昼間にみる夢
▽夢魔はレナに抱かれたがるようになった。
▽従魔の耐えどころ!
▽スキル[従魔回復]はメンタル面にもよい作用をするよ!安定感!
▽リフレッシュ・バトルをして 新鮮な食材を手に入れた!
▽ごはんを作ろう!ごちそうさまー!
▽主従の絆が深まった!
「お出かけをしようか」
魔王国が管理している土地の中から選択。リラックスのためにオススメの原っぱにやってきた。
樹人族によってきれいに雑草が整えられており、翅を持つ魔人族が語りかけて昆虫も入ってこない。小川のせせらぎとともに清らかに歌う淡水マーメイドの魔人族がこの地の管理人である。
入場料を支払って、レナたちはしばらく滞在することにした。
「まるでキャンプみたい」
なつかしく思い出すのは日本のキャンプ場だ。
近頃はおだやかに、レナの記憶はゆっくりと実感を増している。
「さて。ここで眠ろうと思います」
▽ついてすぐにお昼寝!
そのつもりで来たのであった。この原っぱの雰囲気によって眠気を誘われたという利用者はよくいるものの、もともと寝るところを探してやってきたのはレナパーティくらいである。
今日ここにいるのも、チョココ・マイラ・アグリスタ・ハマル・キサ。
慣れていない相手だと夢魔がまた緊張してしまうかもしれないからだ。
ピーチィにも声をかけたものの、昨夜面倒なお客がやってきていたらしく、今朝は疲れていてイライラした気分を持ち込んでしまいたくないからと、同行を遠慮していた。レナに「夢魔様のことをよろしくね」と頼んでくれるくらいは信用してくれるようになっていた。
「ハーくん。いまならよさそうなんだよね?」
「はーい。夢魔さんに心の隙間ができているような気がしますのでー、ふれあってみましょー」
ハマルが、よっこらせー、と大きなヒツジベッドになる。
そよ風に羊毛がさわさわとゆれて、とびつきたくなるような質感だ。
▽そーれ、もっふーん!!
レナたちがいつも使っているシャンプーシリーズ特有の淡い花の匂いがするけれど、それよりも原っぱの自然のにおいの方が優っている。そのため夢魔もリラックスしやすいだろう。
少しずつ、あのゴミ溜めの近くから連れ出して、心地のよい香りというものに慣れさせてきた。
悪夢を見てしまうことには、”ニオイ”が大きく関わっていると寝具店のオーナーは言っていた。
一理ありそうだ、とレナもハマルもとりいれるつもりである。
リラックスできるニオイ、自然の音、もふもふの寝具、それに守られているという安心感。
これぞ、悪夢撃退法!!
▽レナは 期待している!
『悪夢を見ていないときの夢の殻ならー、この子の本来のココロというものがですねー、見られると思うんですよー。ボクって鈍感にふわーっと理解しているんですけどー、理解しているのできっと大丈夫でーす』
「自己肯定感が高くてステキ。それにいつも助けられてるよ。背中で踏んじゃおうかな」
『やったーあ。わーい』
▽背中からダイブ=つまり寝るということです。
ぷっ、くすくす、とアグリスタとマイラが笑っている。二人の会話が軽快だったし、主人や先輩がどっしり構えてくれていると不安も薄れてくれるものだ。
「レナ様、ここ、ここなのじゃ」
「キサの懐が開いてますねっと!」
レナがころんと腕まくらに転がっていく。
キサが反対の腕をそっと上に置くと、幅広の袖口が、まるでふとんのようにかぶさってとてもいい塩梅だ。
「極楽、極楽……」
「ごくらく? ってなんですか、レナ様?」
<ピーピーっ! マスター・レナ、ちょうどよく言い訳をして下さい>
「ええと極楽っていうのはね。”ご”ごの日差しの中で”く”つろぐのって”ラク”ちんだー!……の略です」
「……」
▽アグリスタは不安になりかけた。
▽チョココのメンタルに[共感]した。
▽落ち着いた。
いつでも安定していることはチョコレートの味の安定につながる。
チョココは現在、ホワイトウッド・フレーバー。ホワイトチョコの表面には木目のような模様が刻まれている。
ホワイトテイストのなめらかな味に白樺の爽やかなニオイが香る、上品な逸品だ。
チョココは成長して、魔王との話し合いを見ていて”ニオイ”について学びがあったらしく、元のテイストへの応用が現れ始めた。
チョココはこのたびの夢魔を落ち着かせる香りになるべく、微細に調整している最中のため、ラナシュ世界に情報をなじませていくべく、ずっとおとなしく己に集中している。
余所からの影響をうけやすいアグリスタの抱き枕になっているのだった。
嗅いでもかじっても美味しい。
