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魔王ドグマとの訓練2・緊急依頼

訓練の最中、キラがニヤーーッと笑う。

嫌な予感に、魔王国側が一歩引いた。


▽キラは DJセットを 映像で現した!

▽きゅきゅっとディスクを回すアピール!


<みなっさぁーーーん! ノッてるぅーー!? イェェェェーーイ!!>


大音量でアナウンスする!

全員の耳にキィーーーーン! と爆音が響いた。


「ぐおおおお……」とドグマが獣耳を押さえる。

その間に向かってきた攻撃はハイジャンプでかわした。


<さあレッスン♪ ごきげんな音楽に合わせて♪ ヒップホップ♪ yo! yo!>


何事だ!? と全員混乱しているが、いち早く持ち直したレナパーティ(キラの奇行に慣れている)が攻撃を再開したので、魔王国勢は対応に追われた。彼らはキラの声をいったん無視する。


<敵の守りが堅い時には♪ 奇策を使う♪ 地形をよく見て、利用して♪ あらまったいら? 何もない? じゃあ地形に変化をつけよう、できるはず!>


レナとアリスがハッとした。


((これは……赤の教典(お説教)の一節!))


キラにも何か策があるのだろうと、声をきちんと聞いていたレナパーティ。仲間を信じていたのが功を奏した。


(地形? 変化をつけるには……)と、まずは獣人たちが考え始めた。

ルーカが号令をかける。


「コンビネーション、いくよ!」


ルーカの[テレパシー]で作戦を共有。

レグルスがドグマに向かっていく。


「赤魔法[フレイム]」


「! 白炎か! まだまだ」


爪先にほんのわずかな白炎をまとわせて切りかかったが、ドグマがレグルスの手をにぎりこむと、紫炎が白炎を上書きしてしまった。レグルスの白炎はまだ不安定だ。

指の骨が軋みをあげて、眉をしかめる。

だけど時間稼ぎとしては十分。


「光魔法[サンクチュアリ]」


ルーカが空中に細やかに作った結界を足場にして、オズワルドとハマルが駆け上がる!

地形を立体的にとらえれば良いのだ。


キラがビッ!! と親指を立てた。やったね!


「スキル[重力操作グラヴィティ]重く!!」


▽オズワルドとハマルは 超重量化!

▽ドグマに強烈なカカト落としを決めようとした!


ドグマはひらりとかわす……と、思ったが、


「……おお?」


「悪いな。父様」


ドグマの横をすり抜けていくのではなく、直前でスキルを解いたので、軽やかにドグマにしがみついた。


「スキル[シャドウ・ナイフ]大人しくして」


肩車状態になったオズワルドが喉元にナイフを突きつける。


<奇策の心得、いつでも忘れないでー♪ グッジョブ! 相手が驚く顔ってキモチイイーー! ネッ!?>



ここで魔王国側の者たちがやっとキラの思惑に気付いた。

おふざけのようで的確なアドバイス。

改めて、油断のならない従魔だ……と呆れながら感心する。



ドグマは無理やり[シャドウ・ナイフ]を噛み砕いた。

その時顔が下向きになり、見上げているハマルに気付く。


「ねぇー? イイ夢見させてあげましょーかぁー? スキル[快眠]〜♪ すーやすやー♪」


「ぐ……!」


+2補正までついたハマルの[快眠]スキルは強烈な眠気を誘う。

おそろしいほどここちよい誘惑。ある意味これも精神干渉だ。


ここからドグマが咆哮を上げても、眠そうに目をこすっているのでどうにも迫力がなかった。

戦闘時の士気が下がる。


ハマルはすぐ弾き飛ばされたが、「なーるほど。こういう戦闘もありだよねー」と何かコツをつかんだ様子。


キラのDJディスクが唸るぜ!!


<イイ感じ♪ イイ感じ♪ 精神干渉の状況下ではいつもどおりに戦えなーい!? oh! じゃあ上書きしちゃえばイイんじゃない!? yo!>



「上書き……」


キサがなにかピンときた様子。

新たに何かしかけてくるか、と対戦していた護衛部隊が身構える。


キサの鮮やかな赤の唇が艶やかに笑みを作る。


「妾が目の前にいるのに、他の者の魅力に溺れるなど……お前たちはそれでも男か?

