送別会(仮装パーティ)★
お宿♡のオーナー・ネレネが所有する広場に、今宵は大きな黒いサーカステントが立てられている。
シヴァガン王国でもなかなか立地が良いこの広場は、ネレネが常連客から貢がれたらしい。
とくに用途がないので普段は子どもの遊び場として開放されているが、遊具一式を「スキル[リメイクルーム]」で端に退けて、代わりに目隠しのテントを用意してくれた。
「気兼ねなくみんなで楽しみたいものね。みんな特別可愛い子たちだから、よからぬ人からは見えないようにしておかなくちゃ。
私とララニーもパーティに誘ってくれてありがとう」
「お二人にはとてもお世話になっていますから、是非参加してもらいたかったんです。お忙しい中、予定を調整して下さってありがとうございます」
アリスとネレネが笑いあう。
一応、アリスたちの送別会なので主催はレナなのだが、お世話になったことを挨拶をするのはアリスにまかせるべきだろうと、一歩引いて見守った。
レナが本領を発揮したのはこちら。
広いテントの中はジャパンハロウィン風に可愛く飾り付けられている。
珍しい黒のテーブルクロスに赤薔薇の花飾り。柔らかなオレンジの光を灯す丸い浮遊照明がフワフワと空中に浮いている。照明には、紙で作られたコウモリの羽が丁寧にセロテープで貼り付けられていた。幼い従魔たちがわいわいと昨夜作ったものだ。
他にも、キャンドル台やら蜘蛛やネズミの小物が置かれている。
それに料理用の鉄板がテントのど真ん中に鎮座していた。
「……不思議な文化だな。わざわざアンデッド族系の装飾を楽しむなんて。お菓子をくれないとイタズラするぞ、って子どもたちが言うんだっけ?」
オズワルドが不思議そうにレナを見上げる。
バッチリ仮装の餌食になっている。
「うん。ハロウィンはそういうイベントなんだよね。今回は送別会だから、ただみんなでご飯を食べるだけだけど。
まあ私は、可愛い子にそう言われたらお菓子をプレゼントしちゃう! はい、どうぞ」
「…………そういうセリフを言うんだよな、って主さんの故郷の文化を確認しただけだよ」
仮装姿を見てでれっとしたレナが、オズワルドの口に金平糖を放り込んだ。
思わず口を開いてしまったオズワルドは、モゴモゴと咀嚼した後、金平糖を噛み砕く。
「相変わらず、主さんは従魔に甘い。ホラ、そんなだから……後ろ。他の子が口を開いて待ってるよ」
「「レーーナーー!」」
「「ご主人様〜!」」
「レナ様ぁー」
呼ばれたレナが振り返ると、幼児たち横一列に並んで「あーん!」とレナが持っているお菓子籠の中身をおねだりしている。
レナはそれぞれが好むお菓子を選んで、食べさせた。
クーイズにはパチパチ弾けるスパークキャンディ、リリーには苺ジャムクッキー、ハマルにはマシュマロ、シュシュには小さなスイートポテト。
好みを完全把握してることについて、オズワルドが呆れたような視線をレナの背中に送っている。
……唐突に、レナが崩れ落ちた!
