とんでもないものを手に入れてしまいました
お宿♡に帰ると、ルーカに従魔たちが群がった。なぜか?
「ルカにゃん! ネコミミくすぐりの刑!」
レナがびしっとルーカを指差してそう言ったからだ。
イタズラ盛りの幼い従魔たちは大喜び!
まとわりついて手を引き背中を押し、どぉーーん! とみんなでベッドにダイブした。
「いや、ちょっとの制裁くらいは覚悟してたけど。みんな僕を拘束するためにわざわざヒト型にまでなる!? うわ、これガチの奴だ……!」
ルーカがさすがに青ざめると、
「「おおーっと、そんなに怖がらなくてもいいじゃーねぇか! 子猫ちゃーん?」」
「クスクスクスクスッ! クーとイズ、お、面白すぎる。お腹痛いー、クスクスッ」
「「そのネコミミ、覚悟ー!」」
従魔たちはさらに大興奮!
まるで全員サディストのようなニヤニヤ顔である。レナが高笑いしている。ヤケクソだ。
▽幼児たちの くすぐり攻撃! ×5
ルーカが身悶えして笑い転げている間に、新称号の効果を確認しよう。
ーーー
[トラブル体質]……日々様々なトラブルに遭遇している者に贈られる称号。セットすると周囲から同情心が得られるが、より高難度なトラブルに見舞われる。
トラブルが過ぎ去ったあとは、相応の幸運が訪れる。
波乱万丈な人生を送ることができるだろう。
ーーー
トラブル、幸運、運命全部盛りというトンデモ称号を取得してしまった。
なけなしの同情心程度ではフォローできないほどの効果だ。
さらに、この効果はおそらくいくつかの称号と同様、セットしていなくてもわずかな効果を発揮し続けるタイプだと思われる。
例えばレナの[サディスト]、ルーカの[赤の宣教師]、ハマルの[マゾヒスト]、モスラの[カリスマ]などが該当する。
「ああぁーー……平穏な生活がまた遠のいていくぅーー……」
レナががっくりと項垂れた。
モスラとアリスが顔を見合わせる。
「レナお姉ちゃん……私も、ごめんなさい……」
▽アリスの 上目遣い!
▽レナは 癒された。
「リリー先輩! 猫の血液もどうぞ召し上がって下さいませ。きっと珍味ですよ」
▽モスラの 追い打ち!
「イイね……! 飲んでみよう。いっただきまーすっ」
「ちょっ!? モスラ何余計なこと言ってくれてるの……待ってリリー、いだだだだ! ヒト型の牙すっごく痛いっ」
「んっ? ぷはっ。そんなに美味しくなかった……」
「従魔にとって至高であるレナの血液と、糖度ふりきれたモスラの蜜血液と比べられちゃあ、敵わないって……。
うわぁ噛み跡えっぐい」
ルーカの首筋には犬歯の穴がふたつ開いて、赤い血液がじわっと滲んでいる。
『『休憩してるヒマはないぜ! ルーカぁ。そーれそーれ』』
「クレハとイズミ、触手は勘弁!
今度はわざわざ魔物に戻るの!?」
スマホがバッチリ高画質撮影している中、オズワルドもモスラにぽいっと輪の中に放り込まれて、レナの従魔たちは騒いで笑って、絆を深めた!
ルーカの首筋の噛み跡をレナが治療してあげて……少し過激だった制裁も終わり。
それでは、問題の金属球の説明に移ろう。
金色猫に戻ったルーカが乱れた髪を手で整えつつ、紫眼を細めて、テーブル上の謎金属球を視つめる。
[鑑定眼]を発動させて、この金属球の性質、意思、記憶を、どこまでも深く深く覗いていった。
「……うん。[鑑定]が終わったよ」
「早いです!」
アリスが目を見開いて驚く。
ルーカの事だから完璧に[鑑定]を終えているはず、仕事の正確さと速度に舌を巻いた。
時々ガクッと評価を下げることはあるものの、アリスにとって、ルーカは尊敬できるお兄さんという立場に固定されたようだ。めでたしめでたし。
「「ぱふぱふーー♪」」
クーイズが先ほどの悪ふざけを取り繕うように、可愛らしく笑ってルーカの両腕にぴとっとくっ付いた。
ルーカは「しょうがないなぁ」と苦笑している。
「それじゃ、この金属球について説明するね。これは『カンテラ』という道具だったんだよ」
「カンテラ? えーと……ランタンみたいなものですっけ」
「レナ、よく出来ました。
そう、カンテラは主に外で使用される頑丈なランタン。暗所で光を得るためのものだね。
長いこと溶岩の中に埋まってたから形が変わっちゃってるけど。
そしてこのカンテラの素材は太古の希少金属[緋々色黄金]」
