特別保護域SS区スウィーツパラダイス3★
スカートを揺らすチョコレートクイーン。
つぶらな瞳は、ボディよりも色が濃くて、(ビターチョコ?)とレナは考えた。
すると魔眼が[カカオ80%相当]と日本知識とすり合わせて判定してくるので、ルーカが口元を押さえて震える。
パチリと彼女がまばたきすると、瞳がテンパリングされたように艶をおびた。
魔眼では[ザッハトルテ相当]と視えるので、レナが舌舐めずりする。しかしすぐに色がくすんでしまったので、首を傾げた。
チョコクイーンの目尻がキュッとつり上がった気がした。
(まあ、ワタクシを召し上がるつもり?)というように。
腰を反らして、腕をクロス!
ファイティングポーズをとる!
ブワッとチョコスカートが拡がる。
シュウっ、蒸気があがり、ねっとり甘い香りがみんなの鼻粘膜にまとわりつく。
(これは……長いこと嗅いでいると、毒だね……)
(ううう甘い香りはもうお腹いっぱいですううう)
嗅覚が鋭いルーカやシュシュなんて、青い顔をしている。
平気そうなのは、数々の耐久訓練をした宰相と、鈍感ハマル、全状態異常耐性もちのクーイズだ。
「サディス宰相、チョコレートモンスターを制圧したら終わりじゃないんですか!?」
「どうやらこの山の頂に女王が二人もいることが気に食わないようですね」
▽チョコクイーンが、チョコレートモンスターを吸収……合体!
「わわっ。チョコレートモンスターが溶けて、スライム拘束から逃げられちゃった」
クーイズが口を尖らせた。
そしてルーカの様子を眺める。体調が悪すぎて、チョコクイーンの通訳をする余裕はなさそうだ。
「クーと」
「イズに」
『『おまかせだよん☆』』
クーイズがぱちんと意味深にウインクして、赤と青のスライム姿になる。
そしてリリーと内緒話。
スライムと妖精の声は、チョコクイーンたちには聞こえない。
『んっ。了解、なの! スキル[幻覚]』
▽紫クーイズ(幻覚)が 現れた。
人型で、チョコクイーンに向かって「べろべろばー!」ドロンと溶けた変顔で、挑発する。
ピキ! ピキピキ! チョコクイーンの額にヒビが入った。
全部のチョコレートモンスターを吸収してしまった彼女は、十メートルほど……見上げなくてはいけないほど大きい。
パラパラと落ちてくる砕けたチョコレートにも注意が必要だ。けっこうな質量なので、当たると怪我をしてしまう。
ずずずず、ずずずず、とチョコクイーンが、レナたちの方に進行してきた。
スカートにぽっかりと穴が開いている。
レナたちを誘い込むように。
「ひえ!?」
「気をつけて……あれ、中に閉じ込められると、ホットチョコレートが天井から落ちてきて大火傷するやつ……うえぇ……」
「ルーカさん、完全に酔ってますね……! う、私まで、猫嗅覚の影響が……」
「シュシュも鼻が痛いかも……んんっ、でもねっ」
「頑張らなくていい、キックは危ないから、ちょっと待ってシュシュ」
レナがシュシュを止める。
ハマルが声をかけた。
「あのねー。先輩たちに考えがあるからさー。ねー、たまには見せ場ちょーだい?」
ハマルがなだめると、足踏みしていたシュシュは、しぶしぶ頷いた。
仲間だから。
先輩の実力をよく知っているし。
(”従魔”が活躍すれば、ご主人様の名声になるもん!! それは変わらないから!!)
