商業的見解×レナパ
「”ジーニアレス大陸から渡ってきたというアクセサリー。しだいにデザインが洗練されてきていてヒト族のこだわりにも追いつく勢いをみせている。その影響としてジーニアレス大陸に渡ったヒト族の影響があるのではないか”」
「お、おお〜」
「キャッ。私たち……工房のみんなが、切磋琢磨してるから、なの?」
「”天使の歌声とささやかれる音が風に乗って遠く届くことがある。最近の天使族はごきげんでよくコーラスをするようである。ジーニアレス大陸は未だかつてなく調和がとれているのではないか? とささやかれている”」
「シュシュのこと?」
「あ。そーいえば、空からゲームミュージック降ってきたことあるのよねっ」
「”貴重品であったエルフ織物がさらに希少になっている。流通量が絞られているというよりも生産量が抑えられているようだ。伝統を大事にして服飾品を作ることを守っているエルフ族に何があったのだろうか?エルフの森に近寄ることはできず……”」
「白金羊毛に夢中だから……」
「ですねぇー。生活できるだけ稼げたらあとは趣味に没頭したいらしいですよ〜」
「これらのフワフワした噂。やっぱりレナお姉ちゃんなんですよね?」
「アリスちゃん敬語やめて、こわい敬語」
「おっほん。だってね。真剣に聞いているの」
「今のところうちのようかなあ……」
「フワフワした噂の危うさを教えます」
「お願いします」
アリスがまとめたところによれば、有益ながらも正体の分からぬものへのアクションは、2つに分かれる。
ひとつ、暴こうとするもの。
レナパーティのことを庇ってくれる者たちが多いのでこれはカバーしてもらえそう。いざとなればルージュたちが拠点は守ってくれるだろう。
もうひとつ、噂を「自分のもの」とかすめ取ろうとする勢力が現れる。
しばしのまやかしであろうとも、自分の方に注目を寄せたいという雑な商人も存在する。そしてその商人が失敗したあと、悪評をレナパーティが背負うことになるかもしれないのだ。
ただの損である。
「”スカーレット・リゾートという幻の計画があるらしい。それは夢夢しいほどの施設で心ゆくまで遊び尽くすことができる。食事もホテルも至極極楽”」
「あれっ、なんか話が盛られてるかも……!?」
「これでもできるだけ調整したんだけどね。人が楽しみにする噂には際限がなくなっちゃうということで」
「あうう。ありがとうね……!」
「レナお姉ちゃんたちの噂は、端っこを聞くだけでも面白そうすぎるんだよねえ。一応ひっそりと活動しているから余計に全体像がぼやけちゃってて」
「でもアリスちゃんが最後にスカーレットリゾートの話題を出したってことは、まとめがそこになるわけで、従魔から派生した噂がやんわーりと繋がって認識されているのかな……?」
「正解。さすがトラブルメーカー」
▽さすが感を出すところではない。
レナががっくり項垂れて、これはことの重要さが分かってもらえたとみたアリスは、説明からプレゼンに切り替える。
「こういう噂、レナパーティの周りだけで舵取りをするのが難しくなってきているんだよね。もっと”横の力”を頼るのがいいと思うの」
”横の力”、と言いながら、アリスはぐいーんと腕を真横に伸ばしてみせた。
「たくさん考えてくれてありがとう」
「どういたしまして。ってことは作戦を聞いてみるってことでいいかな? レナお姉ちゃん、私のやることにイエスマンになってるけど、大丈夫?」
「信用してます」
「よかった。それくらい頼ってもらってこそ、本腰入れて支度した甲斐があったってものよ」
ウフフと微笑むアリスの唇はキュッと口角が上がり、本当に嬉しそうだ。
商業は立ち上げたあとが肝心。
はやったところで第一関門はクリア、けれどどれだけ優秀な事業案であっても、予定以上に寄せられた好意に押しつぶされてダメになる事業者、という例はたくさんある。
アリスはたくさん見てきた。
だから、レナには諦めてほしくなかったのだ。
ワガママをそのまま口にしたら、身内に甘いレナは頑張ってくれるだろう。
けれどレナの意思で挑戦し続けてくれるように、祈りを込めてアリスは支援をする。
いつかは商業トークで一夜を明かしたいというのが、今のアリスの夢である!!
