黒キューブの扱い方
「黒キューブ……これってアイテム扱いなんだよね。意思があるものじゃなくて」
<そうです。あのときに暗闇を生んでいた情報をまとめたもの、といえましょうか>
コロンとしたキューブを、レナがつまむ。
「ギルティアが濃縮してくれたんだよね。実質、あなたのエネルギーリーフみたいなもの?」
『それって精霊シルフィーネってのがすごく時間をかけて作るやつなんだろう? フン。これくらいなら何度だって作れそうだ』
「待って待って待って」
『な・ん・ど・で・も』
「うわああああ」
使い所はどうしよう……というのがレナの一つの悩み。
それから、知られない方がいいやつだよなあ、というのが二つ目の悩み。
すでに魔王国への連絡くらいはされているだろう、というのが三つ目の悩みだ。
騒動がおちついたら悩みとして自覚できた。
まあ、悪いようにはされないんだろうけど。
あの国のことはラナシュで最も信用している。
(いいところにやってきたな)
と、改めてレナは思うのであった。視界の端に、頭を抱えるレグルスをチラ見しながら。
「ああそうだ。例えば、美味しいジュースを吸ってもらって濃縮されてグミを作るとか」
<マスター??>
『やってやる。カバンから出して』
<ギルティアさんはジュースが飲みたいだけなのでは?>
「はいギルティア。薔薇水とイチゴジュースでやってみようか」
<確実に美味しい組み合わせですけれども>
『美味しかった』
<グミできちゃいましたよ!>
▽キューブグミが 現れた!
▽キラの ツッコミ練度が上がった!
▽ジレは庭の荒れを見つけたので手入れのために一時席を外しております。
ギルティアは葉の付け根あたりからすうっとジュースを吸い込んで、体内で濃縮すると、花を一時的に蕾にして、ポンっと種子を吐き出した。
それがキューブ型のグミであった。
レナはもいで、匂いをかぐと、華やかな匂いがする。
モキュモキュと食べてみるとグミは甘酸っぱくて美味しい風味だった。
だからなんだというところは、やってみたかったからやったのだ。
「あっ。私からいい香りが発されている……」
▽従魔が レナに群がった。
▽花に寄ってくるハチのようであった。
そんなふうに現実逃避しているうちに、マシュたんが黒のキューブを食べてしまった。
レナがやったように。
「すみませんでしたーー! 親分として軽率でした!」
「親分……ま、間違ってはないけど、それでいいのかレナ様……」
「ヒト族ってすごく子沢山が当たり前の種族なのぉ?」
「「魔物使いでレナ限定なんだと思うよー!」」
レナがペコペコと誰にでもなく頭を下げている。
主人がそんなふうに頭を下げるのは外では困るが、敷地内では好きなように気がすむまでやらせてあげようと思う従魔たちであった。
例の一ヶ月の後。
──従魔は自立をしたものの、主人を甘やかすようになってしまっていた──。
レナのちょっとした奇行ぐらいは誰も止められなくなってしまったのだ。
「マシュたん。体調は大丈夫? キラ、診断してあげてくれる?」
<……ドクタールーム・オープン……>
「なにそれ!?」
▽四角の箱が 現れた。
キラウィンドウが六面になり、マシュたんだけを覆っている状態だ。
マジックミラーのようになっていて、なにがウィンドウに現れているのかは外部からは見えない。マシュたんの姿は見えているのだが。
マシュたんは驚いているようで、マシュマロボディが「ふかっ!」と膨らんで、肉まんのように丸くなってしまっていた。
そしてドクタールームとやらが解除される。
<異常ありませんでしたね>
「そうなんだ、よ、よかった。あれってどういう仕組みなの?」
<内側にのみルーカティアスさんの姿が映るんですよ。一秒視たら、おしまいです>
「すっごいはやいドクター」
<これもまたルーカ先生ですねえ>
レナが手のひらに乗せてあげると、マシュたんはシュワーとしぼんで元の大きさに戻った。
『マロは』
「はい」
相変わらず王様調のしゃべり方だ。そしてしばらくマシュたんは沈黙した。考えをまとめているのかな、とレナは待ってあげた。
『この黒キューブを学んでみる。このまま体内にあずかってもよいか?』
「! うん、そうしてみてほしい。たしか教科書のようにマシュたんやキラが活用することができるんだよね。やってごらん。困ったり迷ったりしたら、その時にはすぐに私に伝えること」
