ギルド長との鍛錬☆
鍛錬場にレナパーティと護衛部隊、シヴァガン王国冒険者ギルド本部のトップであるグレイツ・ハーヴァが集った。
本日はレナパーティの希望により、ギルド長と鍛錬の予定である。
「よろしくお願いします!」
レナパーティがぺこりとお辞儀をすると、グレイツも会釈をする。
右手拳を胸にあて、左手は背に。独特のお辞儀だ。竜人族の礼儀なのだろう。
「今日はよろしく。有名なレナパーティの実力をこの身で体感できるとは、楽しみだ。
実は、ギルドの連中にも『できるだけ戦術を引き出してきて』と言われている。
だから、全力でかかってくるといい」
ギルド長が見事なフラグを立てる。
護衛部隊が気の毒そうに彼を見た。
「もっちろーん!」
一歩前に出たハマルが、ふんす! と鼻息を吐いて宣言。
「ボクねー、ドラゴンと相性がいいんだぁ。だからぁ、ギルド長を倒すのー!」
「おお、元気いっぱいでいいな」
微笑ましそうにハマルを見下ろすギルド長だが、その夢喰いヒツジはドラゴンキラーである。
ギルド長も称号については知っているため、興味深そうに目を細めた。
(何らかの経緯でドラゴンに遭遇し、たまたまこの子羊がトドメをさしたのだろうか。どのように? ヒツジ獣人の攻撃か……まあ楽しみだな)
いや、まごうことなきハマルの実力討伐であった。
にこーーっと微笑んで「よろしく」という可愛らしさの奥に、恐るべき闘争心を秘めているのがハマルだ。
今後の依頼でレナを確実に守るために、今日は一段と気合いが入っている! アカン!
「今日はドラゴン型で戦う? それともヒト型が希望か?」
「ド、ラ、ゴ、ン、で!!」
ハマルが堂々と宣言!
「分かった」
……ここでロベルトがハマルを一旦引き離す。
ハマルはロベルトの獣化指導の生徒でもあるのだ。完全にダダっ子をなだめる大人の図であった。
「本日の鍛錬について、ルールを確認します。
ギルド長グレイツ対レナパーティの戦闘訓練、お互いに魔物型。
訓練場は貸切ですが、行動範囲は守ってください。上空200メートル、円状に半径200メートルです。故意な施設の破壊行為はしないこと」
ロベルトが確認して、両者ともに頷いた。
「エメラルドドラゴンは回復魔法が得意なんだ。だから複数人で遠慮なくかかってきていい」
「ギルド長最高ー!」
従魔たちの目がギラリと獰猛に輝いた。
クドライヤとドリューが無言で結界強化魔道具を設置しに駆けまわった。
「時と場合によっては私が[鼓舞][従魔回復]などで支援しますね。いいでしょうか?」
「お嬢さんは魔物使いだからな。もちろんかまわない」
レナの応援が確定した。
「早く始めましょうか!!!!」
ロベルトが会話を遮るように声を張った。
放っておくとギルド長がフラグに埋まりかねない。
ギルド長が巨大なエメラルドドラゴンに変化する。
レナパーティを覆うほどの大きな翼に、陽の光を浴びて輝くエメラルドカラーの鱗だ。
鱗は貴重な治療薬になるため、一枚でも驚くべき値段がつけられる。
ラミアの里への送迎ですでにドラゴン姿を見ていたレナパーティは驚かなかったが、しばしこの美しいドラゴンに見惚れた。
(うちの子はもーーっと綺麗だよ!)
レナはレナである。ルーカが笑い崩れて動けないので、後ほど参戦とする。
訓練場に希少種魔物たちが揃い踏みしている。
これほどの光景は滅多に見られない。
「訓練開始!」
ロベルトが「ピーー!」と笛を吹いた。
ダッ! 従魔たちが駆け出す。
(驚くべき覇気だな! レグルスは火炎獅子か……蘭美亜の姫君とデリシャス・クラーケンは後方。他の従魔は最前線に直行、と! 好戦的なスタイル)
ギルド長が魔物たちを余裕で見下ろした。
暴風を纏い、盾とする。
『メエエエエエェェェェ!! スキル[体型変化]ぐぐーんと大きくなるよー!』
ハマルが巨大化……なんと20メートル級!
