ラビリンスは夢の中2
ハマルが誘った夢の世界に、レナ、リリー、ギルティアが新たに現れている。
[レム睡眠]の効果で浅い眠り状態となることは夢をみるのに適しているのだ。
三人は、うとうととしながらふんわりと足を浮かせて、この夢の世界の王者(となる予定)のハマルの指示を聞いている。
『ギルティアそっちの泥を避け……あーーっ攻撃しないのーっ』
▽ハマルの指示 失敗!
▽ギルティアが 泥をかぶった。
そっちの泥……と聞いた時点ではやくも動き出してしまったことが原因だ。
「ギルティアさんの性格は”せっかち””やんちゃ””赤ちゃん”ですから配慮してあげてください」
『そんなことまで気をつけて指示するのぉ!? うわーーんっレナ様への尊敬と信仰が高まります〜っ』
ハマルは愚痴を言いながらも、ギルティアのケアをすぐに行った。
まず泥だらけになったちいさな体を、泡で洗う。自分を包んでいる泡をふわふわと移動させて溺れさせない程度に包み、こしゅこしゅと動かしたのだ。
ギルティアは赤子のように無垢な笑い声をあげた。それから、むにゃむにゃ……と寝言を言う。
『こっちの気も知らないで安心しちゃってさ〜。もう〜』
「キャーーーーリリーさぁん!?」
▽敵討ち! とばかりにリリーが飛び出していった。
▽ハマルの指示が間に合わない!
▽[吸血]……泥が口の中に入っただけなので ペッペッと吐き出している。
「そりゃあそうなりますよ……」
『リリー先輩がやるならぁ[魔吸結界]ですーっ』
▽リリーは ブラックホールのような球体を 生み出した。
▽黒い靄が吸い込まれていく……
▽泥が崩れ落ち 夢の世界から消えた。
『お? なるほどー。泥と混ざった思念体だから夢の世界に来ちゃったけどー怨念のぶぶんを消去しちゃえばーこの世界にいられないんですねー? 夢の世界では思念がむきだしになりますからー……ふふーん、いいことわかっちゃったぁ♪』
「アーーっ危険!危険!」
キラがブザーを鳴らす。
▽氷色の靄まで 吸ってしまっている!
『リリー先輩ストップですぅ!? それ多分氷の聖霊の心まで吸いかけていますから〜! たぶんあの聖霊ってば存在感が希薄になっておりますしー、今の世界に認められてないから脆弱なんですかね〜?』
▽リリーは 脆弱の意味が わからない。
▽首を傾げている。
「リリーさんは長々と難しい言葉を交えてしまうと指示がふっとびます。”うっかり””なんとなく””なんとかなる”なので配慮してください!」
『魔法、ストップ〜!』
▽リリーが 魔吸結界を消した。
▽ハマルは げんなりしている。
▽腹いせにガトリング砲の夢を現した。
ガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガ
『キラ先輩相手してぇ〜……』
「ええ、おそらく合っていますよ。脆弱性について。聖霊は希薄になってしまっている、怨念はむりやり現代によみがえらせた思念、これらは生き物の生命力というよりも魔法によって形を保っていますので、”魔吸”結界に吸収されてしまうのでしょう。──氷の聖霊だけは除外するように、プログラムを改造しますね……」
『悪いとこは吸っちゃえば〜? 核の聖霊杯は残るんでしょー』
ハマルが言っているのは、核の聖霊杯こそがレナの欲しいものであり、現在の聖霊をそのまま残さなくても良いのではないか?ということだ。
怨念のようなものから先に吸い込まれるのであれば、悪いものが消えて、いい子の聖霊が残るのではないか。それでいいではないか? と。
「わりと本質的なところにつっこんできましたね?」
『だって手間だしー』
「言うとおり、氷の聖霊杯としては存在できるんですよね。削ってしまっても」
キラが意外にも肯定的なことを言うので、ハマルは顔を向けて聞き入った。
投げつけられた泥はガトリング砲で撃ち落とす。
ガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガ……
「情報として不足はありませんよ。氷の聖霊杯は残っているから、思考ができるくらいの思念は残るでしょう。欠けたところは新しい記憶で埋めて差し上げたらいい。それで、このラナシュ世界においての氷の聖霊は完成です。きっと私たちのパーティにふさわしく在って下さるでしょう。
でも面白くないんですよね」
『ボクは別に今の環境があればそれだけでいーんだけどなー』
「マスター・レナは調整によって魔物を従え、そのものを丸ごと調教することで成長なさってきました。極まった個性も手懐けて今となっては強力な武器ですもの。ふりまわされることはありますが……」
『その振り回しが敵にとって予想外の奇襲になりますもんね〜』
ハマル、自分の被虐体質によりレナを振り回している自覚はあるらしい。
キラが労わるような目でレナを眺めた。
ぼうっと居眠りするような黒目でキラを見つめ返してきた眼差しには(いやキラも振り回してくるタイプだよ!?)との意思がありそうな気もする。
▽みんな 同じ穴のムジナだぜ!!
