フュージョン★
▽レナは 氷の聖霊杯と ラビリンスキューブを 合体させた!
▽あたりは一面の光に包まれた!
(キラが制御する部屋にいたはずなのに──)
その床も感じられず、部屋の壁も見えない。
(うそ、失敗した!?)
あふれてとまらない眩しい光にもだんだん目が慣れてきたのに、けして、部屋の中が光で眩しい、という感覚ではなくて、(まだここは光の中だ)と感じる。焦る心を必死に落ち着かせる。ここであわてても、何にもならない。氷の聖霊の夢の世界でのめちゃくちゃを思えば、これくらいのトラブルなんのその。キューーーーーっと足を踏ん張って”元気”を絞り出す。
(私、どこにいるんだろう──?)
レナは握っていたものを手放さなかった。
(ひゃ〜〜〜!?)
うにゅうにゅ、と手の中で”動き始めた”。
硬質な金属や氷であったはずのものが、柔らかくもぞもぞしている。
(まだ見ちゃいけない気がするううう……)
グロいのではないか。
という見た目の問題と。
曖昧なものに誤った認知を授けてしまうと危険だから。
という妙にしっくりくる認識。
レナはこの真っ白な空間で、手の中のくすぐったさに耐えつつ、ぼうっとするしかやることがなかった。
なんだか色々な思い出が走馬灯のように頭の中を巡っていく。
(氷の聖霊を凍土に戻すの大変だったなあ。でもいろんな協力をもらえて、あの子が居場所を持ち直せてよかったよ)
(身内第一って決めているけど、他は不幸になってもいいわけじゃないの、でも救世主になんてなれないしね──)
(夢組織と戦ったのは辛かったなあ。辛い目にあったから他を信じられなくなっている姿は、もしかしたら逃亡に失敗していた私たちの未来だったかもしれない──)
(ジーニアレス大陸で魔王国に入国できてよかったな。魔物に優しいところだったし、いろいろ大目に見てもらって後ろ盾にもなってくれたし──)
(海を渡って、空を飛んで、ラナシュ世界の陸海空を味わいまくってるんじゃないの?──)
(アネース王国についてから、冒険者ギルドに登録して、やっと生計を立てられるようになって。ちょっとだけ他人を助ける余裕もできたっけ。シルフィーネたちの舞いが綺麗で──)
(私は、藤堂レナ。なりゆきで魔物使いになっちゃって、運よくクレハとイズミをテイムすることができて、人身売買しようとしてた悪い人たちから逃げて──)
(あれ? その前は──)
(その前──?)
「うわああああああ」
▽手のひらの中がものすごくもぞもぞしている!!
レナが悲鳴をあげたのも無理はない。
例えばハムスターとスライムとルービックキューブと、様々な感触がごちゃまぜになってうごめいているのだ。
言えないけれど(キモチワルイ!)……感触なのである。
「き、気を紛らわすことをしよう。アメンボ、ボール、ルビー、ビワ……」
▽レナは 混乱している!
▽いつまで光っているつもりなんだよこの部屋は。
『──汝、』
「はい? うっ中学二年生の頃の黒歴史が……あっ間違えた、キラたちは赤歴史って言いたがるんだった。でね、そんなものの言い方しないでほしいの。古傷が疼くから」
部屋に声が響いた。
とっさに反論したものの、レナの心臓はバクバク音を立てている。
(超びっくりした。どうしよう……これ、すごい尊大な声だ。ってことは尊大な立場? キラの防壁を破ってきたの? 気を確かに持たないと……!)