美しき蘭美亜ラミアの姿、とくと見よ! スキル[魅了]」


艶っぽい流し目で見つめられたドリューが完全に目を奪われた。

ドキドキと心臓が高鳴って、頭の中がピンク一色に染まる。ドキドキは蛇睨みによる吊り橋効果だが。錯覚をおこした。


スパァン! とリーカがドリューの後頭部を叩く。

が、遅い。


「スキル[紅ノ霧]っ」


リリーが恐怖心を煽る霧を発生させた。

ふと、ドリューとリーカの脚を何者かがガッと掴む……イカ触手。


「イィィイーーーートミィィィィーー……!」


「「っぎゃーーー!」」


二人が悲鳴をあげつつ、いつもよりも取り乱しながら対処した。

スパスパッ! とリーカがナイフでイカ触手を切ったが、[シー・フィールド]により地中から顔だけ出したミディはうっとりしている。

イカの切り身を投げ合うおこちゃま合戦が始まってしまった。

緊張感が霧散してレナパーティらしい雰囲気になったと言えるだろう。


他の従魔たちも善戦する。



<あと一歩! ブーストをかける言葉は? お分かりだよネ♪ 赤の女王様♪ hey!!>


映像マイクが一斉にレナに向けられた。

ここはもうレナパーティの舞台!!


「称号[赤の女王様(覇道)]セット!」


レナの迫力がグンと増した。

クラーケンパーティの時に取得した称号である。

普段は(覇道)まではつけないのだが、ご褒美!


「私の可愛い従魔たち。たくさん頑張ってくれていてとってもえらいわ。大好きよ♡」


<キャーーー!! 従えてぇーーー!!>


「「「ありがたき幸せーー!!」」」


白炎の花火が上がり、魂が熱く燃えるぅ! あっちっち!


白炎聖霊杯カンテラを内包したクレハの髪が発火したので、そのままロベルトに頭突きをした。

暑いのが苦手な彼は必死で避けたが、しばらくクレハに追い回されてしまった。


クレハの髪はすぐに火が消えて、ぱらぱらと金色の粒を落とす。

緋々色黄金ヒヒイロカネである。


「回収!!!! レナパーティの皆さん!! どうか!!」


「レナお姉ちゃん、アリスあれ欲しいなー!!」


遠方にいたマモンとアリスが目ざとく絶叫した。

クレハの横にいたイズミがスライムになり、ボディに幻の黄金を内包する。


((まさか……[溶解]しない(です)よね!?))


イズミはにこにことレナの元に戻ってきた。

マモンとアリスは気が気ではなく、緋々色黄金ヒヒイロカネがレナに渡されるとほーーっと盛大なため息を吐いた。

ぶわっと背に汗が流れている。


「まさか……このような技術までお持ちとは……!」


マモンが疲れた顔で呟く。

そして、ガツンと魂に響く衝撃を自覚した。ぐっと胸を押さえる。


「……ああ、すみませんモスラさん。結界隔離していたというのに、ヒビを入れるとは。本当に大した方です。

悪魔の空間デーモンスペース]解除」


モスラを隔離した結界を解いた。


大悪魔のとっておきなので、訓練で披露するつもりはさらさらなかったのだが、レナに声を届ける間に執事が攻撃してきたので、仕方なく防御したのだ。


「……マモン様。これほどの力をお持ちであれば、安心してアリス様を任せられます。

どうかよろしくお願い申し上げます」


「ありがとう。認めてもらえてよかったです。

しかし……[悪魔の空間デーモンスペース]を破壊しようなどとは……よくもまあ……。内部にいるだけで心が震えて、結界に触れたら死の絶望感に囚われたでしょうに。

さっそく精神干渉を乗り越えたということでしょうか?」


「レナ様の応援があれば百人力なのです」


モスラがうっとりと告げて、レナを振り返る。

レナとアリスが「イイ子ね」とエールを送ってくれたので、モスラが「このために生きていると言っても過言ではない」と感激した。

マモンに優雅な一礼を披露する。



訓練はいったん終わりとなりそうだ、と二人は察した。闘気を収めた。


もはや訓練場のいたるところがしっちゃかめっちゃかである。


レナがにっこりアリスに笑いかける。


「素晴らしい教え(お説教)をありがとう。

おかげで私の従魔たちがより強くなったわ。この緋々色黄金ヒヒイロカネはお礼に貴方にあげましょうね」


ちょっと待て! とマモンが悲鳴を上げそうになる。


「わあい……! レナお姉ちゃん、ありがとう! 適切に市場取引できるようになるまで時期を図って、スチュアート邸で保管しておくね。まだ売れないから、すぐに対価を払うことはできないんだけど……将来、きっとレナパーティの力になるように活用してみせるわ!」