一番大事なことをシュシュはわきまえている。
それに、他の従魔だけが活躍したときだって、レナは分けへだてなく「頑張ったね」とみんなを褒めてくれるから。
(待つのが、役割な、ときもある)
それは確かなシュシュの成長だった。
ちょっと幸運の力貸してねー、とハマルがシュシュの手を握る。
目を閉じて、呼吸をやすらかに、夢の選別をじっくり行っているようだ。
夢をそのまま具現化させるのではなく、威力を増したり、すこしオリジナリティを加える時に、ハマルはこのような様子をみせる。
シュシュはハマルの表情を眺めていると、闘争心が穏やかにおちついて、くあ、とあくびまで出てきた。
(従魔の作戦があるならこのままオトリになるのもやぶさかではないけど……)とレナは考えながら、横を向く。
「ルーカさん、チョコの天井って……あなたの悪運大丈夫ですか……?」
「ん? 大丈夫! さっき山を登ってるときにチョコレートに当たりすぎたのが幸いして……幸い? まあいいや、あはは! そのせいでね、いまの僕の運の秤は、幸運に傾いているみたいなんだよ」
ルーカがうきうきと「ステータスオープン!」と言う。
キラウィンドウがギルドカードの一部を表示した。
「運の数値が……+100!? じゃあ幸運持ちの仲間入りですね」
「そう! そうなんだよね!」
「「やったねー!」」
レナとルーカがにこにこ手を取り合って喜ぶ。
またも、感覚共有によって嬉しい感情が何倍にも増幅している。今は保護しなくてはいけない幼い従魔もいないので、気が緩んでいるわけだし。
その様子を、シュシュすらもぽかんと見つめていたほど。異様である。
(……この二人が一番おかしいなんて……)
宰相のおでこにも、ひび割れと言っていいほど深いシワが刻まれた。
「「みんな幸運だから安心だね!」」
「……! シュシュも一緒」
「「うん!」」
「わーい!」
(果たしてそうなのだろうか……?)
宰相が一人だけが、なにか引っかかるものを感じている。
幸運だから安心なのだろうか?
「ほら、サディス宰相の運の数値も44だしね!」
「なぜ私のステータス数値を把握していらっしゃるのか、是非詳しく教えて頂きたく」
「あっはっはっはっは」
「ふふ! ほらサディス宰相、今のルーカさん幸運ですから。適当に言った数値がドンピシャだったんですね」
「そう!」
「「あはははははは」」
「………………………」
はあぁ。
宰相のため息が、重い。
▽レナたちは チョコレートスカートの中に 取り込まれた。
▽かまくらのようだ。
▽天井から滴るアツアツホットチョコレート攻撃!
リリーがぱちんと指を鳴らす。
主人たちを丸ごと守るために。
『スキル[魔吸結界]……外向き!……あれぇ?』
チョコレートスカートの内側に結界を作って、チョコを弾いたものの、その内部にレナたちの気配がないのだ。
『んんんんん……?』
ほとんど真横になるくらい、首を横に傾けて、リリーが悩む。
『キラ、先輩っ』
<はいはーーい! 今、世界情報を調査中で御座います。マスター・レナたちの生存と安全は確認できていますので、ご心配なく>
『そっか、わかった』
リリーは素直にキラの言うことを信用した。
『チョコレートクイーンの中にっ、ご主人さまたち、いないって感じ……合ってる?』
<はいその通り! 避難していますから、攻撃続行して大丈夫ですよ>
『はーいっ』
リリーだけではなく、クーイズとハマルにもその情報が伝えられた。
『『よっしゃ、じゃあいっちょやったるか、ハーくん!』』
「はいー、おまかせあれー。スキル[夢吐き]……パティシエール〜」
ハマルの尻尾がもくもくと大きくなり、四つに分かれると、ボウル、ドライヤー、泡立て器、お皿になる。
それぞれが超巨大!
空中にふわふわ浮かんでいるそれらを、チョコクイーンが不審に思って、ボウルを覗き込んだ。
「まずー。ボウルにチョコクイーンさんを入れまして〜」
「スキル[飛び蹴り]!」
▽リリーの一撃!
▽チョコクイーンは 体勢を崩した。
「ドライヤーで溶かしまーす。どろろんぱー」
ゴオオオオ! と熱風が吹き荒れる。
チョコクイーンは顔を崩されないように必死だ。
ガードしきれなかったボディとスカートは全てとろけてしまった。
クーイズが混ざり込む。
「泡立て器で混ぜるでしょー?」
<生クリームも入れましょう! 異空間で送りますね>
▽ぐるぐる! まぜまぜ!
▽ガナッシュができあがった。
目を回しているチョコクイーンが、お皿に放り投げられる。
▽女体盛り!
違うか。
▽チョコガナッシュクイーンが 現れた!
