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お宿♡と夢の世界

 

「つまり」


 サキュバスたちから聞いたことを、レナがまとめようとする。

 小道具のメガネがいい味を出している。キラン。

 ちなみにレナがメモをしようとしたところ淫魔のコスプレ倉庫からすぐさま持ってこられたという、先方のイチオシグッズである。


「淫魔のお宿♡グループのお客様が、悪夢をみてしまうことが相次いでいるんですね。普段なら、淫魔の皆さんがそばにいるときにはいい夢を見るはずなのに。

それによってお客様から気味悪がられることが増えていて、サキュバス一族としてはプライドが大いに傷つけられてしまう、と──」


 たかがプライドと侮るなかれ。


 魔人族にとって、プライドこそがグループを成立させていると言っていい。

 プライド=尊ぶ価値観が同じであるからこそ、我の強い魔人族たちがともにいられるのだ。

 この前提が崩れてしまえば、魔人族はこれまでのように協力することができない。


 サキュバス一族のように長い歴史があればすぐさま崩壊することはないが、時間の問題でもあった。


 現に、ここにいるサキュバスたちも「少々イライラして」いる。


 今はハマルが良い取引先であるので、外面モードになっていることが大きいのだそうだ。


「うちらもね? ここまでバラしちゃうのはね? アハーン恥ずかしぃわぁ♡って身悶えするほどなんだけどぉ……」


 内情を伝えるくらいに切羽詰まっている。

 それを解決してくれそうな高ランク冒険者、淫魔ルルゥのお気に入り、さらにみんな可愛い!!ということで、レナパーティにお願いをしたいようだ。


 本場の淫魔サキュバスの「おねだり」はちょっぴり回りくどいな、と思うレナであった。


 現場主義のルルゥであったら簡潔に伝えてきただろうから。


「けして図ったわけではなかったのよ。たまたま、このコウモリを持ってきてくれたのが噂に聞くあなたたちだったから、アプローチしてみたの」

「そうですか……ちなみに噂というのは?」

「”可愛い見た目に騙されてみたい。もうメチャクチャにしてっ!お触り厳禁!愛でようレナパーティ(強い)”」

「なんとかならなかったんですか!? いや、なんとかなりすぎちゃった!?」

「噂というのは誇張されるものだから。変な称号とかが付いてたらごめんなさいね?」

「それはみなさんのせいじゃないです。適当に称号を貼りつけてくるラナシュ世界が悪いです」

「ワァオ。言うわね」

「まあ利用させてもらうこともありますから、ラナシュにはこれくらいにしておいてあげます」


 ▽それな!

 ▽ラナシュ いつも適当すぎだぞ!

 ▽これからはキラが調整していくから よろしくね!


 レナは、今きているメンバーを眺めた。


 そこから作戦を立てる。


 やることはいつも同じだ。

 手を貸してあげたいと思う問題が発生する。現状の戦力を把握する。やれることをやれるところまで、そしてなにが足りないのか、依頼主と相談して進める。


「みなさんのこと手助けできたらいいなって思っています」


 まずはこれ。

 レナたちのスタンスを伝えることが大切だ。


 ピーチィはホッと表情を緩めた。


「……ありがとう。それ相応の報酬はもちろん支払うし、さらに出来高に応じてチップとサービス♡を約束するわ。口印契約をしてしまいましょうね」


 ▽チュっ。

 ▽ワーーーーーオ!


 ▽レナは 頬にキッスを受けた!

 ▽セクシーリップの紅色が刻印されてから 消えていく。

 ▽ピーチィの頬に 同じ印が現れた。


「これで交渉記録となるわ」

「ここここれは初めてなのですが……ゴホンッ、んんっ。説明を求めますっ」


 ▽レナ、顔を赤くしながらもよく調整している!


