VSイヴァン
「[トライ・ワープ]」
▽モスラの ガレキ投擲!
「闇魔法[シャドウ・ホール]」
▽モスラの 正拳突き!
▽イヴァンのギリギリを かすめる。
▽イヴァンの 短剣闘舞!
▽モスラは [ハイステップ]ですべてかわした。
戦闘がどんどん激しさを増す。
両者近接、イヴァンは短剣と杖を振り回し、モスラは短剣を拳で砕くと、床板をイヴァンに叩き込んだ!
「[トライ・ワープ]」
「キリがありませんね」
モスラがいらっと額に青筋を浮かべて呟く。
前に口にした通り、獲物をじっくりいたぶって遊ぶ趣味はないのだ。
目障りなものは早く視界から消したい。
「風魔法[旋風]」
「私に風魔法? いい度胸ですね」
モスラが口角を上げた。
イヴァンは(悪手だったか?)と警戒する。
「私のギフト[大空の愛子]はすべての風が追い風となる」
「!」
そうでもなかった。
モスラに普通に[旋風]が向かっていく。
「風魔法[サイクロン]」
極大魔法を最小威力でぶつけて相殺した。
壁の破片が赤の衣装を傷つけたので、顔をしかめる。
この程度ならと[風除け]を使わずにすませようとした自分の判断にも反省がある。
(どういうことでしょう……?)
<ムキーーー! ラナシュ世界の判定忘れのようです!>
(そんなことがあるのですか)
<追い風になる”風”は自然風をイメージしていますので、中級風魔法の場合は”まあ含まれるかな”といったところらしいです。安心していたらやられましたね……
ああもうキラフォーマットを適用してやりたぁい!!>
なるほど、とモスラが軽く脱力する。
まさかのラナシュ世界の適当さのせいだとは。
「フン。ハッタリか」
破片があたって頭から血を流したイヴァンがフッと笑う。
いや、全部ラナシュのせいだ。
「しかし今のタイミングでわざわざギフトを暴露してハッタリをかます理由がないな。風攻撃はそのまま通っていくのだから。俺を騙してもいいことはないし、騙しきれてもいない。なぜすぐにバレる嘘をつくのか? ギフトの発言がフェイク? 今後、フェイクが伏線として活かされる戦闘になるのだろうか? 頭脳戦か、悪くない。だが俺は従魔ではなくレナ様に会いたいので、邪魔だな」
「緑魔法[ウインド]」
モスラはやかましいイヴァンの口の中に風をねじ込んだ。
イヴァンの喉に風が入り込んで、言葉を奪う。
「黙りなさい。ああ、こうすればそもそも詠唱が使えませんよね。我ながらよい思いつきです」
モスラが迫力たっぷりに微笑む。
イヴァンは杖の宝石に仕込まれた魔法で、また[旋風]をモスラに繰り出した。様子見だ。
「私のギフト[大空の愛子]はすべての風が追い風となる」
<そうなんですよ!! 追い風なんですよ!!>
キラの念押し。
ラナシュ世界は<やっべ>とばかりに風攻撃をモスラの直前でUターンさせた。本当に適当……判定をうけとったもの勝ちだ。
戻ってきた風がイヴァンに向かう!
イヴァンは風を受けようかマゾヒスト思考で悩み、防ごうと動いた。
▽キラの高笑い!