「”横の力”ってコミュニティのことなの。大きなつながりを持っているグループがあれば、グループどうしで情報を共有してくれるもの。これまでは”企業秘密”としての大口取引だったよね? いつものお金と技術と人脈で殴る感じの。
それ以外のささやかなツテをこれから作るの。噂を広めるのはいつだってささやかな普通の人たちなんだから!」
「ツテかあ……」
なんだか、とっても大人だ。大人の世界。
もう女子高生気分じゃないぞぅ、と思っていたレナだが、商業の感覚はいまいちピンとこない。
地元のおじちゃんおばちゃんに構ってもらう、くらいのことはレナは得意だが、たくさんの人前用の顔は赤の女王様くらいしか持っていない。それはささやかさとは無縁の肩書である。
「大丈夫。モスラが同行してくれるよ。そしてひとまずの行き先にオススメするのは、スカーレットリゾートの仕事をしてもらう予定のドワーフ族・エルフ族・淫魔族・メデューサ族のみなさん。あらためて挨拶回りをすることで表事業としても繫がろう。あっちも種族職業歴が長いわけだから大口取引と一般取引の空気感は使い分けてくれるはずだよ。モスラ」
「はい。事前に調査をしてございます。アリス様の説明の通りですから、安心ですね」
レナに渡されたのは『赤の教典・女王の未来想定編100』というノート。
──モスラはさっとそれを引っ込めた。
「おっと……。久しぶりなので緊張してしまっていけませんね。この執事めをどうかお叱りください」
「コラッ! モスラ! 100も書いたら指を痛めるでしょう! それキラも書いてたやつ、従魔が妄想して赤の女王の道筋を書くやつだよね? 同人誌だよね? 夜更かししたりせずちゃんと寝るんだよっ」
「はい」
照れたようなモスラの表情の色気が尋常じゃない。
レナは大人っぽさにあてられながら、望み通りに叱っておしまいにした。従魔に甘い。
「『ジーニアレス大陸伝統種族調査』これです」
「やっぱり赤いノートなんだね。趣味?」
「はい」
だから見分けが付かなくなるんだよ〜、と思いながらも、モスラは普段は完璧執事なのでレナがいなければまったく間違えないのだろうと想像する。
このノートはこれからも役に立ってくれそうだ。
種族の特性から、特産品、歴史、里の分布、さまざまな情報が詰まっていた。
レナはお願いしてこのノートを譲ってもらうことにした。
キラにコピーしてもらい、一瞬で、電子書籍の完成である。音声で情報呼び出しもできるよ。
「エリザベートさーん」
アリスがエリザベートを呼んだ。
なにやら、鈴をチリンチリンと鳴らしている。
きゃあああ、と扉の向こうから声が響く。
開かずの扉になるだろうか……と思われていたが、意外なほどすぐにエリザベートに会えてしまった。
エリザベートが耳につけている”ピアス”と呼び鈴が連動しているようだ。
エルフの長い耳に鈴の音がよく響いて、お客さんが呼ぶ音にすぐに気づけるようにという装置。鼓膜が魔法で守られているので、主にエリザベートが作業に集中しすぎることに対応した道具だ。
「そんなあ! もういっちゃうのぉ〜!? まだできてないのに、レナちゃんの服ぅ」
「後で届けに行くというのはどうでしょう? 赤の聖地にはレナお姉ちゃんの従魔さんや美麗なお仲間がきっと集まっていますよ」
「あらそうするわぁ!!」
▽アリスの手腕がさすがすぎる。
「もー、これをお望みなんでしょ? はい、エルフ刺繍のハンカチ・スカーレットモデル。服の修正前に作れーだなんて言われてたからもう大忙しだったわよ。でもムシしたらアリスさんから信用を無くすのが怖いし」
「お仕事ありがとうございます。さあ、レナお姉ちゃん、これも持って」
エリザベートから渡されたハンカチを籠の中に1枚、1枚、入れていくアリス。
ワゴンの一番下から取り出したいくつかの”バスケット籠”には、なにやらこまごまとした特産品が詰め込まれていた。おしゃれな雑貨店の売りものみたいにセンスがいい。これをもらった人は喜ぶだろうなあと、レナは想像していた。
たくさんの詰め合わせから1つ取り出すごとに、どうやって使おうかと楽しみになるだろう。ミルクジャム、オーガニックスコーン、ビスケットの詰め合わせ。濃いお酒に塩気のナッツ。恋の媚薬。ゴロゴロと小粒の鉱石の小袋。中には大変高価そうなアクセサリーもあるので、ドキッとするかもしれない。
エリザベートを訪ねてレナたちが来ることはお見通しな上に、ずいぶんと準備されていたようだ。
久しぶりに会った友達として会話が横に逸れながらも、話のシメは自分の予定通りにまとめてくるあたり、アリスの商業人としての腕が改めてよくわかった。