「うちの子たちの……仮装姿……! 最高に可愛いいぃぃ!」
「何度目だよ主さん!」
レナの従魔愛が溢れ出している。重症だが、不治の病なので仕方ない。
お菓子の籠を掲げるようにしてしゃがみ込んだレナの背中をオズワルドがぽんぽんと叩くが、その手にはもふもふの狼手袋が装着されていて、軽い感触にレナはいっそう幸せなダメージを受けた。
現在の幼児たちの仮装姿は……
オバケ風ブラウスを着たクレハ、ヴァンパイア風イズミ、魔女っ子リリー、パジャマアレンジ服のハマル、桃色天使のシュシュ、そして人狼風のオズワルド。
「レナお姉ちゃんがまたときめいてるー。イタズラしちゃおうかな?」
カボチャ風ドレスを着たアリスが、手にしたやわらか素材の三又槍でレナの腕をつんつんと突いた。
「アリスちゃんの仮装姿もとっても可愛いよね。パンプキンクッキーをどうぞ。あーん」
「……うん! 美味しい。ありがとう。このドレス、普段は着ないデザインだから新鮮だなぁ」
「レナ様の意見に完全同意致します。とても似合っていますよ。アリス様」
モスラが隙なく主人を褒める。
主人同士のふれあいはモスラにとって至高の光景である。
そしてお菓子配りオカンと化したレナがモスラにも蜂蜜飴を渡して、クスクス笑っているルーカに「笑いすぎー!」と注意しつつタマゴボーロの小袋をプレゼントした。
目の前で透明な小袋を揺らしてやると瞳孔が細くなって興味を示したので、ネコとして順調に覚醒しているらしい。
レナがおかしそうにからかう。
「まあ、小さなママですこと。いつもながら微笑ましいわ」
「ですねぇ〜。はあはあ……みんな美形ちゃんだし、すさまじい目の保養ですぅぅ。隣にはネレネお姉様がいらっしゃるし……今宵は私の心もパーティですよぅ」
ネレネが内装のレイアウトを最終調整しながらふふっと笑って、お手伝い中のララニーが鼻血をたらりと流した。
ネレネにハンカチを当てられると、ララニーはいっそう鼻血を溢れさせて赤いハンカチを作り出してしまう。
慌てて増血キャンディを舐めた。
「……今日は撮影よろしくね、スマホさん」
レナが浮かぶ灯りコウモリの一つを手のひらに乗せて、こっそり話しかける。
ぽわんと温かい熱が手に伝わってきた。
今、この照明の内部にはスマホが潜んでいるのだ。
話しかけられると、カメラレンズが嬉しそうにキラリと一瞬光る。
<お任せ下さいませ! せっかくのパーティですから、気合いを入れて記録致しますとも。影の大役ですね。ホホホホホホ!
現在の私の進化率は94%で御座います。高画質撮影と動画編集等を続けていれば、近々クラスチェンジを迎えることができそうです>
「わあ! 楽しみだねぇ。進化したらスマホさんの歓迎会もしようね。今日みたいにたくさん美味しい料理を作るから」
<ああーーん! マスタァーー! その時が待ち遠しいですぅーー!>
主人と戯れた後、スマホはまた天井付近に浮遊して戻った。
レナはスマホを見上げて(誰よりも付き合いが長いんだよねぇ。日本にいた時からの友達だもんね)と、記録されている思い出を懐かしく振り返る。
……なんと濃い異世界生活だろうか。
帰れない故郷に、これから生きていくラナシュ世界。大切な記憶がスマホにも、レナの心にもたくさん詰まっている。
今夜のパーティも素晴らしい思い出になるだろう。
そのために、全力で準備しなくてはね!
レナは「今を楽しもう!」と気持ちを切り替えると、マジックバッグから次々と湯気の立った料理を取り出して、テーブルに並べ始める。
昨日から1日がかりで作った大作のパーティメニューだ。
大容量マジックバッグは敏腕バイヤーのアリスからの借り物だと言い訳してあるので、淫魔オーナーたちの前でも普通に披露した。
チキンにフライドポテト、パンプキンパイに野菜スティック、色々な食材がちょこんと乗ったクラッカーやタルト。手の込んだミニケーキ。
簡単につまめる料理と飲み物をたくさん並べて、準備は完了!
サランラップ代わりに、ルーカが各お皿に[サンクチュアリ]を展開した。
「さあ、誰から来るかな〜?」
入り口付近にレナたちが並んで、わくわくと出迎え体勢をとる。
ルーカがテントの外をじいっと視つめた。
「あ、ロベルトさんたちが来たみたい。かなり早めの到着だね」
▽おいでませパーティへ!
