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クーイズと紫

みんなで寝室に向かう途中。

いろんな部屋を覗きながらのプチダンジョンツアー。

キラに案内されたのは非日常のトンデモルームばかりだったので、普通の部屋も見ておくことにした。



「見て見て! 鞭コレクション!」

『右から、魅了の薔薇鞭、恐慌の黒鞭、快感の太鞭…………』

「ルージュ様〜、これってレナ様でも扱えますかー?」

「ハーくん待って、私、鞭マニアじゃないからね!?」

『扱えますわ! きっと! 貴女様、訓練致しましょうね』


▽ルージュと ハマルは うっとり微笑んでいる。


「教官が増えたああああ!?」



「これなに……[鑑定]ああ鎧兜。へぇ、東方の甲冑があるんだ」

「カタナソード! ぶんぶーん!」

「危ないってば」

「イカゲソ切れル?」

「断面がギザギザになって味が落ちるからウォーターナイフを推奨しよう! だから切られに行っちゃだめ!」



「ヴィンテージの陶磁器。とても良いものだわ。赤の塗料で描かれた花模様に、金の縁取り」

「フーン……高そー」

「あははパトリシアお姉ちゃん。そりゃあ値段がつけられないくらい高いよ? だって緋々色黄金(ヒヒイロカネ)に変化してるもんコレぇ……」

「ヒッッッ!?」

『ほう。見抜くとはさすがであるな? アリスとやらよ。我々の渾身のドッキリだったのだが』

「心臓がドッキリバックリしたので成功っすよちくしょー! あああ落とすかと思った怖ぇ!」



それはもうワイワイと。


ルージュは『ご覧あれ』という姿勢なので、みんな様々なものを手にとって眺める。


……置かれているものは特殊なのだが、まあ部屋そのものが無重力ルームだったりしないので、まだ普通の範囲と言っていいだろう。

もはや希少金属も日常と化している。普通の常識は環境によって変化するものなのだ。


廊下を挟んで左右に部屋があるので、なかなか寝室まで進まない。



「いっけね。髪飾りあっちに落としてきちゃった」


クーイズがひょいと、ひとつ前の部屋に一人きりで入っていった。


そしてベッドサイドのテーブルに置かれた菓子ポットの蓋を開ける。

ウン百年前の飴を食べたくて!

毒は美味しいと感じる舌なので!

仲間にはちょっとかわいそうな目で見られてしまうから、このポットを見つけて以来、こっそりとつまみ食いしたかったのだ。


瓶の半分くらい入っていた飴をまとめて口に放り込み、ガリガリ食べて、びりびり消費期限切れを感じ取り、クーッと心地よく身震いしたあと、底にコロンと残っていた最後の一つをつまむ。


「フーン……紫。あっ埃ついてる? ゾンビの骨粉だったらやだなぁー、って、キラ先輩がそんなもん残してるわけないか。いただきまーす」


埃を払って、口に入れた。


「クーイズ」

「んんっ!?」


ゴキュンと飴を飲み込んでしまって、目を白黒させながら後ろを振り向く。

あわてて喉に粘液を増やしてスライムスライダーで胃に送り込んだ。


「ゲホゴホ、れにゃ!」

「だ、大丈夫? ……ふふ、その呼び名ルーカさんみたいだ」


レナがクーイズの背中をさすりながら、小さく笑う。


「そーだねっ。ルーカと我らは同胞だからなー。なぁに?」


クーイズがレナの腰に抱きついた。

そこがちょうど腕を回しやすかったから。

頭はレナの胸下辺りにあって、ランプの光が紫の宝石髪をキラキラと輝かせている。

(大きくなったなぁ)

撫でながら、レナは感慨深くなった。


「好き!」

「んっきゃーー♡ 我らもレナのことが好き好きぃ〜♡」


ギュ! と抱き合うと、薄地の浴衣に包まれたお互いの体格がいっそうよく分かる。

(小さくなったなぁ)

出会った頃よりもレナが華奢になったような気がして、クーイズは驚いてレナの顔を見上げた。そういえば、こうして独占してレナのことをじっくり観察する機会なんて、もうしばらく珍しい。

(いやいや、我らが成長したんだよね。大きくしてもらったの)


なんなら前世よりも、今のクーイズの体は健康に成長している。

あの頃……と思い出すと、クーイズの瞳にはほんの一瞬影が落ちた。


「あのね」


呼ばれてレナの瞳を見ると、一瞬でパッと気持ちが明るくなる。

影? ぶっ飛ばしてやんよ!!!! とレナがポジティブご主人様っぷりを発揮した。


レナが気付かないはずないのだ、なんだかクーイズが不安定なこと。

一緒にアイスを持ってきたオズワルドからも「なんか時々落ち込んでるような。獣人なら耳が伏せる感じ?」と心配の声を聞いた。


レナがクーイズのぷるぷるの頬を手のひらで包んで、目を合わせた。


「お礼を言おうと思ってたの。さっきお風呂場で、ルーカさんのこと介抱してあげてくれてありがとうね」

「水くさいってば〜も〜」


でもクーイズは目を輝かせる。

これから褒められると分かりきっているから! 褒めて!!