▽バンザーーイ!!
「マスター・レナは魔物使いでいらっしゃいますもの。強力な個性を従えて真価を発揮させることによって、より覇道を極められる。慈愛の心をもち、輪をていねいに広げて、口上はカッコヨク磨かれていき、鞭の威力が強くなる」
『鞭の威力が!』
「ご褒美の匙加減もさらに上手くなることでしょう」
『バンザーーイ!』
ハマルがめえめえと歓声をあげた。
キラの手綱の勝利であった。
そこそこ頭が良く我の強いハマルには、理屈で説き伏せるよりも、とろけてもらった方が融通が利く。
(マスター……あなたは本当に偉大ですよ……)
ほったらかしでただ従魔の暴走を見せられていたレナは(その点に関しては本当に自信あるよ!!)などと思っていそうだ。
うつらうつらとみている夢の中のこと。
レナは目覚めてから、どれくらい覚えているのだろうか?
そのことも検証したい。
なにせ、初めてハマルがあつかったスキルなのだから。
『あーーっギルティア、ガトリング砲は敵じゃないから攻撃しないっ』
『ちょ、リリー先輩、レナ様の血を吸いにいっちゃあだめだよぉそれ夢の世界においては魔力だからーっ』
『みゃあああレナ様がスケスケになってるーっ』
……大変そうだ。
「分け与えることができればいいんですけどねえ」
『えーと何があったっけ。ステータスオープンして?』
「名前:リリー
種族:プリンセスフェアリー・ダーク♀、LV.36
装備:短ジャケット、バレリーナスカート、ショートブーツ、M服飾保存ブレスレット(水色)
適性:黒魔法、黄魔法[付与]
体力:36
知力:51
素早さ:39
魔力:86
運:31
スキル:[幻覚]+3、[吸血]、[魅了]、[黒ノ霧]、[紅ノ霧]、[魔吸結界]、[消費魔力軽減]、[跳び蹴り]、[ 軽業]、[護身武術]、[光沢付与]
ギフト:[フェアリー・アイ]☆4
称号:魔人族、サポート上手、ブラッディリリー」
「名前:ギルティア
種族:世界樹ネオ、LV.5
装備:ワンピース、短パン、もこもこブーツ、金毛羊のウールコート、M服飾保存ブレスレット(黒)、※従順の首輪
適性:青魔法、緑魔法、黒魔法[空間]
※体力:10
※知力:15
※素早さ:13
※魔力:15
※運:4
スキル:[魂喰い]、[魂移し]、[わた胞子] 、[アロマセラピー] 、[冷気耐性]、[品種改良]
ギフト:[オアシス]☆5 [ヤドリギ]☆6
称号:魔人族、精霊のトモダチ、犯罪者」
「ギルドカード:ランクA
名前:藤堂 レナ
職業:魔物使い(モンスターテイマー)LV.39
装備:赤ノドレス、粛清ヲ授ケシ淑女ノ赤手袋、乙女ヲ彩リシ赤キランジェリー、赤ノブーツ、Mバッグ、赤ノ祝福ヲ賜リシ覇衣、モスラの呼び笛、朱蜘蛛の喚び笛、白竜の呼び笛、緋の薔薇女王、M服飾保存ブレスレット(赤)
適性:黒魔法・緑魔法[風・治療]
体力:46
知力:91
素早さ:32
魔力:88
運:測定不能
スキル:[従魔契約]、[鼓舞]+2、[伝令]、[従順]、[従魔回復]+1、[みね打ち]、[友愛の笑み]、[薙ぎ打ち]、[仮契約]、[体力向上]、[騎乗]、[羊鞭]
従魔:クレハ、イズミ、リリー、ハマル、モスラ、シュシュ、ルーカティアス、オズワルド、キラ、レグルス、キサ、ミディアム・レア、チョココ、アグリスタ、ジレ、マイラ、ギルティア
ギフト:[レア・クラスチェンジ体質]☆7
称号:逃亡者、お姉様、赤の女王様(覇道)、サディスト、精霊の友達、トラブル体質、聖霊の友達、白炎聖霊杯の司祭、祝福体質、退魔師、物語の主役、異世界人」
ハマルは泡であばれんぼうたちを押さえ込みながら、ステータスウィンドウをじっくりと眺めていく。
だいたい頭の中には入った。
そして、やってみたい作戦も浮かんだ。
『キラ先輩が言ってたやつできるかもー。この夢の世界ではいろんなものが統一されて魔力扱いなんだからさー、かきねを超えられるよねー?』
「やってみましょう。歪みは私が修正します」
『んっ。じゃあねーギルティアは[魂喰い]リリー先輩が吸収しちゃったレナ様の魔力をとりこんでー。それから[魂移し]とりこんだ魔力をまたレナ様に返すのだー』
めええええええ! とハマルが号令をかける。
ガトリング砲にも負けない大音量。
さすがの二人も指示を聞き逃さなかった。
ギルティアがリリーに絡みつく。
ぷっくりと綿毛ボディをふくらませた。
そしてふわふわと移動して、レナに絡みつく。
スリスリ頬ずりをすると綿毛ボディがしゅんわりとしぼんでいった。
半透明だったレナの身体に色みが戻ってきた!