「デザート完成〜。なめらかにしちゃったー、えへへー。頑ななボディと心は、とろろんって柔らかくしないとね〜」
頑なな心をほぐしたのだ(物理)。
とろりと横たわった姿勢のチョコクイーンが、ムズムズと体を波うたせはじめる。
チョコのなびきはいっそうなめらかに、艶々とうつくしい光沢を放っていた。
▽とろろん、とろろん、とろろん
▽チョコレートモンスターが 分裂誕生した。
先ほどの二倍もの数が、元気に飛び跳ねている。
▽ムズムズ……
▽チョコレートクイーンの中から クーイズが 飛び出した!
『『いええええい! スライム同士だからさーチョコレートに混ざるの楽勝だったよね!』』
クーイズはチョコまみれ。
ちょっぴり苦いビターチョコをおいしく[溶解]すると、人型になる。
二人でハイタッチ。
紫色の立派な一人になるのもいいけど、二人だとこのようにスキンシップがとれるので、これもまた好きだな、と思っている。
「やあやあチョコレートモンスターのみんな」
「クイーンから生まれたからもう家族みたいなもんだよね」
「「ブラザー? シスター? なーんちゃって? 一緒に踊ろ!」」
クーイズがチョコレートモンスターたちを誘って、くねくねと踊る。
すると誘われたチョコレートモンスターたちは、お皿の上で、踊りはじめた。
輪になってダンス、至高のデザート皿をつくりだす。
真ん中にいたチョコレートクイーンがキョトンとして、数秒後に起き上がった。
彼女が体を起こすと、ひとまわり小さい。
くるり、まわると、ひだのようなチョコレートフリルがいくつも作られる。
甘ったるいため息を、ふわわ、と漏らす。彼女にとっては信じられないくらい嬉しい変貌だった。
チョコレートモンスターみんなが楽しそうなので(こんなのはいつぶりかしら)とうっとり目を細める。
「やったねー。夢の調理器具だけー、靄に……戻すぅ……ぐう、スピー……」
『えらかったの、ハーくん。おねむり、なさいな。……ところで、ご主人様たち、どこに、避難したんだろう……?』
リリーが[フェアリー・アイ]できょろきょろ探した。
ちょっと空間が歪んでいる場所を見つける。
『んっ? そこの、オレオクッキークロック、おかしい?』
つんつん、指でつつく。
なにか音が聞こえてきた。
頭を預けて、耳をすませてみる。
ここだよー! 今行くねー! とレナの声。
レナのスキル[伝令]のようだ。
「あ。レナ様の声だぁ……」
「ハーくん、起きた。ほんと、ご主人さまのこと、好きねっ。私も、なのだよ!」
わくわくと二人が岩を見つめていると……
岩の表面がぐにゃりと内側に凹み、チョコミルクがとくとく湧き出した。
泉みたいに液体がたまると、ぐるぐる渦を巻き始める。
▽どっぱーーーーん!
▽チョコミルクスプラッシュ!
▽レナたちが 飛び出してきた!
「うわーーっ!?」
叫ぶレナと金色子猫、シュシュを、宰相がまとめて空中で抱えて、ひらりと危なげなく降りてくる。
全員チョコミルクまみれ。
「緑魔法[パーフェクトクリーン]。……この魔法をこんなにも活用する日がくるとは……ドグマ様以外の理由で使う機会があるとも、思ってもいなかった……」
▽おつかれさま!
▽レナたちは 綺麗になった。
レナがけほっと咳き込み、口の中に入り込んだ甘ったるいチョコミルクを飲み込む。味は極上。でも甘みに噎せそうだ。
「……ふー、潜水用の服とか、買うといいのかもね……。あ、チョコレートクイーン制圧できたんだ。みんなおつかれさま。ご主人様はね……新しいラビリンスを見つけたよ!」
「「「『ヒューーー!』」」」
クーイズ、リリー、ハマルがぐっ! と親指を立てた。
レナ、シュシュも、ぐっ! と親指を立てる。
レナたちが団子状に転んだところがラビリンスの入口だった。
(幸運三人衆、爆誕……ですか……)
宰相がこめかみをヒクヒクさせた。
恐ろしい組み合わせだ。
レナ、シュシュ、幸運ルーカ。
三人寄ればラビリンスを見つける。
レナパーティには多種多様なレア種族がいるわけで。
▽それぞれの組み合わせによって、特殊技能が現れやすいパターンを発見しよう!