<オーーッホッホッホッホ!>
(!? レナ女王様の声……っ)
手の火傷が熱くなり、一瞬イヴァンの動きが止まって、モスラはチャンスを逃さなかった。
「風魔法[サイクロン]」
暴風で天井を落とす。
イヴァンの上にガレキが降り注いだ。足を負傷。
切り傷は口内に仕込んだ回復丸薬で応急処置、下半身にのしかかる瓦礫を[腕力強化]で除けようとするが、モスラの接近が早い。
走り込んで、イヴァンが詠唱する前に手で口をふさいだ。手袋を汚したくないのでハンカチを間に挟んでいる。
「ぐっ……!」
「終わりです」
モスラがイヴァンの首にアクセサリーを押し付ける。
しかし弾かれてしまった。
「貴方が身につけている首輪の方が強力なようですね」
モスラはイヴァンの首を見た。
ガララージュレ王国がルーカに使用していたものと同じ首輪らしい。
反対の手でイヴァンの瞼をこじ開ける。
底が見えない不気味な黒の瞳だ。
(ラミアの里で[悪夢の暴喰]を発動させた時には目に六芒星が浮かんでいた、と聞きましたが)
イヴァンがこの戦闘中、まるで死霊術師の能力を使っていないことも不可解だ。
(今この屋敷に死体がない状態だから本領を発揮できない、精霊が空間を閉ざしているため外部の死体を呼び込めない、良い可能性としてはそんなところ。
悪い可能性としては、なにかをたくらんでいる)
モスラがじっとイヴァンを眺めて[威圧]する。
「もう倒しますね」
なんにせよ早く締めるのが一番。
イヴァンは目を細めてモスラを見上げた。
「死霊術師は半アンデッドになっていることがあるそうですね。身体の欠損部分を死体で補って。
アンデッドの確実な倒し方について、とある方に聞いているのです。
頭を潰すのではだめ、心臓を捉えよ、と……できれば銀で、心臓に杭を打つのがいいそうですね」
<あーらよっと!>
部屋をサディスティック仮面が走り抜けて、通り過ぎざまにモスラに銀のナイフを渡していく。
「ありがとう御座います」
モスラがふふっと微笑した。
先輩を敬っての柔らかな微笑みだが、この状況でその表情はさすがにサイコパス。
「それでは引導を」
スッと表情を消し、この屋敷で使われていた銀のナイフをイヴァンの右胸に深く刺した。
「ああうっかり手が滑ってしまった。使い慣れない屋敷の備品だから」
世界の[復讐]判定はセーフ。
「現世に未練を残し、怨霊となることを警戒しなければならない……。レナ様に会えなかったのだから未練タラタラでしょうし。私なら執着して化けて出ますから。
この『ミニチュア牢』に亡骸を収納して、シヴァガン王国に引き渡し……と」
モスラがナイフの柄を靴裏で踏み込み、しっかりと奥深くまで突き刺した。
念には念を。
完璧な仕事こそ執事の務め。
▽イヴァンはぐったりと脱力し、目を閉じて、動かなくなった。
***
お屋敷の裏方を走り抜けながら、サディスティック仮面がキラナビゲーションの画面を確認する。
すでに五分の三ほどが完成している。
この屋敷がキラに網羅された時、何かが起きる。
「……器用なものですね。他の従魔たちの様子を見て的確にサポートしつつ、本体の目的もこなしている。[並列思考]をお持ちですか」
<いいえ? 持ち前のウルトラハイスペック頭脳ですけれどー?>
宰相の思考が一瞬止まった。
スキル無しにこのような複数思考など想像もできない。
影蜘蛛一族が小さな蜘蛛を使って様子を探るように、種族特性か、と納得することにした。きっとキラに詳しく話を聞いてもわからないような予感がする。
余計なことは今は考えなくてもいい。
<そちらに罠が!>
「承知致しました」
▽サディスティック仮面の [切断糸]!
<あちらに子どもの気配が>
「承知致しました」
▽サディスティック仮面の [束縛糸]!
▽子どもは ぐるぐる巻きになった。
▽首輪を装着された。
キラナビゲーション略してキラナビに人型マークが表示される。
捕らえた子どもの居場所だ。あとでまとめて回収しよう。
裏方に潜んでいた者はほとんど制圧した。
<この組織の子どもは皆、優秀な技能を持っていますよね。ぜひ政府で活躍できるようにしてあげてほしいですけれど?>
「それぞれが改心の様子を見せれば便宜をはかりましょう」
<おっと! 言質ですよ言質ぃ〜! あっさり頷いて下さるとは意外でしたねぇ>
「政府としても、種族の中で問題を抱えていた者たちに手を差し伸べられなかった負い目がありますから。
シヴァガン王国には種族特有の悪習をよい方向に導くように、という法律があります。
もちろん世界中の魔人族を救うことなどできませんが……縁があれば、見て見ぬ振りは致しません」
<うんうん。その感じ、好きですね!>
キラが紙吹雪をぱあっと散らした。
「……我々は目立たないように行動するのでは?」
<目立たないように裏道に来ているのですから、はっちゃけましょう! オッケーオッケー!>
サディスティック仮面は誘いに乗った。
髪留めをとると、朱色の髪が鮮やかになびく。
せっかくなのでキラの赤の閃光のエフェクト!