『やれましたねー! ね?キラ先輩』
「ぜえはあぜえはあ……って感じですよ……!通常記憶を消したり与えたりするものを、記憶そのままに魔力のやりとりとして修正するの大変で御座いました私えらいっ!!」
『えらーーい』
ハマルがふふっと微笑んでいる。
修正は任せろといった手前、キラは苦笑した。
そんなこんなしている間に、
▽泥人形のほとんどを 殲滅した。
▽銃ってつよーーい!
▽氷の聖霊は激怒している。
『──ッギャアアアアアアアアアアッッッ──!』
▽激怒させられている。
『ぎゅうぎゅうに泥がかたまってって苦しいんですかねー? 自分たちが不利だとわかって聖霊杯を潰すみたいに凝縮していますからー。ワーオ氷の聖霊ドンマイー』
「まあ……現代を学ぶしかありませんね」
▽氷の粒が 涙のように バラバラと溢れている。
▽ちくちくと夢の世界を刺した。
『あいてっ! いたっ! ねえ夢の世界にあの聖霊干渉していませんかー!?』
「凍土に生まれたラビリンスが氷の世界だったことからして、ラビリンスが環境の影響を受けて生まれているのは真理、その環境の一部として在った聖霊が干渉の権限を持っているのも想定内、そして夢の世界においても干渉してくるというのは想定外です」
『難しい話はダメですリリー先輩が首傾げてるからぁー!』
「リリーさんの制御外れやすいですね!」
『だって考えるよりも先に行動するタイプだからー』
「素直ということですね」
『甘くない!?』
ボクにも優しくしてみせてよーなんて戯言をいうので。優しさMAXでサポートしておりますが!! とキラが語気を強めて返事をする。
二人は赤の聖地の整備を行っていくうえで、歯に絹着せぬ物言いを楽しめるほど仲良くなっていたのだった。
▽リリーが 片方の拳を突き出した突撃ポーズで 垂直に飛んでいく。
▽スイーーーッ
▽蝶々の飛行が活かされているようだ。
▽氷の壁が現れた。ズドンッッッ
『あれ魔力ですよねぇ……』
「ですが強力なので魔吸結界では間に合わないでしょう。ガトリング弾も埋まるはずです」
『むーんうーん……やば、到達しちゃう。ねぇキラ先輩リリー先輩のなかにまだ、レナ様の魔力残ってるよねー?』
「そうですね」
レナの身体には色味が戻っているものの、まだほんのりと透けているのだ。
つまりリリーが食い意地を張ってしまってわずかに自分の中に貯蔵したのだろう。
『リリー先輩[ブラッディリリー]〜!』
めええええええ! とハマルが声を上げる。
ほにゃほにゃと呟いたリリーの声では称号がセットされない。
▽キラがなんとかした。
リリーの瞳が真っ赤に染まって、薔薇の花びらをグンと伸ばしたような蝶々の翅をはばたかせて、氷の壁を突き破る。ズドーーーーーン!
『すぅごーい。あれって拳で破れるんだー(棒読み)』
「聖霊を助けたいっていう素直さすごーい(拍手)」
▽二人ともちょっと興奮してしまった。
▽逆境からの無双は カッコイイから!
泥の壁が立ちふさがったが、それもリリーに突破してほしいような気がした。やろうぜ!
”氷の聖霊を助けるために 前途多難に立ち向かう 少女はその細腕を突き上げる 拳の形に優しさ込めて Hey Yo! ドラマチックな快進撃 そのはばたき助けるは赤い翅 赤の祝福 Yo チェケラ! 赤いドレスを夢見て贈るよ Let Go……!”
