冒険者ギルドのペチカ
ハマルの商業への進出をきっかけに、リリーの宝飾関係やクレハ・イズミのスライムジュエル換金なども前進した。
アリスがしばらく滞在してくれていて、こんがらがってしまっていた契約などをキッチリと整えてシンプルにまとめてくれた。
庭の整備をするためにパトリシアが来る日もあり、まるでトイリアに居る時のようなガーデンティータイムが何度か行われた。
こちらにかかりきりになっていたため、レナパーティはインドアに過ごしていた。
すると、曇り空のある日に、珍しい訪問者がやってきた──。
「お久しぶりです。私、冒険者ギルド・シヴァガン本部のペチカと申します」
制服を隙なく着こなしている竜人族ペチカ。
誰に聞いても「平均」と言われそうな特徴のない顔つきはかえってこの赤の聖地ではよく目立った。
そしてひょうひょうとした雰囲気には、すこし焦りをにじませているようだった。
まずはルージュが出迎える。
要件を受け取り、敵意がないことを認めてから、来客用のエントランスに案内した。
「お久しぶりです。ペチカさん」
(ああー。癒しと緊張が一気にきたような感じですね……)
なんだかホワワンとしてしまっているレナ。口の端にはクッキーの粉がついている。
対して従魔は、せっかくの午後のリラックスタイムを邪魔されたことと、ペチカの態度になんとなくきな臭さを感じとってさりげなく威圧していた。
レナの背後からレナに気づかれないように、見た目はいい子のようでいて眼力でアピールしてくるのだから恐ろしい。
(けど、今回はこちらが分が悪いわけだからなー)
ペチカは出されたお茶に口をつけた。
さすがに、彼の分だけお茶が渋かったりなどみみっちい嫌がらせはされていない。
むしろ最高級茶葉をさらっと職員に出してしまえるレナパーティに内心舌を巻く。
いともあたりまえのように、レナはそれを自然に口にしているということにも。
余裕だし満たされているのだ。この冒険者パーティは。ちょっぴりため息をつきたくなった。
(所作がきれいになっているような……)
アリスとともに居る日々が、レナをほんのわずかにレディにしてくれたのだった。
▽従魔たちの進路のためにも覚えておかなくちゃ、と思えばご主人様は頑張れちゃう!
「ごほん。今日ここにきたのは、レナパーティの皆さんの”成績”についてお伝えするためです」
「成績ですか」
テストみたいだ、とレナは思う。
テスト前は時間を決めてきちんと勉強するタイプだったっけ、と思い出す。
テストというものに”実感”があったので(よしっ)と机の下で小さく手を握った。
(!? 今、喜んだ? ということはもしや、わかっている上で私を招き入れたということか……)
▽ペチカの勘違いが加速していく。
表面上は平穏を装ったままで、内心たらりと冷や汗がしたたり落ちていくような心地だった。
口頭で説明していく。
「成績というのは、ギルドランクらしい活動をどれくらいして下さっているか、それによってランクが維持されたり昇進したりという基準です。レナパーティのみなさんはAランクですから、それにしては働きが少なくなっているという──お知らせです」
「お知らせ」
レナはクスッとした。
警告ではない。だってレナパーティはもう冒険者ギルドに頼らなくても収入源と身元の心配がない。
忠告でもない。このままだったら悪いようになる、ともペチカは思ってはいないのだ。
嘆願もちがう。お願いされるような危険が迫った世間情勢でないらしいので、安心できた。
レナはお菓子に手をつける。それによって場の空気がソッと和んだ。
「わざわざ伝えにきて下さってありがとうございます。今のことを知っておくのは大切ですからねー」
「もちろんです。ああ、声に実感がこもっていらっしゃいますね」
「そうなんですよ。アリスさんっていう私の友達が泊まりにきていて、彼女が事務のことを教えてくれているところなんです。わりと性格が大雑把だよねって叱られちゃいました」
「楽しい日々を過ごしていらしたんですね。それなのに訪問してしまってすみません」
「ペチカさんも一緒に楽しくなってくださるならオッケーです」
ペチカは苦笑した。
レナは以前会ったときよりもはつらつとしていて、純粋で心を開いているようなのに、芯がゆらがない。
「では、楽しそうなクエストの相談などいかがですか」
「楽しそうなクエスト!」