「淫魔サキュバスのお宿♡では書類のやり取りはしないの。そんなのって無粋でしょう。サキュバスから”口約束”をするものなのよ。これは効力が薄くって、約束がまだ達成されていなければリップの色が消えないの。サキュバスはずっとその約束と生きていくという覚悟なわけ。そういうの、そそるタイプ?」

「私にはまだ開かれていない扉ですかね。でも初対面で信頼してもらっていいんですか?」

「ルルゥお姉様のカードを持つにふさわしい人なのか見てみたかったの。私がね」


 ツン! とピーチィが横を向く。


 プライドが傷つけられてイライラしていて、レナにジェラシーも感じている状態で、これならばそのうちデレデレになってくれるのではないだろうか。

(それはちょっとみてみたいな)

 と思うレナの称号[サディスト]が反応していたのは少々の蛇足。


 レナはハマルに耳打ちする。


(どこまでハーくんの能力を話してあるの? 夢関係の依頼がされるなんて、ハーくんのこと察してるのかなあって感じたんだけど)

(だいたい話してありますよー)

(そうなの!?)

(夢属性の羊魔物でー、快眠を与えるところはお姉様方とおんなじですねえーって言って仲良くなったのでー。ボクにとって危ないのは白金毛スターライトってとこなのでー、それ以外ならいいかなーって)

(ちゃんとしたたかに考えるようになっててお母さんは……複雑…!)

(えへへー。巣立ちはしないのでただただ褒めて愛でてつねって欲しいですー)

(後でね)


 今やったらレナがドン引きされてしまいかねないから。


「ハーくんに聞きました。みなさんに、夢属性の魔物であることまで伝えてあるって。信頼のある関係を築いてくれたこと、魔物使いの主人として感謝します」


「あらー。立派ねえー!」

「すごいわあ、こんな風に庇護されたら嬉しいわよねえ」

「可愛い〜〜」

「萌え〜〜」


「この子の夢に関わる力を使って、この周辺での調査をしてみたいと思います。しばらくこの辺りをうろうろするかもしれませんが、許可をいただけますか?」


「もちろん。そして施設の利用許可も出しましょう。他のお客様と遭遇しないようにした方があなたたちもいいでしょうし、常に淫魔族をつけることにするわ」


「ありがとうございます。監視しててもらっても大丈夫ですよ。マイホームを歩かれるのって心配だと思いますし、見られることには慣れているので」


「……できるだけ邪な視線をよこさないサキュバスを選ぶわ」


「えー!」

「そんなっ!可愛い子のお守り……!」

「触りませんから眼福もダメですか!?」

「ああんっ、大人しくしてたのにぃ」


「ほら。サキュバス族は綺麗所ばかりだけど、熟練のサキュバスになってくると感性がおじさんに寄ってくるものなの。せめておじさまをつけるわ」


「せめておじさまを」


「紳士的な淑女をつけるということよ」


<サキュバス・ジョークですよマスター! 笑って笑って!>


「あ、あはははっ」

「……しばらくは私が直接着くわ。その間にきちんとつけるサキュバスを選ぶから」


 ツン、とされてしまった。

 レナの愛想笑いなど、接客経験EXのピーチィにとっては、わかりやすすぎたのであった。


 だからこそ、レナが依頼に関して誠実に話していることも伝わっている。


「こちらにどうぞ。とくにひどい悪夢を見た殿方が泊まったお部屋に案内しましょう。コウモリたちが帰って来始めている、悪夢の名残というのは時間とともになくなってしまうようから、今からちょっとだけでも覗いていってほしいのよ。

 ベッドメイクは終わっているし、密談用に好まれる部屋だからなにも恥ずかしがらなくていいわ」


 ピーチィが率先してスタスタと案内してくれる。


(脚のコンパスが違いすぎる……!)


 この中で平然とついていっているのは、キサぐらいだ。

 着物のような服装をしているのに滑るようになめらかに歩く。さすがラミア。


 レナたちは小走りになってピーチィを追いかけた。


 クラシカルな内装だ。

 よくよく見ればお城でしか見たことがないほど高級な家具や装飾があるのに、堅苦しさを感じさせない。はるかにグレードアップした家庭感、というべきか。特別でありながら落ち着きを与えてくれる。

 だからこそ訪れる宿泊客は口を開いて愚痴も言うし、普段はぐっすり眠ることができるのだろう。


 通り過ぎる時、裏方掃除をしている淫魔族たちが手を振ってくれた。

 レナたちも振り返したり、ぺこりと会釈をしたりして、いつのまにか緊張もほぐれてきた。


(不思議。いつかの実家のような安心感……)


「リラックスできるように心を込めてルームメイキングしてるけど、レナさんのように寛いでいる心は珍しいわ」


「うちのご主人様ですからねー!えへへーん」


(あああハーくん、別に褒められてないと思うの……!)


