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強欲な王族たち/小都市トイリアへ

「ねぇ、お父様。お母様。

…まだお義兄さまを探すのですか?

ここまで見つからないと、もう生存は絶望的ではありませんか。

最初に探していたジュエルスライムも、人喰い大クマに襲われていたのでしょう?

お義兄さまとて同じなのではなくて」


「…うるさいっ!

いいから探すんだ、シェラトニカ。真剣にな。

ルーカティアスにはまだまだ利用価値がある。

☆7スペシャルギフトの【魔眼】は絶対無くしてはならない力なのだ。

諦める訳にはいかないっ」


「そうよぉ…。

それに、ルーカは見た目がとても良いものー。

どこの高貴な国の姫君だって欲しがる最高の餌なのよぉ?

婚約の申し込みだって、すでに沢山来てるんだから!逃がせないわー。

[麗人]称号の効果で姫君を魅了させてぇ、他国をいいように操りたいわねぇー」



…王子ルーカティアスが逃亡してから数日が経った、ガララージュレ王国の王宮広間。

そこでは王族たちが、それぞれ自分勝手な理由で言い争っていた。


義妹のシェラとて義兄を真剣に探していたのだが、あまりに見つからないので、手抜きしていないかを両親に疑われている。

シェラが捜索を頑張っているのは"確実に死んだことを確認したい"からであり、王たちとは全然理由が違ったのだが……だからこそ、きちんと捜索していた。

疑われたことに不満げな顔だ。


王子の生体も死体も見つかっていない現状が、どんどんと王たちを焦らせている。


ルーカティアスは優秀なスキルとギフトを持っていたが、反抗しないようにと、レベルを10までしか上げさせていなかった。

軍隊の多くを捜索に投入しているし、逃げ切ってはいないはず…となると、魔物に殺られて死亡している可能性が正直高い。

…しかし、確実に死亡がわかるまでは諦めきれない!


正妻の実の娘がシェラトニカ。

元側室の息子がルーカティアスである。

側室は息子の従属に反対したため、彼を産んですぐに殺されていた。



拗ねたように、シェラが実の父母を見上げながらつぶやく。



「…私だって綺麗なのにー…。

ねぇ、お父様、お母様。

[魅了]のスキルも【魔眼】も、私だって持っていますわ!

この国には私がいるから。

お義兄さまがいなくたって、もういいでしょう?」



ルーカに良く似た金髪紫眼。

姫は15歳にしてすでに美しく育っていたが、その瞳は、容姿にはおおよそ似つかわしくない憎悪に染まっていた。

いなくなってなお、両親の注目を集める義兄が憎いし、そちらにばかり気を向ける両親だって許せない。



「何を言っている…?

確かにお前は優秀だが、それとこれとは話が全然違うだろう!」



的を得ない娘の発言に、父は眉を顰めながらやや不快そうに返答する。

子どもを能力と利用価値でしか見ていない人物なのだ。


…母だけは、女として娘の気持ちを何となく察したのか、薄く笑っていた。



「うふふっ!

シェラは、相変わらずいじらしくて可愛いわねぇ…。それにとても美しい、さすが私達の娘よ?

でもねぇ。物事の判断は正しくしなくてはダメ。

…顔の造りのことだけを言うなら、側室の息子の方が整っているわぁ」


「~~~~~ッッ!!」


「あら、怒らせちゃったかしらぁ。

でも、ルーカの方が見た目が良くたって、それを利用したらいいじゃない?

あなたは将来この国のトップになるんだから。

感情に振り回されずに、利用できるものは全て使いなさい」


「違いないな!

そんな事よりも、シェラトニカ。早く捜索を続けなさい」



「……そんな事、ですって?…いやですわ」



「「!」」



…我儘姫シェラトニカの顔は、暗い怒りに歪んでいる。

彼女にとって何よりも大切な"自分自身の美しさ"。それが貶されたことに、とんでもなく強い怒りを感じているのだ…。


…たとえ、実の父母であっても、自分の容姿を貶すことは許さない。

天井知らずのプライドは、深く傷付けられている。



「捜索はもうしませんわ。

…だって、お義兄さまは死にましたもの」


「…何を言っているんだ!