鳴り響くBGM。
星の光がリリーにまとわりつきドレスを赤く染めあげる。
ちょっと赤の女王様っぽいんじゃない?
俄然テンション上がってきたね!
▽氷の聖霊は 混乱している。
(儂は……儂は一体……なにと、戦っているのだ?)
レナパーティだよ!!!!
(ぐああぁぁああーー!痛い!痛いッ!氷河のクレバスが裂ける時よりも鉄砲水が吹き上がる時よりも雪崩よりもさらに、儂を侮辱してくる。このッ……外側からの、このような扱いなど侮辱である!!)
内側に起こる痛みは聖霊にとって慣れっこだった。凍土の環境が崩れることで己の内側が切られるような痛みは、聖霊が環境ととくに一体化していた証だ。
自分がいなければ凍土は保たれない。
だから耐えることができた。
しかし外側からこれほどまでに雑に扱われ痛みをぶつけられたことはない。この痛みに耐える大義がないのだ。耐え方が分からない。
自分がとくに嫌っていた、氷の透明さを隠してしまうような泥臭く濁っている暗黒色にウンザリさせられる。──ギリギリと唇を嚙む。その頬を、鼻を、後ろ頭を、怨念どもが敵とばかりに齧って穢していく。
正確には魔力の混ざり合いだ。
いやだ! という気持ち一つで、聖霊は呑まれずまだここに在った。
皮肉にも、こわい、ではなく嫌という言葉で虚勢をはったことが、聖霊を怨念から守っていた。
(一人で立ち向かうには大事な虚勢で御座いますね。今後は、こわがってこちらに助けを求めて下さいますように)
キラが(ふいー)と額の汗を拭うようなしぐさをして、情報ウィンドウを切り替える。
レナパーティが聖霊を救うのだということを疑っていない。
だってマスターが望んだのだから。
従魔たちがなんだってしてあげる。
「聖霊が意識を取り戻しました」
『タイミング悪くない〜?』
「お叱りをと世界が」
『じゃ、仕方ないね』
リリーが泥の塊につっこんでいく。
じゅわじゅわと怨念が昇華されて保持者をなくした泥がざばぁっと周りにただただ広がる。
褐色の腕を伸ばしている。
その先に氷の聖霊杯がある!
拳を開いた。
あとちょっと!
『──いやだ』
(!)
リリーには、本心では助けてほしがっていた捨てられウサギと、なにもかも拒絶しているこの聖霊の違いがわかった。
うとうとしていた赤い瞳を見開いた。
一瞬の迷いが生まれた。
泥の中に氷の粒が混ざっている。一つ一つが針のように鋭く、先端はリリーの方を向いていた。
背筋が凍るように冷えて身動きが取れなくなる。
一瞬が命とりだ。
ここでリリーが消えてしまっても、悪夢にうなされたような心地で、現実で目覚めることはできる。
けれど従魔がこわがっているのはいやだから。
──赤い閃光が疾る。
「!!!!」
『!!!!』
赤ノ祝福ヲ賜リシ覇衣をひるがえして泥と氷をバシンッと防ぎ、リリーを守るように包んだ。
鞭の[薙ぎ打ち]一閃で、悪意を後退させる。
[異世界人]かつ[赤の女王様(極み)]のどちらもを自らセットしたレナ女王様が君臨していた。
レナには絶対的なひとつの意思がある。
そのために自在に動けた。
従魔を守る。
くう〜〜〜とハマルとキラが悶える。
「マスター・レナは素晴らしい魔物使いです」
『従えてええええーーーーー!』
▽潜るのが間に合わなかった氷の聖霊杯がむき出しになってるよ!今だ!
▽そして一歩前進しちゃったハマルの尻尾から夢の殻が覗いちゃってるよ!振り返って!
▽みんな戦いに集中してね!!
読んで下さってありがとうございました!
雨を吹き飛ばすようなはちゃめちゃにしたかったーーー!なってくれたーーー!(勝手に)(戦闘中に)
ちょっとでもみなさんのお楽しみになりましたら嬉しいです₍˄·͈༝·͈˄₎◞ ̑̑
ハマルのスキルはまだ不安定ですね。
はちゃめちゃレア種の三人を制御するのはぼっち気質には難しかったことでしょう……
そしてカルメンのこと忘れてる。
ハマルはガチで忘れているし、
キラは気にかけつつも(しっかり寝てますね!?まあまだ調整大変なんでねててください、起きないで、絶対起きないでー!)ってかんじ。
次くらいで決着つくかな、
頑張ってかきまーーす!
引き続きよろしくお願いしますっ