『──……。汝、神になろうとする者か?』
「譲歩する気がなさすぎます。自己紹介してどうぞ」
『──むう』
『──ははは! 自己紹介しろだって』
「うわ、複数いた! なに?」
『──ずいぶん度胸が座っているのだな』
「……だってここから逃げられそうもないですし。こういう時、従順にしていると良いように定義されてしまうんですもん。私は思い通りには動きませんので、ってアピールも大事なんだって学びました」
『──目がすさんでいるな』
「ちょっと遠い目をしているだけです〜。ちょっとね。昔をいろいろ思い出すんですよ、ええ」
『──たったの数ヶ月過ごしただけだっていうのにね!ははは!』
レナはやけに落ち着いていた。というかおざなりになってきた。
手の中はキモチワルくて、ぼやんと反響するような声は無遠慮なのだ。
従魔たちがいない不安もある。
嫌なことが重なると、ヒト族、雑になるものなのだ。
▽レナの前に 光の人型が現れた。×4
(……四人、いるの?)
▽光る部屋の中で さらに眩しい。
▽光の質が違うようだ。
(すごい、重圧)
▽レナは 息ができない。
(魔王様の、絶対王者の覇気のもっとつよいやつ……。ううん、状況は似てるけど、物としては全くの別物、かも。苦し……!)
▽レナは 喉元に手を当てると 親指を立てて ビッと下を向けた。
『──ひーーーーーーー!』
一人ぶん、光の影が揺らいだ。
めちゃくちゃ笑っている。どうやらレナのジェスチャーは通じたようだ。
ふっ、とレナの呼吸が通った。
(どうせこのままでも殺されてしまうから挑戦してしまえ、って賭けに出てよかった……!)
▽レナは ぎゅむっと手のひらをまた合わせた。
▽生まれかけている何かを隠してあげるように。
▽無遠慮に定義されないように。
『──さて、問おう。汝、神になろうとする者か?』
「まず楽になりました、調整してくれてありがとうございます」
『──話の腰を折るのが趣味なの?ははは!』
「まずって言ったじゃないですか」
『──うっそ、怒られた、儂怒られたよ……』
『──汝!!』
(すごい急かしてくる)
▽グダグダである。
▽どうやら光の人型には煽り耐性がないらしい。
▽レナのペースに引きずり込め!!
▽どうせ相手の機嫌を損ねたら押し潰されるのだ。抗うのだ!
「神になる気は無いんですよ。救世主も、勇者も、そういうのはお断りです」
『──しかし聖霊杯を持ち、聖霊を生もうとしているではないか』
「それと神様になることに関係があるんですか?」
『──知らぬのか!?』
『──たまたま正解を引き当てたウルトララッキーガール?』
(むしろ、幸運の反動が一気にきちゃったアンラッキーガールって気がするけど〜。私、大きな立場いらないし)
『──方法が伝わっていなかったのか。たしかに我々の元に来るものはめっきり減った……』
(あ。物の言い方がカルメンっぽい)
『──教えてあげなよ』
『『──賛成』』
『──いいだろう』
(また私を置き去りにするぅ! うええ重圧他の二人ぶん上乗せされたあああ)
『──聖霊杯をもち聖霊を生み、ラナシュ世界に己の小世界を築いた王は、やがて神になる権利を得る。大地を生み、空を動かし、生命を反映させられる』
レナはイメージしてみた。
(大地はジレが地ならしできるし、空はモスラのはばたきで動かせるし、生命はギルティアやチョココがいろいろ作れそうだなあ。やっぱり私が神様になるメリットってないな〜)
『──それは栄光なのだ』
(うん、いらない)
レナは左右に首を振った。
ズシンと重圧が増した気がした。正直、吐き気がするくらいだ。
『──汝、神を否定する者か?』
(不穏すぎでしょ!?)
