ギルドに着いた!★
シヴァガン王国、冒険者ギルド本部。
ふわんとパンケーキの匂いを漂わせたお嬢さんたちが来るような場所ではない。きたけどね!
ああん? とガンをつけかけた冒険者たちは、レナパーティの背後にただならぬ威圧を感じて、本能的にマジでビビった。
激務をこなしたあとの本職諜報部の殺気は尋常ではない。気をつけろ!
(トラブルがトラブルを呼ぶ体質のレナパーティにいちゃもんつけようもんなら事前にシメ倒す……!)
予防は大事なのである。
「いらいー♪ いらいー♪ どこナノー?」
『ス・ス・ス♪ スウィートミィ〜♪』
「尋ねればよい」
探検したがるミディとチョココ、合理的に利用可能な手段をえらぶキサ。
レナは……それぞれの個性を安全に伸ばすなら? と考える。
キサをレグルスに任せた。
レナは、後ろからミディを抱えるように確保する。レナ・ミディ・チョココの三段羽織。
可愛らしさに受付嬢が「うっ」と悶えた。
冒険者ギルドでなかなか見ることのできない可愛こちゃんたちの触れ合いは、受付嬢にもすこぶる評判がいい。
レナが一緒に依頼クエストボードを見上げる。
ミディは期待に震えている。
「んもぅご主人サマお腹空いたの?」
「空いてないよ……! パンケーキ食べたばっかりだし。いまはだめいまはだめ、イカの切り身とスウィーツはあーとーで、ね?」
「ちぇ〜」
『ちぇ〜♪』
ちょっぴり覇気を醸し出したレナに、ミディたちがテヘヘと笑った。
▽冒険者の半数が「ゾクっ」と体を震わせた。
攻撃を受ける身であるマゾ寄りの者がいたり、自分以上のサディスティックな可能性に驚いたり、なにより魔物の本能的に、レナにねじ伏せられそうになったのだ。
これを「従えてくだせぇ!」とやられないために、護衛部隊がマジの護衛をしなければならない。頑張れ!
(レナパーティに声をかけさせるなよ、絶対にだ!)
(っす!)
……護衛を視認できる上位冒険者の間で、彼らが「親衛隊」などと噂されているとはまだ知られていない。
「キサが受けるクエストはこれだな」
○狩猟肉の冷凍(常時依頼)
……氷魔法[氷結]取得者を求ム。
冒険者が狩ってきた肉の冷凍。肉の種類・量によって金額の上乗せアリ、出来高制。
肉を駄目にしたら買取ペナルティ。
「よし、ミディとチョココはこれやってみようか!」
○珍しい食材提出
……未知の食材を求ム。
必ず「美味である」ことが条件。味を整えるために加工したもの・遠方の購買品も認める。
500リルの前払い、食材のクオリティによって追金アリ。
「早めに到着したし、グレーさんがこっちに気づく前にちょっとやりきっちゃおう〜」
な、なにーーーーーッッ!?……というのが冒険者たちの感想である。
どちらの依頼もAランク、ちょっとやりきっちゃおうという内容ではないのだ。
レナがとっさに「ギルド長=グレイツ=グレーさん」とアレンジしたのは良かったが。
「グレーさん? 誰ー? ねぇねぇだぁれー?」
(っアーーーー……!)
▽幼子たちの 誰誰攻撃!
▽レナは「またあとでね」で済ませたことを反省した。
「うう……私の育児力が足りないんだっ……」
「それはない。それはないですよレナ様、絶対にない」
「妾もそう思う。レナ様はよく頑張っておるぞ。ホレ、胸の中で休むのじゃ」
▽キサの輝く笑顔と 抱擁の構え。
▽レナは「またあとでね、ありがとう」と済ませるしかなかった。
▽お礼を言えてえらい!
▽ふらりと寄ってくる野次馬
▽護衛が激務!!!!!!
▽依頼を受けよう!
