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仮従魔の目覚め

レグルスとキサはとても甘い夢に囚われていた。

自分が誰よりも一番に輝ける、唯一無二になれる、小さな世界に閉じ込められている。



『キサはこの世で一番、妖艶で美しいわ』


『レグルスはついに全ての炎獅子の頂点に立ったのか。素晴らしい戦闘力だ』


『ラミア一族の誇りやね』


『炎獅子一族の誇りだ』



持ちうる理想の全てが二人を包む。

目を輝かせて祝福を受ける二人が、笑って、笑って、笑い疲れた頃……。

心に(頂点に立ったらしい。じゃあこれからはどう生活する?)と、ふと疑問が浮かび上がる。


登る階段がなくなってしまった不安を、夢のレーヴェに、父に打ち明けてみる。ただ『すごい、すごい』と賞賛され、中身のある返事はなかった。

なんだか途方に暮れてしまった。


ーーその時。胸にズドンッ! と強い衝撃が訪れる。


((何ッ!?))


夢がかすんで、消え始めていた。


((待って!))


縋り付こうとしたが、触れた幻影の冷たさにゾッとして、キサとレグルスは手を離そうとする。


((良い子。そのままこの世界を望みなさい))


夢は二人の手を絡め取って、離してはくれず……頭がくらくらするような甘い声で誘惑する。

大混乱に陥った二人は、足をすくませてしまった。


((や、やめて))



その恐怖も、不安も、ぜーんぶまとめて夢喰いヒツジが粉砕する!



「おりゃああああああっ!!」


▽電子ビームサーベルが 夢の淵を 切り崩す!

▽巨大ロボが 夢の檻を 壊した!



「ふふふ……レナ様、やりましたー! 二人ともー、無事っ!?」


ハマルが巨大ロボのコックピットから姿を現す。

ロボなど初めて見たキサとレグルスは、それぞれの夢の殻の中で、ぽかんと口を開いて見上げるしかなかった。


割れた檻の隙間からは、赤光が差し込んでくる。

レグルスとキサの身体がカッと熱くなり、目覚めの時を迎える……。



「ボクの可愛い後輩たちー。あのねー、現実は怖くないよー。みんなが君たちのことを心待ちにしてるんだからねー。

それにー、もしも敵意の視線を向ける者がいたなら、先輩がやっつけてあげるからー。

夢喰いヒツジは強いんだよー!

なんてったってレナ様の従魔なんだからねぇ」



ハマルが明るい笑い声を響かせる。

この目覚めの先には、きちんと守りのフォローがあるらしい……と、契約により仲間と繋がった心で理解したキサとレグルスは、ハマルの言葉の心地よさに身を預けた。


ふわふわんっと意識が浮上する。

夢を壊されたことへの不安も何もかも、赤光の熱がじんわり溶かした。




***




キサとレグルスが目を開ける。

信じられないくらい極上の感触の金色羊毛が、自分たちをぬくぬくと包んでいる。


『……やったねー! おっはよー』


ハマルがそう言って、ふふんと鼻を鳴らした。

大きなヒツジの頭部を見て(……どうして他種族の魔物の言葉が理解できるんだろう?)とキサとレグルスはぼんやり首をかしげる。

従属特典である。


金色ベッドのあたたかさが眠気を誘い、また二人は目を閉じかけてしまいそうになる……。


「姫さんっ」


「レグルス!」


が、仲間の呼びかけに、さすがにぱちっと目を覚ました。


「ぐうっ!?」


レーヴェに勢いよく覆い被さられたキサが、苦しげな声を漏らす。

ぎゅうぎゅうと抱きしめられている。

なんとか腕をレーヴェの抱擁から引っこ抜いて、ばしばしと背中を叩いて「ギブアップ!」とアピールした。

レーヴェは少し力を緩めたものの、名残を惜しむようにキサにくっついている。



「おはよう。お前が無事に目覚めてくれてよかった」


「……ロベルト隊長……。……っ!? 失態を、失礼しました!」



覚醒したレグルスは勢いよく頭を下げて、謝罪する。



「いいさ。緊急事態だ。お前の今の任務は、きちんと生きていること……だからな」



ロベルトがレグルスの頭にぽんぽんと触れる。

任務中の上司と部下のコミュニケーションらしからぬ行動に、レグルスは驚いてぱちりと瞬きした。



「そうですよね? レナ様」


ロベルトはなぜかレナを名指しして振り返る。



「ええ。健康に生きて、幸せになってもらうこと……それがレナパーティの従魔のあり方だもの」



頑張ったハマルの頭をたくさん撫でて、褒めていたレナが答える。


この流れを不思議に思いながら、レグルスとキサがレナの方を向いた。



ーー白炎聖霊カルメンをはべらせて、キラのド派手なエフェクトをまとい、力強く微笑んでいるその女王様感は、衝撃的であった!