まだまだレナパーティという団体は奥深い。
「新しいラビリンス、どんなだったの? ご主人さまっ」
「えっとねー。スウィーツな世界だったよ……それはもう甘い……マシュマロキノコでトランポリンっと跳ねてね、チョコミルクの空を泳いでから、外に出たの」
「レナ様、泳げたんだねー」
トランポリンを用心深くごまかしたレナ、よくできました。
「さあ。ラビリンスのことは後にして。チョコレートクイーンとOHANASHIしましょう」
レナは山の頂をぐるりと眺める。
チョコミルクが飛び散って水たまりのようになったお皿の上で、チョコレートモンスターとチョコクイーンがダウンしている。
水分を与えすぎたのだ。
「やば。やりすぎちゃった……?」
「「「『そんなことないよ!』」」」
▽ラナシュ情報「そんなことない」の定義が 更新された。
▽「そんなことない=そんなことある」
▽しばらく 世界が 混乱する。
「チョコクイーンの通訳を頼めますか? ルーカさん」
『にゃあ……』
体をぶるっと震わせて、金色毛並みをふかふかに膨らませたルーカが、人型に戻った。
顔には「運はほどほどが一番」と書かれている。
ラビリンスの中で「運5」に戻ってしまったので、いろんな被害を受けたのだ。
「ごほん。あなたは赤の女王様を知っていますか?」
▽冗長になってきているので 割愛。
▽ルーカの説法が 終わった。
▽チョコレートクイーンは レナに 心を開いた。
「チョコレート制圧戦は、僕らの勝ちだと認めているってさ。やったね」
ルーカが告げると、チョコレートクイーンは淑女の礼を披露する。
しかし動作はぎこちない。
王冠は溶けかけて曲がっているし、腰回りは水っぽくマーブル模様になっている。
口を開きかけたが、だらりとひと筋、チョコレートがこぼれ落ちてしまった。
恥ずかしそうに手で口元を覆って、ぷるぷる羞恥に震えている。
「あの……体調が悪そうですよね?」
レナがそうっと伺うように、チョコクイーンに話しかけた。
「戦闘も終わったことですし、体調を治すお手伝いをさせてくれませんか? なにか力になれると思うんです」
(うちとの戦闘の影響もあるしね! 責任問題だから……チョコレートクイーンはチョコレートモンスターを生む存在だし、このエリアのためにも健康でいてもらわなくっちゃ)
チョコクイーンはプイッと横を向いた。かなりプライドが高そうだ。
しかしチョコレートモンスターたちがレナにぺこぺことお辞儀をするので、折れたクイーンは、また淑女の礼で返事をした。
レナがホッと胸をなでおろした。
「よかった。ルーカさん、診てあげて下さい」
「失礼します」
黒紫の目が、じっくりとチョコレートクイーンを眺めていく。
「体内のチョコレート構成成分のバランスが崩れてる。それが不調の原因だよ。長年の蓄積も合わせて……ね。あとは、チョコレートモンスターが一体、生まれきれなくてスカートにとどまってるかな?」
レナたちがしげしげ見ると、確かに、ひらりと波打つスカートがひとところだけ妙に長い。
(破廉恥!)というように、チョコクイーンがすそをはらった。
もちーんとすその一部が伸びて、ワンテンポ遅れてついてくる。
チョコクイーンがふつふつ湯気をだす。恥ずかしいらしい。
(のんびりやのチョコレートモンスターが残っているみたいだね)
ルーカが肩をすくめた。
「どうしたら解決できるかな……?」
「まず体内の水分をほどよく抜いて、ツヤを足してあげたらいいよ」
「チョコだから水分NG、エリクサーはダメですよね」
「うん」
「よっしゃシュシュの[エンジェルヒーリング]で!」
「「やめよう」」
回復技だというのに物理的蹴りを食らわせてくるシュシュのスキルは、いまのチョコクイーンとは相性が悪いだろう。
必要なのはツヤを足すこと。
「クーと」
「イズが」
「「内側から解決しよっか?」」
「でもー、さっきパティシエールの夢は使っちゃいましたよー?」
「クーイズ、先輩が、混ざるでしょっ? そこに、[光沢付与]したらいいと思うの!」
「おおー。じゃあボクはねー、えーと……シュシュと応援しよっとー」
「ん!」
「スキル[夢吐き]応援団のポンポン〜」
「「フレフレー!」」
▽ハマルと シュシュの 応援!