「さすがクーイズ先輩、いよっ!」

「気が利いて言葉がうまくてあったかくも冷たくもなれて快適スライムすごーいだなんて、そんなぁ、もっともっと〜」

「ぷよぷよ柔らかくて気持ちよくて男の子にも女の子にもなれて美し過ぎるなんてことある〜」

「んーー♡」


くねくねとしながら、クーイズは、美しいと言われたがりだったシェラトニカ・ダーニェ・ライアスハートのことを少しだけ思い出した。

今やクーイズこそが世界一美しいジュエルスライム魔人族だなんて皮肉だ。


ぶんぶん頭を振ると、宝石を梳かしたみたいな紫髪が視界に入って、よけいに紫の目を連想させた。


「ちょ、ちょっとクーイズ、くすぐったいって」

「ウヘヘ、お腹に頭ぐりぐり攻撃ぃ〜!……って、レナ、クーイズって呼んでるじゃん」

「そうなの」


くすくすっとレナが笑いながら「紫色だから」と口にした。

クーイズの目がまん丸になってレナを眺める。


「クレハの赤と、イズミの青が、混ざって紫。双子の時より背もちょっぴり大きい。新たな貴方になったから、私もクーイズって呼びたいなってずっと機会をうかがってたんだー」

「んー……クレハイズミだと呼びにくいもんねぇ。わかった」


クーイズはちょっと残念だなと思った。

クレハとイズミは、レナが一番最初に名付けた特別な名前だという自慢の気持ちがちょっぴりあって、思い入れ深かったから。

……クレハとイズミが、いなくなってしまうかという不安があって。


「私ね、ずっと嬉しかったんだ。クレハとイズミが自分で『クーイズ』ってアレンジしてくれたこと」

「……あ。レナの名付けを引き継いで自慢してるみたいで?」

「そうなのかも」


レナが頬をそっと染めて、えへへと笑う。


「クレハとイズミは二人とも、紫色の貴方の中にいるんだなぁって思うの」

「……そうなんだよ!」


クーイズは分かったような気がした。

これだ! と。


紫色について忌まわしい羨ましいという過去の価値観が時たま浮上してきていて、それが不安だったけど、一人きりで怯えなくてもいい、紫色でも中身はきっとクレハとイズミだから、抱き合って心を慰めてあげることができる。

レナに愛された従魔なのだ。

紫色のクーイズも。

主人の口から明言されると、地に足がしっかりついたような感覚があった。


▽ラナシュ世界に ジュエルスライム情報が アップデートされました!


「レーナ。クーイズのこと呼んでっ」

「クーイズ、大好き」

「うん、レナにそう言われたらもー最強だねっ」


▽間違いない!

▽クーイズは はちゃめちゃに元気になった。


今だから言える。


「あのね。我らは怖かった気がするんだ。紫色のクーイズになったら、クレハとイズミの時とは違って、心がひとつきりで、でも複数の声がうるさいの。それを全部聞こうとすると、頭が痛くなるからどうしてもできなくて。ダメダメなのかなって。でもこれって我らが成長に追いついていないから?」

「ルーカさんの時と同じで、体の成長に心が追いついていないのかもしれないね。それなら解決方法もわかるね」

「時間が経つこと」

「その間に私たちと楽しく過ごすこと! ねっ!」

「うん!」


クーイズのニコッと大きく開いた口に、レナはカバンの中から取り出したチョコレートを放り込んだ。


「わっ、何!? ってよく知ってる甘さ。んううぅとろけるぅ〜!」

「あんまり食べたことないはずだけど?」

「レナが最初にくれたご飯だもん、忘れられるわけがないじゃーん」

「食いしん坊だけが理由じゃなかった、うちの子可愛すぎない!?」

「大事にしてくれていいのよー♪」


ぎゅぎゅぎゅ!


「どこで手に入れたチョコなの?」

「アリスちゃんとモスラのお土産」

「今日のデザートじゃん! レナ食べてなかったの!?」

「お腹いっぱいになっちゃって」

「あーレナ号泣してたもんね、みんなでまたご飯食べれてよかったぁって」

「そう、涙でお腹いっぱいってねーあはは」

「チョコレートモンスター狩りに行こうぜ」

「ああ、いいね」

「こんなに元気が出る美味しいもの、レナが食べてないなんて絶対にダメだもん! レナには誰よりも幸せでいてもらわないといけないんだからなー!って、今日のお風呂場で男子たちで話してたんだよ」


レナが目をパチクリさせた。


「そうなの? びっくり。ロビーで女の子たちも同じこと言ってくれたんだよー」

(キラ先輩放送しなかったのかー。でも記録はしてるはず。将来レナに求婚する奴が現れたら音声流しちゃってもらおう)

「うわあああああん!!」

「時間差感激!? レナーーーーーッ!?」



「あー。クーイズ先輩がレナ様を泣かせてるー」


部屋の入り口からみんなが顔を覗かせたので、びっくう!! クーイズが飛び上がった。

成長した仲間たちは気配を消すのが上手すぎる!!




その後、泣き疲れたレナはあっさりとゴールデンベッドで熟睡してしまった。

ついでに[快眠]をぶつけたロベルトを転がしておく。


「従魔会議を始めます」


▽今後の生活プランをキッチリガッツリ相談しないとな!!

▽魔王国のこと聖霊のことダンジョンのことアネース王国との道繋ぎのこと夢組織のこと……などなど……

▽裏会議である。


▽テレフォンウィンドウに重要人物たちが映った!



「ぱふぱふ〜」


クーイズが軽快に声をあげた。




ステータスまで執筆いけなかったよorz

次は、レナにミセラレナイ仄黒い交渉ちょっぴり、重要人物は国王とかです。懐かしいな。


読んで下さってありがとうございました!


明日の朝、感想返信させてくださーい!(。>ㅅ<。)

みなさまいつも活力をありがとうございます……!!!!!

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