仮の従魔となり、二人が初めて見つめた主人はどこまでも神々しく輝いていた。


あっけなくキサとレグルスの心が撃ち抜かれる。



(あ。これはさっそく従えられたな……)


落雷を受けたように震えて、頬を赤くした後輩たちを見て、先輩従魔たちがにんまりと笑いそうになるのを必死でこらえる。


キサがドキドキ高鳴る心臓を押さえた。

恥ずかしがるように、桃色の着物を胸元にたぐり寄せる。



「はうっ! これが……真実の恋……!?」


「姫さん!?」


キサが妙なことを言い出している。

何かがおかしい。



「うぐぐぐ……俺は正気だ……!」


「そ、そうか。レグルス」


頭を抱えてしまったレグルスを、護衛部隊が生暖かい目で眺める。

従魔仮契約によってなにか心境の変化があったんだな、とは誰の目にも明白であった。



「……状況を説明してくれませんか。ロベルト隊長。俺はどうして……こんな……」


「レナ様を見て何かを感じる?」


「心臓が燃え上がっているなんて、そんなことありえませんから!!」



吠えるように返答したレグルス。

素直すぎるな……とロベルトたちが呆れた。


からかうようにカルメンが指先を振ると、従魔への聖霊の影響力が増す。

熱さに強い炎獅子も耐えかねて、レグルスはぐっと胸を押さえる。



「あらあらカルメン。優しくしてあげて欲しいわ」


「ほう。我々は叱られてしまうのか?

従魔がレナに優しくなるよう、手助けをしたつもりだったのだが?」


「調教は私にまかせて頂戴な。主人はこの私なのだもの」


「ふふふっ!」



聖霊と戯れるレナの言葉により、レグルスが関係性をうっすら察して硬直する。

カルメンが再び指先を振ると、レグルスへの負荷は取り除かれた。荒く息を吐いて、しばらく呼吸を整える。


その間、キサがカルメンの身体をガン見している。



「あの者は誰なのじゃ? むむむ、豊満なナイスバディ。すごくすごい。

レナ様にぴたっと抱きついておる……いいなぁ……妾のライバルということか!」


「姫さァーーん!?」


レーヴェがキサのあんまりな言葉に、肩を掴んで詰め寄る。


「オズワルド坊ちゃんはぁ!?」


「はて?」


▽オズワルドは ルーカの背に隠れた。

▽レーヴェと キサの蛇睨みが 追撃する!



「……おお。確かにそうであった。妾はオズワルドに恋をしていたのじゃったな……」


ほわわんと頬を押さえるキサ。

まるで、今やっと思い出したかのような口調である。



「精神と身体がしばらく乖離していたことへの影響が見られますね。

記憶が一部ふっとんでしまっているのでしょう。ゆっくり思い出すはずです」



ルーカがキサをさらりと診察した。

唸ったオズワルドは、がすっとルーカに頭をぶつけてやつあたりする。



「そうなん……あの悪者たちはほんまに色々残してくれたもんやねぇ。でも、初恋の気持ちを思い出してくれたんなら良かったわぁ」



レーヴェがほっと呟く。

するとルーカが目を逸らした。



「……ただ、初恋について思い出してはいるのでしょうが……」


「なんや?」


「……? 妾は、オズワルドを見てもドキドキしておらぬ。恋心が反応しないのじゃ。レナ様を見ている時の方が心が高鳴っているな!」


キサの爆弾発言がレーヴェに被弾する。


「な、なんやてぇーーー!?」


レーヴェの絶叫が空間内に響いた。

鋭い目で続きの解説を催促されたルーカが口を開く。



「キサ姫は、記憶がおぼろげなまっさらな状態で、主人となったレナの女王様姿に心を撃ち抜かれたんですよ。

生命の危機を脱した瞬間に目撃した感動の値が、オズワルドの時を超えてしまったようです。

上書きされたということ、かな?