「この籠をもって、種族グループに挨拶に行って渡すの。そういう挨拶まわりは、商業界ではよくあるから。これからまたよろしくお願いしますっていう意味だと先方も受け止めてくれるはず。これが商業の意味があるって事はハマルくんが保証してくれるよ」
「ハーくんが?」
レナは、きょとんとした顔で見つめてくるハマルを見返した。
きょとんとしてみせたのは、可愛さのアピールのためだったらしく、いたずらが成功した子供みたいに、ふふっとハマルは小さく笑う。
ハマルは小さなポーチを開けると、なめらかな白のギルドカードを取り出して見せた。
口にくわえているのはワンコみたいだ。レナが撫でてあげると、満足したようで、カードを普通に見せてくれた。
「じゃーん。レナ様〜、ボクはね〜、商業ギルドに仮登録したんです〜」
「自分でこんな風に動けるようになったんだねえ! 大きくなったねぇ」
「えへへ〜。だってー自分の羊毛が卸されている相場を把握しておいたほうがーレナ様が困らないかなーって思ってー。もちろんアリスやモスラにたくさん助けてもらいましたけどー」
レナはまたハマルを撫でてあげる。白金の髪がふわふわと揺れた。細くて柔らかい極上の髪。
いつもレナパーティで使っているシャンプーとはまた違う、エルフの森の匂いがかおる。
すん、とレナが鼻を動かしたことに気づいたハマルは、ちょっと考えてから、ぴっとりとくっつくようにレナに寄り添った。
獣人にとって匂いは大切。自分がどのグループに所属しているかの証。
ハマルには魂の契約もブレスレットもあるけれど、所有されている証は多い方が嬉しいのだ。ついでにつねって下さいと言ってご褒美をねだった。自分に正直。
「じゃあ、ハマルくんを商業ギルド所属員として先頭にして。モスラの迫力を最後尾にして。真ん中にレナお姉ちゃんたちを入れつつ。あっマシュマロさん、初めまして。そしてさようなら。行ってらっしゃい!
モスラ今日は帰ってきちゃダメだよ!」
「えっ……!?」
モスラは一秒ピキリと固まってから、切り替え完了、アリスに深く礼をした。
「平常心大丈夫平常心大丈夫私はできる私はできる執事だから……ッ」
かなり緊張しているようだ。クーイズとリリーがえへんと先輩風を吹かして、モスラの手を握ってあげていた。アリスが笑う。
「レナお姉ちゃーん。必ず挨拶成功させておいでね? 評判があいまいなままって状態は、商人としては心配だから!」
「はいっ」
「ハマルくんの、のちにはリリーちゃんたちの評判にも繋がってくることだから」
「超頑張ってくる!!」
「うん」
アリスは「こんなに楽しいのは久しぶり」とつぶやいてから、レナにそっとハグをした。
「行ってらっしゃい。レナお姉ちゃん」
「ありがとうアリスちゃん。行ってきます!」
***
魔王国・王都の道歩きとなると、それなりの変装が必要になる。
リリーの[幻覚]でハマルを黒髪に。
この姿で、商業ギルドには顔見せをしたそうだ。
「流通過程で狙われないようにー、変装をすることは珍しくなくー、ギルド仮登録の時に魂の? 検証をするからー、それで本人だって確認ができるのでー、変装は推奨されているそうですー」
ハマルが教えてくれる商業ギルドの様子は、レナにとって新鮮だった。
ハマルの黒髪に合わせて、レナたちも同じように髪の色を変えている。
レナは三つ編みを帽子の中に入れて、特徴的な三つ編みを隠し。
クーイズ・リリーも黒髪合わせ。
モスラはもともとの艶やかな黒髪に、外出用の帽子をかぶっている(上品なギャングとレナは思った)
黒髪グループは、これはこれで家族のようだ。
青色衣装組をマダムミディ・ファミリーとするならば、黒髪夏服組はサマーモスラ・ファミリーだろうか。
▽ご主人様はグループ遊びもお好き。
まず訪れたのは、エルフィナリー・メイドの近くにあるという服飾工房。
そこにはエルフ族の数名、ハーフエルフ、ハペトロッティたちが所属していた。
ハマルが顔を出すと、ざわざわと森の葉の音のようにどよめいて、震える手で籠を受け取ってくれた。普通のエルフ族というのは静かに細かな作業をするタイプが多いそうだ。
これまでに会った元気エルフたちは特殊だったんだな、とレナは思った。
ハマルはここに顔を出すことがまれにあるらしい。
自分の羊毛を扱ったことがあるエルフもいるし、レナパーティの衣装にも使われている布地の幾らかはここで織られてエリザベート宛に卸されている。
ハマルが一人で出歩いている……!とレナは膝をつき、ボクももう強くてキュートな少年ですから〜ともっともな意見をもらい、オカンのように抱擁するという、一連の流れを玄関先で披露した。
よくわからなくとも尊敬する白金羊様の行動だったので、この光景はタペストリーにされてエルフ族の宝となった。レナの赤っ恥であった。
