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未熟な夢魔を追って

 

「そうなの──。夢魔がいたのね?」


 ピーチィが確認する。

 レナはこくりと頷いた。


 レナが行なった説明は「悪夢を引き起こした原因があった。それは未熟な夢属性の魔物が近くにいたから」……というもの。


 マルクのことは話していない。

 彼は遥か遠くから、レナパーティの夢の中だけを目的に渡ってきた者だからだ。これから淫魔のお宿♡の周囲に迷惑をかけることはないだろう。


 マルクがそこまでの制御をできているのは、高レベルの夢属性魔物だからこそ。


 魔王国内にいるとみられる夢属性の魔物は、未熟ゆえに悪夢を垂れ流しにしている可能性が高かった。


 ハマルはそのように判断した。


 ジーー、とピーチィが眺めてくる。

 レナは見つめ返した。嘘はないから。隠しているところはあれど、淫魔族に恩を返したいのが本心なのだから。

 これまでの旅路でレナたちがまだ有名でないときにも、淫魔たちは宿を貸してくれた。


「あなた、冒険者ねぇ。ほどよく隠して生き抜くのね」

「はい。それなりに」

「夢属性の魔物、かあ……」


 ピーチィが言い淀む。指先をいじいじ。


「それは、すごいことだわ。淫魔が尊敬しているもののひとつに、夢魔の系統があるのよ。私たちはお客様のよい休眠を目指していて、そのための技を磨く。それでも必ずいい夢を見ていただくのは難しくて[快眠]をスキルとして授かる淫魔は稀なの。難しさを知っているから、その技術を尊敬しているんだわ」


 ピーチィがため息を吐くと、艶っぽく、薔薇の匂いがする。


「それなのに能力を活かせていないなんて残念だこと……」

「あの。その夢魔さんを捕まえてこようと思います」

「……。……? ……ムリでしょう?」

「やれそうだからです」

「ええ? 本当に?」


 レナパーティは密やかながら評判の冒険者だ。

 淫魔ルルゥお姉様のお気に入りでもある。

 けれど「夢を見させる」という外側に現れない特徴を持つ魔物を、どのように発見して捕まえようというのか、ピーチィにはピンと来なかった。


「捕まえるって発想はなかったわ。けれど、もしかしてわハマルさんならできるのかしら」

「ボクを従えているレナ様が、ってことにしておいてー?」


 よいしょ、とハマルがレナを前に押し出す。

 ぼいん──と、胸元に顔をつっこんだのは事故であった。サービスオプション30000リル分相当のお得であった。(ピーチィは高級淫魔であるので)


「ぷはあ。つ、捕まえましょうっ。せめて、この辺りの人に迷惑をかけちゃいましたよって、謝罪のチャンスがあってもいいと思うんですよね。ピーチィさんたちもコウモリを使ってまで探していたのは、会ってみたかったからではないでしょうか?」


 ピーチィは考える仕草をみせた。

 キュッと腰を曲げてつくられたしなりは芸術作品のようである。そして決めた。


「あのね。連れてきてくれたら……嬉しいわ。どうしても夢魔を見てみたいのよ。快楽を守る淫魔として、快眠を扱う夢魔というものを──」


 ピーチィは完璧主義なのに眠りのスキルを持っていないことがコンプレックスなのよ、と……他の淫魔が小声で教えてくれた。

 はやし立てる雰囲気もあり、レナは苦笑し、早めに切り上げることにした。


「個人依頼として承ります。これからもレナパーティと、ハーくんたちをどうかご贔屓に」


「ハマルさんからいいサンプルを沢山頂いたもの。その評価と、同等以上のサービス♡をお約束するわ」


「わーい。貰えるものは貰っときます~」


 レナたちはお宿♡を出る。


(それにしても、夢魔がこんな風に評価されているなんて)


