観劇の舞台裏
とりあえず目的の午前公演は観終わったので、レナたちはすみやかに特別観覧席から退散した。
劇場の隅にいたピエロから、午後公演のチラシをもらう。
ばっちり<赤の女王様>と書かれている。
ピエロの意味深な視線は無視して、とりあえず少し距離をとった。
とはいえ、お昼の休憩を挟むのでテントは解かれ、観客たちがわらわらと広場にいるのだが。
無邪気にレナパーティに近寄ろうとした子どもたちが「こら! 警備員の方々が一緒にいるから、特別ゲストなのかもしれない」と親に止められている。
レナは制服姿のロベルトたちに感謝するとともに、(一般人ですからー!)と心の中で叫んでおいた。
一般人ではない。
「はあ……このチラシ。一体どういうことなの?」
レナがげんなりとしながら、公演内容に目を通す。
”とある小国から始まる栄光の旅路の物語。
月が赤く染まった夜……栄光の姫様が生まれた!
彼女の元にはまるで導かれるように、赤いものたちが集った。あるいは宝石、あるいはドレス、あるいは高貴な馬車や戦闘鞭。
ひとたび鞭を振るえば、大地が割れ、空が震える。雲の隙間から光が差して彼女を照らす。ルビーのブレスレットからはビームが出るし、風をまとって世界を俊足移動。二つ名は”赤の閃光!”
『祝福せよ!』信者は答える『おおせのままに!』
ラナシュから悪を滅ぼすその日まで……進め、我らが赤の女王様!!”
「頭が痛いよ!? すごく!」
<マスター。粗茶ですが……>
「いただきます!」
キラが異空間から取り出した水筒のお茶をぐびっと一杯。
体力が全快し、少しだけレナの頭の中がクリアになった。
<ちなみに只今、マスター・レナに[赤の閃光]の称号を贈ることが可能になりましたが。ブレスレットからビームが出ます>
「げほっごほっ」
キラのおちゃめさが相当つらい。
「……ちょっと称号効果が違うよね? それキラの違反複合称号なんじゃないかな?」
<えへっ>
「却下。保留。貴方が大切なの。いいね?」
<あーーん! マスタァーー!>
レナの胸元がぴかぴかした。子どもたちのオモチャを見る視線が刺さっている。レナはそっと胸元を押さえた。
チラシを見ながら、従魔たちがきゃっきゃとはしゃぐ。
「「まさか劇として公演されてるなんてねーっ。しかも、大人気により公演延長! だって」」
「期間限定の劇が定番にクラスチェンジしたんですねー。わーお! さっすがボクらのレナ様ー」
「「ひゅーひゅー」」
「でもこのチラシに描かれている赤の女王様イメージよりも、ご主人様の方がもっと素晴らしいから」
シュシュがにこっと微笑む笑顔が眩しくて涙が出そうだ、とレナが早速泣きながら思った。
思考と身体のバランスが乱れているのでとても混乱しているらしい。
「この布教には不満があります。とても! 進め、なんておこがましい。お進みください我らが女王様、とするべき!」
ルーカがむすっとチラシを折る。
「久しぶりの宣教師やめてくださいルーカさん。これ……どこから漏れたんでしょう?」
レナがジト目でロベルトたちを眺めていくと、首を振って「魔王国にあの劇団がたどり着いた時には、もう演目に含まれていましたから」と告げられる。
「より悪いんですけど!!」
レナがダァン! と膝を拳で叩いた。
と思ったら痛くない。獣型になったハマルが滑り込んでいる。ついでなのでもふもふしておいた。
「じゃあ、ラミアの里から?」
「たしかに妾の故郷ではレーヴェが持ち帰った<赤の女王様>の話がはやっておったが、あのような劇団は訪れておらぬのじゃ」
キサが首を振る。
「…………もしかして。エルフの弓使い双子、ライアンさんとオーウェンさん!? ヤバいじゃないですか! あの二人、歩く噂拡散機みたいな存在ですよ!?