これが今のところ一番有力説。

ね? リーカさん」



ずるいルーカが、リーカに話を振ってレーヴェの視線を分散する。


キサの内心は大変なことになってしまっているようだ。

夢の中で大活躍したハマルは? と言われれば、やはり"従魔契約の主従愛"と、レナ様の覇女帝感には勝てなかった。


リーカがうーん、と苦笑する。



「ええ、私も同じように考えていましたよ。

……それよりも、重大な問題があります。

キサ姫。レグルス。二人のステータスが……レベル1の状態に戻ってしまっています」


「「!?」」



レナがぴくりとまゆを跳ね上げて、キラに目配せする。


「<ステータスオープン!>」


仮従魔たちのステータスが誰の目にも明らかになった。

キサとレグルスを大切に思っている面々にも、公表すべきだと考えたのだ。




「名前:キサ・ファリーナ

種族:ラミア♀、LV.1

適性:青魔法[氷]、黒魔法、黄魔法


体力:12

知力:15

素早さ:10

魔力:15

運:8


スキル:[蛇睨み]、[魅了]、[アクアミスト]、[氷の槍アイスジャベリン]、[氷の息吹]

ギフト:[壮絶耐久]☆7

称号:魔人族、ラミアの姫君」



「名前:レグルス・カーネリアン

種族:炎獅子♀、LV.1

適性:赤魔法[炎、熱]、黄魔法


体力:18

知力:11

素早さ:14

魔力:10

運:8


スキル:[炎爪]、[熱風]、[瞬発]、[持久力]、[暗躍]、[観察眼]、[陽光吸収フレアチャージ]、[陽光強化フレアブースト]