アリスは幻の逸品を確保するため「欲しい!」とおねだりしてみせただけで、レナパーティのために活用するつもりらしい。


「ねえアリス。その気持ちが一番嬉しいの。

私たちから貴方への個人的なお礼として受け取って。珍しい品を眺めるの、好きでしょう?」


「……うんっ! はあぁ……うっとりしちゃう……このとろけるような黄金の輝き。ふふふふふふふ」



マモンが手で顔を覆った。

めちゃくちゃ興味深い案件だが、同時にとんでもない厄介ごとである。見てしまったので巻き込まれることは確定している。

あの緋々色黄金ヒヒイロカネを得たアリスは絶対に守らねばならない、と気持ちを持ち直した。

はたと思い当たる。


(……レナさんはおそらく、一人シヴァガン王宮へ残していくアリスさんのお守りとしてあの緋々色黄金ヒヒイロカネを渡したのでは? 我々が死に物狂いで、友達を守るようにと……)


乾いた苦笑を漏らす。

(レナさんの身内になった者は本当に運がいいな)と心底思った。


マモンと同じことを察したモスラが感激して頬を染めながら、レナに恭しくお辞儀した。信仰心がいっそう高まっていく。

…………。



<hey! youたち訓練できたかーい? 特訓の評価はデレレレレレレレレ……デーーーーン!! 花丸! よく頑張ったねー!

パンドラミミック基準♪ つまり世界の意思そのもの♪ みたいな? いつか神様になりたいなー! とってもイージャン♪ ごきげんジャン♪

yo! yo! チェケラ!>


▽キラが DJセットを 消し去った。

▽精神力強化訓練が 終了した。

▽従魔たちは 精神が強くなった!

▽魔王国の重鎮たちは 精神が疲労した。



「……成長したな、レナパーティの魔物たちよ!」


すぐテンションを持ち直したドグマがドーーン! と大声で言い放つ!

訓練終了と同時にハマルがスキルを切ったので、眠気がなくなり、とても調子が良さそうだ。


「おかげさまで」


至近距離で声を聞かされたオズワルドが耳を押さえながら言った。

それから真面目な顔でドグマを見上げる。


「……ありがとう。魔王ドグマ様」


最敬礼をした。

少々ぎこちないが、モスラに教えてもらった礼は動きが綺麗だ。

ドグマが目を見張って驚き、それから快活に笑った。


「ふはははははは! うむ! まあ、なにかピンチになっても、我が渡したペンダントが、オズワルドを死の攻撃から一度は守ってくれるさ。果敢に挑め、若者よ」


「ーーん!」


そういえばそんな効果だったっけ、とオズワルドが首に下げた赤いペンダントを摘んで眺めた。


「巨人族ツェルガガの心臓魔石を使っているからな。母はいつもお前の側にいるんだぞ」


「………………はあ!? 初耳なんだけど!?!?」


オズワルドがぶわっと毛並みを逆立てた。


「……言っていなかっただろうか?」となんてぼやいている父を本気で蹴っておく。多少痛そうにしていて、少し鬱憤が晴れた。

ジト目で説明を求める。


「ふむ。オズワルド、よく聞いておくといい!

巨人族の心臓は死後に収縮し、小さな赤い宝玉となるのだ。魂が宿ると言われているな。血族が持てば、身を守る力となる」


「……なんだよそれ……」


オズワルドが恐る恐る、ペンダントの宝玉を撫でた。

顔を見ることもなかった母の、温かみを感じる……ような気がする。

むず痒いような、ちょっと怖いような、なんとも複雑な気持ちだ。


大切な人が危なくなった時には全力で助ける、という巨人族の血の性質は、死後も変わらないということなのだろう。

巨人の血筋タイタンクラン]ギフトを持つオズワルドも、この性格を受け継いでいるかもしれない。


(……母は、大切な人を守る、か。

今の俺にとって大切で守りたい人って……。主さんのために、命を張ることがあるのかもしれない)


きっとペンダントの効果は自分のためではなく、仲間のために……? と、ぼんやり考える。

うーん、とモヤモヤしつつ振り返ったら、レナがオズワルドを優しい瞳で見ていた。


(……でも主さんは、俺が頑張りすぎて死んだら悲しむだろうな。だから健全に生きることが、務め?

