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君に決めたい!★

レナはギルドで登録をしたあと、なんと草原に舞い戻ってきていた。


本人がそうしたくて戻ってきた訳ではない。仕方なく、である。


魔物使いしか職業適性がないため、レナは、まずテイムをしなければ生活すらままならないのだった。

働いたら、ギルドに泊めてもらえるらしい。

こんな事になってしまって内心嘆いていたが、落ち込んでいても状況は変わらない。


(これが、この土地の……ラナシュ世界の常識なんだから……!)


心を切り替え、しっかり生きなくちゃ! と前を向いた。

涙目で視界が潤んでいたので、服の袖でぬぐう。


(なんとか生活できるようになったら、日本に戻る方法も探そう……)


また、涙が溢れてきた。

少し泣いてから、魔物を探すことにした。



草原は平野なので、遠くまで見渡すことが出来る。

生き物がいそうな草むらや岩場が見られ、少し離れた所には森もあった。

最初から森まで行くのは危険だろうし、近場の草むらから探すことにする。

レナは赤くなった目をこらす。


(とは言っても、街壁のごく近くから様子を窺うことしかできていないけどね……)


気まずそうに、右手を見る。

鞭。


ギルドで武器を支給してもらったのだが、いわゆる[ふつうの鞭・攻撃力+2]みたいなもので、レナの戦闘に役立ってくれるかといえば…………期待はできない。

レナは運動オンチである。


それにステータスは平均以下らしいし、運の[測定不能]や、ギフト(?)なんて、もう意味が分からない。

服は相変わらずのセーラー服。

そんな状態で草むらに突っ込んで行く勇気はなかった。


(おとなしくモンスターが出てくるのを待つ。こ、これも作戦だからっ)


鞭専門のスキル取得、という点は、レナが運動音痴というところで察して欲しい。鞭で"戦う"ことによって初めて期待値が生まれ、レベルアップでスキルが発生するのだとか。

最初から鞭なんてマニアックすぎだが、魔物を従える際には、鞭の装備は必須なのだそう。

運命とは世知辛い。



10分。20分。



時間が過ぎていくのがやたら遅いなあ、とレナが思い始めた時。

カサリ、と不自然に草むらが揺れる。



「(!?………きた?)」



膝丈の草がカサカサと大きく揺れだし、レナから見て右手の草むらの端から、モンスターが飛び出した!



印象的だったのは、不気味にうねる鱗に覆われた長い身体。鋭く伸びた牙に、瞳孔の細い黄金の瞳。

真っ黒さがまがまがしい、そう……まさしく蛇のモンスター。

とーーっても強そう。



「(無理ィ!!!)」



あきらかに、初心者が手を出していいレベルではない。

レナは即決でこの蛇モンスターを見送る事にした。


(どうか気づかれませんように……!!)


ドキドキしながら息を潜める。

あの牙には毒がありそうだし、そんなのを相手にして生きて帰れる自信なんて無い。


蛇との距離は15メートルは離れているし、しっかり隠れていたのでそうそう見つかりそうもなかったが、レナは気が気ではなかった。



モンスターはレナに気付かずに、食料を求めて、にょろにょろと近くの岩場に姿を消していく。

ホーーッ、と息を吐いて、全身の緊張を緩めた。


レナはまた壁近くに身を潜めて、弱そうなモンスターが出てくるのを切実に祈りながら待つことにした。



(まず弱めのモンスターを捕まえて、その子を育てながら依頼をこなして行こう。ポ○モンのチュートリアルみたいに!)


育成は大切である。


魔物使いの職業は、就職しただけでステータス値がプラスされる追加効果がなく、取得できるスキルも従魔に関するものばかりらしい。

となると、これからレナだけで強い魔物と戦っていく選択肢なんてあり得ないのだ。


(冒険者のパーティもあるけど、ってギルド員さんは苦笑してたなぁ。ははっ、パーティ? 私、需要あります?)