冒険者ギルドの受付を抜けて、裏方に通されたレナパーティ。
こっそりついてくる護衛部隊はようやく大広間を離れて安堵した。
案内してくれた受付嬢がソッと苦笑する。
「まったく。諜報部のみなさまにうちの冒険者たちをなぎ倒されたら困りますわ?」
「こちらも仕事なので」
「同じく、仕事ゆえの苦言でしたわ」
おつかれさまです、と受付嬢とロベルトが挨拶を交わしてこの話題は終わりになった。
「さて、レナパーティのみなさま。優秀な冒険者であるとお話をうかがっておりますわ。ですから、ハンディなしで参ります」
まずはキサの依頼から。
ドォン! とドラゴン肉が運ばれてくる。
「堂々とドラゴンを……へ、へえ〜……ギルド長が竜人族だからって配慮はないんですね……」
「ドラゴンおよび竜人族の性質について説明しますね。弱くて狩られるのは仕方ない、というのが常識。幼竜は親に手厚く守られるか、庇護を得られなかったら弱いうちに狩られるか、逆境をはねのけて強くなるか、です。また、ドラゴンが強者の一撃を受けて生還するのは誇りであるとも。ほら、ギルド長のお顔の傷も戦闘の勲章なのですわ〜」
「そうなんですね」
(このドラゴン肉はギルド長の一部ではないんですよね? とか余計なこと聞きそうになった。危ない危ない! 食材魔物に慣れすぎている……)
▽レナは反省した。
「ギルド長の傷のライバルといえば〜」
「喋りすぎですよ」
リーカが慌てて止めた。
この受付嬢が叱られてしまう、と心配したのだ。
「おほほ……失礼しました」
(この人はちょっぴり口が軽いから、うちの情報を知らせすぎないようにしよう……。逆に、必要以上に教えてくれる親切さは嬉しいよね。リーカさんとの知り合いで、私たちの案内をこなすそれなりの地位の人かぁ……この冒険者ギルドでは優先的に頼るといいかも)
「可愛いですね〜」
チョココを見てでれっとしている受付嬢は、レナたちと感性の相性も良さそうだ。
にっこり笑ったレナに対しても「可愛い」の感想をいただいた。
▽ドラゴン肉を凍らせよう!
▽キサは 冷静に肉を眺めている。
「この肉は均一に冷気が通るのか? それとも凍らせる順番に希望があるか?」
「あら……そんなふうに気づいて下さるなんて」
キラン、と受付嬢の目が輝く。
「要望としてはウロコと断面をまず凍らせて、じんわり中心まで冷気を届けていただけるのが一番ですわ。もしくは、中心から凍らせて最後に表面を氷で覆い蓋をする。そうしていただくと美味しさが保てます」
「オイシイー!」
『おいしい♪』
「ふふ。まあ、凍らせていただけばオッケーですけれどね」
「承知した。せっかくなら、美しい冷凍肉を作ろうと思うのじゃ。美味しい、とは、美しい味と表現するとレナ様に習ったから」
キサはサッと、ドラゴンの削ぎ肉に、手をかざす。
まず冷気をそっと漂わせて、どのくらい冷たさを吸収するか? 計っている。
「氷魔法[浸透氷結]」
キサが使ったのは高度な氷魔法。
内側から徐々に凍らせて、表面に霜が降りた後、ウロコまで満遍なく冷凍された。
「エクセレントッ!」
▽受付嬢のテンションが高い!
「キサさんは氷魔法を磨かれているのですね」
「アイスクリームなど氷菓全般の作成は妾の仕事なのじゃ」
「アイスクリーム?」
受付嬢が混乱しているが、次いってみよう!
▽ニスロクを驚かせる新作料理を作ろう!
「このご依頼……先に私が味見させていただいても?」
受付嬢がレナに相談する。
「ニスロク様はマズイ料理を口にすると激怒なさるのです……。普段の人当たりの良さが嘘のように! 以前、珍しいけれどマズイ料理を提出した冒険者がいまして、トラブルになったんですよ……」
「なるほど」
それでもまた依頼を出すほどに、ニスロクは食の探求者らしい。立場を利用してのゴリ押しには苦笑してしまうが。
レナは事情に納得したけれど、
(この方に試食をしてもらうのは……不安〜。チョコレートやデリシャスクラーケンの噂されちゃうと困るから)
「試食でしたら、リーカさんにお願いするのはどうでしょう? 彼女の味覚と瞳を、信頼していますから」
リーカがピクリと耳を動かし、第三の目までキラキラさせた。
レナパーティのとっておきの食材!絶対美味しい!
リーカはペロリと舌なめずりをして、珍しく上司から注意を受けてしまったくらい期待している。
「それなら……」
受付嬢は残念そうだったが、頷いた。
「レグルス〜ちょっとショールで覆ってくれる? お家で影絵遊びするときみたいに」
「こうですか?」
広げられたショールの向こう側で、きゃーテントみたい〜♪ なんてお子様たちのはしゃぐ声が聞こえる。
にこにこ顔のミディと、甘い香りを纏った子どもが現れた。
チョココが登場したことで、受付嬢はたいそう驚いている。
「えっ!?」
「スウィート♪ なモンスター♪ チョココです〜♪ これから依頼を受けることもありそうなので〜ごあいさつです〜!」
▽チョココの 可愛いポーズ!