逃がして数日の段階でアレを諦めるなどできない。許さんぞっ!?

いいから[遠視]を使えッ」


「そうよぉ。

お願い、シェラちゃん…!

ルーカを取り戻すことは、国の、しいては私達のためにもなるんだからね?

探してちょうだいな」


「…嫌だって言ってるじゃないッ!!

"影縛り"!」


「「ッ!?」」



シェラが感情をあらわにして叫んだ瞬間。

黒魔法の"影縛り"が発動され、影が両親の身体をいまわり首を絞めあげる。

首締めを確実にきめるため、スキルではなく、より自由に扱える魔法を冷静に選んでいた。


従属の首輪へ何度も魔法をかけていた姫のレベルは、両親よりも高かったのだ。

お得意の"影縛り"で一度囚われれば、王たちとて振り払うことなどできない。


「もう、何も言わせないから…!」


憎しみに満ちた目で、姫は実の親を睨みつけている。

顔を赤黒く染めて苦しんでいる様子を見て、口元だけでニヤリと満足げにわらっていた。

…彼女にとってこれは、正しい制裁なのだ。



「お義兄さまは私が逃がしたんですよ…?いらないから」


「なっ…!」

「グ…なんですっ…て…」


「いらないもの。私より綺麗な存在なんて、許さないわ。

私の美しさが世界で一番だし、他の人も、綺麗な私を何より一番に愛しているのよ…!

…お父様とお母様は嘘をつきましたね。

私よりお義兄さまの方が綺麗、だなんて。そんなのダメです」



完全な妄想である。

シェラやルーカより美しい容姿の人間など、探せばいるだろう。

しかし現実から目を逸らし、願望を無理やり現実にしようと義兄を逃がした少女は、理想を邪魔する者の排除をもうためらわない。

必要なのは、自分を綺麗だとひたすら褒めてくれる存在だけなのだ。

嘘つきな両親など目ざわりなだけ…。


自分勝手で残忍な両親を見て育ち、周囲から恐れられ甘やかされまくった姫は、とてもおそろしい存在に育っていた。



王族会議のためと、広間に従者たにんを入れていなかったことが決定打となり、王国の王と正妻は実の娘の手によって、この日、命をはかなく散らすことになる。



シェラトニカの頭の中には、世界のベルが高らかに鳴り響いていた。

…はたしてそれは"福音ふくいん"と呼んでよい物だったのだろうか。

…………。




<☆新たな適性職業を確認しました>

<職業:ダークプリンセス>

<ギルドで転職の申請をしてください>



「闇のお姫様?…ふふっ。悪くないわね」



新たな悪の王国の産声が聞こえてきていた。





***





アネース王国の国境検問所はたくさんの人々で賑わっている。

レナたちも列に並んでいたが、魔物連れなので、前後の人たちからは少々距離を置かれていた。

まあ、魔物をペットにしている人もいなくはないし、商人の荷馬車を魔物がひいていたりもするので、魔物を扱える子なのかなー?と肯定的にとらえられてはいた。

従魔がおとなしかったのが良かったのだろう。


この門を通り抜けたら、すぐ目の前が、目指している小都市トイリア。

とても過ごしやすい街だとアイシャから聞いている。


ガララージュレ王国が近くにあるので、生涯トイリアに住む予定はないが、もしも目立たずに暮らせそうな治安のいい国なら、王都の方に家を買おうかと検討もしていた。

そこまで離れたら、さすがに再びガララージュレ王国に狙われることも無いだろう。



"魔物使いでも暮らしやすい国か?"をきちんと知りたかったので、ここではギルドカードを偽らずに"魔物使い"のまま入国することにする。

変にカード偽造をして捕まっても困るし、とも考えていた。

相手のスキルを視れるルーカ先生がいないので、門番が[看破]スキルを持っているのかは分からない。

変に目立つことはできるだけ避けたい。

アネース王国は大国なので、しっかり入国審査をできる人たちが門の警備をしているだろう。



ギルドカードのステータスより下の情報は"クローズ"してある。

そうすれば従魔の種類は知ることが出来ないし……と、リリーに軽い[幻覚]をかけてもらって、ハマルは「居眠りヒツジ」風、スライムは「ミニスライム」風の見た目にしていた。