▽従魔が一人で出歩く時にはキラ分身体がオトモしております。
「ボク、商業ギルドのハマルだよー。この方はご主人様なのー。みんなまとめてよろしくねー」
次に訪れたのはドワーフ鍛治工房イーベルアーニャ。
突然の訪問だったため、レナたちはしばらく待たされた。
これは特別扱いしないで正面から来た客として同等に扱い、レナたちを悪目立ちさせないためだろうとわかった。すまなかったな、と言った親方も、こちらこそ、と頭を下げたレナも、顔を上げたらどちらも苦笑を刻んでいた。
「いろいろありましたね」
「酒でも飲もうや。成人してるそうじゃあねえか」
誘われたレナの間に、ずい、とハマルが籠を差し出して自己紹介する。
親方がムッとしようがキラキラの上目遣いでごまかして、その隙に籠から酒を取り出したモスラが効果的なタイミングでそれを親方に勧めた。あまりの貴重品だったために親方はひっくり返った。ぶっちゃけ勝った。
「好きでこの仕事ぉしてんだ。大好きなモンをぉ持ってこられたら、贔屓もするさあ。ヒック」
「親方を一滴でここまで酔わせる酒、だと……!?」
「普通のお酒が神がかるというスポイトスピリタスです。長く楽しめますよ」
ドワーフ王国にはまた上等なものをもって挨拶に行く、として、籠のものはこの工房のドワーフに贈った。まずは酒に夢中だが、籠の奥から出てくる鉱石や宝石などでまた楽しんでもらえるだろう。お気持ちとしてはこれで十分なはずだ。
「ボク、商業ギルドのハマルだよー。この方はご主人様なのー。みんなまとめてよろしくねー」
夕方になり、淫魔族のホテルへ。
相変わらずの、ショッキングピンクの電飾がまぶしい。お客様が来る前に滑りこむことができた。
モスラが取り囲まれそうになったが、あまりにも高位の魔物であったために淫魔族であっても躊躇した。他のお客は可愛らしいので、きゃあきゃあとはしゃがれながら歓迎される。
お姉様ズを呼んでくるわね、と言った清掃淫魔の尻尾をレナがつかんだ。「いやあん」とか言われて周りに口笛を鳴らされたのでとんだ羞恥プレイだった。
「みなさんにご挨拶の品を持ってきたんです。これからもよろしくお願いします、と……えっと」
「商業ギルド的作法としてどうぞです〜」
ハマルがレナの前に立ち、ガード。
クーイズとリリーが横に立ちガード。
後ろはモスラがガード。
淫魔族のスキンシップがいたいけなレナに向けられようとしていたので守ったのであった。
理由はある。商業ギルド的作法という発言を保証するためだ。
淫魔のお宿♡チェーン店でスキンシップを受けたくてワイロを渡すものは多い。
また、良からぬお触りをしようと企む客がこれまたワイロを渡す例も多い。
適度な距離を取りつつもプレゼントを渡し、早々に去る、というのがこの業界としては最適解なのであった。モスラのノートが早速役に立った例であった。
健全な交流成功。投げキッスをされながらお宿♡を後にする。
「ボク、商業ギルドのハマルだよー。この方はご主人様なのー。みんなまとめてよろしくねー」
「ぷはあ。んーっ、これで大体の挨拶はできましたねー」
ハマルが大きく伸びをする。背が高くなってきたなあ、とレナが微笑ましく愛でた。
ほどよい距離感で声をかけることができて、トラブルにもならずにレナはホッとしていた。
カフェのテラスで、大ぶりのサンドイッチを食べる。
白パンと野菜系を挟んでいるものの、アメリカンハンバーガーと言っても過言ではないボリューム感があった。厚切りのベーコンとチーズも入っているからだ。店の食材が半分なくなるくらい食べた。よく食べる従魔は可愛いので。
そして夜空を見上げたレナは、肩の力を抜いた。
「さて。あとはプライベート。礼儀を伝えに行きましょうかね」
ガキィ! ゴキィ! とモスラの拳が鳴っている。
おおよそ人型が鳴らす音ではない。蝶々が鳴らすような音でもない。
どこに、とレナがあわてて聞けば、魔王のいる城へ。
たしかに無茶もいろいろ言われてはいたけども、助けてくれたことも大きいんだよ。
<”ご相談等ありましたらいらして下さってかまいません”>と宰相からは意外にもOKをもらってしまった。
それを飲み込むにはまだ幼い蝶々をあやすために、レナパーティは魔王城を訪ねるのだった。
読んで下さってありがとうございました!
のほほんとしてましたね。
みんなの心が安定しているイズ癒し…₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑
つい8000字も書いたので今日は更新が遅くてすみません。たくさん楽しんでもらえたら嬉しいです!
今週もお疲れ様でした。
よい週末を!