「あああッ」
▽受付嬢は 魅了された。
▽レナパーティの強力な味方になってくれそうだ。
レナが、リーカに皿を差し出す。
隠して生成した、ブラウンと白の小さなお菓子が乗っている。
「新作です」
「承知いたしました……! いざ」
リーカが口に入れると、ミルクチョコレートの中にフランボワーズ・フレーバー。ホワイトイカマシュマロの中にブルーベリー・フレーバー。
どちらも舌の上でとろけて混ざりあい、素晴らしい味のハーモニーとなる。
「問題ありません」
リーカの口からとろけた承認が出た。
ニスロクを怒らせた場合、リーカも巻き添えになるけれど大丈夫? との問いにも「オールオッケー」と返事するくらい自信満々。
「ではこの瓶の中に料理を入れさせていただきますね。おつかれさまです。前金として1000リルをお受け取りください」
「ありがとうございます。チョココ、ミディ、二人のお金だよ〜。500リルずつ。大事に使ってね」
「「わーい!」」
主人が従魔にお金を渡しているので(噂には聞いていたけれど……)と受付嬢はパチクリ瞬きする。
そんな視線に、レナは気づいている。
「それぞれの従魔が自分で稼いだお金っていうのも、大切な経験だと思うんですよ」
「……尊敬いたしますわ」
受付嬢は、ちいさな主人をこれまでよりも真剣な眼差しで見つめて微笑んだ。
▽ギルド長が現れた!
▽疲れ切った顔をしている。
「悪い! 遅くなった……」
「もう! ギルド長。そろそろレナパーティのみなさまが帰ってしまうところでしたよ」
「会議の議題が後から後から湧き出てきてなァ……」
「言い訳しないでくださいませ」
ピシッ! と遮る受付嬢の様子の違いに、レナたちは目を丸くしている。
彼女の苦言は続く。
「仕事は仕事。王宮での会議も仕事ならば、冒険者ギルドの仕事も同等なのですわ」
「まったくそのとおり」
一体何者なのだろうか?
お視通しするわけにもいかないので、レナは尋ねるか・尋ねないのか? 判断しなければならない。
レナパーティの損にならないように。
主人として。
判断を。
こわばったレナの拳に気づいたチョココが、手を繋いでくる。
「あっ……。チョココ?」
「レナ様も召し上がりますか〜? えーとね……じゃぁん。飴です〜」
パクリと棒付き飴を銜えることによって、レナの口が封じられてしまった。
これでは尋ねることができない。
「あははぁ……! 自由すぎて、いっそ素敵ですわ。先ほどからずっとこのようなやり取りを見せていただいてたのですよ。グレイツちゃん」
「やめてくれ」
受付嬢がギルド長をおかしな愛称で呼んだことで、レナたちはまたいっそう目を丸くした。
ますますきになる!
この受付嬢は何者!?
でもレナの口には飴が入っているし!
ギルド長は絶対に言う気がなさそう!
受付嬢を下がらせてしまった。
(また今度、ルーカさんも一緒に冒険者ギルドに来てもらおう)
「……んー? お嬢ちゃん、何か企み顔だなァ」
「ほんへもはい。はは、ぼうへんしゃギルトに、ひはふへ」
▽飴がーーー!
なんだか気が抜けてしまったギルド長が、ブハッと笑って、しかめ面からようやくふつうの顔つきになった。
「まあいいさ。俺の仕事は、依頼を募集して、冒険者に渡すこと。おっと、報酬も忘れちゃいねーよ」
ギルド長はマジックバッグからさらに一回り小さいマジックバッグを取り出して、レナに渡した。
レナの両手で包み込めるくらい小さな皮袋だ。
「大金だから狙われないように、分かりにくく。まあ護衛もいるし大丈夫だろうけど……ん、お疲れさん」
▽ギルド長はチョココから飴をもらった。
▽ギルド長はミディからイカ型おもちゃをもらった。
▽レナパーティが 帰っていった。
▽応接間には ギルド長とリーカが残っている。
リーカがゴクリと喉を鳴らす。
先ほど食べたチョコレートの後味でさえ、ビターな風味に感じるほどの緊張感。
「あのなァ……」
ギルド長はソファに深く腰掛けると、キセルを手にして、龍霊草の粉末に火をつけた。
ふうっと煙をたゆたわせる。
向かい側に座るリーカは、煙の向こう側に、眉根を寄せたギルド長を視ている。
「気をつけろよ。藤堂レナ」
「もちろんです。レナパーティを守るため、聖霊対策本部の人数を増やす要請をしています」
「……そこじゃねぇんだよなァ。そこもだけど、もっと重視すべきもんがある」
ギルド長がリーカの額を指差す。
「視たか? 藤堂レナの、過去」
「いいえ……。レナパーティの情報を視ようとすると、目が焼けるように痛くなります。何か魔道具を使っているのか、はたまた特殊技能か」