「ああああああ可愛いいいいいい!!」
レナがぶわっと泣いて褒めまくった。
レナのスキル[鼓舞]は威力を高める代わりに、ミスも起こりやすくなるので、繊細な調整が必要になる今回は使用見送り。
「僕が変化を視極めてるから」
「「はーい!」」
▽チョコクイーンが クーイズを 受け入れた。
手を繋いでいた左右から、とろりとスライム融合する。
チョコクイーンの袖が赤と青に染まり、それからビターチョコカラーに馴染む。
「ご安心、なさいませっ。私リリーは宝飾職人、あなたを、もーっと美しく、しちゃうのよ」
リリーがチョコクイーンにかけた言葉は、宝飾職人が贈る希望の台詞。
安心して身をまかせてくれるように。
宝飾店メディチで、リリーも日々学んでいる。
宝石の如き丁寧な扱いをチョコクイーンは気に入ったようで、(あら)とポッと湯気をあげると(よろしくてよ)しずしずとリリーに近寄った。
「付与魔法……[光沢付与]!」
チョコクイーンの胸に飾られた四角チョコレートが、ピカッと輝く。
輝きが全身に広がっていき、いかにも美味しそうな艶をもった。
「ん! どう……?」
「いい感じ」
リリーに答えたのはルーカ。
それならもう絶対安心だ。
クーイズがチョコレートクイーンからぷよんと分離する。
そのボディには、一体のチョコレートモンスターがたゆたっていた。
レナの前に来ると、人型になり、渡す。
「「クーとイズの子です♡」」
「こらこら」
「えへっ。せっかくだからドレスに残ってた子を救出してきちゃったぜ」
「これにて一件落着だよねー!」
チョコクイーンの不調を治して、チョコレートモンスターを救出して、スウィーツパラダイスの魔物たちにも認められた。
チョコクイーンが初めて、やんわりと目を三日月型にして、艶やかに微笑んでくれた。
空気がなごやかになる。
「『ワタクシたちを救いし勇者よ』……だってさ。く、くくっ」
「えッッッ!? ちょ、おやめくださいチョコクイーンさん! 私は藤堂レナといいます、ただのレナとお呼びくださいね!?」
「『ではただのレナよ』」
「切り替え早……」
「「「「レナ様とお呼び!」」」」
「ああもう〜」
従魔がおさまらないので、レナさんでお願いします、といってようやく解決した。
ルーカが「おお」と驚きながら続きを通訳する。
「”ワタクシを従えたいなら、よくってよ”……だって」
「えっ。遠慮します」
▽レナの 拒否!
▽チョコレートクイーンは 衝撃のあまり すっ転んだ。
レナが彼女に手を伸ばす。
「あなたはこのスウィーツパラダイスの頂点にいらっしゃる方なんですよね? チョコレートモンスターとスウィーツモンスターを従える存在。だったら、まだよく知らない誰かに従属するのはよくないですよ。
配下はあなたにずっとついてきてしまうから、あなたが一番前に立って、配下のためになる道に導いてあげなくっちゃ。
ね、女王様」
レナの言葉に、チョコクイーンは頭を熱くした。
とろりとチョコレートが垂れて、前髪のように瞳を隠してしまう。
大丈夫かとレナが慌てたけど、ルーカ曰く「照れていらっしゃるみたいだよ?」とのことだ。
頭が熱を持ったり、湯気が出たり、味がスイートになったりするらしい。
現在カカオ30%相当、ミルク入り。
柔軟で甘い。
勝手にガナッシュにしてしまったが、従魔の狙いの「甘いデザートは幸せの味なんだよ」という理屈は成立していた。
チョコクイーンが腰を揺らす、スカートにホイップクリームの飾りがふわふわんと浮かび上がる。
ふたたび顔を上げたとき、チョコクイーンの表情はキリリとしていた。女王様としての風格がある。
モンスターの女王様として敬意を払われたのは、久しぶりのことだった。
宰相がようやく肩の力を抜いた。
(まさか彼女が従属を願い出るなんて思ってもみませんでした……。しばらくの不調を解消してくれた功績を思えば、レナ様たちに好感を抱くのは当然の流れではありますが。もしオズワルドのように逆契約を申し出ていたら……と考えると、ゾッとする)