主さんにとっても、母様にとっても……)


思考がまとまらなかったが、レナと母の愛情を感じると、オズワルドのモヤモヤした気持ちが晴れていった。

ホッと軽く息を吐く。


「果敢に歩むよ」


「そうか! 実によい返事だな、我が息子よ! 死を恐れない歩みで、たくましく貪欲に成長するといい!」


「……いつか父様の背も超えてやるから」


オズワルドが力強い黄金の瞳で父を見ると、ドグマはニヤリと凶悪に笑った。


「楽しみにしているぞ。大きくなったお前と戦える日を!」


「ん!」


▽父と子の 約束が交わされた。


紆余曲折あったが、ドグマがずっと本能的に察していた「オズワルドは強くなりたいと望んでいる」という認識は間違いではなかった。

自分に素直に向き合うことができるようになったオズワルドは、父を超えるほど強くなりたいと望んだのだ。

…………。



「今日は訓練をありがとうございました」


レナが挨拶して、特別製の回復紅茶を配る。

そして各自、仕事に戻っていった。




***




数日後。

レナパーティの元に緊急依頼が舞い込む。

精神強化訓練をしておいてよかった……と、みんながため息をついた。



ここはシヴァガン王宮の会議室。

普段は商談の場として使われることが多い。

空気はシンと緊張していて、全員が真剣な表情をしながら宰相の言葉を待った。


魔王、宰相、マモン、聖霊対策本部のメンバーとレナパーティが揃っている。


あとはグルニカが綺麗な笑顔で着席していた。

従属の首輪の効果で、今は「従魔たちの言葉の通訳」しかできない状態だ。

意思のないアンデッドドールのようなものなので、グルニカが故意に魔王国側に獣従魔の声を届けることはできない。

レナパーティ内でこっそり相談をしたい場合もあるでしょう、と従魔は魔物型での会議が許可されたのだ。

レナは心を落ち着かせるように、膝に乗った獣やスライムをもふもふプヨプヨ撫でまくった。



ーーどんがらがっしゃん!!


ライトフェアリーのマリアベルが天井から落ちてくる。

天窓から入ってこようとして足を滑らしたようだ。



「い、いたたぁ。どうしてラッキーガールのこのあたしがこんな失敗を……?

あっ。場の空気が和んだってことかな!?」


褒めて! と言いたげに立ち上がったマリアベルは背後からの冷たい視線に背筋を凍らせた。

そういえば宰相たちも含めての会議だったぁ! と今更思い出す。

ロベルトがひょいとマリアベルの翅をつまんで机の端にすわらせた。


『おかげで……みんな、肩の力が、抜けたと思うよっ?』


「(あああん! リリー様あぁ!)」


妖精リリーが話しかけると、マリアベルはなんとテレパシーで返事をした。びっくり、とリリーの目が丸くなり、その表情の可愛さにマリアベルが悶え、ロベルトがマリアベルを指先で強めに突いた。正気に戻れ。