「この方はプリンスをも従える大物ですし」


(えっチョココ?……アグリスタがチョココメンタルに同調しちゃって事故ってる!)


「レナ様は妾の心を奪って離さぬ豪傑なのじゃ」

「大丈夫ですか? キサ先輩のお心奪われちゃったんですか?」


(キサは物言いが不穏だしマイラは天然で心配してるー!)


「ずるいわ」


(ピーチィさん……。笑ってますね? 口元抑えてツンをこらえてるけど、笑ってますね? 主に私の百面相を見て。ここで[友愛の微笑み]でもしておきたいところだけど、あざといって嫌われちゃいそうだな。普通にしとこう。普通に驚いてたら私の顔も面白くなるでしょ)


 ▽レナは 人生経験豊かな少女である。



 案内された部屋もやはり、落ちついた雰囲気の部屋だった。

 間接照明がやさしくベッドなどを照らしていて、清潔なオフホワイトのベッドがふっくらと来訪者を出迎える。飾られている花はチューリップによく似ていて清楚さを添えている。ほのかに香る程度のお香が焚かれていた。珍しい輸入品によってさりげなく贅が凝らされているのだ。


 よくよく見れば、ハマル経由で購入したと思われるエルフ織のブランケットが置かれている。

 千年樹の葉をモチーフにしたという伝統デザインは唯一無二の証明だ。

 レナはこれを見て、誇らしい気持ちになった。


 周りを見渡すと、レナの目にはなにも見えていないし、嫌な雰囲気を感じることもない。


 けれどサキュバスの目にはここに悪夢の名残が見えるようだし、アグリスタとマイラは「不思議な感じがする」といい、キサは綺麗な眉を顰めた。

 チョココはキョトンとしているがチョコレートの甘い香りで癒してくれた。


「さーて。ボクはここで寝てみるとしますー。レナ様たちも一緒にどうぞー。ベッド・イーン」


 ハマルが、もふんっとベッドに倒れこむ。

 レナは思わず(スプリングを痛めるとか心配されていないだろうか!?)とピーチィを振り返った。

 ピーチィはというと(可愛くベッドに転がってみせた美少年に集中しないとかある??)とレナの純情を信じられない気持ちで、レナをガン見した。

 やはり(淫魔族はこの天然記念物を汚すべからず)と唇を噛み締めた。ツン顔である。


 ベッドに転がりつつ、マジックバッグから高級金毛毛布をホイホイと出していくハマルは、最高の睡眠のために必要なものをよくわかっている。

 これを見ているとウズウズしてしまう後輩たちであった。


「さー準備完了ー。おねんねしましょー? 後輩たちよー」

「あわわわ、お、仰せのままにぃー……!」

「し、失礼します」

「チョココもほーら、いらっしゃーい」


「レナ様、その、んんっ、久しぶりにともになることになる。妾のことをエスコートして欲しいのじゃ」

「あ、了解。キサと寝るの久しぶりだねー」


 ▽ピーチィが倒れそう。

 ▽ガッツ! ガッツ! ガッツでふんばる!

 ▽健全なおねんねの様子がそこにあった。普段見る光景とは真反対すぎて逆に大きな衝撃となった。


 ▽可愛い子たちの眠る姿の尊さよ……。

 ▽絵画にしたくなる。

 ▽キラ・フォトで撮っておきますね。



 レナたちは眠り始めた。


 約束したからにはしっかりと仕事をしてくれるだろう。


 ピーチィは部屋の扉を閉めて、鍵をかけた。


 部屋の空間を安全に保つべく、扉の向こう側で壁に背をあずけて、朝まで神経をとぎすませるのだった──。






 夢の空間が認知される。

 レナが目を開けたと思った時、そこは夢の最中であった。

 誰か個人の夢というわけではない。夢が丸い卵のように存在する、それらを内包する[夢の世界ドリームワールド]だ。


 夜空のような空間に、星をしきつめて霧でまとめたホワリとした白の道。


 以前、ハマルが教えてくれたことがある。

 たくさんの人が行き来して”意思”が染み込んだ土地は、夢の道となれるのだそうだ。街ではなく道なのは、通るべきところが「道」だからと世界が認知した結果。キラが再定義してくれたのでこの夢の道はもう途中で消えてしまうことはない。ハマルが安全に渡ってゆける。