子どもが裏方の侵入者に気づいて、罠の矛先を向けた。
「うっ!?」
子どもは足を小さな朱蜘蛛に噛まれて、麻痺毒で倒れる。
罠の槍は侵入者に当たらなかった。
蜘蛛糸に釣り上げられて、子どもは恐ろしい赤仮面を逆さまに見た。
「捕縛です」
<やりましたね!>
首輪をつけられて、魔力を吸われたので意識がなくなる。
その時に(やっと終わる)と心のどこかで子どもは安心した。
先の見えない逃亡生活、この組織はやっと見つけた居場所ではあったが、ずっと気が休まらずに疲れていたのだ。
本気でナイトメアを信仰している古参の仲間がいる手前、何も言えなかったが。
ーー次はちっぽけな草にでもなって誰にも迷惑をかけずただ存在したい、と眠りに落ちる間際に考えた。
子どもは壁際に寝かされる。キラはご丁寧にマジックバッグから布団を出して敷いてあげた。
<ーー人生って。というか魔物生って>
「はい」
<あーん! はい、じゃなくて、ツッコミが欲しかったぁ。まあいいです。
このラナシュ世界には輪廻転生があるのでしょうか。前世で悪いことをしていたら来世は矮小な存在に生まれ変わる。良いことをしていたら上流階級に生まれる。そんなこと。
さすがに私もまだそこまで確認できません>
キラの戯言遊びだ。
(こんな時になにを?)サディスティック仮面は眉をひそめる。(この者の行動はふざけているようでいつも何か意味がある。しかし……)
「存じ上げないので回答を控えたく」
<そっかー。マスター・レナは、輪廻転生ってあるかもしれないねって以前言っていました。幼い頃の、お兄様との会話です。そうだったらいいなぁって。また家族で一緒になれたらいいねと>
レナの過去をサディスティック仮面は知らないが、移動しながら黙って耳を傾ける。
<でも前世での悪事の責任を取らされるのは怖いよね、と。
前世を覚えていないのですから、そう思いますよね。
今の自分は”藤堂レナ”として、頑張って生きている。
前世が良い人物でも、悪い人物でも、自分が今を一生懸命生きていくことに変わりはないのだから、前を見なくちゃ、と>
「よい考えだと思います」
<私のマスターは素晴らしいのです!>
「それが言いたかっただけですか?」
<えへ。自慢です♡>
サディスティック仮面は(捕らえた子どもたちの説得に使えそうな言葉だ。自殺の防止、今世での改心に……)と脳内にメモをした。
キラナビに従って、廊下を曲がり部屋に入る。
たどり着いたのは宝物庫のような場所。
「……荒らされていますね」
引き出しはすべて開けられ、床には壊された錠の破片が散らばっている。
<犯罪組織がねぐらにできたくらいですから、侵入は容易だったのではないでしょうか? 火災でボロボロだったお屋敷に入る者は少なかったでしょうが。
ああ、犯罪組織たちは補修をして一番被害が少なかった部屋に集っていたようですね。そして精霊の目覚めとともにこのお屋敷の大部分は火災前の様子を取り戻した、と。
まるでラビリンスのようだと感じます!
いっけね、喋りすぎた>
キラのマシンガントークを頭に入れながら、サディスティック仮面はずんずん進んで開けられた宝箱を覗き込む。
「細長い形状、剣かなにかが入っていたようですね……この宝箱の様式はミレージュエ大陸で作られたものでしょう。
屋敷の主人は、武器を扱うヒト族だったようです」
<はい、同感ですね!>
魔人族のキラがにゅるんと現れて、手をパチンと鳴らし、またパンドラミミックに戻りタキシードの胸ポケットに潜り込む。
「…………」
<ここに精霊はいないようです。気配は濃いのですけどね>
「分かるものなのですか?」
<私のマスターが[精霊の友達][聖霊の友達]称号持ちですし、私は進化するときに大精霊シルフィネシア様の力を取り込んでおりますので! 精霊通なのですよオホホホホホホホ!>
宰相は心のメガネがもうないことを悔いた。
心労がすごい。キラの言葉がドスドス刺さる。
でも心のメガネがあったところで即粉砕されて終わりだっただろうな、と思い直して、装着している赤仮面をくいっと整え直した。
<精霊の名残をとても強く感じます。ずっとこの部屋にいて、今は移動したのかもしれません>
「夢組織に見つかりそうになって?」
<というより……助けを求めているのではないでしょうか。この屋敷を元の平穏な場所に戻したくて。精霊ってそういうものみたいですよ>
キラは想像する。
シルフィーネはアネース王国を守り、カルメンは白炎の一族を想っていたことを。
ここの精霊が守っているものは、きっとこのお屋敷と今は亡き従者たちの魂だ。
<さて。精霊が助けを求めるならば対象は誰でしょう?