『あいわかった』
頷いてから、マシュたんはレナのおでこをぽてぽてと撫でた。
『マロはあの紫の瞳からきいた。黒のキューブの中にはそなたの記憶に関するものごとがあるのだと。伝えられるようになれば言う。であるから、もうしばしおとなしく待っていておくれ』
「……!」
レナたちにとって驚くべきことだ。
できればすぐにでも根掘り葉掘り聞いてしまいたかった。従魔がぶわっと感情をにじませたので、レナがいったん「スキル[従順]」で落ち着かせてから、シー、と口に指を当ててみせる。
マシュたんがこんなにも成長しているようだから。
「考えがあるんだね。そのタイミングまで待ってみるよ。あなたの成長の助けにもなるだろうから」
『よく耐えてくれた』
「光栄であります」
レナは冗談めかして言って、ニコッとした。
正直、ここでマシュたんが抱えてくれる判断をしたのはレナにとってありがたかった。
記憶は徐々にとりもどしているし、他に考えたいこともあるからだ。
いきなりまた大荷物が増えてしまうとてんてこまいになってしまう。
『マロを抱えておれば記憶再来にも役立つであろう』
マシュたんは両手をぽよっと伸ばして、レナにアピールした。
なんだかんだと遠回しな表現をしながらも、さみしかったのではないだろうか。
「おいで」
レナはマシュたんをしばらく連れ歩くことに決めた。
それから、レナは横がけのポシェットを愛用するようになった。
ポシェットは手先の器用なリリーが編んでくれたものを使っている。
すっぽりとマシュたんが入り、たまにはギルティアが収まっている。
『絆したきゃ時間をかけやがれ』とのことだ。
数日経ち、赤の聖地には手紙が届いた。
またしても、くしゃっとした魔法紙に走り書きがされたものだった。
「(要約)”レナちゃんへ。服作りがしたいよーう。趣味の服作りがしたいよーう。ってアリス・スチュアートちゃんに相談中なんです。これは日記です”」
……という奇妙な書き方。
レナはプッと笑った。
「エリザベートさんはきっと、これを日記帳に書いていたんだろうね。そしてちぎって、赤の聖地までこっそり飛ばしたのかな。敵意がないからルージュも通してくれたんだと思う。で、言いたいことは……仕事の服作りをしている+アリスちゃんが来てる、かな」
「「アリスが!」」
クレハとイズミがぴょーんっと飛び跳ねて抱き合うと、溶け合って紫のクーイズになった。
「久しぶりじゃんアリス! 会いに行こうよ! モスラもいるかなー?」
「アリスが、魔王国に来るなら……モスラ、護衛、してるんじゃない? こっちは、小さな女の子が絡まれやすいから」
「夜なら二人に電話をしてみるんだけどね。昼間で商談中かもしれないから……直接行っちゃおうか?」
「「わーい!」」
<あら大胆。マスター、エリザベートさんに求められたからって強気ですねぇ>
「それもあるし。懐かしくて、会いたくって」
「素直が一番よー! きゃっほー!」
レナたちはお出かけのために着替え部屋にやってきた。
さまざまな服がずらりと壁一面にかけられている。
それぞれ[ジャストフィット]の魔法がかけられているため、どれを選んでもちょうど良いサイズに収まるのだ。丈が足りないということもないため、素敵な服が増える一方である。
今回のレナは夏の町娘風。
緑のミモレスカートに白のシャツ、首元には若葉色のスカーフ。柔らかくした木の皮を編んだ履きやすい靴と、ポシェット。
クーイズは背を高めに伸ばして、ブラウンのチェック柄の七部丈ズボンとグレーのシャツ、黒のネクタイ。
リリーもいつもよりお姉さん風に、深緑のタイトスカートにグレーのブラウス、背を高くするハイヒール。
それぞれの服の裾に幸運の赤の糸でステッチを、リリーが施してくれた。
「転びにくいお祈り、なの」
「助かるっ!」
「まあレナが転びそうになったら我らが支えてあげるけどね〜。こっちは膝が柔軟だし、リリーは地面からちょっと浮いてるからハイヒールでも安定してるし。レナは任せてくれていーのよ?」
「のよっ?」
「ふふ。クーイズとリリーちゃんで兄妹みたいだ〜」
「はいっ。お姉ちゃんの方を、してみたいな?」
「じゃあ……クーイズお兄ちゃん、リリーお姉ちゃん」
レナが二人の腕に抱きついてみた。ビクともしない。すごい!
「行こうっ!」
今日、予定が空いていたのはクーイズとリリー、マシュたん、分身体のキラ。
久しぶりの超少人数で、エリザベートとアリスたちを驚かせに行っちゃおう。
服飾店[エルフィナリー・メイド]に行くと、ちょうどお客さんが帰ったところのようだった。
馬車に数名が乗り込んで、去っていく。
レナたちは「普通の馬車が使われるのって珍しいよね」などと話した。けれど乗り物として一般的なものであり、高級商人などがよく使う。ワイバーン空便や白竜特急便やバタフライ便を使うレナたちの方が珍しい。
先日の青の集団のチンピラが出待ちするような状態は解消されているらしい。
レナたちはホッとした。
まずは窓から、ひょっこりと覗いてみる。
店内に展示しているものが窓から見えるようにいつのまにか改装されていた。
オーダーメイド用の展示品といった服が並び、既製品はほとんど置いていないようだ。エリザベートが帰ってきたことでエルフィナリーメイドも働き増し、既製品を作る暇がとれないほどなのだろう。
シンプル定番の形の服ながら、縫製や形の綺麗さがとてもすばらしい服が並んでいた。
レナは、それらを従魔に着せたときのイメージをして、ニマニマしてしまう。
無限に着替えて見せびらかしてほしいと思う。
ひょっこりと、窓の向こう──店内のドアのあたりに、白金色の頭が見える。
そしてねじれた羊のツノも。先っぽは夜空色、真ん中にかけて藍色に染まっている。ふわふわの白金髪がふりふりと揺れていた。
「ハーくんもいるの!?」
<います>
「ドッキリさせられちゃう〜!」
<感動って大切だと思うんですよ。危険はないようにしますから、マスターにはまたいろんなところで心を動かして人生を謳歌してほしいのでございます>
「ありがと! わわ、ハーくんが手招きしてる。扉から手だけ出してこっちを誘ってて、なんかもう全部可愛い。いこうっ、クーイズお兄ちゃん、リリーお姉ちゃん」
店の内側から「なにそれずるいいいなあー!?」とか聞こえた気がした。
つまりハマルがけっこう大きな声で叫んだのだろう。
レナは、玄関のベルを鳴らした。
「っどーーん」
「第一声がそれですか? いらっしゃいませは?」
「久しぶりー、久しぶりー、レーナー様ー」
扉が開いた瞬間、着る白金毛布を着用したハマルが、これでもかと柔らかい感触をまとったまま、レナに抱きついてくる。
しっかりとクーイズとリリーがともに抱きとめてくれた。
レナはお日様とエルフの森の香りをうっとりと堪能して、「ただいま」と告げた。
▽Next! アリスとエルフの服飾取引
▽モスラの赤の教典取材
読んでくれてありがとうございました!
またみんなの服装を描きたいと思います♪
次くらいに載せられたらいいなっと。
たくさんのキャラを出しつつも物語が進むように、文章を試行錯誤してみたのですが、いかがでしょうか。楽しさと進行と…… こうなればいいな〜がたくさんあるので、
理想に近くなるように学んでみますね!
今週もお疲れ様でした。
よい週末を( *´꒳`*)੭⁾⁾