(こうやってみんなで物事を達成しようとして、協力できているのが嬉しいなあ。それがクエストのためを越えて、誰かのために、ってところまで手を伸ばせるようになったことが更に嬉しい)
レナはみんなを優しい目で見渡す。
それから、夢魔に集中した。
手の中にある不運なことは、解消してあげられたらいいな、と思うのだ。
『いきまーす。スキル[快眠]おやすみなさいませ〜』
▽レナパーティは すややかに目を閉じた。
ふわふわとした実感の中で、レナの意識がそっと覚醒する。
体はワタに包まれているように軽やかで、地に足がついていない。
夢の世界に招待された意識は、そういえば日本における「幽体離脱」をイメージさせる。
もっとも、体から意識が離れるのではなく、体の中にある意識がさらに深くもぐりこみ、ラナシュの「現実と情報のはざま」にあるという立ち位置らしいが。
「……わあ。晴れている昼間って、夢の世界もすっきりとしてるよね」
「でしょー」
「ハーくんはよくお昼寝してるもんね」
「お昼寝というのがボクにとってはお勉強なのでー」
「いつもお疲れさま」
「はーい」
ハマルは軽く返して、頬を差し出す。
レナはきゅっとつねってあげた。
「しばらくは大きな姿でいますねぇー。見たことのある姿だと夢魔さんも落ち着くと思うのでー」
「……じゃあ、この方は?」
マルクである。
かつての戦友というべきか、ナイトメア・マルクである。
彼が、明らかに尻込みをしながらつっ立っていた。
なんなら不服そうですらある。だってハマルにコートのすそを掴まれて逃げられないようにされているので、仕方なくここにいるという感じだ。
レナは理解した。
このマルクが役立つ案件であるため、ハマルが恩をふっかけて連れてきたのだろう。
ハマルの中に遺恨は少なく、使えるものは使う方が優先である。
「なにやらうちの従魔が頼んだようで。それではよろしくお願いいたします」
「……」
言葉の縛りがあるためか、マルクは答えようとしない。
しかし頷いたのをレナもハマルも見逃さなかった。
「私たち、夢魔さんの夢の殻の中を訪ねたいんです。そのために適切に力を貸してほしいなって私は思っています」
「マルクおじさんに頼みたいのはねー、この子の夢の世界を”この状態のまま保って”ほしいんですよー。ボクたちが入った隙間から悪夢が入り込んだりしないようにー、あとボクたちが殻の中に入ったあとに閉じ込められたりしないようにー」
こくり、と頷くマルク。
どうやら得意分野のようだ。
「あと一緒についてきてー」
「……!?」
「なんか危なかったら教えてくださーい。マルクおじさんはネガティブなのでー、そういう人って危機をイメージする力に長けていますからー。わーい助かるー」
マルクはレナを睨むが、
「外にいなくてもハーくんが言っていた調整ができるなら、私も、一緒に歩いてほしいです」
「……」
レナにも遺恨は少ないらしい。
マルクは遠い目をしているようである。
契約書のない約束事は理不尽なことが多い。それにマルクはスイの様子見ということを頼んでいる立場なので、てきとうな仕事をするわけにもいかない。そんな手抜きをしたらハマルにバレるだろう。その点はけして鈍感ではなく、実のところハマルは「自分にとって不要であろう物事に鈍感であれる」だけなのだ。数少ない欲しいものについては目敏いくらいではないだろうか。
「よいしょ」
ハマルは、夢魔の周りにあった卵型の殻をわずかに移動させる。
もふもふとした羊毛の手袋をして、そうっと傷つけないように気をつけながら。
夢魔の夢の殻のまわりを、従魔の夢がぐるっと取り囲むような様子になった。
周りから見えづらくする、ことは余所の悪夢の介入を防ぐ効果があるらしいのだ。弱い夢の殻が近くにあれば逆に”呼んでしまう”こともあるらしいが、今ここにいるレナパーティであれば、悪夢を寄せ付けないくらいの精神力を保っている。
こうして周りのみんなが眠ってくれていることで、手厚く守られるのだ。
ふと、レナは、ここにハマルの夢の殻がないことに気づく。
「ハーくんの殻はどこにあるの?」
「ないんですよー。夢属性の魔物ってねー、ここにいるボクが卵の殻みたいなものなんですー。だから姿を自由に変えられますよー。ほーら、ほーら」
ハマルは幼子に。そして大人のように成長して。今度は女性らしくもなり。小さな羊になってから、また元の少年姿になった。
「こうなりますようにー、って念じたことを夢の中なら可能にできるのー。夢見がちでお昼寝大好きにもなるよねー。育った夢魔物ならー、それを現実にも持っていけるからー、ボクってとっても強いんだよー? めえめえ!」