ギフト:[獅子の風格]☆5

称号:魔人族、勤勉実直、問題児」




「精神と身体が離れている間に、経験値が消滅してしまったみたいですね……。つまりレベルのことです。

記憶がおぼろげなのも、この状態異常の影響なのでしょう。

あ。幼い子のように無力な状態だったから、キサ姫はよりレナ様に対して感動した可能性もありますね」



リーカが言いづらそうに、しかしはっきりと”無力な状態”と見解を告げた。

彼女の仕事なのだ。


キサとレグルスが唖然とステータスウィンドウを見上げて、固まっている。

先にレグルスが動く。



「……状態異常ということは、失われているレベルは何かしらの方法で取り戻せる、ということか!?」



すがるようにリーカに詰め寄る。

レグルスがふらり、とバランスを崩したので、ロベルトが受け止めて再び金色ベッドに寝かせた。

リーカは首を振る。



「身体が思うように動かせないでしょう。急激なステータス値の変化のせいね。

この経験値は、取り戻せないのではないかしら……。メデュリ・アイの魔眼でレグルスの魂を覗いたけれど、痕跡がなにも見当たらないもの。

状態異常って紛らわしい言い方をしてごめんね」


「…………ッ!」



リーカがハマルに目を向けた。

ハマルは頭だけをヒト化させて、ヒツジボディに幼児頭のスフィンクスシープ状態になり、みんなを驚かせながら声を届ける。



「あのねー。ドリームワールドの中にもー、経験値の塊みたいなものは見当たらなかったなぁ……」



ーーレグルスがぎりぎりと歯を噛み締めて、唇に血が滲んだ。



「そんな。それでは俺は、シヴァガン王国の諜報部員として、どう生活していけば……ッ!」



その理由以外にも、レグルスの立場が揺らぐ事情があるのだが……。

今が説明時、とみたロベルトが告げた。



「レグルス。お前は現在、藤堂レナ様の仮の従魔となり、魂に契約印が刻まれている。

たとえ契約を解除したとしても、痕跡が残り、シヴァガン王国諜報部にはもう滞在できないだろう」


「……!? 待って下さい。どういうこと、ですか?」


「諜報部の者がシヴァガン王国政府以外に従属することなど許されないんだ。分かるな? おそらくレグルスは解雇となる」



立て続けの最悪の事態に、言葉を失うレグルス。

レグルスにとっての生きがいのすべてが、気を失っている間に奪われてしまったのだ。


従属契約について自覚があるが、理解したくなかった。

ドクドクと妙に熱く脈打つ心臓部分を、レグルスはイライラと搔きむしる。



「話を続けるぞ。お前は死霊術師ネクロマンサーイヴァンの術にはめられて、精神世界に閉じ込められていた。

これは覚えているか?」


「……。……はい。ロベルト隊長。思い出しました」


「よし。あれは時間が経つと、精神と身体が離れて死んでしまうとても恐ろしい術だった。

お前たちを目覚めさせるためには、夢属性の魔物である夢喰いヒツジ・ハマルの力を最大限に発揮しなければならなかったんだ。

ハマルの力を全開で届ける方法が、魔物使いとの[仮契約]で従魔仲間となること。

お前の命を救うために、レナ様もハマルも尽力してくれた」



ロベルトがレグルスの反応を待つ。

ーーレグルスは、冷静になれず衝動的に叫んだ。



「…………そのような措置で、俺が、炎獅子の家名を穢すくらいならば! いっそ殺して欲しかった!」


「レグルスッ! それだけは言っちゃあ駄目なやつだ!」



横入りしたクドライヤがレグルスの口を手のひらで強く塞ぐ。

ぐるるっ、と興奮したレグルスの喉が低く鳴る。

白目が赤くなった瞳で睨んできたレグルスに、クドライヤはしぼり出すような声で言い聞かせた。



「みんなが、お前が生きることを望んだんだよ。

特別な覚悟をもって、だ。

魔物使いのレナ様は一人の命を預かる責任を、ロベルトは自分も政府に罰せられる責任を受け入れた。

レグルスとキサ姫を助けるために。

どれだけ重大な決断だったのかは、寝起きの頭でも分かるな?

……レグルスの努力はよく知ってるから、まず憤ることも理解はできる。

でも、よく考えて発言しろよ!!

この全員の覚悟と思いやりをすべて踏みにじって、それでも、今の言葉を言わなければならないか?」



さすがに、レグルスが黙った。

獣耳が力なく下を向き、目元はひくひく引きつっている。



「……謝れとか、感謝しろって強制したつもりはないさ。

だけど、さっきの言葉だけは言って欲しくなかったんだ」



クドライヤは苦悩のため息をついて、レグルスの顔から手を離した。



「くそ、難しい。マジで。話の腰を折って悪かったな。ロベルト隊長、交代」


「ほとんど説明されてしまったのだが」



一気に身体の力が抜けてしまったのか、金色ベッドに背を預けたままのレグルスに、視線を合わせるためにロベルトがかがむ。



「隊長として、俺がレグルスの従属を願った。政府からも、お前からも責任を問われることは承知している。

生きて欲しいと思ったのは俺の個人的な感情だからな。

それでも、将来について考えて欲しい。

お前には叶えたい夢があるんだろう?

それは、生きていなくては叶えられない」


「……っそれはもう、今、この瞬間に……不可能に、なりましたので……ッ」



レグルスが声を途切れさせながら、言葉を選んで、なんとか答える。



「夢は、炎獅子の誇りとなることか?」


「……はい。俺も、いずれは一族にふさわしい強い魔物になり、家名をより輝かしいものにしたいと考えていました。

それが、生きる望み、でした……」


「諜報部で成り上がりたいのか? 部署長のレグルスの父親のように。

それとも、魔物として強くなりたいか?

もし後者を目標とするならば、お前はきっとこれからも輝かしく生きられるはずだ。

さっき言っただろう。

俺とともに責任を負ってくれた人がいると」



どこかで聞いたような望み『強くなりたい』。

それを何度も実現させた存在を、皆さんはよくご存じだろう。



「私たちレナパーティを頼ってよろしくてよ!! レグルス、キサ!」



レナの高笑いが、仮従魔の二人の脳内にじんじんと響いてくる。


先輩従魔たちがにぱっ! となつっこい笑顔を浮かべた。

なりゆきで従魔を増やすことになったレナたちだが、歓迎してくれているらしい……と、夢うつつで聞いたハマルの言葉を思い出しながら、キサとレグルスが理解する。



「レーヴェ……。妾はどうなるのじゃ? どう生活が変化する……?」


「……姫さん。あのね。ラミア族の族長も、シヴァガン王国の役員たちと同じで、他人に従属してるなんて許されへん。

それは分かるね……?」


「……うん。

族長はラミアたちのことを何よりも優先させないといけないから、さらにその上に立つ存在がいると、一族を混乱させる、ということじゃな?」


「そう。よくできました」



レーヴェがキサの頭を撫でる手はどこまでも優しい。

キサがうるうると目を潤ませて、レーヴェを見上げる。



「可愛い私たちの姫さん。……いや、これからは”キサ”って呼ばんといかんね。またね。レナ様たちと一緒にお行きなさい。

幸せにしてもらうんよ」


「……レーーヴェぇぇぇ!!」



まるで今生の別れのように、キサとレーヴェが抱き合っておいおいと号泣する。



(うーん。レナパーティにはモスラって前例もあるし、従属しながらも他の土地で暮らすことも、本人が望むなら従魔契約を解除することも、してあげられるんだけどな……?)