『でかいな!?』
ギルド長が驚愕して、バサッと一度羽ばたいて後ろに下がった。
訓練場を風がビュオッと吹き抜ける。
レナたちは地上の雲のようなハマルを唖然と見上げている。
未だかつてない大きさだ。
『大きいってことは、風の抵抗も増すんだが?』
エメラルドドラゴンが空に上がる。
翼を大きく広げて、
『スキル[吹き付け]、氷魔法[アイスフィールド]!』
暴風を送る! さらに氷魔法を風に乗せて、訓練場中を凍てつかせてしまった。まるでロベルトの故郷の凍土のようだ。
レナたちが吐く息が白い。
ヒュオオオオ!! と刺すような風が従魔たちを襲う。
『お前たちの戦闘能力を見せてもらわなくてはいけない』
ドラゴンの爬虫類に似た瞳が細められた。
ハマルはもふもふ毛皮に風をめいっぱい受けて、スピードが落ちてしまう。走りづらそうだ。
『ハーくんっ! 私に、まかせてっ。[魔吸結界]大きくー!』
リリーがハマルの頭の毛に必死にしがみつきながら、片手を前に突き出した。
魔法で作られた風は結界にみるみる吸収されていく!
『ハマル、俺たちが氷を溶かしていく。進め! 今日の主役はドラゴンキラーのお前だ。いくぞレグルス!』
『そのつもりだ』
デス・ハウンドと火炎獅子がハマルの前に飛び出した!
風の中でも力強い走り。
クレハがレグルスの首に首輪のように巻きついている。
レグルスと白炎聖霊杯の距離を近くして、白炎となじみやすいように……。
カルメンが姿を現して、楽しげにレグルスにまたがった。
(出てきたな!)
ギルド長が刮目する。
ドラゴンアイでカルメンを視ると、強烈に目を焼かれるような痛みを感じた。それは許されないらしい。
舌打ちの代わりに、グゲッと喉を鳴らす。
エメラルドドラゴンのギフト【☆7】[壮絶回復]で瞳の痛みは癒えた。
『炎魔法[オーバーフレイム]!』
『スキル[陽光吸収][陽光放出]炎魔法[オーバーフレイム]!』
レグルスはたてがみのように太陽の炎を纏い、尻尾の先をわずかに白く染め上げた。
体毛の四分の一ほどが白くなったオズワルドとともに、コンビネーション!
走りながらゴウウウウッ!! と炎を吐き出して、ハマルの進む先の氷を瞬く間に溶かしていく。
一瞬で地面がカラカラに乾く恐ろしい火力だ。余波で、近辺の氷もじわじわと溶けていく。
地面に衝撃を轟かせて、ハマルが進む!
「スキル[従魔回復]」
ここでレナがハマルの脚を癒した。
痛みに鈍感なヒツジだが、火傷しているだろうと心配する。
「称号[お姉様][赤の女王様][サディスト]セット! 赤のフルコーディネートに衣装チェンジ!
私の可愛い従魔たち。殲滅なさい!」
レナ女王様が鞭をピシーーーン!
メンタル鼓舞!
ハマルの鼻息が荒くなる。
レナの唐突なアクションに驚かされ、ハマルの[ドラゴンキラー]の覇気に当てられたギルド長は一瞬動きが止まっていた。
「氷がたくさんあってスキルの発動がしやすいのじゃ。ふふん。スキル[氷の槍]」
キサがフィールド上の氷を有効利用して、巨大な氷の槍をいくつも作ってみせる。
空中に浮かんだ槍の切っ先は全て、ギルド長に向けられていた。
『そう簡単に仕留められるものか。[風斬]!』
氷の槍はギルド長に当たる前に、粉々に砕かれた。
ダイヤモンドダストのようなきらめきの中、暴風を突っ切って、ハマルが現れる!
「スキル[鼓舞]!」
レナの応援がえぐい!
イズミシールドを展開したハマルと、エメラルドドラゴンが正面衝突し、空間が激震する!