ごほん、と宰相の咳払い。



「資料が揃いました。夢介入の犯罪組織の組員リストです。作成者はライトフェアリーのマリアベル」


マリアベルは机の真ん中に舞い降りると、優雅にお辞儀をする。

彼女は妖精姿のままでも他種族に声を届けられる。



「情報は[フェアリーアイ]により確認しました。

犯罪組織の者の魂は漆黒から黒寄りのグレー。いずれも逮捕対象となります。

長く組織に身を置く幹部たちには、とくに重い刑罰が下されるべきでしょう」


マリアベルはふうっと息を吐いた。

魔王ドグマが言葉を引き継いで、告げる。


「Dランク冒険者レナパーティ、およびアネース王国のパトリシア・ネイチャー殿。

シヴァガン王国からの緊急依頼を引き受けてもらいたい。

夢介入の犯罪組織のアジトに潜入し、組員を捕らえることが任務だ。よろしく頼む」


まっすぐに見られたレナは、頷いた。


「承りました!」


「なに、無茶をしろと言っているわけではない。お前たちは諜報部ではないので、自分たちの命を優先すること」


アドリブですぐに甘いことを言ってしまうドグマを宰相が横からドスッと肘でついた。

報酬や仕事内容について、ちょこちょことお互いに探りながら相談していたからこそ、レナはすぐに頷いたのだ。

せっかくの覚悟を魔王がゆるめてしまってはいけない。


「ーー期待している!」


堂々と告げたが、ドグマの獣耳は伏せてしまっている。


「努力いたします」


レナが笑いをこらえながら返事をした。


『『<暴れてきまーす!!>』』


従魔たちの元気な本音をグルニカが翻訳したので、魔王国の者たちは様々な感想を抱きながら、無言で深く頷いた。


「こちらからはレグルスとロベルトが同行する」


「「よろしくお願いいたします」」


レグルス、ロベルトがレナに頭を下げた。


「レグルスは従魔を兼任していて、ロベルトは悪魔契約によりレナパーティに忠誠を半分捧げているので、精霊結界を抜けられるだろうと判断した。

この二人はシヴァガン王国所属員として同行させる。

"組織の者たちの命を奪う必要がある時、実行するのはこの二人だ"」


レナがごくりと唾を飲む。

ドグマの宣言はありがたいこと、と理解はした。適材適所なのだ。レナパーティは人型の敵を殺したことがない。

捕らえるどころではない非常事態が起きた時に、きっと手が震えて敵に隙を見せるだろう。


レグルスとロベルトは諜報部隊員として暗殺も手がけたことがある。身内ゆえに情があるが、適任だ。


「……最善の結果になるよう、頑張ります」


レナは受け入れた。

できれば味方全員に大きな怪我がなく、敵はみんな捕縛して引き渡し、お屋敷の精霊が平常心を取り戻すのがいい。


そのように行動してみせる、という前向きな言葉を聞いたドグマは耳をぴくっと揺らして、ニイッと笑った。


「ロベルト。あちらに座れ」


「承知いたしました」


ロベルトはレナパーティの方に座った。

護衛部隊のメンバーと目を合わせる。



「結界について。マリアベルから追加報告が御座います」


「!」


マリアベルが場の空気を和ませようとパチパチ忙しくウインクした。


「さて。さっきの情報を得るために、あたしは夢組織のアジトの精霊に協力してもらったのよね!」


レナパーティがハッと目を見張る。

精霊がこちら側に協力的ならば心強い、と思ったのだ。


「あのね……よくないお知らせなのよ」


マリアベルがしょんぼりとする。


「あのお屋敷にいるのは勝気な女の子の精霊。

『わたくしの城にふとどきものが侵入しているだなんて、ゆるせませんわ!』って夢組織に怒ってた。

だから組織の魔人族たちの近くまで、あたしの姿を隠して送ってくれたの。

至近距離から[フェアリーアイ]で観察することができたし、お屋敷の構造も分かった。

……あの子、とても警戒心が強かったんだけど、なんとか説得したのよ。

[精霊の友達]であるマリアベルを信用してもらえた、って思った。でも……。

だんだん精霊の声が聞こえなくなって、最終的にはお屋敷を守る結界に弾かれて放り出されちゃった。

いきなりだったから、どうしてそんな対応をされたのか分からないわ」


その時とても嫌な気配がした、とマリアベルは腕をさすりながら言う。


「心をぞっと凍らせるような呻き声が、地中から聞こえたの」


しばらく沈黙が訪れる。



「…………。……精霊が穢されたのかもしれませんね」


ルーカが顔を顰めて言った。


「アネース王国のラチェリで、精霊が”堕とされる”事件がありました。呪いで地面を穢したので、木の精霊シルフィーネが精霊の力を一時的に失ってしまったんです。

その犯人が、イヴァン・コルダニヤ。

今回、夢組織にも滞在している死霊術師ネクロマンサーです」


「つまり……地を這うような声は、アンデッドのもの?」


マリアベルは宰相たちに目配せした。

ルーカの情報は有効だと感じた。


「可能性は高いと思う。あのお屋敷では火災があって、たくさんの人が死んでいる……。死霊術師ネクロマンサーがアンデッドを召喚する”素”があるもの」


嫌な言い方になるわねー、うへぇ、とマリアベルが舌を出した。


「精霊の女の子はね、お屋敷の主人だったらしいの。訳あってミレー大陸から渡ってきて、たくさんの従者とともに暮らしていたみたい。でも大火災により、焼け死んでしまった……。

女の子は従者たちにとても慕われていたから、その尊敬の念があつまり精霊になった。

じつは精霊未満という中途半端な存在だったんだけど、白炎聖霊様が復活して精霊の力が増して、夢組織に憤怒したため、気合いで精霊になったみたい」


「気合いで!?」


脳筋なのかな……? とレナたちは感じた。

なんにしても、憤怒だとか、たくましい激情家の精霊なのではないだろうか?