「従魔のみなさんの教育にも力を入れていらっしゃるのだとか。でしたら特性を活かした働きをできるようなクエストがいいと思いまして」
「そういうのがAランククエストにもあるんですか?」
「ありますよ。冒険者ランクはその方の技術力とともに、人柄も評価します。どんなに強くてもギルドを通した依頼をしていない者にはランクアップは行えません。ですから強く、依頼を完遂する力があり、かつギルドカウンターでまっとうなやりとりが行えるものが高ランクの冒険者たりえます」
「魔王様などは?」
「公的業務と兼ねているランクについては実力オンリーなので、カウンタークエストの個人依頼を受けてもらうことはできません」
魔王をぶっこんでくるな。
ペチカは冒険者ギルドの高官であるし、魔王ドグマは市民にとっても親しみやすい方であることは間違いなかったが、それでもいきなり魔王の値踏みなどペチカにとっては爆弾であった。
(オズワルド坊ちゃんを従えているだけあるということを見せつけていらした。いやはや恐ろしい)
▽ペチカの勘違いが加速していく。
レナを見る目は、彼がふだんギルド長を見ているときのように尊敬をにじませたものに変わった。
「高ランクの冒険者ともなればファンがつきます。その方に来て欲しいという依頼であるとか」
「ファン系はアウトです」
「わかりました。変なファンがついたら嫌でしょうからね」
「私たち、見た目がこんな感じですから、優しそうとかか弱そうだとかで、ナメられることも多いんですよ。みんな成長したけど今だって、外を歩いていたら子ども扱いしてくる魔人族の方はまだまだたくさんいます。一般市民の方はまあいいとして、わざわざお金を出してクエスト化してくる人がウチの従魔に何を願うかわかりませんからね」
「もっともです」
そんな依頼人に通したりはしないつもりであるが、レナたちの従魔を改めて目にするとペチカは自信を失った。
例えばちょっとしたショーをして欲しい、パーティに同伴してほしいなどと一般的な依頼のあとに、きらびやかな従魔に惚れないなどとどうして言えようか。変態化しかねない。
このパターンのクエストをペチカは心の中で破り捨てておいた。
「さっきのはたとえ話です。食材ハンティングクエストなどいかがですか?」
「スウィーツパラダイスのような? そういうのは楽しそうですね!」
「報酬の一部を冒険者も受け取れるような依頼文のものを集めておきますね。土地は多少難があるかもしれませんがみなさんなら大丈夫でしょう。なんなら白竜もお貸ししますので」
「けっこうです」
「他には新人の育成クエストなどもございます」
「珍しいですね。初めて聞きました」
「高ランクの冒険者の中でも人柄が穏やかなパーティに依頼することがあります。練習場に新人が集まっておりますので、みなさまに技を見せてもらい、それを習得できるように練習をさせます。ほんとうに駆け出しでまだ技を持たないものに向けた初級育成、それなりに技を使えるものを伸ばすための中級育成が対象です」
「んー。初級なら」
「ご検討ありがとうございます。その傾向でクエストを集めます」
「駆け出しの方々が死んじゃったりしたらイヤですからね」
ペチカは「はい」と返事をしながらも、少し意外に思った。
このシヴァガン地域周辺では「冒険者=死ぬ」の発想が珍しかったからだ。
ジーニアレス大陸は魔物にとって暮らしやすく、魔人族は頑丈なので初級クエストで死ぬことなどそうそうない。けれどまっさきに「死ぬかも」が出てくるあたりレナはやはりヒト族なのであった。
「他、気難しい取引先までついてきてほしいという護衛依頼。これには戦闘の実力とともに見た目のスマートさが求められます。相手にとって好感の持てる見た目、話しかけられたときには適度に返事をするコミュニケーション。なかなか難しいですけれど、門外不出であった取引先の開拓ができるかもしれないのが冒険者にとっての魅力ですね」
「ん〜〜〜〜、けっこう悩むけれど多分ダメです」
「おや」
「親心での心配がひとつ。そして縁のでき方によってはこちらが下手に出ることになるかなあって。もしもどうしても珍しい縁が欲しかったら、こっちが引き寄せるくらいの品物や技術を得た方がいいです」
「! それくらいのものをお持ちなのですね」
「忘れてください」
「忘れました」
こく、と頷くペチカ。
レナにはささやかな貸し一だ。