レナがネガティブモードになりかける………。

何事も下積みが大切なのである。教育を頑張ろう。

脳内で好きなアニメのオープニングイメージを流して、レナは鬱々とした気持ちを追い払った。



その後、魔物はちょこちょこと現れてはいたが、レナはため息をつくばかり。


「ゔわ………」


毛のトゲトゲした三つ目の羊、毒々しい真紅のカエル、頭が2つあるネズミなど……。

ラインナップがひどすぎたのである。



(どれも、早々に手を出すには見た目がエグすぎるぅ!

どの子ならテイムできるレベルなのか? とかも全然分からない……うっ、私ひとりきり……)


強さがピンとこないから余計に動けないし、グロいし、時間だけがどんどんすぎていってしまう。


(ここ絶対、初心者用のはじまりの平原とかじゃないよね。ハードモードすぎない?)


その通り。


夕方になれば門が閉まってしまうので、この草原に一人取り残されることになってしまう。

夜はさらに一段階強いモンスターたちが活動していると聞いた。

その前に帰らなくてはいけない……


(昼のうちに、なにかしら結果をつかまなくちゃいけないんだ)


ぐしぐしっと目をこするレナ。

服の袖が濡れる。



カサカサと、また草むらが揺れた。

レナが、不安と期待が入り混じった瞳でじっと見つめていると……


ぴょこん!

現れたのは、これぞファンタジー代表! とでも言いたげな、まん丸い身体のスライムが2体。

つられるようにレナの目も真ん丸くなる。


ツヤのある柔らかそうなボディ。色はそれぞれ赤と青。とても可愛らしい見た目だ。

ぽよん、ぽよんとコミカルに弾んでいて、サイズは手のひらに乗せられるほど。



(か、かわいいーーーーーー!)


思わず頬を染めて、口元をにやけさせてしまうレナ。

グロくて強烈なモンスターばかり見ていたので、なおさらスライムたちが愛らしく見えて仕方がない。



(こ、この子達を従えたい……!)




しかし、今までのモンスターが強そうな種類ばかりだったこともあり、スライムにも何か罠があるかも? と警戒する。

しばらく様子をみてから従魔契約魔法を使うことにした。




(じーーーー)



目を皿のようにして、スライムを見るレナ。


一方のスライムは、なにやら不可思議な動きを始めた。




ぽよぽよーーん、と交互に空に向かってジャンプする。

青のスライムが赤のスライムを追って追いかけっこして、今度は交代。くるくると回る。

ダンスを踊るように左右に身体を傾けてから、ぷよん!とポーズを決めた。


可愛すぎる。悶えた。



(ーーうん、この子達に、決めようっ!)



見守っているばかりでは、成果は得られない。


街壁前からレナがようやく移動して、ザザザッと立ち上がる!


思ったより派手目な登場になってしまったが、それも運動オンチで草に足を引っかけたせいだ。ああ……今後が思いやられる。


スライムたちが、ぷよんっ!? と大げさに揺れた。


▽セーラー少女が 現れた!(スライム視点)


ビシッ! とポーズを決めたレナは、初めてのスキルを発動させる!

震え声で発言する。



「貴方たちを、テイムしたいです……! スキル[従魔契約]」




魔物使いがモンスターをテイムする時には、あらかじめ「従魔にしたい」旨を宣言して、正々堂々戦い、勝利を収めなければならない。

魔物は野生のルールに従って生きているので、強い者に従うのだ。

テイマー本人を認めさせられたなら、ようやく従魔になってくれるそう。


カッ! と、スライムたちの前に、2つの光り輝く魔法陣が出現する。

これをくぐったら、契約をめぐる戦闘が始まる。

……息をのむレナ。


(魔物は基本的に好戦的らしいから、この状況で逃げられることはないよね?)


緊張していて、前髪が額にぴっとりと張り付いている。



スライムたちはどんな攻撃をしてくるか、レナが頭痛に耐えながら考える。

(粘液を肌につけられるのはヤバそうだから、その前に鞭で弾かなければいけないな)なんて考えて、柄をギュッと握りしめた。



「……あ、あれ?」



おや?