『ーーなんっつー脚力!! とんでもねぇ重火力草食獣だ……!』
ハマルとギルド長、どちらも後方に吹っ飛んだ。
ギルド長は低空旋回するように体勢を立て直し、空に上がる。
『回復魔法[エクセレント・ヒール]』
即座に回復し、ドラゴンアイで抜け目なく索敵する。
『[竜巻]』
すぐ近くまで来ていたオズワルドとレグルスの動きを封じた。
白炎が燃え上がって危険なため、いったん炎技が封じられる。
風酔いしていないだろうか、と心配したレナが二人に[従魔回復]を施した。
「ハーくん。おしおき♡」
『されたいです!!』
ハマルが足を踏ん張り、勢いよく立ち上がる。
レナの声はキラが届けた。
もちろん、勝ったらお仕置きである。
ギルド長は首を傾げているが、護衛部隊はもう慣れたものだ。平常心でスルー。
『スキル[夢喰い]』
ばくん! とハマルが夢の光を荒っぽく飲み込んで、魔力を回復した。
超巨大化にけっこうな魔力を消費していたらしい。そして今からの大技のしたくである。
▽ハマルが 眠り始めた。
『…………? なんだ……?』
ギルド長が怪訝に観察する。
(レナパーティ全体の動きが妙だ。ピンとこないが、離れていても意思が繋がっているような……作戦めいたものを感じる。それに数名の従魔がまだ活躍していないな。…………)
▽ギルド長が 風の守りを 解いた。
まるで従魔の攻撃を誘うように。
あちゃー……と、見守っていた護衛部隊が額を押さえた。
『スキル[重力操作]!』
オズワルドが風の中からがむしゃらにスキルを使い、砕かれた[氷の槍]のかけらを宙に浮かせた。
ギルド長は無数の氷の欠片に囲まれる。
『どうするんだ?』
回復特化のエメラルドドラゴンは余裕を持って周囲を見渡す
(姿が見えなくなった従魔は……二体! 小さいから見づらいな。おっと!)
[自由の翼][暗躍]スキルでギルド長の背後に回ったシュシュが、何かを放り投げた!
小さな金色の毛玉、青のジュエルスライムが、振り向いたギルド長の顔にへばりつく。
『参戦したのか、ネコミミヒト族! いつの間に…………っ!?』
『スキル[感電][雷光]!』
子猫ルーカがスキルを発動。
浮かんだ氷が光を反射して、眩しい光の球体を空に作り上げる。
この時、王都の太陽は2つあったとも噂された。
目がくらんだギルド長は身動きが取れない。
目を閉じてころころと落ちていったルーカをイズミが包み込んで、地面でぽよーーんっと跳ねた。
『スキル[黒ノ霧]』
リリーの霧の中で、夢喰いヒツジが目 覚 め る。
『スキル[夢吐き]ビーーーーム!!』
足をグッと踏ん張ると、口からビーーーームを吐き出したー!!
爆煙が上がり、ギルド長を撃ち落とす!
光球とビームの非常識すぎる輝きに照らし出された護衛部隊の顔は実に面白い形相であった。
カルメンが爆笑している。
[竜巻]から解放された獣たちが、ぶるるっと頭を振って、獰猛にギルド長を睨んだ。
『[生命の息吹]』
ギルド長が全力で回復する。
(やばい!)
判断が遅い。
『[地割れ]!』
エメラルドドラゴンのスキルにより地面が割れ、獣たちを足留め。
シュシュを暴風で吹き飛ばして、ギルド長は上空200メートルにギリギリに上がった!
(従魔に飛行メインの者はいない。ここでなんとか体勢を立て直し……)
『スキル[夢吐き]追尾ミサイルぅ!』
ハマルが自重しないーーーーーー!!
手持ちの夢の中から高火力な夢をじゃんじゃん使っていく。
ギルド長に勝ったら経験値がっぽり、とルーカが言っていたし、レナのお仕置きももらえるのだから。
ミサイルの使用については「爆弾があるからまあ世界環境的にも使って大丈夫だろう」とルーカに言われていた。
爆煙があがり、ギルド長が撃ち落とされる。
『水魔法[ファウンテン]〜!』
と思ったら、今度は思い切り打ち上げられた! イズミのしわざである。
『水魔法[アクアフュージョン]♪ イーーートミィーー♪』
さらに[シーフィールド]で地面に潜んでいたミディが噴水とともに飛び出してきて、水をぐんぐん吸い込み巨大化!
ーー100メートル級に!
ギルド長をイカ触手でがんじがらめ。
すんごい絵面である。
触手の先端をドラゴンの口内に無理やり突っ込んだ。イートミィなのである!
『食べてイイノヨー♡ ……毒手なんだけどネ!』
口の中にみっちり触手がつまり、牙をめりこませてしまったギルド長がビリビリ痺れ始める。
[壮絶回復]ギフトの恩恵が先ほどから仕事をしまくりである。
しかし、回復してはまた毒を喰らう無限地獄だ……。
触手は12本あり、食いちぎられてもミディは[超再生]ギフトを持つ。
「ひどい……」
ドリューが顔を覆った。
『スキル[跳躍]メエエエエエェェェェ!!』
[イカスミバブル]で視界を奪われる直前、ギルド長は確かに見た。
ドラゴンキラーとして申し分ない、恐るべき形相のヒツジを。
角は夢産メリケンサック装甲でトゲトゲしていた。
ドゴオオオオオオン!!
………………
ピィーーー! とロベルトが笛を吹いた。
「そこまで! 勝者……レナパーティ」
レナたちが「わあああい!」と歓声をあげて喜んだ。
レベルアップの福音が頭の中にリンリンリンリリリリリンと響きまくっている。
<従魔:クレハのレベルが上がりました!+1>
<従魔:イズミのレベルが上がりました!+2>
<スキル[水流制御]を取得しました>
<従魔:リリーのレベルが上がりました!+1>
<従魔:ハマルのレベルが上がりました!+3>
<スキル[突進]を取得しました>
<従魔:シュシュのレベルが上がりました!+1>
<スキル[腕力強化]を取得しました>
<従魔:ルーカティアスのレベルが上がりました!+1>
<スキル[雷の毛皮]を取得しました>
<従魔:オズワルドのレベルが上がりました!+1>
<従魔:キラのレベルが上がりました!+2>
<スキル[撮影技術]を取得しました>
<従魔:レグルスのレベルが上がりました!+2>
<スキル[炎耐久]を取得しました>
<従魔:キサのレベルが上がりました!+2>
<従魔:ミディアム・レアのレベルが上がりました!+3>
<スキル[束縛技術]を取得しました>
………………
「たくさんレベルアップしたねぇ! さすがギルド長」
その「さすが」の使い方はとってもかわいそうだ、レナ。
ギルド長はミディの触手に支えられながら、ぐったりとしている。
ハマルの頭突きが腹にキマったのだが、後ろにいた[うるうるボディ]ミディがクッションになり、致命傷とはならなかった。
一瞬意識が飛んだものの、回復は早い。
『大丈夫ー?』
ドラゴンボディをイカ触手がうねうねと這い回ってケガがないか確認している。
気遣いなのだが、
「やめてあげて……」
ドリューがまた顔を覆っている。そういうこと。
ギルド長のメンタルが瀕死である。
『もう大丈夫だから、ってギルド長が言ってるよ』
子猫ルーカがころころ転がって笑いながら、キラに伝言を頼んだ。
▽ミディがギルド長を解放した。
わいわいと従魔たちがレナの元に戻っていく。
レグルスとオズワルドが他の従魔をひょいと咥えて背中に乗せ、まとめて運んで行った。
さすがに疲れたらしいハマルはヒト型になり、オズワルドの背中にくったりと乗っかっていた。
「おかえり、みんなー! とってもすごかったね!」
本当にすごかった。間違いない。
「点呼するよ。クレハとイズミ、リリーちゃんにハーくん、シュシュ、ルーカさん、オズくん、キラ、レグルスにキサ……」
従魔がたくさん増えたうえに、今は獣の毛皮に埋もれているので、レナが呼んでいく。
みんな嬉しそうに顔を覗かせて返事をする。
「……………………ミディ?」
「ミィ♪」
「お、大人びているーー!?」
なんと! 超巨大化の影響で、ミディはグラマラスレディに変化していた。
すらりと伸びた白い腕に、長い髪。下半身はイカ触手状態なので、ミニスカートからお色気解放になる事態は防がれた。
「あわわわわ。ルーカさぁん……!」
『ああ、巨大化後のバグだね。ほら、ミディってば新種の魔物だし、こういう世界の情報の混乱が起きやすいんだよ。すぐに元に戻るはず……』
ルーカはそこまで視て語ると、また『にゃふふ!』と転げ回った。
こうなったら笑いが収まるまでどうにもならないので、レナは「ミディ。もしかしたら脚がヒト型になるかもしれないから、バスローブ姿になっておいて」とお願いした。
ミディはブレスレットで変身する。
『イートミィ♡』
実に艶っぽい声と仕草なので、これはこれで犯罪感がある……。
絶句したレナを慰めるように、レグルスとオズワルドが尻尾でぽんぽんと腕を叩いてやり、キサは「実に美しいのじゃ!」と輝いた目でミディを褒めて会話を弾ませた。
「お疲れさまです。ギルド長……有益なデータは得られましたか……?」
ロベルトが気まずそうに立ち尽くしていたギルド長にそっと聞いた。
ギルド長は数年老け込んだような疲れた顔で、リーカに目を向ける。
「……俺はまあ、レナパーティの実力が相当とんでもないことを体感して知った。
技が珍しいものばかりで連携も特殊だから、一般的なスキルと照らし合わせて個々の戦力を計ることは難しいな。うーん。
……そこんとこどうだい? メドゥリ・アイのお嬢さん」
「あははー……今のところ、分析は全敗なのです。私の目でも彼女たちの全てを暴くことはできませんでしたから」
「なんという。まあ……納得だ。あれは仕方ない」
「ですよねぇ」
ギルド長とリーカが遠い目でレナパーティを眺めた。
なんとも可愛らしい集団である。見た目だけは。
「常に新技能を取得して強くなっていますからね。今のデータが数日後にはたいしてアテにならなくなっているくらいですよ」
「今回もかなりレベルアップしたようだな」
ギルド長にかける言葉が見当たらず……ロベルトとリーカは「今日、いい天気ですね」「そうだな」と話を逸らした。
「いいなぁ、ミディの成長ー」
ハマルがぷくーっと頬を膨らませてミディを見上げている。
「ボクも巨大化したのにぃ!」
「先輩もすぐ大きーくなれるはずナノヨー」
ミディがむぎゅっとハマルを抱きしめて慰めた。
『そうだね。ハマルはもう数日でヒト型の見た目が成長するだろう。
ミディが一時的に大人になったのは、さっきも言ったけど、新種魔物ゆえのバグだから』
持ち直したルーカがにゃーにゃーと説明した。
ミディがぽん! と幼児姿に戻る。
本当に少しの間だった。これから成長したら、将来はあのようなグラマラス美女になるのだろうか。
ハマルがルーカをひょいと抱えて(なんとなく、八つ当たりである)、ギルド長に向かっていく。
「今日はありがとーございましたっ!」
にこり! とっても可愛らしい笑顔をむけられたギルド長の顔がひくっと引きつる。
「……こちらこそ。冒険者ギルドは君たちの活躍に期待している。有望な新人がいてくれて頼もしい限りだな」
「えへへー。褒められちゃったー。有望な新人、好き?」
「もちろん」
「育てたい?」
たらり、とギルド長の額に汗が流れる。
「……もちろん!」
「やったぁー! また鍛錬にお付き合いして下さいー。
だってねー、ギルド長はとーっても強くてとーっても回復が早いから、新人のボクたちの攻撃を引き受けてくれて、レベルアップが早いんだもんー。攻撃スキルの発動もちょっと手加減してくれてた、ってルーカが言ってたしー。
やっさしー! 素敵ですー!」
ハマルがすらすらと賛辞を述べる。
このあざといおねだりはクーイズの入れ知恵である。
ギルド長の「もちろん!」の声はキラが録音しておいた。動画もバッチリ保存されている。
▽ハマルは 言質を取った!
▽やったね!
いえーい! とタッチして、ハマルはギルド長からあっさり離れていった。
「……なんとも頼もしい限りだなぁ」
これにはロベルトとリーカがしっかりと頷いた。
「ーーま、俺も現状に甘えず、もっと鍛錬するべき理由ができた。事務仕事ばかりでは身体がなまる。新人育成とはいかにもギルド長らしくていいじゃないか?」
一呼吸置いて、本来の調子で言い切ったギルド長は、こきりと首を鳴らして伸びをした。
この戦闘で久しぶりに彼もレベルアップしたのだ。
戦闘の興奮が冷めやらず、心臓がドクドクと鼓動している。
「ふっ。この感覚はやみつきになりそうだ」
「マゾヒストには目覚めないで下さいね!?」
遠くでハマルを「ピチューーーン!」ビンタしていたレナが大慌てでギルド長に言い放った。
***
「本日の鍛錬は終了!
訓練場の中も護衛部隊の皆さんがきれいに整えてくれました。しょっちゅう地面がえぐれたりするから、地ならしの特別な魔道具を訓練場の受付で借りられるんだって。
みんなでお礼を言いましょうね」
「ありがとうございまーす!」
レナの合図で、従魔たちが護衛部隊にお辞儀をした。
どういたしまして、と返事をする護衛部隊はにこやかに微笑んでいる。
「やりがいありそうだな。この仕事。お前たちの表情がイキイキして見えるぞ」
「ええ。実践的にも精神的にも満たされますよ」
「実践的にも……?」
「トラブルからレナパーティと聖霊様を守ることが我々の務めですので」
あとはお察しください、というロベルトの視線を受けたギルド長がやっと察した。
今更ながら、レナパーティの護衛は癒されるけどトラブルが多くめちゃくちゃ大変なのである。
「さて。このあとはどうなさいますか? レナ様」
「お昼寝します」
レナが言い切る。
ぶはっとギルド長が思わず吹き出し、失礼、と口元を押さえた。しばらく肩が震えていた。
「ハーくんが[夢吐き]したぶんの戦力を補充しておきたいので。お宿♡に帰って眠ります」
「この訓練場ではなく?」
「夢を見なくてはいけないんですよ。ハーくんをベッドにして眠ると快適すぎて深く眠ってしまうので……普通のベッドで浅く眠るとことにします。うとうとしてる間に夢を見やすいですから。
さすがにベッドなしで野外では眠れません」
「なるほど。分かりました。送り届けますね」
ギルド長と「また今度」と別れ、レナパーティと護衛部隊はお宿♡に帰っていった。
***
「さて。強力な攻撃になる夢を見なくっちゃね!」
夢見の期待がレナにかかっている!
「さっきのビームや追尾ミサイルのような夢をお願いいたしますー」
「ご主人様、頑張れ〜!」
従魔たちがみんなで応援した。
地球ならではの攻撃手段の夢は、戦闘相手にとって初見となるので動揺を誘いやすいのだ。
「いざ!」
ベッドに乗り、レナが枕にぽすんと頭を預けようとすると、シュシュが「えーーっ」と声を上げた。
「ご主人様! 従魔が順番に膝枕するのはどう!?」
きらめく瞳で言い放った。
「ええ? でも幼いみんなの足に負担をかけちゃうのは申し訳ないもん……」
レナはいやいやと却下。
いくら獣人だから頑丈とはいえ、シュシュの繊細な脚を見ていると不安になった。
その脚からは[スピンキック]などが繰り出されるのだが。
「なーんーとーかーしーてー!」
シュシュが往生際悪くルーカにすがる。というか、揺さぶる。
「んー。じゃあ従魔の足にとって負担にならない短時間で夢を見られるよう、レナ、頑張ろう! その遠慮の気持ちがちょうどいい活力になりそう! やったね!」
まさかの根性論! イキイキとサディスティック発言をしてのけた。
レナは慌ててみんなを見渡すが、当然、みんな大賛成のようだ。
「さあ! 順番に膝枕を!」
「いえーーい♪」
……レナは観念した。
可愛い従魔に負担をかける懸念以外は、レナにとっても得しかない提案なので。
「よろしくお願いします」
ベッドの上にシュシュがわくわくと座ると、レナがころんと膝に頭を預ける。
シュシュが夢見る乙女のように頬を染めた。
他の従魔たちはそわそわ順番待ちしている。
(……すんごい見られてるのが目を閉じてても分かるー! 寝づらいぃ……! でも私がちゃんと夢を見るまで交代しないんだよね!? くっ)
「その通りです」
レナの思考を読んだルーカが耳元で囁いた。完全に面白がっている。彼はレナが夢を見ているか判定するために、頭の中を覗いているのだ。
レナは飛び上がって起きてしまい、ルーカの頬をつねった。
ハマルがもふんとレナに寄り添うと、いつもの感覚に安心して、やっと少しウトウトしてきた。
レナは様々な地球の夢を見る……。
ド根性である。
シュシュ、ハマル、ミディの足はふわんと柔らかい。
リリーとキラは細身で繊細なので頭を預けるのが申し訳なかった。
キサの足はふっくらと女性的な厚みがある。
オズワルド、レグルス、ルーカの場合は少し筋肉質で硬め。
クーイズはなんと二人で足を合体させて広々紫枕にしてしまったので、ウォーターベッド感覚でめちゃくちゃ寝心地が良かった。かろうじて夢を見ることはできたが、最終的に熟睡してしまった……。
すやすやと眠るレナの顔を、従魔が柔らかい眼差しで眺めている。
「絶対にご主人様を守るよっ」
「うん。悪党なんかにぜったい傷付けさせたりしないから」
「勇者の、懸念を、取り除いて……あげたいな。お兄さんに、連絡できますように」
<この私、マスターのために全力で頑張りますとも!>
「みんなで、ね。えいえいおー!」
小声で声を揃えて、従魔たちは拳をコツンと合わせた。
戦力となる夢が揃った、とハマルが言ったので、愛しの主人によりそって一緒にすやすや眠った。