けれどいずれは公になるステータスなので、ほんのちょっとの事。
ただし冒険者ギルドにとってはなかなかの大事件であったのだ。
(…………)
ここに思考が読めるルーカティアスがいれば、にやりとしたかもしれない。まさに、分が悪い、と考えていたところだったのだから。
レナはペチカの思考を待ってくれた。
「どれからオススメしようかと考えておりました」
ペチカはさらっとごまかした。
今日のやりとりを記した簡易な書類を渡してくれた。
「それでは、これからみなさまにお持ちするクエストがお気に召すことを願っております」
「おおー。すごく偉い人になった気分……高ランクだとこういう待遇を受けられるんですか?」
「いいえ。ただただ私ペチカが、このような対応をするよい仕事人だというだけですよ。どうぞ個人的にご贔屓に」
「あはは! はい。よろしくお願いしますね」
いけしゃあしゃあと言ってのけたにしては、平均顔のペチカは相手に不快感を抱かせないのだ。
自分のいいところをよくよくわかっている男である。
レナはペチカへの手土産に、回復薬の詰め合わせをもたせた。
スチュアート商会で扱っているミレージュエ大陸の特産品で、ヒト族の[職業:薬師]が作るためここらでは入手困難だ。けれど魔人族もサッと扱えるうえに味も美味しく、需要はあるとして、これから取引が行われる予定のものである。
去り際になってようやくアリスが姿を見せて、赤の衣装姿で、レディの一礼をしてみせた。
赤の聖地の屋敷を背景にした姿はそれはよく映え、レナパーティにまた個性豊かな後ろ盾がいることを示したのだった。
ペチカはささやかな笑みを浮かべて、去っていった。
最後に添えた一言は、レナパーティからの好感度を上げた。
(うーん。気長にやっていきましょう、冒険者ギルドからの干渉は。焦るのはダメとみますよ、ギルド長。そして彼女らを緊急呼び出ししなくていいように、時世もどうかおとなしくしててくれよ〜)
その数時間後、赤の聖地には冒険者ギルドからの視察団なるものたちがやってきた。
そこではレナが即座に顔を出して、ペチカに言われた通りに伝えた。
「すでにご用件はペチカさんから伺っております。先ほどいらしたので──会って行かれますか?」
と、言ってみてください、との彼の提案だった。
「「「!?!?!?」」」
失礼します!!! と使節団が回れ右して帰ってゆく。
大慌てだったことから考えられるのは(ペチカが実は怖い)という心理以外にないのだが。
「……えーっと。味方になってくれててよかったなーっ、っと。私って運がいいから……」
「待って、レナお姉ちゃん。レナお姉ちゃんは出会いの運は悪い方なの。そのあと仲良くなれているのはレナお姉ちゃんが頑張っている実力なんだよ。やったね」
「アリスちゃん? 褒めてくれているけど私の心にグサッともきたよ!?」
「だって……さっきの人たちも態度悪かったし……。……ワケあり美少女からの緊急依頼、蝶々からの進化依頼、パトリシアお姉ちゃんと喧嘩、ルーカティアスお兄ちゃんのトンデモ事情に、最初に行った冒険者ギルドでは散々な目にあって、レナお姉ちゃんは草原にひとりぼっちだったんだよね?」
「思い出したら確かに出会いは……。……。…………私の素性調査とかしてる?」
「やだなあ。当たり前でしょ」
「当たり前!?」
「その人の事業の方針を知りたいならバックボーンを知らなくっちゃ。どういう過去をたどって今の思想に落ち着いたのか、そしてようやくこれから先の事業計画をイメージすることができるんだよ」
「言いくるめられそう!」
「キラが許可してくれた事までだから安心して。あとは私の想像力」
「アリスちゃんの想像力すごそう!」
「うふふ」
ペチカのおかげで、冒険者ギルドとの面会が悪い雰囲気になることはなかった。
そしてレナは案の定アリスに丸め込まれてしまって、共同開発の「おでん」の夕飯を食べながら、(アリスちゃんが身内になってくれてよかったなあ。過去の私よくやってくれましたっ)としみじみ思うのだった。
▽新人教育クエスト やってみよう!
読んでくれてありがとうございました!
最近忙しいので、レアクラ書くのが癒しです₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑
今週もお疲れ様でした!
よい週末を♪