いたずらに広めないでって言ったのに。もーーー!」
「真剣に広めた、とか?」
「なんという屁理屈! でも、あの人たちなら言いそう……」
レナがギリギリ奥歯を噛みしめる。
チラシを再び眺める。
まあ、赤の女王様=藤堂レナと明記されていないのがまだ救いである。
各地で赤の女王様行動をやらかしてきたけれども。
「主さん。団長に直接聞けばいいんじゃないか? 噂の出処」
そんなヤブヘビしたくないですぅ、とレナが唇を尖らせてオズワルドに答えようとした時。
▽団長が 現れた!
「やあ、お嬢さん! 先ほどの劇はいかがでしたかな? 反応を見る限り、物語に入り込んでとても楽しんでもらえたようでしたな。
ところで午後公演の<赤の女王様>ですが」
「<勇者の伝説>だけでもお腹いっぱいですので!」
胃もたれしそうな内容であった。
午後公演まで観たらお腹がパンクしそうだ。
「? そ、そうですか。いや、特別出演して頂けないだろうかと」
「お断りですよ!?」
レナが目を剥いて答えた。
従魔の目がキランとしていたので、おねだりされるわけにはいかないと必死で否定する。
メンタルが破壊されかねない。
団長のふさふさした眉がしゅんとハの字になる。
「そうですか……。いえ、我々は劇の才能がある人材を常々探しておりまして。
先ほどの覇気あふれる一喝は素晴らしかった! あれは我々の劇団への入団アピールだったのでは? と……」
「日・常・で・す」
「な、なんと! まるで赤の女王様そのもののようではないですか」
「やめてくださぁい!」
レナが頭を抱える。
団長があまりに秀逸な返事をしてくるので、何か裏があるのでは? と思い、レナはルーカを振り返って視線で助けを乞う。
黒猫ルーカは俯いて肩を震わせていた。つまり笑っている! こら!
「(団長は完全に善意だし、これはいつもの勧誘みたいだけど。まあ、このケースに限っては、くすくすっ、レナをおちょくってるようにしか聞こえないよね、あっはっは!)」
「(ありがとうございます)」
ぎゅぎゅっ猫耳の先をつねっておいた。
レグルスとオズワルドとロベルトが、無意識に自分の耳先を少しだけ触った。あそこへの刺激は痛いのだ。
シュシュとハマルとミディの反応は皆さまの想像通りだと思う。
「この演目の元ネタって、どなたなんでしょう? ねぇ団長さん……」
レナが腹をくくって聞いた!
「旅の途中に、とある吟遊詩人から聞いたのです。見事な物語を!」
「吟遊詩人んん〜〜!?」
まったく予想外の回答だったので、レナが声を裏返して復唱してしまう。
身に覚えがない。つまり、対処ができそうもないのだ。
「各地でコーラスをしている彼の大のお気に入りの物語だそうで。連日<赤の女王様>を歌い語っていましたな。
たくさんの人々を魅了していたので、これはお客受けする題材だ! と…………おっと、失礼。
その時々で内容が少しずつ違い、聞きがいがありました!」
「魔改造ってことじゃないですか!!」
「はっはっは。そして一番面白かった部分を寄せ集めて、我が劇団の演目となったのです!」
「魔改造に次ぐ魔改造が……!」
「このシヴァガン王国の王宮にお邪魔した時、また別の赤の女王様の噂を聞くことができて、とても興味深く思っております。世界的に人気なのですね。
我々がもっと広めてみせますぞ!」
(ここで気絶してしまいたい……)
白くなったレナの背中を眺めて、護衛部隊が気まずそうにスッ……と目をそらす。
楽しく赤の信者ごっこをしていたドリューたちは噂を広めてしまったし、とくに、船から噂話を持ち帰ったロベルトは重大戦犯である。
「素人でも、団長のお眼鏡に叶えば出演できることがあるんですよね」
ロベルトがなんとか話題を逸らしに入る。
劇団の企業体制について話を振った。
「そうですぞ! いやはやあまりに見事な演技だったので、てっきり演劇経験者だとばかり。それがまさか日常だとは!