これすらも[看破]される恐れもあったが、明らかにレア種な見た目の従魔をそのまま連れて入国するのは、さすがに躊躇われる。

従魔にまで注意がいかないことを祈ろう。

リリー本人には、いつものフェアリー姿ではなく蝶の姿になってもらう。

もし種族を聞かれたら「モスラ」と答えるつもりだ。



草原で色々狩って、採って、マジックバッグの中身は十分に潤っている。

只今の手持ちアイテムは…


・ヒツジ肉×5

・ウサギ肉×5

・トリ肉×13

・香草Mix

・ぷくぷくの骨×4

・塩×6瓶

・砂糖×2瓶

・チューレハニー×1瓶

・野生のベリーMix

・殻付きくるみ×30

・モモりんご×10

・着替え一式

・普通の鍋

・普通のナイフ×1

・ジュエルスライム製の宝石



この通り。

普通に食事を作る分には全く問題がない、むしろ、そうとう豪華なご飯が作れそうだ。

お米の国出身者のレナとしては、もしトイリアに米があればそれも入手したいと思っている。

あとは…もっと質の良いお鍋と、フライパンなどが欲しい!

ベリージャムを作る際にフレイムの火で加熱したら、火が強すぎたのかさっそくお鍋の底をコガしてしまったのだ。



学生カバンの中には、ラナシュでは質の高すぎる水筒やらスマホやらが入っていたので、これもマジックバッグに放り込んでおく。

すぐ使いそうな着替えなどを代わりにカバンに入れておいた。




「…うわ、緊張するなー…」


ついにレナたちの検問の順番がまわってくる。

担当の門番さんは優しそうな中肉中背のおじさんだが、色々内緒にしたいことのあるレナは、ドキドキが止まらない様子。



『『レナっ、ファイトー!』』

『…ご主人さま。リラックス、リラックス~!』

『ふわぁ…。焦ってもー、仕方ないよー?レナ様』


「…そうだよね。よし!元気出そうーっ!

一番レナ、行きまーすっ」


『『『ひゅーひゅーー!』』』

『…レナ様の言動がー、ボクらよりも注目を集めてるのー』


「えっ」



彼女が魔物と会話できるのは従魔契約をしているからであって、周りの人たちからは、独り言の異様に多い少女…としか見られていない。

そんな子が、いきなりガッツポーズまでし始めたものだから、少し引かれていた。


キョロキョロと周りを見渡したら、さりげなく視線を逸らされまくり「ガーン…!」と落ち込むレナ。

おとなしく門番さんの方に向かう事にした。

トボトボ歩いてくる不思議ちゃんに、門番も苦笑している。



「やあ、アネース王国にようこそ。

元気なお嬢さん?

魔物たちと一緒にいるけど、そういう職業なのかな…。

ギルドカードの確認をさせてもらっていいかい?」


「…はい!

騒がしくしてすみませんでした。よろしくお願いします」


「うん。お預かりします」



門番はレナを怖がらせないように優しく笑いかけたあと、目を細めながらギルドカードをチェックし始めた。

…ルーカ先生が魔眼を使うときの仕草に似ている。

本当に、もしかしたら[看破]スキル持ちの人なのかもしれない。


カードには細工など何もしていなかったので、特に何を言われる事もなく返される。



「一応、連れている従魔の確認だけさせてねー。

お嬢さんの従魔はシープ、バタフライ、スライムが2体。計4体で間違いはないかな?」


「はいっ」


「うん。

嘘は言っていないし、貴方は魂のきれいな子のようだ。

手間をかけさせてごめんね。

…改めて、アネース王国へようこそ!