体が苦しかったけど、レナはまた頭を左右にめちゃくちゃ振った。三つ編みがブンブン暴れて、鞭のようで、ある意味滑稽であった。
「しろ、くろ、以外にも、あっても、いいと思います……!」
『──例えば?』
「何も知らなかったので、神様がいるって知ったあとに、じゃあ神様ってどんな存在なのかなって、これから知っていくような……!」
『──後に判断するというのか』
『──いーじゃん。こんなの初めて。面白そう』
『──己ノ小世界、崩シカネナイゾ』
『──責任とって消えたなら元通りなだけだしこの小娘を助けてやる手間も義理も必要ないし、アタシたちにとって何か不利益があるわけでもないしもしかしたら”神様になる方法がわかるかもしれない”し、せめてしばらくの暇つぶしにもなるなら文句もないないのないんだし』
(めんどくさすぎるでしょ神様の性格……心を読まれない空間でよかったよ……)
『──では経過観察で』
『『『──賛成』』』
一歩、光の人型が近寄ってきた。
重圧がまた増したので、レナはシャチホコのように頭を下げてしまった。
従魔たちにはあまり見せたくない光景である。
主人が情けないのは許してもらえるけど、害した相手がいるとなればとても怒るだろうから。
クスクスクス、とさっきの笑いの沸点低めな光の声が聞こえている。
さらに一歩進もうとする足が見えたので、(やばい)と身を固くしたのだが、逆に体は一気に楽になった。
上体を起こして、頭痛がする頭を撫でる。
手のひらを合わせたままなので、妙なお祈りをするようなポージングになってしまった。
ふるふると頭を振って、三つ編みを背中の方に流す。
「あの。ありが……」
動きかけの姿勢で光の人型が驚いたようにとまっていたので、どうやらこの状況はあっちが気遣ってくれたのではないらしい、と理解した。
レナの手の中で、何か、光っている。
(あ!)
『──それこそが神になろうとするものであったか』
『──え、この女の子の方じゃないんだ』
『──ホッ』
『──なになに情報なんもないし支持者ゼロとかありえないしそんなものが神になろうなんておこがましいし、でも変化したってことはラナシュ世界に刻まれている小世界を持つものなわけまったくなになになんだこれ?』
(わりと柔軟に受け止められていそう……かな? よし今のうちに!)
「マシュたんです」
『『『『──?』』』』
「命名はマシュたんです。マシュマロみたいにもちもちしていて柔らかくて、小さくて可愛い存在なので!」
『──急に猛烈に語るな』
『──小さくて可愛いっていう必要あった? 儂の方が可愛いでしょ』
『──……。……。……』
『──飽きた。まあいいや』
▽勝った。
▽とレナは心の中でガッツポーズした。
(それにしても柔らかい育ち方でよかった。鉱石の方が突出しちゃってウニみたいに育ったら私の手が血まみれになるところだったよ……。……血で変化したんだっけ)
マシュたん、はころりとした丸みのある体。腕と脚らしきものがちょこんと生えているが、先端はまだ淡い光に包まれていて目視できない。つぶらな瞳は血色と氷色のオッドアイ。柔らかいマシュマロをねじったような髪がある。
魔物型のギルティアに似たフォルムだ。
かろうじて、光の人型の呼べそうな姿。
生まれたばかりだが、レナへの重圧を軽減するくらいの力はあるらしい。
それはおそらく、声にならない(し・た・が・え・て?)の気持ちが理由なのだろう。
光の人型たちとレナは、しばらくこのマシュたんとコミュニケーションをとって過ごした。まだ話せないので神になるつもりなのかという結論は出なかった。
レナのお腹がくーーーと鳴るころに、解放されたのだった。
光の人型とは和解まではいかなかった。
結局何者だったのかというくわしい事情も曖昧なままだ。
けれど「見守ることにする」レベルで調整できたのが、レナにとっては及第点の収穫となった。
***
目覚めたとき、レナはベッドに横たわっていた。
(あれ? キラの部屋にいたはずじゃ……)
くう、とお腹が鳴る。
<マスタァーーーーーー!? もう一ヶ月も眠っていたのですよ!!>
「ええええええええ!?!?」
▽光の空間は 時の流れが違っていたようだ。
▽涙ながらに寄ってきたキラから 眠っていた間の一ヶ月のことを 怒涛の勢いで聞くはめになるのだった。