長年劇団をやっている直感で、あなたは素晴らしい赤の女王様になって下さるだろうと……」
団長が長々と語り始めるので、レナが恨めしそうに護衛部隊を横目で見る。
(降参だ……どうあがいても赤の運命に行き着く。手強い……)
(すげぇな赤の運命。ロベルトの万能上司と万能部下を上書きしてるじゃん)
現状打破できずに落ち込むロベルトの肩をクドライヤがポンと叩いて慰めた。
このやりとりを目で読み取ったリーカがぷるぷる震えている。
「ーー例えば、先ほどの劇の”悪の聖霊”役の女性も未経験だったのですよ。今日が初公演で、1日限りのお手伝いです」
「えっ!?」
ぼうっと話を聞き流してていたレナだが、ふと耳に入ってきた重大事項にハッとする。
ーー<勇者の伝説>の劇を思い出す。
顎に指を添えて、なにか考える様子をみせて、ルーカを振り返った。
「(……さっき、悪の聖霊役の方が私の方を見た気がしたんですよね……。気のせいかもしれないですけど。何か、気付きました?)」
「(ああ、それは気のせいじゃないと思うよ)」
「!」
レナがぶるりと震える。
「ほら、後ろ」
「今ぁ!?」
驚きながらもレナはバッと振り返った。
従魔たちがレナの横に並ぶ。
「レ〜〜ナチャーー」
▽悪の聖霊役が 現れた!
▽レナに飛びかかる!
「なぜーー!?」
レナの護衛に抜かりはない。
「光魔法[サンクチュアリ]」
「スキル[魔吸結界]」
「スキル[重力操作]」
「スキル[魂喰い]!」
「んべっ!?」
結界にごちんと弾かれて悶絶、それからオズワルドのスキルで身体が重くなりべしょっと地面に伏せてしまった。
さらにクドライヤのスキルで根こそぎ気力を削がれる。
「あ、悪の聖霊役の人ーー!? オーバーキルでは!? あれっどうして私の名前を知って……?」
▽レナは混乱している。
「よく見てごらん、レナ。分かるだろうから」
ルーカはそう言って女性を指差す。
しかしひしゃげたカエルのようなポーズで這いつくばっているので後頭部しか見えない。
身体が凄まじく重いのだろう。
「オズくん、スキルを少しだけ緩めてあげて……」
「いえ、まだダメです。リーカ」
「はい、ロベルト隊長」
リーカが鎖のような魔道具を持ってきて、黒ドレスの人物の首に巻いていく。
ぐいぐい締めあげているので、レナは気が気ではない。
(護衛部隊の人たちは事情を知ってるみたいだし、正しい処置なんだろうけど! グロいよぉ……なにこれぇ)
「束縛待機」
リーカが冷たい声で言い放ち、魔道具が発動した。魔力を流せば気絶するまで喉を締めつける。
ハマルがぞくぞくと反応して夢見る瞳になったのは言うまでもない……まあそれはおいといて。
アイコンタクトをとったオズワルドが、スキルを解除した。
「さあお立ち下さい。お遊びが過ぎますよ、グルニカ様」
ロベルトの言葉で悪の聖霊役が勢いよく飛び起きた。
「ハァーーイ♪ レナチャーン!」
「グルニカ様ぁ!?」
「そうだよ♪」
シヴァガン王国の研究部署所属、複合喰屍鬼のグルニカ。研究者的好奇心によりよく暴走する問題児である。
首を締めあげられても大丈夫なはずだ……。
むしろ、首を落とされることにも慣れている。
レナは心配することをやめた。
むしろ、今するべきは自分たちの身の心配である。
「どうして……グルニカ様が観劇のお手伝いを? 確かに適役とは思いましたけど……。政府要監視対象のグルニカ様が今日、ここで、わざわざ手伝う理由は?」
レナが抜け目なく質問する。
「た、たまたま劇団員が体調を崩し……」
「確かにそういうこともありますよね」
レナはちょいちょいとルーカを手招きして、横にならべると、二人でにっこりと団長に笑いかけた。
団長がロベルトの後ろに隠れる。
「……はあ。グルニカ様も王宮内に篭りきりでは息がつまるらしく、息抜きも兼ねて監視付きで手伝いを。我々がここに揃っているので監視の都合がよく」
レナはクレハを呼んで、三人でロベルトに笑いかけた。
衆目の前なのでカルメンは姿を現していないが、強烈な威圧を感じる。
ロベルトは団長に馬車に戻るように促した。
団長はすたこらさっさと逃げていく。
遠方でなにやら耳を押さえて「ぎゃっ」と悲鳴をあげた。
ルーカとキラが(注意しておかないとね)<ですね!>とこっそりアイコンタクトをとったことを、レナは知らない……。
「お察しがよろしいようで」
聖霊対応を待っていたかのようにロベルトが言った。
グルニカが笑顔でぐいぐいっと前に出る。
鎖をリーカが引っ張ったが、首の肉が変形しようとお構いなしの勢いだ。
レナが顔を引きつらせた。
「新たに従魔をテイムしてさらなる女王様になったんだねー! ワァーーオ! おめでとう!