鞭を構えるレナに対して、スライムはまた遊び始めた。くるくると回り、踊る。踊る。踊る。

魔法陣なんてガン無視である。


とても困る状況だ。

魔法陣をくぐって貰わなければ、たとえ戦闘に勝っても従魔にすることは出来ない。



「あ、あの! ……私と従魔契約の勝負をしてくださいっ」



必死のお願いもなんのその。

スライムはレナの周りをぷよぷよと楽しそうに飛び跳ねている。マイムマイム。


固まるレナ。

(もしや、これは何か特殊効果のある踊りだったりするのかな…!?

契約魔法は無視されて、なおかつ先攻をとられちゃったの!?)

考えれば考えるほど深みにハマってしまって、恐ろしくなり、足が完全にその場に縫い付けられてしまった。動けない…



今なら、スライムは攻撃し放題な状況だった。

しかし踊り続けている。


「………?」


いつまでたっても、自分に何かが起こる様子もなさそうだし、加えて踊りが可愛らしかったので、レナの恐怖心はだんだんと解れていった。


きょとん、と首を傾げたら、スライムたちもくりくりっ?と一緒に傾いてくれている。



「(! …人間の言葉、分かったりするかな…?)あの」



方法を変えて、優しく話しかけてみる事にした。

もし、話し合いだけで従魔になってくれたら助かるのになー……なんて、甘ーい期待がこもった視線を向ける。


日本人ならではの考え方だが、はたしてラナシュモンスターの反応は?


(従魔になることを認めてもらえたなら、戦いは必要なくなるかもしれない)



「スライムさん…?」


「「(ぷよーーん!)」」


「わ!」



スライムは、なんと、声に応えるようにダンスを止めてくれた!


一度、ぴょーーんと高くジャンプして、くりくりっ?と身体を傾ける。


(…いけるかも!?)


期待しながら、レナは、慎重に言葉を選んでスライムに話しかけてみる。



「あのね。私は、魔物使いの藤堂とうどう レナといいます。

はじめまして。

……従魔になって、一緒に戦ってくれる仲間を探しているの。

スライムさんたちは強くなることに興味はありますか……?

もしよかったら、えっと、私と一緒に鍛練して、共に成長していく友達になってくれませんか」



どうだろう!

お互いに見つめ合って、動かない。

そよそよっ、と爽やかな風が両者の間を吹き抜けて行った。


虹色の小さなトカゲが、目の前をチョロチョロと通り過ぎていく。



「………あっ!?」



ぽよんぽよーーん!

スライムたちは楽しそうに跳ねて、トカゲを追いかけ走り去ってしまった。

結構な速度で、レナでは追いつけそうもない。



「そんなぁ…」



がくっ、と肩を下げた。

心はほぼ折れきってしまった…

期待が高まっていた分だけ、反動で落ち込みも大きい。


座り込みそうになってしまう足を、何とかズリズリと動かして、また街壁の影に隠れる。

またここからやり直しだ。

すん、と鼻を鳴らして、いじらしく草むらを見つめる。



「ま、負けない……」



目を一度ぎゅっとつむって涙を流し切ってから、前を睨みつける。

…こんな所でくじけていられない。レナはもう、平穏に慣れた日本人ではいられないのだから。

一人の冒険者として成長していかなければいけない。


(んん……!! 頑張れ、私ー……!)


自分をしっかり叱咤するレナは、冒険者への第一歩を、確実に踏み出していた。




それからはずっとモンスターを探していたが、従えられそうな子は、今日はもう現れてくれなかった。

結局、とぼとぼと一人ギルドに戻っていく。


ギルド員に相談すると、チクリと嫌味を言われてしまったけど、なんとか宿舎に泊めてもらえることになった。


謝り倒したレナは、ひとまずの居場所が見つかってホッと目尻をぬぐう。

恥じらいなんて捨て去った見事なペコペコバッタ謝罪であった。


明日も頑張れ、私ー! と自分に言い聞かせてから、早々と寝床についた。



読んで下さってありがとうございました!


レナちゃんイメージ


挿絵(By みてみん)

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