 ところ変われば評価も変わる。


(もしもマルクさんが淫魔のお宿♡に一度でも来ていれば(ピュアそうだから想像ができないけど──)また違った未来があったのかもしれないのになぁ)……と、レナはふと感傷的に思ったのだった。





 魔王国の大通りをゆくレナパーティ。


『それにしても急きょ依頼だなんて驚愕ですし。レナ様が勧めたということにも驚いたですけど?』


 マイラに抱えられたチョココが、文句をつける。

 この二人は一緒にキッチンにいることが多く、仲が良いのだ。


「チョココは早く帰りたかったのかな? つき合わせちゃってごめんね」

『それじゃないです。理由を知りたいですし。きちんと言ってくれなきゃ、脳みそ生クリームだから分かりませんし?』


 ビターな返答が返ってくる。

 ビターであってもホワイトであっても、素直なのがチョココのいいところなのだ。

 問題提起をしてくれる存在がいてくれると、他の従魔が「言いたいけど言えない…」と思っていたことも解消できる。レナは気を利かせてくれた御礼にチョココをひとかじりした。(スイートミィ!がご褒美の基本である)


 ひと休憩するため、レナは街の屋台で、わたあめを買う。

 夜色のわたあめに、星形のシュガーパウダーが振りかけられている。

 それを買い与えたら、チョココも文句を抑えておとなしくなった。


 ▽極細形のチョコレートの生成が可能になりました。


 道脇の長椅子に並んで座って、みんなでわたあめをパクリ。


「この夢の問題を放っておきたくないと思ったんだ」


 レナの心が決まっているなら、従魔たちにも迷いがなくなっていく──。

 これを聞いておきたかった。


 レナはふと、マジックバッグをなでた。この中には、先ほど手に入れたばかりの学生鞄が入っている。


「夢の中のこと。私ね、”同じ”だと思ったの。もしも自分が囚われの身になった時に、頼れそうな存在がいたらなりふりかまわずにそう願うだろうって。”従魔をどうかよろしく”って」


 従魔は夢の世界で何があったのか、大体のことを知っている。


 経緯としては、ハマルが[夢の世界]のことを凝集してアグリスタに夢見させて、その感覚をここにいる従魔全員に分け与えたのだ。当時の空気感までも[共感]することができた。


 ──レナが、もしも囚われの身になった時に。

 ──そうなったとしても従魔は大切にされるだろう。


 この保証を得て、アグリスタとマイラが泣いてしまい、キサに励まされた。

 ▽涙型チョコレートの生成が可能になりました。


「ふわあぁ。ボクも泣いちゃいそー。愛情ですねぇー」

「そうだねぇ……」

「レナ様のお優しさはそのままであって欲しいですー。でもー、たまには叩いてねー?」

「あ、あはは」

「笑ってごまかそうとしないでー?」

「そのセリフをこの局面で言ってるの聞いたことないよハーくん!」


 つねり。

 ハマルの頬がぷにっと持ち上がる。まだまだハリツヤピカピカの柔肌だ。

 でも見た目以上に、心がどんどんとお兄さんになっているようだともレナは思う。


 ハマルはうっとりとしている。いつどんな時でも、誰か一人は能天気な空気を保ってくれることが、たのもしい。


 レナはこういう時間を大事にしたいと思うのだ。


 マジックバッグから手を離す。


 目の前のことを見つめる。


 今できることを。


「よぅし! うちの子たちが気に入ったようなので、わたあめ、買えるだけくださーい」

「まいどあり……けど、お金は大丈夫かい? お嬢さんたち」

「冒険者とか商業とかでちょっぴり稼いでいるからまかせてくださいっ」

「えらいねえ。てっきり遊び呆けてるどこぞのご息女かと思ったぜ」


 ごまかしわらいをするレナ。

 淫魔のお姉様たちにあれこれと弄ばれ……着飾らされてホワイトロリータファッション状態だったのだ。

 着替えて、いつもの冒険者風に。

 ブラウスに膝丈キュロットスカート、腰を締めるベルトに魔物使いの鞭。赤いマントを羽織った。

 やはりこれが、ラナシュにおけるレナの戦いのスタイルだ。





【羊毛布団店】──ここでは布団中心の寝具が売られている。

 魔王国の中流階級向けの通りに店を構えるだけあり、けっこうな品揃えであった。

(魔人族によっては魔物姿になって床で寝ちゃうらしいから、わざわざふかふかの布団を使いたい人は中流階級からなんだってね)