チョコレートクイーンあってこその、このスウィーツパラダイスなのだから。
その点は、囚われの女王様とも言えるので、彼女を飽きさせないように、魔王国は誠意を尽くして戦闘遊びをしているというわけで。
しかし今回の事態。
(硬く苦くなっていたのは、おそらく最近の戦闘遊びがつまらなかったのでしょうね。いわゆる接待戦闘でしたから。そして興奮しなかったので体温が冷え、硬くなり、チョコレートモンスターがスムーズに生まれず、イライラもしていたのですか……)
宰相は猛省した。
メデュリ・アイの一族でも連れてきて通訳させて、彼女の不満を聞き出して、本気で戦闘すべきだったと。
保身に走りすぎていた。
レナパーティは強引だったが、きちんとチョコクイーンの気持ちに向き合ったのだ。
宰相は襟を正す。
できなかった過去は変えられない、だから今後は改善していくだけなのだ。
「従魔契約はどうしますか……?」
宰相がレナにそっと小声で聞く。
レナは、受け取ったばかりのチョコレートモンスターを見下ろした。
腕の中でトロンととろけてくつろいでいる。温度は「あたたかい」くらい、ほかのチョコレートモンスターよりも穏やかなようだ。
うん、と頷く。
「この子と縁がありましたし、もし従属してくれるならって」
ぴょこん! とチョコレートモンスターの突起のような耳が立った。
ふふ、とレナが笑って、クーイズがわくわく目を輝かせる。
「契約、試してみてもいいですか?」
レナはチョコクイーンに確認をとった。
彼女は頷きながらも(そんな生まれたての小さくて弱い子でいいの?)と不安そうだ。
いいのだ。
レアクラスチェンジするから。
みんなレナの庇護下でつよくなるから。
「スキル[従魔契約]……私の従魔になってください!」
『きゅう』
チョコレートモンスターがとろーりのろのろと、従魔契約魔法陣をくぐる。
従属意思があったので、あっさりとレナにテイムされた。
<[従魔契約]が成立しました!>
<従魔:チョコレートモンスターの存在が確認されました>
<従魔:チョコレートモンスターのステータスが閲覧可能となりました>
<ギルドカードを確認してください>
「やったね! これからよろしく。名前はあとで贈らせてね。のんびりや、ポカポカあったかいあなたに似合う名前をみんなで考えるから」
『きゅーう』
ミディのように、生まれたてだとうまく話せないらしい。
危機意識も低くて、なんとなくレナの隣は居心地がいいな、と無防備に懐いている状態だ。
ほかのチョコレートモンスターは、チョコクイーンの側から離れないので、この生まれたての個体が、いちばん従属させやすかったかもしれない。
「さて。迅速に帰りますか」
「………………………………ラビリンスを見つけてしまいましたからね」
「幸運すぎてごめんなさーい」
レナがぺろりと舌を出した。
「[ラビリンス:お菓子の世界]ってところでしょうか。発見者はレナということで」
ルーカが探るように宰相を視る。
宰相は漆黒のメモにペンを走らせ、即席悪魔契約書をつくる。
「レナパーティは、このたびの権利を公にして、商売などを始めるつもりは御座いますか?」
「「ないです」」
「承知致しました。……ではラビリンスは移動スポットになさるのですね。チョコレートモンスターの里帰りの際にはご一報頂きたく。私が同行致しましょう……」
宰相が頷く。あきらめている。
ここでゴネても仕方がないのだ。発見者がレナであると世界情報に刻まれているのだし。
▽レナたちは 清掃係サディスを 確保した。
▽悪魔契約書に サインをした。
▽お菓子の扉が 現れた!
<お迎えでーーーす! キャー! マスター・レナ〜!>
「ありがとうキラ。接続が早いね」
扉からはもちろんキラが現れる。
ずいぶんとラビリンス・ダンジョンの空間接続に慣れたようだ。
▽チョコレートモンスターを 仲間にした!×1
▽レベリングして 進化させよう。
▽スウィーツパラダイスへ 帰省可能になった!
▽[ラビリンス:お菓子の世界]を通って、[ダンジョン:赤の聖地]に帰還した。