一番精霊に好かれている者。力がある者。
我らがマスター・レナの近くにいるのでは、と推測いたしますね!>
「向かいますか? 近くです」
宰相がぐっと足に力を込める。
<いいえ。こういうのはタイミングが大切ですから。まずは私たちはマップを完成させましょう>
「承知致しました」
宰相がくるりと方向を変えて、まだマップが黒塗りの地点に向かって躊躇いなく駆けていく。
<そういう切り替えが早いところ大好きぃ♡ マスター・レナはもっと好きぃ♡>
キラの戯言を心の赤仮面で防いだ宰相は、さらに加速した。
***
「ごきげんよう」
レナがビシッ! と鞭の柄の先端をナイトメアに向ける。
「夢組織の夢喰い・バク。私の従魔たちに手を出したこと、覚えているかしら?」
レナ女王様の表情は険しい。
ツンと唇が尖っている。
「……魔王の息子とウサギの魔物のことか。それにギルティアはラミアの温泉で魔物使いパーティと戦闘をしたと」
「その通りよ。そのラミアの姫君も今は私の従魔だわ。
とても怒っているの! だってそうでしょう? 魔物使いから従魔を奪おうとしたのだから」
「従魔の心に隙があった。完璧な主人とは言えないな」
「「「「ふしゃーーー!」」」」
クーイズ、リリー、ハマルが思い切り威嚇する。
可憐な子どもたちなので怒り顔には迫力がないが、赤の衣装が輝いて覇気を纏った。
「まあ。完璧な主人? それはどんなものかしら? 従者が慕う主人。それでいいのではなくて?
従魔の心に隙をつくらないことを完璧な主人の条件とするならば、私はそんなものお断りよ。
従魔が弱音も吐けない環境なんていやだもの」
ナイトメアとスイが眩しそうに目を細める。
レナの後光はいっそう神々しく。
「従魔の喜びも悲しみも怒りも不安も、すべて受け入れて、前を堂々と歩いてみせてこそ、魔物使いの主人なのだわ!」
「「「「キャーー従えてぇーーー!!」」」」
従魔たちがひしっ! とレナにしがみついた。
この隙に攻撃を、とナイトメアたちは暗躍を企んだが、動こうとした瞬間、背中に焼けるような熱を覚える。
スイがバッと振り返った。
「ひっ……!?」
ほんの一瞬だが、目も眩むような美女が赤い髪を揺らして凄絶に笑っていたのだ。
嫌な汗を額ににじませた。
(いやー、こりゃ怖いわぁ……)
レナの覇衣の影に隠れたマリアベルがひっそり合掌する。
みんなと一緒に名乗りをあげなかったのは、一人で精霊を探しに動くためだ。
めちゃくちゃ楽しそうで混ざりたかったらしいけど!
(この部屋に精霊の気配を感じる)
リリーよりも精度がいい100年ものの[フェアリー・アイ]で辺りを見渡す。
ぼんやりと薔薇色のオーラを確認した。
(救うから。待ってて!)
精霊は敬意を集めた尊い存在、こんな風に貶められていいはずがないんだ、と自分の気持ちを再確認した。
そっとレナの後光の輝きに隠れながら移動する。
「夢で戦う?」
ハマルがナイトメアを睨んで、堂々と前に出る。
「それとも[幻覚]で勝負……?」
リリーが姿を変えてみせる。
スイと同じ姿で「イエイ!」とピースしてみせた。
せっかく[魅了]を使ってみたが色っぽさがない。しかしマルクを誘惑されたと思ったスイは内心激怒していた。
「「クーイズに状態異常は効かないぜ!?」」
ジャーン! とクーイズがポーズを決めた!
「さあ。従えてあげましょう」
レナ女王様が黒紫の目を瞬かせる。
マリアベルと同じタイミングで精霊の姿をはっきりと確認した。