「すみませーん」

「はい。なんでしょう」


 布団店の店主だと秒で納得させられる、ふっくらふくよかボディの優しげなおじいさんが現れた。


「ここにある商品、できるだけ買わせてほしいんです」

「ん? んんん?」

「全部でもいいです」

「んーーー??」


 ぱちくり。

 つぶらな瞳をくりくりさせて、小さな丸眼鏡をずるりと落としかけた店主は、あたふたとたたずまいを直した。


「は、はあ。当店も最近経営がきびしいので、買ってもらえるのは嬉しいんですがねえぇ……」

「お金は払いますので。こう見えて私たち、働いてお金を貯めているんです」


 この物言いならどうだろうか?とレナは試している。

 おじいさんはほっこりとした笑みを浮かべた。


 ちびっ子冒険者、頑張っていますよ!と受け止められたようだ。


「そうかい、貯めたお金をここで使ってもらえるのはありがたいねえ。それじゃ、どの布団が好みなんだい? できるだけ手に取りやすい値段で提供してあげるよ」


 こうして利益を逃してしまっているんだろうなー、……とハマルは冷静に店主を見た。

 好かれるが、損をするタイプのようだ。


 ▽そんなあなたに、恩を倍返しするレナパーティクオリティ。


「親切にしてくださって嬉しいです。これからもまた訪れたいので、定価で売ってください。こう見えて寝具にこそお金を払いたいタイプなんです」

「おお……」


 寝具愛を見せたところ、感激した様子の店主。


 実際、レナは三種類めの従魔に「眠る」を望んだだけあり、寝具にこだわりたい方である。


「好きなだけ買っていってごらん。いやあ、嬉しいよね」

「では全部で!」

「…………本当に…………??」


 どっすん、と、リル袋を置いただけとは思えない音がカウンターに響いた。






 ▽中流布団をゲットした! ×50


 ▽レナたちは 腕力アップブレスレットを装着した!


 ▽布団を 一人一枚 持った!


 ▽じり…… じり……と近寄っていく……。


 ▽ここは魔王国の路地裏である。



「あやつだよー。レナ様ー。ゴーですゴー」


「スキル[従順]足並み揃えて、捕獲開始ー!」


「「「「そーれ!」」」」



 路地裏のすみっこでうずくまっていた薄汚れた魔物。

 そこに向かっていく、布団! 布団! 布団!! 


 レナたちは小さいので布団に丸ごと隠れている。


 ただの布団がなぜか迫ってくる!! ように見える。


(夢魔は寝具に逆らえない、ってマルクさんにヒントを聞きました。いい床があると寝てしまいたくなるんですってねー。あの人わりと性格がのんびりしてるよねぇ……)


「ミ”ーーーーーーー!?」


「捕獲っ」



 ▽未熟な夢魔を 捕獲した!

 ▽事情聴取をしてみよう。







読んでくれてありがとうございました!


とんとん、としたテンポで進みましたね。

迷いを振りはらって今に集中したレナパーティは、早いです。



夢魔はまだ魔物姿にしかなれません。

どのように進むのか、身内になるのか別れになるのか、これから話し合ってゆくので見守ってくださいませ!


今週もお疲れ様でした。

よい週末を₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 今回も楽しく読ませていただきました。 ……まさか蒲団が捕獲用具になるとは……。 路地裏で、いきなり蒲団のお化け(?)に襲われたら恐怖やね? それにしても、何か悲…
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