またとんでもなくクセが強そう。


「そんな彼女が、なりふり構わず切実に助けを求めている気がするんだ」


マリアベルは精霊とつないでいた右手を、ぎゅっと握って、胸に当てた。

結界に弾かれる時に聞いたアンデッドの呻き声に混じって、精霊も叫んでいたのでは……と感じるそうだ。


「胸が痛いですね」


レナがそっと呟く。

ぐっ、と鞭を握りしめた。

[赤ノ棘姫いばらひめ]が赤さを増した気がした。丸い大ぶりの宝石がほんの少し開き、ほころびかけたつぼみのように変化する。まだ誰も気づかないささやかな成長だ。


「私たちがするべきことを、こなします。冒険者レナパーティとして」


レナの言葉は力強く、従魔の心を奮い立たせる。


「安心して過ごせるようになりたいですからね」


ふわっと柔らかな声で本音を話すと、この場の全員が苦笑して、頷いた。


「協力と報酬は、惜しみなく」


魔王ドグマが宣言して、宰相が悪魔デーモン文書を差し出す。



確定報酬

・1,000,000リル

・シヴァガン政府の高度治療(常時利用権)

・その他、応相談



成功報酬

・1,000,000リル(追加)

・冒険者ランクアップ[D]→[A]

・『特別保護域SS区スウィーツパラダイス』の解放

・その他、応相談



レナパーティは基本的に富も名声も得ているので、応相談、が何かあった時に一番のカードになるだろう。

ありがとうございます、とレナが了承する。



「精霊が心を閉ざしたことで、結界の強度がさらに上がったようです。

ということで、潜入を魔王ドグマ様にご協力いただくことになりました」


宰相の言葉に、レナパーティの目が思わず点になる。

ドグマの協力?

聖霊とのお友達は拒否られたはずだが……?


ドドォン!! とドグマがテーブルを叩きながら立ち上がる。


「デス・ケルベロスの業火で結界を焼き尽くしてくれよう! そして結界が薄くなったところを、レナパーティが突っ切るのだ。ふはははははは!!」


レナが白目になる。


「あの……えっと……えーと、突入時……私たち、めちゃくちゃ熱いんじゃないですか……?」


「ん? そのために戦闘服を新調したのだろう? 防火効果がついていると聞いたぞ!

それにそこのネコミミヒト族……ルーカの聖結界で全員を覆いながら突撃したらいい。

雪豹の冷気調整もあるしな!」


ドドォーーン!! とドグマが言い放った。

手の内を知られすぎているのも考えものである。


うっかり「あっルーカの名前覚えてる。えらい」と呟いてしまったオズワルドは口を押さえたが、しっかり聞いていたドグマにわしわしぐりぐりと頭を撫でられた。


クーラー扱いされたロベルトは別に嫌がらず、首の悪魔契約印に触れる。


「お供いたします、レナ様。なんなりとご指示を下さい」


「あー……もー! ロベルトさんがいると心強いですよ。でも命大事に、はみんな一緒なんですからね! はい指示! いいですか!」


レナがびしっと言い放つ。

ロベルトは(そうきたか)と苦笑いしながら敬礼した。尻尾がそっと揺れる。



「ーーさあ、装備は整っているか?」


「ええ」


「心の準備は?」


「っ……万全です!」


レナが立ち上がる!

従魔もそれに倣う。


魔王ドグマとカルメンが満足そうにニヤリと笑った。


「『それではまいろう。夢組織のアジトへ』」






読んで下さってありがとうございました!



もうすぐレアクラ5巻の発売なので、よろしくお願いします〜!(。>ㅅ<。)


そして明日から「お狐様の雑貨店【四季堂】へようこそ」という和風ファンタジーを公開しますので、気になる方はまた読んでみて下さい♪

10時、12時に予約しています。

(執筆済みの10万字まで毎日更新です)


宣伝ばかりになっちゃってすみません^^;

これからいよいよ夢組織戦です!

盛り上げていきますーー!

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