ラミアたちが二人の世界になっているので、レナがこの言葉をかける隙が見当たらない。あとできちんと伝えよう、と考えながら、レナはこっそり苦笑した。

レグルスをちらりとレナが見る。



「……こんな惨めな俺に、ロベルト隊長はまだ、夢を見るべきだと言うんですか?」



レグルスが強い光を宿した目でロベルトを見る。

逆ギレに近いが、わずかな希望の色を見出したロベルトは本心で声をかけた。



「ああ。若者の特権だからな、大きな夢を見られるのは。

今のうちに挑戦をしておくと良い。

いずれ死ぬのはどんな生物でも同じなんだ。

経験値を失う前のレグルスよりも強くって、誇りを上書きしてやるのはどうだ?」



随分と軽率に言ってくれるものだ、とレグルスが眉をしかめてロベルトを見る。



「レナパーティの成長の著しさを見ていると、本当に様々なものがなんとかなるんじゃないかという気がしてくる。

幸いにも、主従揃って、レグルスとキサ姫の面倒を見る気が満々らしい。

ーー手にした幸運な環境を生かせ、レグルス。

父親も、きっと炎獅子の誇りとしてそれを望むだろう、と俺は考えている。

俺もお前に夢が見たい」



どこかで聞いたような境遇である。

黒歴史をほじくりかえされた気持ちになったオズワルドが、頭を抱えている。なんだか今日は損なことが多い。


レグルスは自分の指が細い手を眺めた。

そしてぐっと眼光を鋭くする。



「……メスライオンに、強大な魔法は扱えない。だからこそ不足戦闘力を補うために訓練した二十年の経験値も、消滅してしまった」



レグルスは雌の炎獅子として生まれた。

炎獅子のオスは、炎のたてがみを持つとても強く立派な魔物だが、雌は細々した炎魔法をあやつり持久力がある影の活躍者、という特徴がある。


炎獅子一族の栄光の歴史の中で、脚光をあびるのはいつも立派なたてがみを持つ雄ばかりであった。

レグルスはずっとそちら側に憧れていたのだ。


まさかの性別宣言を聞いて、ドリューは目を剥いている。



「レグルスも白炎が扱えるようになるのでしょうか? 聖霊様」



ロベルトがカルメンにそっと尋ねる。なんという果敢なチャレンジ。

レグルスが息を飲んで回答を待つ。


カルメンはまた指をふって、レグルスが苦しむ反応を確かめる。



『ふむ……。この者に白炎は扱えまい。

火炎獅子にも満たぬ炎獅子、それも雌ライオン。

我々聖霊が力を与えようとしたところで、ただ焼け死ぬことになるだろう』


「……!」


レグルスが苦しげに瞳を伏せる。



「聖霊様ー、質問でーすっ」


スフィンクスシープ状態のハマルが声をかける。


『おや。何用だ? そなたたちには、カルメン様と真名を呼ぶことを許そうではないか。

せっかくだから友達とお揃いにしておこう。

カルメン様とお呼び?』


『『きゃーーっ! カルメン様ー!』』



クーイズがノリノリでわっしょいしたので、カルメンの機嫌が良くなった。

いいぞ。他の従魔たちが次々に作戦に乗っかる。



「きゃーカルメン様ぁー! あのねー。レグルスがー、もーっと強い個体に進化したなら、白炎も取得できるー?」


『ん。それはそうだ。あくまで、弱体化している現世の炎獅子の雌についての話をしていたのだから。

例えば、デス・ハウンドほどの炎適性があれば、問題なく白炎を宿すことができるだろう』



あっけらかんと『問題なく』と言われたオズワルドだが、(あれかなり俺の身体にも負荷かかってるからな?)と聖霊をジト目で見ている。



「やったー! じゃあきっと、いつかレグルスも白炎を取得できるよねー。うちのパーティで努力したら。

だってー、さいきょーの魔物強化スペシャリストのレナ様がついてるんだからー♪」



ハマルがご機嫌で鼻を鳴らす。

聖霊のツボに入ったらしい。快活に笑うと、レナを包んでいる赤光を強くする!



