだんは出口として使われているところだと聞いて(なんだかラビリンスの出入り口の関係に似てるなあ)とレナはふと思った。
ボロを出さずに案内を終えようとしていディスたちのことが、天使族長は面白くないらしい。
「冒険者ギルドもどういうつもりなのか。お前たちのような異常者をどんどんと自由にさせていって……!」
レナの耳がピクリとする。
シュシュの耳がビビビビ!!と反応する。従魔たちの気配もピリついた。
やばい!とレナが対応する。
「私たちが信用されているからなのかもしれませんね」
「……ほほーう。そなたたちが悪さなどしないとして?ん?」
「いいえ。レナパーティのリーダーの藤堂レナは、従魔のためならいい世界を保とうとするはずだ、って愛情由来の信用です」
天使族長はぽかんとした。
薄桃色のくるくるの癖っ毛が、みょいん、と跳ねる。
それはまるで理解のできない問題を差し出された少年のように困った顔をしていた。
レナの回答の意図はもうひとつあり、すなわち、従魔を悲しませないようにしてほしい……という脅しも含んでいたのだが、今の天使族長はこの議題を考えるのに忙しいらしく、余分な嫌味を言ってくるでもない。
(天使族の人たちはずっと世界が変わらずに暇すぎたのかも)
(あ、そういう感じの沈黙なんですか!? なるほど……今の物言いに興味を持っての思考タイムなら、そこへの興味は嬉しいかも。主従愛について理解してほしいな。目覚めなくてもいいけど)
▽マゾヒストの数は足りているのでもういいんです。
▽ほどほどの脳トレになりますように。
▽レナは目を瞑ってそっと手を合わせた。
立ち止まったシュシュの足がガクガクしていた。
ディスがさりげなく支える。
「シュシュの、シュシュのごしゅじんしゃまぁ……♡♡♡」
「ああシュシュ、気づかれないうちによだれを拭いて……!」
シュシュはあられもない表情を引き締め直す。気合いだ。
しかし、さらなる沼に転がり落ちてきたことは明確であった。
旅を共にしてきた従魔たちは、生温かい表情でシュシュに向かって手を合わせる。己の再開時の醜態を思えば人のことなんてとても言えないのだから。お互い様であった。
▽主従の絆が 深まった。
▽泉に 辿り着いた。
「なにあれ。……漆黒のブラックホールみたいだ」
太陽の光すらも呑み込んでしまう真っ暗闇の球体が、泉の水面よりもわずかに上のところで静止していた。そこだけラナシュ世界の法則から外れて異質なものを貼り付けられているかのような違和感があった。
▽Next! 現物調査
読んでくれてありがとうございました!
シュシュ〜!!書きたかったよ〜!!!!
遅れてごめ「ほんとだよ??(ウサキック」
ゴールデンウィークは家庭に密着してる人にはかえって忙しいですね^^; それでも、ささやかな幸せを見つけやすくなったのは歳を重ねたおかげかもしれません。
今週もお疲れ様でした(布団にバターーン)
よい週末を₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑




