怒涛のおしたくとジレ★
「オズワルド坊ちゃんも来るとなるともうしばらくかかりそうですね。攻略の説明をさせていただいても?」
「ドリューさんがしっかりしてる……!」
「恐縮っス」
ドリューも、レナも、それぞれの段取りを頭の中にめぐらせている。
レナの方が先に口を開いた。
「その前にもう二人呼んでもいいですか?」
「連れていく従魔ですか?」
「はい。カルメンに関するクエストですから、白炎が扱える子がいるといいかなって」
「かな、ですか……んー、探知としてはいいかもしれません。でも行くのは海底ダンジョンだから炎ばかりというのは」
「海水を根こそぎ蒸発させるのがいいかなと」
「うわあ」
「焼き魚です」
ドリューがぶるっと震えて自らを抱くように腕を交差させた。
顔色が悪い。魚護人なので。
部下にも海底対策のマーメイドがいたらしく、二人ほどが青ざめている。
「緑を扱う子とかも考えたんですけど、ラナシュにおいては魔法属性の有利不利があまりないですし……工夫することが大切かなって思います。レグルスとオズくんが決定なら、ジレとクレハにも声をかけて炎で固めようかと。そして私たちは防炎と防水の装備を身につけましょう」
「簡単に言ってくださいますねぇ」
「うちのものを貸しますよ」
「まいど。性能を後で確かめさせてください」
レナがクスリとする。
「ドリューさんらしい返事ですね。これまではロベルトさんたちを相手にしてるみたいな気分だったんですけど」
「指導員はそうでしたからね〜。先輩らは魔王国製のものを優先しそう。で、オレはまだ未熟なんで貰えるものはもらっておくことにしてます」
「あはは。いいと思います!」
レナたちは[ダンジョンメイキング]で現れた即席の会議机についている。
紙に、必要事項を書き足していく。
「防炎。それならキサやミディもいてもいいんだけど、キサは里帰りだし、ミディは海にいるんだっけ」
「俺の故郷の竜宮城にいますね。マーメイドに歓迎されて修行をしてるそうですよ」
「食べられたくなってるかなー」
「イカゲソは海の生き物にとっても好物ですから、喜ばれてます」
「実際食べられてるんだ。それなら良かった」
良かった、が独特である。
「キラ。クレハとジレに声をかけてくれる?」
<かしこまりました。……あちゃー>
「あちゃー?」
<ま、呼んでみますか>
しばらく待った。
ドリューが靴先をトントンと貧乏ゆすりするくらいに。レナもそわそわとしてきている。ポケットからこぼれ落ちそうになったマシュたんをそっと戻した。
30分ほど経ち、扉がひかえめに開いた。
小型の恐竜が鼻先を出す。どろどろとしたスライムに濡れてぐったりしていた。
『久しぶり。レナ様…………』
「ジレ大丈夫!?」
レナはあわてて近寄ろうとしたが、ピタリと止まった。
もしかしてレグルスたちの時のように間が必要かと思ったからだ。けれどジレは落ち着いている。
『大丈夫だよ。クーイズ先輩に毒を吸い尽くされただけだから……』
「毒を……おやつにされたんだね……」
『それもあるけど。オレ、このGーレックスの姿でいるときに毒が滲みやすくなってて。この部屋に来るまでに廊下を汚すかもしれなかったからなんだよ。本当に………………』
きっと5割くらい。
「よしよし。ジレ、ちょっといいかな?」
レナがジレの前にしゃがみ込む。
じーーっと黒の鱗を眺めている。地肌は割れていてじわりと毒がにじみ始めていた。
(ものはためしに)
「スキル[従順]毒の制御」
『そんなんで制御できるようになるわけ……! ……。……なってる……』
これまでの苦労はなんだったんだ。
ジレが大きな頭をがくんと下に下げた。
ずばり、これまでの調子が本来の力であって、レナの側にいると成長が促進されるため調子が整うのだ。
(こんなに幼いまま一ヶ月も放っておいて、ごめんね)
「えらかったね」
『……レナ様。ありがとう。それからあなたが回復して良かった、お帰りなさい』
「ただいまー」
ジレはスキルを使われても乱れない。
レナはもはや(珍しいな)と思って、ジレと、これまで会った従魔の一ヶ月の違いはなんだろう? と考えてみる。
ジーーーーーー。
ジーーーーーー。
ジーーーーーー。
『あの……そんな風にみられると照れます……』
さすがに照れるらしい。
「ジレがあまり動揺してないから、どうしてかなあって」
『ああそれは。この首輪のせいですね』
恐竜のようなGーレックスの太い首には、黒い革細工の紐が巻きついている。
姿の変化に合わせて形状を変えられるという魔物向けの従属の首輪だ。
まだ夢組織に所属していた頃の罪が更生されていないために、これをつけて能力制御しなければならない。
『一ヶ月間、これをつけている従魔は動揺が少なかったんです』
「もしかして従魔契約の代わりに私とみんなを繋いでくれていたのかな。じゃあマイラ、アグリスタ、ギルティアが意外と落ち着いて過ごしていたんだね?」
『ギルティアに至ってはリリー先輩を慰めることまでしていましたね』
「とってもえらいじゃない。褒めてあげたいなあ」
『ぜひ、また』
「おっと、漏れてた。首輪といえばルーカさんも落ち着いていたんだね」
『…………あー……落ち着いているというかあれは』
ジレは思いっきり言い淀んだ。
そして素直に教えてくれた。
『虚無ってました』
「きょむ」
『引きこもりです』
「ネガティブと相性が良すぎるでしょ」
聞けば、マイラよりはるかに上手く"虚無る"らしい。
『悪運対策をどうしてもしなければいけないし、けれどレナ様との繋がりが薄れたことで女性恐怖症が少し現れちゃって、いったんシュシュさんを側につけたんですけど、二人のネガティブが煮詰まっちゃったので……真実の泉を洞窟ごと閉ざしてそこで引きこもっているんですよね……』
「天井落ちてきたりしない?」
『ルーカ先輩の悪運ならあり得ます。けれどあの場所自体が幸運スポットらしいです。ラナシュにおいて地形の運に左右されず1000年形が残るところは珍しいくらいですからね』
「ふーん。ジーーーーーー」
『な、なんですか』
ジレ、後退しながらも期待したような眼差し。
と、レナにはお見通しなのである!
「よく勉強したりしててえらかったねえ〜〜!」
▽レナの 撫でる攻撃!
▽効果はばつぐんだ!
▽あっけない、あまりにもあっけない
▽とドリューたちが白けきった目で従魔たちを眺めている
▽猫娘も含めて この従魔たちが一ヶ月荒れ放題だったところをなだめていたのは彼らだからだ。
▽従魔契約!
▽主人! 圧倒的!!!!
「終わりよければ、全てよし」
「小隊長〜」
割り切ることにしたらしいドリューの決断に、若い部下は同情と尊敬を抱いたのだった。
『クレハ先輩やっぱりまだ来ませんね』
「やっぱり?」
『レナ様が眠ってしまってるときは情緒不安定で、目覚めたって聞いてからは錯乱していますので……』
「今すぐ行って抱きしめてこなくてもいいかな!?」
『スライムボディが溶けちゃいますよ。その現象にレナ様が巻き込まれたら一大事ですし』
イメージしてみて、レナはゾッとした。
スライム[溶解]の恐ろしさはよく知っている。すぐに骨だけになってしまうだろう。
『だからまだ会わないことにするそうです。大好きって伝えてって』
ジレがまっすぐにレナに伝えた。
レナは胸がじーーんと熱くなっている。
初めての従魔で、レナのことをずっと看病もしてくれていた世話焼きなクレハとイズミは、まだまだレナのためを思って行動してくれるらしい。
「わたしも大好き。また、会いにいこうと思う」
『そうしてください。しばらくしたら起きている主人に耐性もできそうですし』
ジレも世話焼きだし、気遣い屋だ。
ちなみにドリューたちとも良い絆を結んでいる。苦労人仲間として。
<オズワルドさんの到着です>
「早!」
<ラビリンス:夕紅の丘からこのダンジョンまでをつなげてありますのでショートカットしていらしたんですよ。アッ>
「そのアッていうの怖いんだけど……」
<怖がらなくてもいいです。ドリューさんは怖がっておいてください>
「オレ災難が多すぎない!?」
中間管理職の先輩の嘆きを思い出したドリューであった。
ズダダダダダダダダ!!!!!
とものすごい足音が廊下から聞こえている。
ドーーーーーーーン!!!!!
扉がぶち開けられた。
蝶番が軋んでいる。観音開きのドアで内装が広くてみんな中央の方にいて助かったなあ、とレナは思った。
そして(魔王国にやってきてすぐの夜の騒動そっくりだ)とデジャヴを感じた。
「フハハハハハハ!!」
ドオオオオ!とやかましい覇気を放ち仁王立ちする魔王ドグマ。
身長は2メートル22センチ。あんたまで成長せんでもいいと言いたい。
そしてマントの影に、腕でがっしり抱えられた少年がいた。
オズワルドである。
「くそっ……荷物が追いかけてきやがったッ……!」
「なかなかない経験をしたねえオズくん。久しぶ……」
「待って主さんまだ言わないで。こんなのカッコ悪い再会は絶対嫌だ。死ぬ。やり直しさせて」
「オズワルド坊ちゃんあんまり時間ないってこと分かってます?」
「その分ダンジョンに向かう足が速くなるからやらせて」
「いいぞ!!!!!!」
「父様はマジで黙ってて」
複雑なお年頃なのである。
最高権力者が許可をしたので部下は黙っていなければならなくなった。
レナは? 従魔のやり直しを一回くらい見たっていいじゃない。
▽リテイク!
部屋の中はシンとしている。
中央の椅子にはレナだけが座っている。
廊下からそっと靴の音がして、オズワルドが扉を開けた。余裕のある動作だ。
そしてレナを見つけると、ピシッと獣耳が立つ。身だしなみも整っていて少年らしいスーツ。
先ほどヴァーチャルレナで練習をしたばかりだから本物がいたって大丈夫。
ずっと元気なあなたと会いたかった。
「レナさん。またあなたの従魔になってもいい? 従えて」
「もちろんだよオズくん」
ここで主従がそっと手を取り合う。完璧!
キラが穏やかなクラシックメロディを鳴らした。
▽レナのポケットから マシュたんがこぼれた。
「そいつ誰ぇ!?」
▽オズワルドが激しく威嚇した!
キラが激しいサスペンス音楽を鳴らした!
ジャジャーーーーーン……!!
「はああああ。つまりは聖霊杯とラビリンスキューブをぶち当てたら生まれたのがこのマシュたんで? レナさんは不思議空間で四人のダンジョンマスターに会ってて? いつのまにか一ヶ月? 育て方のアドバイスも聞きに行きたいな〜ってことなんスね〜」
「やさぐれていますねドリューさん。出会った頃のクドライヤさんにそっくりです」
「あのレベルに一ヶ月ちょっとで堕とさないで欲しかったっス。はい点呼とりますよ〜」
ドリューが悪魔契約書をぐしゃっと丸めて捨て、まったく新しい白紙にとりあえず名前だけ書き始めた。
国から送られてきた高級品をあのように扱うとは豪気になったものだ。
「ドリュー、俺、はーい。
レグルス、レナさん、オズワルド坊ちゃん、ジレ坊、キラさん……マシュたんも入れますかね」
従魔たちが返事をすると、ドリューは自らの部下の方を振り返った。
「お前たちはこの赤の聖地を守って待機だ」
「待機ですか?」
部下には困惑の色が見える。
なにせこれから決死の覚悟でクエストに挑むつもりだったからだ。
ダンジョン[深海の遺跡]とは海から潮が流れ込み、複雑に入り組んだ暗い場所。ダンジョンといえば生き物のように地形が変わることも特徴だし、モンスターだって出る。そんな場所でたった一人の人探し──それも気難しい聖霊を連れて帰ろうなどととんでもない高難度クエストであった。
カルメンと面識のあるレグルス・ドリューはともかく、集められたのがいざとなれば死んでもいいアンデッド・海流に乗って海に逃げられるマーメイドなのは、それが理由である。
駄目でもともと、情報を持ち帰るのが最優先のパーティだった。
それが今となっては、本格的に聖霊を連れ帰ることが目的になり、高火力で海水をぶちのめしながら進むとなればアンデッドもマーメイドも相性があまりに悪い。
「レナさんたちがいない間ここが手薄になるだろう。けれど来客があった時、事情をじかに見ていたお前たちが対応するほうがいい。それと不審者は絶対に中に通すな。その判別はできるな?」
「「「「やります」」」」
「よろしい」
「我も行こう」
「よろしくないッ」
とっさにこの反応ができるなんて、ドリューはたいそうな成長をしたものである……。
ポクポクポク、ちーーーーん。
▽レナの 考えが まとまった。
「しょうがない。連いてきてもらいましょうか……………魔王ドグマ様………後ろ盾が直接いてくれるんだし………………うん…………私病み上がりなのは確かだし…………千人力ですよねえ……ええ………………………………」
それにレナはまだ秘密にしているが、会おうとしているダンジョンマスターは"神"なのだ。
であれば魔王がいてくれると戦力は大変心強い。
あの四人いた神らしきもののうち、穏やかなタイプが海底ダンジョンのマスターだといいのだが。
それはレナの超幸運に祈ろう。
「魔王様。なんで来たいんですか?」
「武闘大会が延期になったため力を持て余している我が城にいても、オズワルドやレグルスがいなければろくに戦闘相手もおらんのでな!」
「サディス宰相が荷物配達を魔王様にお願いした理由がわかりました」
魔王は城で持て余されているし、武闘大会が延期になったぶんの保障をレナパーティに頼もうというのだろう。
そのくらいはしてあげよう。
レナは実にさっぱりとそう決めて、首を縦に振った。
ドリューは後ろにのけぞった。
オズワルドの尻尾がピシン!とふてくされたように、父の膝を打って、魔王は高笑いする。
(行きたくないなあ。待機をさせてもらえて儲けものだった)
(お前、絶対に言うなよ。ドリュー小隊長が聞いたら泣くよ)
(泣かせたい)
(おいやめろ)
<このごちゃごちゃ具合がとっても懐かしいですね>
キラが穏やかに点滅する。
▽メンバーが 集まった。
▽ダンジョン探索に行こう!
▽海水を火力で負かそうぜ!!!
▽カルメンを探そう!!