***
仕事を終えて、広場にまず辿り着いた3名はサーカステントを見てピタッと歩みを止めた。
ショッキングピンクの電飾が眩しく輝いているぅーー!
「…………ここか。なんというか……彼女たちらしいな……」
「あれれぇ? 淫魔のお宿♡かな?」
「きゃあっ」
呆れた顔のロベルト、ニヤニヤ笑いが抑えらないマリアベル、顔を赤くして指の隙間からテントを見たクリエ。反応は三者三様である。
「うむ。慣れた。レナ様だから仕方ないな。新たな伝説の1ページか」
「ロベルトは毎日お宿♡に通い詰めだもんねぇ。そりゃ慣れるわ!」
「その言い方はよせ。クリエさん、仕事ですから」
「そうなんですかー。それより早く行きませんか?」
ロベルトがレナをいじり、マリアベルがロベルトをからかい、弁明したロベルトをクリエがスルーした。
そんな事なんかよりも早く妖精女王様に会いたいらしい。
ロベルトたちが入り口に立てられた看板のリップマークに招待状をかざすと、ちゅっと音がして「ようこそ♡」の文字が浮かび上がる。
やっぱりお宿♡だー! とマリアベルがケラケラ笑った。
淫魔サキュバスの固有スキル[誘いのリップ]により、テリトリー内へ入る者が識別されたのだ。
招待状のそれぞれの名前には、ネレネの赤いルージュのキスマークが付けられている。
余談だが、淫魔族がハンカチを噛みしめて羨ましがるレベルのレア品である。
招待状を手に、三人が広場に足を踏み入れた。
薄い結界をくぐり抜けた感触を感じながら。
「こんばんはぁー!」
待ちきれなかったマリアベルが、真っ先に入口のカーテンを開けると……!
薔薇の花びらが三人に降り注ぎ、視界をふんわり赤く染める。
籠を持ち赤い花びらを投げて、フラワーシャワーを行っているのは仮装した子どもたちで、モスラの風が花びらを穏やかに空中に留めていた。
思わぬ歓迎に、三人の目が丸くなる。
「「わあ!」」
「……こんばんは。素敵なお迎えをありがとうございます」
マリアベルとクリエは嬉しそうに花びらの舞を楽しんで、仮装した子どもたちを見て、歓声を上げた。
「「可愛い〜!」」
ロベルトが会釈して、まずホストのドヤ顔レナと主役のアリスに視線を合わせる。
レナが答えた。
「今日もお仕事お疲れ様でした。皆さんにパーティに参加してもらえて嬉しいです! ごちそうを用意したので、今夜はいっぱい楽しんで行って下さいね」
「分かりました。それでは、お言葉に甘えてリラックスさせて頂きます。
アリスさん、モスラさん。昨日は経済部マモンとの会合、お疲れ様でした。シヴァガン王国でのご活躍はよく聞いています。
いったんトイリアに帰還されるとのことですが、また是非この国にいらして下さい。観光としても、商談でも」
ロベルトの言葉に、アリスがにこっと微笑む。
「ありがとうございます、そう言って頂けてとても嬉しいです。と、マモン様にお伝え下さい」
……さすがに、一度会ったきりの身分の高い人物を、さっそく翌日の送別会に誘ったりはできなかった。
大悪魔マモンとの繋がりはもちろん欲しいが、急いては事を仕損ずる。
時間をかけて、オトす!
アリスは長い目で策略を練っていた。
「ええ、彼も今夜のパーティを羨ましがっていたと同僚から聞きましたよ。まぁかなり多忙なので、例え誘ってもらっていても現在は出張で不在なのですが。伝言は伝えますね」
「! 気にかけて頂けて光栄です……!
では、ここからは硬い挨拶はなしにしましょう」
ご機嫌なアリスとロベルトが軽めに挨拶を終わらせる。
仮装したリリーに目が釘付けだった妖精族二人も、トイリアに帰るアリスとモスラに声をかけた。なんとかマナーを忘れていなかった。
「本日は送別パーティにお誘い頂き、ありがとうございまーすっ! ここ最近はずーっと皆さんで一緒にいらっしゃったから、なんだか寂しくなっちゃいますねぇ。また来て下さいねー!」
「近々、丁寧に作ったアクセサリーを送ります。敏腕の商人さんとご縁ができたこと、とても頼もしいです……今後も宝飾店メディチをよろしくお願い致します。
もちろん、知り合いとしても仲良くして頂けたら嬉しいです。えへへ……」
マリアベルが元気に挨拶して、クリエが照れ笑いする。
アリスはにっこり笑って、二人に「こちらこそ、お越し頂きありがとうございます。今後もよろしくお願いします」とスマートに返答した。
二人がうずうずとリリーを見つめているので、苦笑したレナがテーブルに来客を案内する。
さすがにパーティの場で叱責することは憚られたロベルトが、妖精族のお守りから手が離れてホッと息を吐いた。
席についた来客三人は、物珍しそうにテントの内部を見渡す。
リリーとシュシュも椅子に座って、ハロウィンについてざっっっくり説明してあげた。
「「アンデッド族みたいな仮装をしてはしゃぐお祭りなの!」」
間違いではない。
「あ、次の来客だよ。ドワーフ鍛治工房イーベルアーニャの親方とガルボさんだね」
ルーカが外を透視してみんなに声をかけた。
幻覚がかかっていない金色猫の姿だが、顔の上部を隠す仮面を付けている。さすがにこれだけ美形だらけの空間にいれば、端正な容姿コンプレックスのルーカも目立たない。
鍛治工房にはアリスとモスラが何度か足を運び、商談を取り付けているので催しに声をかけたのだ。
ちなみに、ルネリアナ・ロマンス社はデザイナー育成に大忙しらしく、パーティ参加は丁重に断られている。
アンベリール・ブレスレットの従業員も明日は大切な来客があり、準備に忙しいので不参加らしい。
「それと、ワイバーン空便のラギアさんも来たね。広場の入口でドワーフたちとばったり遭遇して…………あ。ガルボさんが驚いて尻餅をついちゃった。
ヒト型のラギアさんは体格が立派で迫力があるから、彼女が苦手なタイプなのかもしれない」
「そっか、ガルボちゃん人見知りみたいだし……。うーん……この場にこれから集まるメンバーに耐えられるかな……?」
レナが、招待状出した人選を思い浮かべて、悪いことしちゃったかなーと冷や汗をかいて呟く。
しかし、従業員の誰を誘うかはお任せするとアリスが親方に告げて、「ガルボの人見知りを直してやるいい機会だ」と親方がガルボを誘い、本人が受け入れたのだから、頑張ってもらうとしよう。
「いらっしゃいませ〜〜!」
よっしゃ、緊張をほぐすためにも、精一杯歓迎しようか!
「ひゃっ!?」
舞い狂う花吹雪に驚いて、ガルボがまた尻餅をついてしまった……レナパーティは基本的にやり過ぎる傾向がある。
ごめんねー、と着飾った幼児たちがガルボを取り囲むと、従魔たちの魔人族姿に面識がなかったガルボは固まってしまったので、レナがさっさと席に案内してあげた。
手短に親方とラギアに挨拶を終えたアリスが上手にガルボにも話しかけて、やっと緊張が少し解されてきた様子。
ガルボはしゅんと肩をすぼめて、小さくなっている。
「わ、私……人と話すのとか下手っぴで。せっかく楽しい場に誘ってもらったのに全然ダメダメで、なんだかごめんなさい……」
ガルボにクリエが優しく微笑みかける。
「ガルボさん。初めまして。私、宝飾職人のクリエと申します。宝飾店メディチの店主です。
私もお話は得意じゃないの……アクセサリーを黙々と作ってる方が落ち着くから。一緒ですね」
「! ……ええと、はいっ」
「良かったらお友達になってくれませんか?」
「え。わ、私で良いんですかぁ……!?」
「ええ! 若い子のお話、たくさん聞かせて欲しいもの。将来はどんな職人になりたいの? 夢を語りあいましょう」
ガルボとクリエの歳の差はウン十歳……げほげほ。
雰囲気が柔らかいクリエとなら、ガルボもなんとか会話ができそうだ。
頬を染めて嬉しそうに話し始めている。
親方が感激したように瞳を潤ませ、ズビッと鼻をすすった。
「てやんでぇ、ガルボを連れてきて良かったぜ!
工房には男ばかりで、あいつと同じ歳くらいの若い奴もいねぇ。
故郷は遠くてなかなか帰れないから、普段はさみしい思いをさせてるんだよな。おう綺麗なお嬢さん、ありがとう!」
親方が手土産を持って、意気揚々とみんなが集うテーブルに向かった。
今度はクリエにビクッと反応されてしまい、「いっけね、大きい声は気をつけなくちゃな」と苦笑いする。
テーブルにはロベルトたちが持ってきた手土産も合わせて、包みが4つ置かれた。
入り口で棒立ちしていたヒト型のラギアには、幼児たちがキラキラと好奇心に溢れた視線を送っている。
「「おっきーい! ねぇねぇ、腕にぶら下がってもいーい?」」
「おう。好きにしてくれ」
ラギアがビビりながらも許可を出すと、クーイズが「「ひゃっほーう!」」と嬉しそうにムキムキの腕にぶら下がって遊びだす。ハロウィン衣装が着崩れようがお構いなしだ。
ハラハラ見ているレナにネレネが「また後で着付け直してあげるわ」と声をかけて安心させた。
「「ひゅーー! 高ーい!」」
「ほっぺの端っこまで竜のウロコがあるのってー、竜種の特徴なんですかー? かっちょいいねー」
「ワイバーンでここまで大型の魔人族姿になるタイプは珍しいな。二メートルは超えてるし。
前から疑問に思ってたけど、もしかしてドラゴンの血が混ざっているんじゃないか?」
上から、クーイズ、ハマル、オズワルドだ。
巨体で強面の姿でも怖がらずに近寄ってきてくれる子どもがいて、ラギアは申し訳なさそうな表情から一転、嬉しそうに黄色の目を細めている。硬質そうな髪は、ウロコと同じような青緑色だ。
「ああ、俺は生粋のワイバーンじゃなくドラゴンとの混血なんだ。身体が大きいのはドラゴンの、ウロコが頬にあるのと角が短いのはワイバーンの特徴だな。
オズワルドの坊ちゃん、仲魔は女の子ばかりだったんだなぁ。ちぃと肩身が狭いか? いや、みんなおてんばだからそうでもないか」
ラギアがオズワルドをからかおうとするが、
「……そいつらも坊ちゃんだぞ」
「へ!?」
そうなのだった。
「「クーとイズは男の子と女の子、どっちにでもなれるのよー! やーん万能ー♡」」
「!?!?」
クーイズの発言で、ラギアの混乱がいっそう加速する。
ハマルがヒラヒラフリルとリボンの装飾を着こなしすぎているのも原因である。
ひとまず、テーブルにラギアも案内する。
みんなとお菓子をつまみながら待っていてもらうことにした。
全員が早めに来場したので、あとは一番恐ろしいあの人を待つのみとなった……。
パーティの招待時間が近付いてきて、入り口に整列し直したレナたちがゴクリと唾を飲む。
「えーと、退路をガッツリ絶つように誘ったからには絶対に楽しませなくちゃね。みんなー、おもてなし頑張るよ!」
「「「「「えいえいおーー!」」」」」
「主さんはどんな風に招待したんだよ!?」
オズワルドのツッコミが忙しい。日々ツッコミ力が磨かれている。
「アリス様の送別会なのですし、あちらもお客様になるだけのつもりではないでしょう。そんなに怖がらなくても大丈夫ですよレナ様。万が一のことがあれば、なんとかしますから。お任せ下さいませ」
「穏便にねーモスラ……気持ちはありがたく受け取るね。
あのね、色々お手伝いしてくれようとするけど、貴方の送別会でもあるからね? たくさんおもてなしさせて! 二人が主賓だから!」
▽モスラの レナ様崇拝度が ぐーーん! と上がった!
他ならぬオズワルドには言えない事情があったりもする。レナは誤魔化すようにオズワルドの頭を撫でておいた。
モスラは髪をセットしていたので、気遣いのお礼に、追加で蜂蜜飴をもう一つ渡してあげた。
過激な発言にビックリしたレナは、かなり肩の力が抜けたようだ。よし!
ーー招待した時間の2分前になる。広場前に三人の人影が現れた!
そう告げたルーカが口元を押さえて笑い沈んだので、レナたちの間に緊張が走る!
何事だッ!?
看板のリップマークに招待状をかざして、最後の招待客がテントの入り口に足を踏み入れたのは招待時間ジャスト。
完全に消していた気配を一人が元に戻したので、グアッ! と威圧感が溢れ出し、テント内を硬直させる。
(((うわ、ものっそい不機嫌そう!!)))
テント内の全員が、来場者を見て震撼した。
「……あら、楽しい雰囲気を台無しにしたりなさらないですよね? 貴方はパーティに招待されたのだから。ドレスコードは笑顔ですわ。
招待状に書かれていなくてもきっとお分かりでいらっしゃるでしょうけれど……出すぎた発言、失礼いたしました」
ネレネが美しく微笑んで、サラリと毒を吐く。
ゴウッと空気が凍えた。
「……こ ん ば ん は。ご招待ありがとう御座います」
▽サディス宰相が現れたァーー!
ネレネの発言により、顰め面が無表情にクラスチェンジしている。
しかし改めて気配を遮断したので、威圧感は感じられなくなった。
怖がりのガルボとクリエが、ふーーっ! と息を吐いた。いつの間にか仲良く手を取り合っている。
「こんばんは、ご来場ありがとうございます。サディス宰しょ……今は敬称なく呼んだほうが良いですか?」
レナがにこっと愛想よく聞く。
ドレスコードは笑顔! ネレネの言葉はもっともだと感じたので、心がけてみたのだ。
(ビビってちゃいけないな。うなれ、私のパッシブスキル[友愛の微笑み]ッ!)
レナの思考を覗き視してしまったルーカがプルプル震えている。
テレパシーで状況を伝えようとタイミングを視計らっていたのだが、間が悪すぎた。
「ええ。今夜はプライベートでお邪魔していますので、どうぞ敬称はお気になさらず。
家族ともどもご招待頂き、大 変 嬉 し く思っています」
それは良かった!!!
レナはヤケクソで心を奮い立たせる。
「あ、あはははは。サディスさんがそうおっしゃってくれて何よりです。
たくさん催し物を企画しましたので、ご家族で是非楽しんでいって下さいね」
レナは挨拶を無事に終えた。やったぜ。
宰相は身体の弱い一人娘をできるだけ一人きりにしないように、いつも仕事を定時に終わらせて家に直行直帰している、とロベルトから聞いていたので、家族ぐるみで招待したのである。ついでに魔王招待についても相談した。退路を絶ったとはこの事であった。
ちなみに、レナに宰相のプライベートを話してしまったロベルトは気まずそうに額を押さえている。
まさかこう利用されるとは予想できなかったのだ。
レナたちは宰相家族を楽しませてみせるだろうから、許してやってくれ。
宰相がアリスとモスラにも、堅苦しく挨拶する。
話し終わると、宰相の腰の辺りから、ひょこっと女の子が顔を覗かせた。
「「わぁ、お姉ちゃんか〜わ〜い〜い〜!」」
従魔たちのあざとさ満点の声かけにビックリして、女の子は真っ赤になってしまう。
このような距離感に慣れていないらしい。
「皆さんにきちんと挨拶できますね」
「は、はい。お父様」
宰相の後ろから思い切ったように現れたのは、アリスと同じ歳くらいの女の子。
ほとんどピンクに近い薄めの朱色の髪に、父親そっくりの青の瞳。日に当たっていなさそうな白すぎる柔肌。ゆったりした清楚なロングワンピースが、繊細な雰囲気によく似合っている。
「……宰相サディス・シュナイゼの娘、ノア・シュナイゼと申します。
皆様、本日は私も催しにご招待下さり、誠にありがとうございます」
ぺこっと最敬礼した後、アリスとモスラに視線を向けた。
「アリスさん、モスラさん。シヴァガン王国を気に入って頂けていたら嬉しいです。
私は明日のお見送りに参加できないので、一言だけ……お帰りになる道中、お気をつけて。旅の安全をお祈り致します」
挨拶したあと、綺麗な微笑みを浮かべてみせた。
対応としてかなり上出来、と宰相とアリスがノアを評価する。
父親の日々の教育の賜物だろう。
ここで、宰相の上着が後ろからグイグイ引っ張られた。
もう一人いるらしいが、誰? ……と、招待客たちが怪訝な顔をしている。
なぜ宰相の影に隠れられるのか? と、レナたちも怪訝な顔つきになった。
「…………それでは、もう一人紹介を。失礼のないようにご挨拶なさい……」
宰相が噛みしめるように低い声で言うと、後ろで、黒紫の見事な尻尾が大きく揺れた!
オズワルドの顎がカクンと落ちる。
男児が元気に飛び出してきたのだ!
「やっとか、宰相! 我は待ちくたびれていたぞ。ここまで完全に気配を消すのはさすがに疲れるな。もちろん、慣れないこの身体のせいもあるかもしれんが」
「無駄なことを口にせず早く挨拶しなさい話はそれからですさあ」
宰相が怒……いや連れの者を叱っている! さすが教育者ー!
「はああッ!?」
ここでようやくオズワルドが声を上げた。
ちなみに事態を察したマリアベルとロベルトも絶句し、レナたちが目を剥いている。
注目を集めているのは、ノアよりも少し身長が高い男の子。
見事な艶の黒紫の長髪に、ギラリと輝く黄金の瞳。にいっと笑うと鋭い犬歯が覗いた。
立派なケルベロスの耳と尻尾が、彼が何者かを明らかにしている。
「待たせたな皆の衆よ! 我が名はドッもがっ」
「零点です、悔い改めなさい。
この者はシュナイゼ家の遠い遠い遠い遠い遠い遠い遠い遠い遠い遠い遠い親戚です。
名前はルイス。
たまたま現在我が家に滞在していたので、一人きりにするよりはと連れてきました。こちらの事情を聞き届けて、彼の分まで招待状を送って頂き、誠にありがとうございます」
どう見ても魔王ドグマァァァァ!!
レナが宰相宛に送った封筒にはドグマへの招待状も入っていたので、それを使ってテントに入ったのだろう。
しかし、子どもになっているなんて予想外を通り越して意味不明である。
宰相は親戚の子と言い張っている。
これ以上、聞けない。
魔王が何らかの理由で子どもになってしまっているなら、シヴァガン王国の一大事だ。
レナが背中にダラダラ冷や汗をかく。
子ドグマ……いやいやルイスの口を片手で押さえた宰相は、持っていたアタッシュケースを床に置き、開くと、何やら鳥かごのようなものを取り出した。
中はマジックバッグの異空間のようだ。
「これは所有物として持ち込みが可能でした。皆様、認知をよろしくお願い申し上げます」
中には30センチほどの人形が!
継ぎ接ぎだらけ!
「ハァーーイ☆」
どう見てもグルニカァァァァ!!
何か、あったのだろう。
マジックバッグの中は空気が存在しないと言われているが、グルニカはアンデッド族なので生きられたらしい。
レナたちが同情したように宰相を見ると、宰相の鉄面皮にも、ふっと影が落ちた気がした……。
「これは単なる独り言なのですが。
私はドグマ様にこの送別会の事をどのように伝えようか、悩んでおりました。
もし一国の王が非公式の他国籍のパーティに訪れるとなると、色々と邪推する者が現れるからです。
そこでトラップ魔道具の『ミニチュア牢』に改良を施すようグルニカに命じました。この魔道具は、対象者を小さくして閉じ込める効果がありますが、罠のままでは、中にいる間に生気を吸い取られてしまいますので。
トラップ効果を変え、ただ内密な移動のためだけに使おうと考えました」
ここで、宰相がグルニカ入りのカゴを掲げる。
おそらくこの中にドグマを収納するつもりだったのだろう。
布をかけて手で持ち運べば目立たない。
さらに言えば、収納したままパーティに参加させて、ある程度過ごしたら速やかに持ち帰るつもりだった。
話はまだ続く。
「しかし……ドグマ様は送別会の事をいつの間にか知って、独自にグルニカに接触を図りました。
グルニカは罠の改良の前に、研究用に取り寄せた『再生ドリンク』の改造を始めていた。好奇心優先もいい加減にして頂きたい。失礼。
改造が終わり、自分で人体実験を試した結果……『一定時間だけ身体が若返り、能力はそのまま』だったグルニカを見て、ドグマ様の野生の本能が疼いたんでしょうね。
少し、トラブルがありました」
少し、という言葉は、ものすごく、と解釈するべきだろう。
「なんてことない思い出話です。グルニカは問題なく元に戻りましたから」
そしていざという時のためにそのグルニカを連れてきたのだろう。
いざという時って何かって?
目の前に黒紫の男児がいるではないか?
あとは察してくれ。
この場にいる全員が、事情を把握した。
やはり、宰相に同情の視線が集まる。
「話しすぎましたね。忘れて下さい」
宰相の言葉に、巻き込まれてしまった職人たちがコクコクコクコク首を縦にふる。
他言すれば、速攻で特定される。そしてきっと恐ろしい目に合うのだろう。
「いつまでも入り口で話しているものではない。宰相こそ話が長いではないか。
ふむ、今ばかりはルイスと名乗る事にしよう。ツェルガガが名付けた名称を変えるのはあまり気が進まないが、まあ出会う前の姿に戻っているのだし、問題ないだろう。
低い視線とは新鮮なものだな、オズワルド!」
色々ダダ漏れている。
様々な感情がない交ぜになり、オズワルドの尻尾の毛がブワッと逆立った。
「……とりあえず席に案内するから、黙って俺について来て! 後でアリスとモスラに挨拶してくれ。ルイス、アンタはルイスだな!?」
「はははは! 言うようになったではないか、成長したな、息子よ」
現在のドグマはオズワルドと似たような見た目なので、発言には違和感しかない。
並ぶと親子だと分かる、とレナが思った。
そして、ルイスというキャラクターの台本を作り学習させていた宰相がそろそろブチ切れそうである。
進めようぜ!
宰相一家が加わって、パーティ参加者が揃った!
それぞれがテーブルにつき、ルーカがドリンクを給仕する。今夜ばかりはモスラもお客様なのだ。
全員に、ワイングラスに入った血のようなブラッドオレンジジュースが配られる。
レナが代表で杯を掲げた!
「えー、今宵はお集まり頂きありがとうございます。
バイヤーのアリス・スチュアートとモスラのこれからの活躍と帰路の安全を願って、乾杯!
たっぷり楽しみましょう〜!」
▽パーティが 始まった!