「教育は得意なの!

うちのパーティには、手合わせが得意な先輩従魔たちに、調教師、それに[レア・クラスチェンジ体質]ギフトを持つこの私が揃っているのよ。

魂が繋がっている間、私たちが全力で貴方たちの夢を支えましょうね!

恐れるものは何もないわ。レグルス、キサ。

未来を楽しみにしててよろしくてよ!」


「『<きゃーーっ! レナ様、従えてぇーー!>』」



先輩従魔たちの声援が熱い! ヒュウーー!



「……ぐすん。レーヴェ……い、行ってくる。妾はレナ様に助けられたのじゃ。その恩を何かで返さねばならないと思う。不義理はしない」


「姫さ……んっ、キサッ! ううう、我ながらいい子に育てたもんやわ。レナ様たち、どうかキサのことをお願いね……」


「あらあら。

藤堂レナは従魔の幸せを望んでいるのよ。キサがまたラミアの里を訪れたいと言えば連れてくるし、ここで暮らしたいなら前向きに検討するわ。

ただ、今の弱体化した戦闘力では暮らすのが不安でしょうから、私たちがサポートしてあげましょうね」


「「レ、レナ様ーー!」」



ラミアの二人が信者として出来上がっている。

これだけつくされたら、好感度も爆上がりである。

ルーカが嬉々として説法モードに入り、赤の伝説をラミア族と共有した。


レグルスはたとえ従属が解除されても、現在の立ち位置に戻ることはできない。



「これが、今の俺の、歩む道なんですね……」


レグルスがゆっくりと、ロベルトに頭を下げた。

色々な感情が頭を支配していて沸騰しそうなくらいだ。

しかし、


「ロベルト隊長のご配慮、無駄にはしたくありません」


この気持ちは確固たるものだった。

頭を上げたレグルスの眉は顰められたままだが、眼差しは力強かった。


部下の今後の生き方がきまり、ロベルトは嬉しそうに笑って、獣耳を揺らした。


「ふぅ。……上層部への報告が怖いな」


「一緒に叱られてやりますよ、ロベルト隊長。ドリューも一緒にな」


「ぎゃーーっ! 遠慮したいんですけどー!? あっ、つい本音が」


「頼もしいぞ。ドリュー」


「隊長たちえげつねーです……!」



護衛部隊が和気あいあいと話している。


聖霊がふと、手を挙げた。



『それならば我々聖霊も戦力強化を手伝ってやろう。

もともと祭り事は大好きだ。

白炎を操りたいのだな、炎適性を持つレナの従魔たちよ? よし、たまわった』


カルメンが宣言した。

どっひゃー! この場の全員が驚き、冷や汗を流す。


『ちなみに、白炎は現状でまだ半分の威力しか現れておらぬ。

片割れの白炎聖霊杯カンテラを発見して、同じように覚醒させたならば、従魔を真の白炎で包むことが可能であろう』



オズワルドとレグルス、ついでに聖霊に見初められたクレハがドッと嫌な汗をかき、顔を引きつらせる。



『ふたつの白炎聖霊杯を目覚めさせることをそなたに望むぞ。

聖霊の友達、レナよ』



ーーなんという大試練を世界はよこしてくれたのか!

オズワルドのための高級食材採取の願いが、とんでもないところまで波及してしまったようだ。



「友達だからこそ、働きへの正当な対価が必要なのではなくて? カルメン。

聖霊杯探しだなんて、とても難しいと思うのだけれど」


レナがヤケクソでカルメンに笑いかける。

対する聖霊は、余裕で妖艶な笑みを浮かべている。最初から願いを聞き入れてもらう気が満々のようだ。


『もちろん。

我々を身のうちに引き入れたのだ。良いことはたくさんあるさ』



▽Next! 聖霊の願いをきく対価とは?





読んで下さってありがとうございました!



※メッセージの返信など遅れていてすみません。


誤字の修正は週明けから始めます(土日昼間は家族で過ごす時間とするため、執筆が難しいです。夜はなろうページが重すぎて、修正がはかどりません)


誤字報告はとてもありがたく受け止めています><

皆様、ありがとうございます!

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