そろそろレナチャンたちと新しいご縁がありそうだからぁ、新従魔サンとも顔合わせをしておこうと思ってさぁー!」
(そろそろ? ご縁?)
レナがとても嫌そうな顔になる。
グルニカは政府役員ではあるのだが叱られ処罰中なので、必要以上に愛想を振りまかなくてもいいや、と表情筋を休ませている。
「レグルスちゃんとはもう顔見知りだけどね。にひっ」
「ええ、顔だけは知っています。でもよく変わるようですけれど」
「そーーなんだよネ! この目、新たにコカトリスの眼球を入れてみたんだー。半分に切って、前の目と表裏を使い分けるの。そしたら必要な時にだけ石化効果が使えていいよね! 威力は落ちるけど。
それから角も。強そうでいいでしょー?
そうそう新しいご縁っていうのはね、これから一緒にお仕事するかもしれないよねって」
グルニカのマシンガントークが止まらないので、護衛部隊が冷や汗をかく。
「グルニカ様、そのへんで」
「クレハ、ゴー!」
クレハがロベルトと手を繋いだ。
「めっ!」
「……聖霊様のおおせのままに」
クドライヤが笑いをこらえて、ドリューがぶはっと吹き出してしまった。
レグルスとリーカは同情の目で上司を見ている……。
その後、にやにやと語るグルニカから今後の「ご縁」についてそれなりに詳細な情報を得て、レナパーティは……盛大なため息を吐いた。
こう頻繁にトラブルに巻き込まれるのは不本意だ。
しかし、すぐに拳をぎゅっと握りしめる。
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………とーっても不本意! だけど! まぁ、想定内だったから…………頑張ろう。うん。私たちの日常を守るために、戦う!」
「押忍!」
シュシュを筆頭に、従魔みんなで「押忍!」と声を合わせた。
遠巻きにしていた親子が「やっぱり赤の女王様のプロモーション?」と噂しているのは聞かなかったことにする。
グルニカが、すすす……とレナにすり寄った。
ポロポロと情報を提供してくれるので、一応話を聞いておく。
「言っておくけど、まあ、ソレまだ未確定な情報だからね?
宰相サンにも『確定するまで他言しないように』って言われてたしぃ。アッ! そういえばレナチャンたちにも接触しないようにって言われてたんだった! でもでも、きっとなにかご縁がアルんじゃないかなーって予感がしてていてもたってもいられなくってさー! アッハッハッハ!
叱られた時には、レナチャン、助けてね♡ ナーンテネー!」
「いやです」
「二ャハハ!」
疫病神かな? とレナは半眼でグルニカを眺めた。
宰相の不機嫌がレナパーティに影響を与えたらどうしてくれる、という気持ちでいっぱいである。まあ職務に忠実な彼は理不尽な八つ当たりなんてしてこないだろうが。
舞台にいる悪の聖霊には、えもいわれぬ恐ろしさを感じていたが、正体がグルニカだと分かればなんということはない。
ギラギラ光る異形の目も、レナはまっすぐに見返すことができる。
(どちらにせよ将来、縁ができてしまうなら、手数は多い方がいいもんね……)
苦笑したレナはグルニカと握手した。
ニコーーーーッとグルニカが微笑む。
「ずうっと意思を縛られてたから、こういうのってヒ・サ・シ・ブ・リ♡
ねぇねぇアタシ午後は予定がないから、一緒にデモンズ・レストランに行こうよ〜〜!