ハマルは手のひらを外側に向けて指を折り曲げ、オオカミのようなポーズをしてみせる。
そんじょそこらの肉食獣よりは確実に強いだろう。蹂躙できるヒツジである。
「レナ様のお力だよー」
まちがいない。
「一緒に育ってくれてありがとうね……!」
ひしっ。レナパの親バカが炸裂している。
マルクが迷った末、
「……”夢魔物が夢見なくなれば”……”消滅する”……」
枯れた声で告げる。
「そうなの!? つまり夢の世界で夢を見ているからこそのハーくんたちなわけで、わざわざそれを言うってことは、夢の世界でハーくんたちは強いけど消滅したら現実的にも消滅しちゃって、私たちみたいなのは弱いけど心傷ついても消滅はしなくてすむ、みたいなこと!?」
レナの理解が早い。
世界には情報がある。
情報があるから世界が作られている。
情報の方を変えてしまえば。
世界の方が変わってゆく。
普段、キラがささやかにいじっているのがコレだ。
夢の世界で莫大な力を得ている夢魔物ならば、そこで傷つくことによるリスクも莫大になる。
それがラナシュにおける【幸運不運の天秤】なのだろう。
「そうでーす。キラ先輩がいれば世界データくらいは残してもらえるかもしれませんけどー。再構築したらボクそのものではないのでー、いやですねー」
「させないってば。ここってそんなに危ない感じなんだね。大事に歩もう」
「はーい」
「いつものラナシュも危ういけどねー」
「たしかにー」
「じゃ、レッツゴー!」
「いえーい」
夢魔の夢の殻に進むレナとハマル。
(それしきで済ませた……だと!? 己たちが消滅するかもしれないという恐れを……。彼らは……バカではない。ならば、この物事の大きさに動じられないくらいの辛い体験をしてきたのだろうか……。……)
マルクがしんみりとした靄をまといながら、レナたちの後に続いた。
「ほうほう。この隙間から入るんだね。40センチくらいか。頭は入っても、肩が削れちゃうな……」
「レナ様ったらー。小人にして放りこんであげますよー」
(土足で上がり込もうとするな!! やはりバカかもしれないのか!?)
そういえば赤の屋敷への侵入方法もバカだったな、と思い返したマルクであった。
夢の殻は繊細なものであり、便利なものなのだ。
わざわざ割れ目から入り込んでいかずとも、そうっと馴染んでいけば表面から膜をくぐるように侵入することができる。この方法がマルクにとっては当たり前であった。
というわけで、レナとハマルを両脇に抱え込み(夢の世界では軽いため)マルクは前に踏み出す。
靄をまとっているマルクは、何者なのか判別されることもない。
認知されるのは、夢魔にとって慣れているレナとハマルだけのはずだ。
幕を通り抜けるときに、レナたちが呟いた。
「とんとん。君に会いにきたよー」
「ヤッホーボクたちでーす」
(……挨拶をしたかったのか。そんな発想、自分にはなかったな……)
どこの誰の夢であっても、マルクは通り過ぎてゆくだけであった。
交流することなどなく、冷めた目でよそから見物していっただけだ。ときたま役立ちそうな夢があれば戦力としてストックするというやましい私欲があったため、見つからないように逃げただけ。
スーーっと入ってスーーっと出て行く、それは厄介な夢の亡霊であっただろう。とマルクは思う。
(……どうなることやら……)
夢魔との会合が上手くいくところを見たいわけじゃない。
しかし失敗してしまえと思うわけではない。
マルクはまたしても見守りに徹することにした。
レナたちの行動によって何か得るものがあるかもしれない、予感を抱きながら。
読んでくれてありがとうございました!
書いていて、レナさんたちに「ここんところの気持ちどうなん??」とヒアリングすることがよくあるんですけど、驚くほど、ドロドロしていませんでした。(曖昧な表現してしまいすみません)
他事にいっしょうけんめいなので!!
その悩みや恨みはいったん保留!はい進もー!って感じです。
見習いたい(ほんとに気持ちがよい)
まさか夢の中で入る前かい!!とツッコミましたが、この子たち丁寧なんですよね本当に。こちらのイメージに影響するくらい主張してきたぶんは書いてあげようと思います。WEBの良さ。ホッ
今週もみなさまお疲れ様でした!
よい週末を₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑




