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モンスターテイム3

「さあ…狩りのお時間です!」



ヒツジがぐっすり眠っている間に、仕留める準備はバッチリ整った。

あれ?

テイムの趣旨をおもいきり間違えた発言をかましているレナさん。

しかし、今回はこれでいいのである。

レナが悪役じみた立ち振るまいをすることが、この作戦では求められているのだ。


▽ヒツジを 極限までビビらせ、混乱させろッ!


そしてテイムしよう。というのが、今回の「ドキドキ!火あぶり大作戦」なのである!




スライムジェルは、潰してアクアの水と混ぜて水筒に入れてある。

姿を消したリリーは、落ち葉を抱えてヒツジの頭上にスタンバイしていた。

イズミがぐにーんと地面に伸びており、超硬化の指示にそなえている。

レナの鞭にぴっとり貼り付いたクレハは、興奮からか赤い体をさらに赤く染めあげていた。



「ーースキル[鼓舞]!」



従魔たちのテンションがぐーん!と上がる。

ルーカ先生には周りの別モンスターの警戒をお願いして。

さあ。作戦開始と洒落シャレ込みましょう。




ご主人さまの鞭が鋭くうなって、ヒツジのすぐ目の前の地面をえぐった。

ーーピシイィッ!!


…威力こそあまりなかったが、強い殺気を正面から向けられた居眠りヒツジは目を覚ます。


眠りをジャマされて不機嫌になったヒツジ。

その様子を見たレナは、凄絶せいぜつにわらっていた…。



▽…なんか ヤバそうな少女が現れた!?(ヒツジ視点)


さすがにちょっと驚いている。

間髪入れずに、ニヤリと怪しくわらうご主人さま。



「私は絶対に貴方を従えたいの。

逃がさないからね!

覚悟なさい…!ーースキル[従魔契約]ッ」



彼女なりの、精一杯のこわーく魅せる演技である。


ヒツジの目の前には輝く契約魔法陣が現れた。

それを目を見張って見つめている…

魔物使いの契約陣なんて見たことはなかったが、魔物としての本能が、これが何かを正しく認識していた。



なるほど、自分のことを従属させるつもりなのか。と、ヒツジの機嫌がいっそう降下する。


のんびり屋さんの彼は、何かに縛られるのが大嫌いだったのだ。

比較的、集団行動をとると言われる草食ヒツジの群れからも、上下関係のルールが嫌で逃げ出してきたほどである。

今日まで一匹でのんびりやってきて、なんの不満もなかったし、誰かの支えが必要なほど弱くもなかった。



そんな自分を、どうしても従えさせたいというのなら。

…満足させられるだけの力量を示してもらわなければ、認めない!!



▽居眠りヒツジは 臨戦態勢になった!



ギッ!と目に光を宿したヒツジは、先ほどまでののんびりした様子が嘘だったように、興奮した足取りで魔法陣をくぐる。

大人しい草食獣と言えど、魔物モンスターなのだ。


緊張感に、お互いにひゅっと息をのむ。



この居眠りヒツジは、低レベルの魔物としては相当規格外な能力を持っていると言っていい。

いつものように巨大化して、レナを踏みつぶそうと考え、足踏みをしていた。



しかし、ヒツジは知らなかったが…

スキルにギフト、彼のあらゆる手のうちは、チートな魔眼で事前にすべてバレて相手に分析され尽くしていたのである。

卑怯なのではない。

命をかける戦闘においては、確実に勝つためにあらゆる手を使うものだ。



ヒツジが強いことを知っていたレナたちは、勝負を一瞬で決めるつもりだった。

巨大化も[駆け足]も"させない"。



「イズミッ!」

『はーーーいっ!』


主人が号令をかけると同時に、イズミがすぐさまヒツジの足元へとすべり込んでいく。


『スキル[超硬化]ー!』


そのまま、足を地面に縫い付けた。

大きくなりかけていた足が、元の小さな時の配置のまま固定されたので、体勢をくずしたヒツジは膝をついてしまう。

巨大化するタイミングが少しだけ遅れた。


ーーそれだけで、この勝負のゆくえはもう決まったのだろう。



ここが決まれば。

あとは、たたみかけるダケなのだ!

…ご主人さまの悪どい笑みが、よりいっそう深くなる。

派手に鞭をしならせた。



「『炎の鞭フレイム・ウィップ!!』」



そんな技はない。

つまり、完全なハッタリなのだが…しかし、技名を言ったタイミングでクレハが"フレイム"を発動させており、即席の炎鞭っぽいものが出来上がっていた。

何も知らないヒツジには、これが本物の魔法鞭に見えていることだろう。


借りた[身体能力補正]を存分にいかして。

レナは、ヒツジの体にくっついている落ち葉を狙う。ピシッ!

…ボッ!!と炎が鞭から落ち葉へとうつり、そこで生まれた火種が白い毛皮をぐんぐんと焦がしていった。



『~~~~ッ!!?』



たまらず、転がって落ち葉を振り払おうとしているヒツジ。

…火まみれの彼を更なる悲劇がおそう。


イズミはもう主人のもとに戻っていた。



「火力追加ぁーーー!!」


『『『おおーーーっ!』』』



むごい!

バシャッ、と水筒の中のスライムジェルがヒツジの身体にぶち撒けられ、リリーの抱える落ち葉がこれでもかと毛にふりそそぐ。


その瞬間…

ボボボボッッ!!!と、ジェルにまみれたヒツジの体が、えげつないほどの赤々とした炎に包まれた。

スライムジェルは、可燃性の液体だったのだろうか?

それにしてもむごい。


かろうじて毛のない顔や足、角は無事である。

だが、視界が確保されているぶん、余計に炎が恐ろしくて仕方がない…!

たまらずヒツジは叫ぶ。

『ーーーーッ!!』

声にならない声を上げて。それでも、ギフトにより強い精神力を持った彼は、少女をきつく睨めつけていた。




(…この状況でまだ心が折れていないなんて、さすがレアギフト持ちの子だねー?

でも、もう相当ギリギリなはずだよ。

考える時間も反撃する時間もあたえてあげないから。

だって私たちは、貴方のことがどうしても欲しいの!

…さあ。優しくするから従ってねー?)



この状況で"優しく"とは。ご主人さまには隠れたドSの才能でもあるのだろうか…?

とりあえず更なる恐怖を与えるために高笑いしていた。


「アーーッハハハハハーッ!!」


童顔と少女声ゆえに、冷静に見れば大した迫力はなかったが、[幻覚]の炎をバックにした振りきれた狂いぶりはなかなかに恐ろしい。

遠くから様子をうかがっていたルーカ先生がドン引きしている。



ビシッ!バシッ!とレナが地面に鞭を振るうごとに、リリーが[幻覚]でそこに火柱を作っていった。

ヒツジから見たレナは、もう炎の女王様状態だ。



あたり一面は、火の海。(※幻覚です)

…炎の勢いを加速させる液体をかけられたヒツジはもう、巨大化しようが[駆け足]しようが、ジンギスカン確定だろうか?


…さすがの彼の【鈍感】ギフト強化精神がもったのも、ここまでだった。



混乱と炎への恐怖で、ヒツジの凛々しかった瞳はかなしく揺れている。

火を消そうと転がる気力も無くしたのか、ぶるぶると震えながらレナを見つめていた。


▽居眠りヒツジは 激しく 混乱している…!



勝負は、決まった。


そんな彼に、ご主人さまは満足げに笑いかけて左手を高々と上げてみせる。

…手のひらには、アクアの水をこれでもかとまとったイズミがのっかっていた。



「どうか間違いのない選択を。

お利口さんな貴方なら、できるよね?」


にっこりと微笑み、言いきる。



「こっちにおいで。私は貴方が欲しいのよ」



…パーーーフェクトッ!!!




『『『従えてぇぇーーーッ!!』』』


すでに従魔になっている3名がもれなく釣れた。




<[従魔契約]が成立しました!>

<従魔:居眠りヒツジの存在が確認されました>

<従魔:居眠りヒツジのステータスが閲覧可能となりました>




ベルの音が高らかに鳴り響く。


「やったぁーー!」


小躍りして喜んでいるレナ。

ベッド!ベッド!

先ほどまでの女王様っぽさとのギャップに、従魔となったヒツジは目を白黒させている。



リリーが速攻で[幻覚]を消しさり、イズミがアクアの水で、毛に纏わり付いていたジェルを洗い流す。

洗われたあとの白い毛は、ほんの少し毛先がコゲているだけだった。

つぶらな目を真ん丸くしながら、ヒツジは自らの濡れた毛をまじまじと眺めている。



スライムジェルは発火性の液体ではなく、むしろ、火を消す目的で使われていたのである。

水を混ぜて粘りけを適度にゆるめたジェルは、ヒツジの体にしっかりと絡みつき、炎から毛を守ってくれていた。



より詳しく言えば、まず、ヒツジにもともと付いていた落ち葉の火種をジェルで消す。

その上にリリーがまた別の落ち葉を落として、燃やした。

ここまでは本物の炎なので、毛は燃えずとも熱は通る。

一度、炎の熱をヒツジに自覚させることで、周囲の[幻覚]の炎をも本物だと錯覚させたのだ。


なまじ、痛みを和らげる効果のある【鈍感】ギフトを持っていたこともあり、周囲の熱のない炎も違和感なく正しいものだと思ってしまったのだろう。

そこまで全て先読みした作戦だった。

レナが極悪なフリをしたのは、ダメ押しで彼の恐怖心をあおるためだ。



ご主人さまがヒツジにそう説明すると、夜空のような藍色の目で、じーっと見つめられる。


『すごーーいー…!』


「えへん!」


褒められたので、無い胸をはっておいた。


今回の鬼畜作戦も、ほとんどはレナが一人で考えたものである。

とても善良な少女のはずなのだが…考える作戦は、なぜか毎回毎回とてもえぐい。

効率と確実性を一番に考えているのだ。



少しだけ毛がコゲていた所には、丁寧に[従魔回復魔法]をかけてやる。

まさに飴と鞭。

緑っぽい光がヒツジを包んで…彼はとても気持ちよさそうに身体の力を抜いて、リラックスしていた。

【鈍感】ギフト持ちヒツジは、もう自分のペースを取り戻している。


レナが、にっこりと優しく笑いながら自己紹介した。



「初めまして、居眠りヒツジさん。

私は藤堂とうどう レナと言います。

この子たちは先輩従魔のクレハ、イズミ、リリーだよ。

貴方が仲間になってくれて本当に嬉しいです!ありがとう。

さっきは怖い思いをさせてごめんね。

これからよろしくお願いします…!」


彼は軽やかに小さく飛び跳ね、応える。


『はーい。女王様』



おや?

…あまりよろしくない方向でレナを主人と認識したようだ。

まぁ、先ほどまでの作戦と演技を考えればレナの自業自得である。

"女王様"などと呼ばれた本人は、予想外の発言だったのか、ピシリと固まっていた。



『『『レナ女王様ぁーー!!

きゃーーっ!従えてぇぇーーーー!』』』


「くくっ……じょ、女王様っ…!くっ」



みんなには大ウケだった。

従魔は楽しそうにニヤニヤしているし、先生はあからさまに笑いを堪えている。堪え切れていないが。



ヒツジだけが小首を傾げる中。

しばらく女王様コールは収まらなかった。

正気に返ったレナがなんとか呼び名を「レナ様」にまで格下げしてもらって、やっとステータスチェックに移る。




「名前:居眠りヒツジ(仮)

種族:居眠りヒツジ♂ LV.6

適性:黒魔法


体力:19

知力:13

素早さ:9

魔力:14

運:17


スキル:[体形変化]、[駆け足]、[快眠]、[周辺効果]

ギフト:[鈍感]☆5」



スキルとギフトの効果説明をしておこう。



ーーー

[体形変化]…自分の体の大きさを変えられる。小さくも大きくもなれるが、体のサイズによって必要な食事量も変化する。


[駆け足]…一定時間、足が速くなる。こめる魔力量によって、効果継続時間が変わる。


[快眠]…ぐっすりと深く眠ることによって、効率良く体力を回復することができる。


[周辺効果]…自分の周りの一定範囲をテリトリーとし、スキルや魔法を威力を落とさず拡散させることができる。範囲は魔力量による。


【鈍感】…あらゆる痛みを実際よりもニブく感じる。

メンタル面が強化され、精神干渉の魔法が効きにくい。ただし、一度メンタル面を崩されたら反動で混乱する。

ーーー



「つよーい!」

「さすがだね」


『んー…そうなの?よく分かんないー』



素晴らしいステータスに皆が騒いでいた。

一見知力値が低く見えるが、レベル一桁の魔物の知力は4〜9あたりが普通なので、十分頭がいいと言えるだろう。


もふもふの白い毛にスライムとフェアリーがさっそく埋れているなか、当のヒツジはもう眠そうである。



『…レナ様ー。ボク、眠いので。

抱いてくださーい』


「あ、はい」



レナに抱きあげられ、腕の中にすっぽりと収まったら、すぅすぅ寝息を立て始めてしまったヒツジ。

さすが"居眠り"と種族名につくだけあった。

レナと主従関係になったことで発動した【レア・クラスチェンジ体質】の効果で、彼女の側にいるのが心地いいと感じるようになったのだろう。


モコモコと本体よりも大きく膨れ上がっている毛が、華奢な腕からはみ出している。



「貴方は主としてそれでいいの…?…いや、幸せそうだね」


「ふぁい…」



ルーカが呆れた目でヒツジとレナを生ぬるく見ていた。

…どちらが主か、分からなくなる光景なのだ。


レナもレナで、マイペースに白く柔らかい毛をもふもふしているので、従魔とはお互いさまである。

夜はこの毛に埋れさせてもらおう!とでも考えているのか?

顔がゆるっゆるにとろけていた。



「ベッド超楽しみー…!」

「良かったね」



軽く息を吐いたルーカが、自分も、と毛玉を触ってみる。

もふもふの奥に潜り込んだスライムのぷよぷよまで掴んでしまった。

もふもふー、ぷよぷよー。

…なんか感触が混ざって良く分からないことになっているけど、確かに毛ざわりはとてもいい。


『『…えっちーーー!!』』


相変わらずのクーイズのからみは軽くスルーしよう。

もふもふーーもふもふーーぷよぷよーー



みんなで、存分に新しい仲間の毛を満喫もふもふした!




▽居眠り ヒツジが 仲間になった!

▽クラスチェンジ を目指そう

読んでくださってありがとうございました!


羊くんのイラストは次回、クラスチェンジした後になります☆

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