護衛部隊たちがいる間なら動いてもイイと思うんだっ」
「午後からは従魔を愛でることに忙しいのでお断りします」
「エ!? そんなの、いつでもできるジャン〜〜?」
「限りある人生のできるだけ長い時間をこの子たちと幸せに過ごしたいんですよ!! 私の人生を満たすもの!! 従魔との!! 絆!!」
レナが力説すると、グルニカは「おおっ」とちょっと引いて、従魔たちが「ご主人様……!」と感激した。
これにより、レナが午後公演に参加するという選択肢はなくなった。
もし公演を観ていたら従魔が文句を言いっぱなしだったと思うので、よい一言だったと言えるだろう。
午後は主従お楽しみの時間!!
そして明日はギルド長との鍛錬の日だ。
レナたちは今日の公演について振り返りながら、仲良く帰路に着いた。
わくわくとみんなの足取りが軽い。
来るかわからない未来の不安よりに嘆くも、今を楽しむのだ!
広場から午後公演の声が聞こえてくる。
『赤の女王様登場!』『正義の呪文を……』『ルカサンモスサン・セ・イヴァ・イナスァイー!』鞭ぴしーん!『キャーおおせのままに〜!』なんて聞こえてきたが……気にしてはいけないのだ。
レナが少し足早になった。
「あの<勇者の伝説>すごかったねぇ」
レナは話を振る。
「圧倒的パワーで悪者をなぎ払っていくところとか、燃えた」
「「オズとシュシュが一番声援大きかったかも〜」」
「何気にお子ちゃまなのじゃな。ふふ、可愛らしいところがある」
「妙な言い方はやめてくれ、キサ……」
「シュシュは可愛いって言われて誇らしいよ! えへへん!」
わいわい話す従魔の会話に耳を傾けながら、レナも自分なりに<勇者の伝説>について考え始めた。
もともとラナシュの勇者という存在が気になっていたが、公演を観たあとになると、随分と印象が変わっている。
というか日本的な勇者像など木っ端微塵に粉砕された。
(……ガララージュレ王国がもしも勇者召喚を成功させていたら。私、合体系勇者になっていたのかな? ひえぇ!
劇では人々を助けるために強い勇者が望まれていたけど……ガララージュレ王国は……どんなつもりであの勇者召喚の儀式を行ったんだろう?
勇者は……服従させるつもりだった?
もし、私が…………)
レナはそっと自分の胸を押さえた。
ここに、枯れた勇者の芽が存在しているらしい。
ぽわっと胸が温かくなった。
驚いたが、どうやら内ポケットにいたキラが照れたようだ。
ほわんと癒された。
つんつん、と肩をつつかれたので振り返ると、ルーカから何かを渡される。
「ピスタチオのクッキー。モスラが今、異空間に入れたものをキラが出してくれたんだ。何か落ち込んでる? ……美味しいものを食べると気持ちが明るくなるかも?」
レナはクッキーを受け取って、素直に自分の口に入れてみる。
香ばしくてほのかに甘いナッツの味が舌に広がって、自然に顔がほころんだ。
「さすがモスラのお菓子! 美味しい! ルーカさん、励まし方が私に似てきましたか?」
「そうかも。おかげさまで毎日楽しいよ」
レナはにこっと笑うと、ルーカとキラの口にクッキーを入れ込む。
キラはなんとも運よくこのタイミングで人化することができた。
幸せは共有するべきなので、レナはみんなにクッキーを配って回る。
クッキーはちょうど従魔の人数分が贈られていた。
歩き食べとなるが、たまにはちょっぴりお行儀が悪くてもいいだろう。
「グルニカ様が言っていた件、モスラにいいお土産ができたかもしれないですね!」
レナの言葉を聞いたルーカが「うくっ」と言いながら口を押さえた。
笑いのツボに入ったらしい。
「きっと大喜びだよ……! 心強いよね。ふふふっ!」
まーぜーて! と幼児たちがレナたちの周りをくるくる走り回る。
レナたちは和やかに帰路を歩いた。
▽Next! イヴァンがいないガララージュレ王国とは