"水の乙女が歌う白の都"と言われる我が国を、どうぞ楽しんでいって。

景観よし、人よし、治安もよしだから、永住するにもオススメだよー」


「わあ…楽しみですー!」



門番の言った言葉からイメージしてみると、とても美しい街のようだ。

レナたちの期待も高まっていく。



「とりあえず、ここからまっすぐ歩いていったらトイリアに着く。

そこの観光案内所で、地図をもらうといいよ。

もうそろそろ日が落ちるから…。

アテが無ければ、宿についてそこで聞いて、早めに拠点を確保しておくことをオススメするね」


「!親切にありがとうございます」


「ははっ!

門番の規約として、伝えなければいけない事を伝えただけさ。

魔物も泊めてくれる宿はそう無いだろうし、部屋が埋まる前に早くいった方がいい」


「ありがとうございましたっ」



足取り軽やかに、レナたちは皆で門をくぐっていく。



魔物も一緒に泊めてくれる宿があるという情報はありがたかった。

宿で受付をする時だけ皆に魔人族になってもらおうか?と悩んでいたのである。

さすがに、馬小屋などに大切な従魔を預けたりしたくない。



少しだけ歩いたら、すぐにトイリアの入り口が見えてきた。

門からまっすぐ続く白石畳の広い道がまず目に飛び込んできて、次に両脇の清らかな水が流れる水路が印象に残る。

建物はそろって薄茶色のレンガ造り、メルヘンな赤屋根だ。

景観維持のためか、政府により建物の規格は決められているらしい。

ベランダに色とりどりの花が飾られていて、景色にいろどりを添えている。

とても美しく、また可愛らしくもある街だった。


街は夕焼けの色に染まっている。すぐに日が落ちるだろう。

その前に、と、レナたちは門のすぐ脇の観光案内所に急いで駆け込む。

魔物OKで空きのある宿を紹介して欲しい、と頼んだ。



「"淫魔ルルゥのお宿♡"という宿泊所なら、一部屋空いておりますが…」



なんだろう、怪しすぎる名称の施設だ…。

案内所の職員も宿の名前に思うところがあるのか、微妙な表情をしている。


だいぶアレな名称の宿だが、客層も悪くなく、内装やサービスもしっかりしていて、宿としてはランクの高い施設らしい。

ただ名前とハデな外観から新規客は寄り付かず、オーナー淫魔の知り合いばかりが泊まっているのだとか。

オーナーは魔人族の称号を持つ、淫魔サキュバスである。


値段もお手頃だと聞くし、なにより魔人族がオーナーなら少しは気楽に過ごせるだろう。

レナたちはこの宿に泊まることに決めた。

通信魔道具で、予約を取ってもらっておく。



「…お宿の予約も出来たし。

少しだけ冒険者ギルドに顔を出して、どんなクエストがあるか見て行こうか?

明日からは何か簡単な依頼を受けてもいいかもねー」


『『『『はーーい!』』』』



冒険者ギルドにトラウマはあったが、ダナツェラギルドがこの世界の普通ではないだろう。

しかし明日に回すと怖気付いてしまいそうなので、レナは、今日のうちにギルドを訪ねてみる事にした。



▽アネース王国、小都市トイリアに入国した!

▽Next!冒険者ギルドと宿屋に行こう


読んで下さってありがとうございました!


闇のお姫様はまたレベル1からやり直しになるので、しばらく表舞台には出て来ません。きっと自分を裏切らない家臣などを揃えてから、職業を変えレベリングするのでしょう。


これからまだまだ先まで、レナさんたちのゆる旅がメインになります( ´ ▽ ` )ノ

シリアスになるの?と心配させちゃったらすみませんでした。


あと、称号の効果に少し悩んでいるので、発表はもう少しお待ち下さい〜(>人<;)

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >正妻の実の娘がシェラトニカ。 >元側室の息子がルーカティアスである。 この二人、どちらも父は同じなのですよね? それだと、「異母兄妹」、「腹違いの兄妹」ではあっても、「義兄妹」では…
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