 そう、夢の魔物はこの道を歩くことができる。


 夢の魔物ならば。



「──どうも」


 レナの目の前にはシルクハットの紳士がいた。

 みすぼらしい。破けかけのスーツに伸びっぱなしの髪と髭。それなのに嫌なにおいがしないのは、ここが夢の世界だからだ。


「──っっ!?」


 レナは声が出せなかった。

 この世界のせいではない。

 ただただ、あまりのことに驚いてしまって。


 そこにいたのはどう見ても、忘れるはずもないくらい強烈な戦闘をした、悲しさ寂しさをレナパーティにめいっぱい与えて去った、【ナイトメア・マルク】であった。


「あああのっ、そんな風に見た目を変えても、私けっこう気づくタイプですから”ぬえっ”……!?」


 何か言わなければ、と思ったゆえのレナの”噛み”であった。


 現実世界ではないので[異世界人]の体力向上効果もなく、従魔が直接近くにいないので主人としてはりきることもうまくできなかった。


 いやな沈黙が生じた。


 マルクが言葉を迷っているような。


 レナはハマルを探しているための沈黙であった。


(どう見たってこの人が怪しいんだから。夢属性の魔物だし、けっこう過激な手段にも出ていたし、ハーくんがいるところで私が悪夢を見たことだってこの人が相手なら、納得してしまう……実力は今、どっちの方が高いんだろう……。しっかりして、私がフォローをしなくっちゃ……!)


「レーナー様〜」


 むぎゅ、と後ろから抱きついてきたのはハマルだ。


 思わず裏拳で叩こうとしていたレナは、ピタッと動きを止めた。

 そのままパンチしてくれても良かったんだけどな?とハマルが思ったのは(ま、不謹慎かー)なので内緒にしたようだ。


 カルメンがそうしていたように夜空の空間にふんわり浮かびながら、ハマルはレナを包む。白金の髪がふわふわとレナの視界にちらつく。


「大丈夫ですよー。だってー、ボクの方が今は強いですからねー。リラックスしていいでーす」


 スリスリ。

 癒されたし、状況を聞いてレナもかなりホッとした。


 ハマルはマルクに向き合うと、片手を上げた。


「どーうーもーっと〜。ボクと事情をお話ししましょー?」








読んでくれてありがとうございました!


先週はお騒がせしました。

今週からも、よろしくお願いします!(`・ω・´)ゞ



ピーチィお姉様の絵は次に仕上げたいです♪


彼女は、淫魔族のまとめ役となって長いので、こうするべき×私もはしゃぎたいなあ(本能)……でちょっぴりイライラしがちです。

エリート淫魔族でストレートにいまの地位にきたため、世間知らずなところもあります。


まとめ役として気を引き締めつつも、レナパーティと交渉をしようとしています。

いつもなら色仕掛けでメロメロにしてあげるのも十分対価になるのですが、ピュアレナパーティが相手なので勝手が違い、戸惑ってもいます。


新しい社会人経験として、ファイト・ピーチィ!


お察しの通り、デレもくるでしょう。



今週もお疲れ様でした₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑

よい週末を!


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 話の流れ的には分かるのですが、ピーチィさん名乗ってないので一瞬誰?ってなっちゃいました。
[一言] 更新有り難う御座います。 今回も楽しく読ませて頂きました。 ……ヤバイ……ツッコミ箇所が多過ぎて、 最初に書こうと思った事が消えていった……。(割りと何時もの事) ……にしても、意外なと…
[一言] >「どーうーもーっと〜。ボクと事情をお話ししましょー?」 ハ「えー、どうしてー、貧乏チックなボロボロファッションなんですかー?」 マ「敗戦してから【マルク】の信用が暴落しててね…」 ハ「あ…
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