「なるほど。魂の色は?」
「眩しいくらい綺麗ですよ」
リーカの表情は諜報部らしく微動だにせず、しかしどこか誇らしげに告げた。
「それなら余計に心配なんだよなァ」
「……うかがっても?」
「藤堂レナの魂に、従魔は魅了されているだろう。魂の光が強烈すぎて、本質の奥の奥の奥が見えなくなってるって可能性がある」
「それは」
【☆7】[魔眼]を持つルーカがいれば大丈夫、と言いかけて、リーカは口をつぐんだ。
まさにそこを、ギルド長は否定したようなものだから。
(メデューサ一族の中にも、恋は盲目的に、相手の悪いところを見れなくなった子がいたのよねぇ……)
レナたちは恋仲ではないが、従魔契約の絆は目に見えて二人を仲睦まじくしている。
レグルスを見ていれば分かるとおりだ。
尻尾を振って一緒に帰っていったのだから、あのレグルスが。レナに魅了されているという表現がぴったり。
そのうえで、
「"藤堂レナ"が、心の底に闇を抱えている可能性については、私リーカは否定します」
「ああ、そういうことを言ってるんじゃあねぇんだ」
ギルド長がぐしゃりと頭をかく。
会議の疲労で頭が回らねぇ……と言いながら、水をがぶ飲みする。
言葉を選ぶように虚空に視線をさまよわせる。
「藤堂レナは、昔っから強い女子か? そういう血筋か? それを知りたかった。分からんかったが。ちなみに俺は違うと踏んでるが」
「……記録して共有します。メデュリ・アイの瞳にかけて」
「ん。あとで仲間に伝えろ。──藤堂レナの出自を調べろ」
これは会議でも議題に上がった、とギルド長が静かにいう。
「主人となり慕われるタイプには三種類いてな……絶対に曲がらない強い者、 利用し利用される計算高い者、 おおらかな受け皿を持つ優しい者。彼女は三番目だろう?」
ギルド長は目尻をつつっとつめ先でなぞる。
今しがた見たばかりのレナを鮮明に思い出す。
よく泣き、よく笑い、誰かを助けるために自分を磨こうとするタイプ。
確認するように呟くと、リーカが深く頷いた。
「うまくまとまらねぇから、全部言う」
ギルド長がリーカに視線をあわせた。
その目で真相を探ってくれよ、という合図。
「従魔が強くなるのはいいんだ。でも彼女自身のステータスがどれくらい支えられる? 魔物よりも弱い状態で、魔物を制御するのではなく自由にさせて、好意のみに頼っている。
さらに第三番目の優しいタイプだ、罪悪感や焦燥感や責任感に、押しつぶされないでいられるか? いつか受け皿から溢れるぞ」
リーカは瞬きをしなくなっていた。
瞳孔が細くなってはるか遠くを見つめるような眼差しは、もはや現実を通り抜けた、世界の常識を探ろうとしている。
そのような原理がわかるはずはないのだが、メデューサ一族の中で培われた「ゆらぎの規則性」に照らし合わせている。
「魔物使いのその先へ行くべきだ」
ギルド長が力強く言った。
「そろそろ世界も気づき始めたころだろう。藤堂レナのクラスチェンジの可能性が、あるんじゃないのか?」
──リーカが瞬きをして、瞳を閉じた。
「……記録しました。共有します」
「おいおい。今返事をくれないのか?」
「私たちだけで盛り上がってしまっても、仕方がないことだと。例えば魔物使いからのクラスチェンジがあるとして……彼女が選ぶかどうかは未知です」
「未知……難儀だなァ。決定事項以外を口にできない仕事というのは」
「上司への報告に嘘を混ぜるわけにはいきませんから。でもレナパーティについては、未知を報告しているような気持ちです。その時々を記録したって、後から世界の常識が変わってしまうようなことがたくさん」
「夢があるな」
「そうですねぇ」
ギルド長はフッと小さく笑ったが、リーカはまだ真顔だった。
「ひとつ真実を。藤堂レナは従魔の好意のみに頼っている……とおっしゃった点、間違っています」
「ほぅ、そうかい」
「まだまだ彼女を知らないだけですよ」
「教えてはくれんわけか」
ギルド長はやれやれと肩を下ろすと、リーカはやっと雰囲気を和らげた。
「ん、おつかれさん」
「ええ。あと連絡事項として。元・鎮めの墓地にメデューサ様が到着しました。これから過去解析が始まります……」
「了解」
「”いくら優秀とはいえ仕事外でキツイもん視なくていい”ってルーカくんを止めたのは、私、尊敬していますよ」
「優秀な冒険者に潰れられちまったら困るからなァ〜」
二人は砕けた笑みを交わし、それぞれの顔を引き締めて、仕事に戻った。