核心ズバリ! みんなの目玉が飛び出さんばかりだ。
「ええーー!? う、嘘っ! なんかファンタジーですごく凄いやつじゃないですかー!?」
「ヒヒイロカネって……歴史的大発見だよぉ!? レナお姉ちゃん、どうするのこれ……。さすがに隠し通せないって!」
「アリスちゃんストップやめて胃が痛い……! 頭も痛い」
アリスが愕然とした表情でレナの肩を掴みガクガク揺らしてしまい、レナは気持ち悪そうにしている。
モスラが慌ててアリスとレナの間に入り、手を離させた。
アリスがハッとして、レナに謝る。
バイヤーアリスは希少金属の価値を、言わばこの場にいる誰よりもよく理解していたのだ。
ヒヒイロカネは現在、ラナシュのどこの市場にも存在しない幻の素材なのである。
とりあえず、全員がじっと、ルーカの説明の続きを待つ。
「[緋々色黄金]はかつて火山地帯で採取されたと言われる、緋色がかったとても美しい黄金のこと。言い伝え通りだよ。頑丈で、たくさんの魔法付与にも耐えられる。
昔の時代でも高級な素材だったから、普通なら、カンテラみたいな日用道具にヒヒイロカネが使用されるなんて絶対にありえない。
しかも……このカンテラには、最高品質のヒヒイロカネが使われている」
それでは一体、この謎金属球は何物だと言うのだろうか……?
ルーカも緊張しているらしく、ネコミミがピンと立っている。
サンクチュアリの中にいるが、つい声をひそめて話した。
「……これは鉱山に潜る際に、事故が起きないよう、祈願するためのシンボルアイテムだったんだ。
分かりやすいように言えば、教会の聖印のようなものだね。
だからこそ特別な素材で作られて、毎日祈りを捧げられ、信仰心を集めていた」
「…………信仰心」
レナが背中に冷や汗をダラダラ流し始めた。
「そう。みんな、ピンときたみたいだね?
ーーこの金属球には”太古の聖霊”が宿っている!
シルフィーネが宿る乙女の精霊樹のような媒体がこれ、ってこと。
かつて火山地帯に住んでいた白炎一族が崇め奉った、炎の聖霊の気配を感じるよ」
「〜〜〜ッッ!?!?」
レナたちの脳内はもはや大混乱なんて生易しいものではない。
一国が総力をかけて守っているような、聖霊の媒体そのものを購入してしまったのだ!
しかも、太古の聖霊とかいうヤバそうなやつ。
ルーカ曰く、この特別な存在は精霊ではなく聖霊と視えているのだとか。
「太古の聖霊って……今の時代の精霊とはまた違うんですか……?」
レナがカラカラに乾いた声で尋ねる。
「そうだね。大精霊シルフィネシア級かな」
「ひえーーーっ!?」
レナは叫んで、獣の姿に戻ってふてくされていたオズワルドにもふん! と顔を埋めた。
オズワルドは尻尾をぶわっと逆立てて逃げようとしたが、魔物型に戻って速攻滑り込んできたハマルとシュシュに押し戻されたので、大人しくレナにもふられるしかなくなった。
最初は遠慮してオズワルドにあまり触れなかったレナは、持ち前の「まあいっか」をかなり前に発動させていた。
▽レナは 疲労した心を 癒している。
「まだまだ、話さなきゃいけないことはたくさんあるからね? レナ。耳を傾けておいて」
「ひーー……」
『……聖霊を信仰していた白炎族は、ある時種族間抗争に負けて滅びたって伝えられてるぞ。
何百年も昔の話だ。
それなのに、そのカンテラの聖霊は今まで存在し続けられたっていうのか……?
信者たちは滅びて、媒体もグルニカが発掘しなければいけないほどの場所に埋もれていたのに。
聖霊、精霊は信仰心が無くなると弱って、やがて消滅してしまうって常識だろう』
オズワルドがレナの腕からにゅっと不機嫌そうに顔を出して、ルーカに答えを求めた。
「ドワーフ一族は、高温の白い聖火を操ることができた白炎族をすごく尊敬しているよね。鍛治は火力が命だからって。
発掘された骨董品などから、故郷のはるか昔の様子に思いを馳せて、白炎族を歌で語り、物語で語り……存在を忘れることはなかった。
ドワーフ族伝統の白炎歌の一節に、こんなフレーズがあるらしい。
"かの一族に聖なる白き火を与えたもうた尊き存在ーーー♪"…………この尊き、のあとは歌わずに口笛を鳴らしたり、手を叩いて踊るんだけど。
白炎族が鉱山内部の岩に刻んだ文字は、この部分が崩れていて読み取れなかったんだ。
この部分が、聖霊を指していたんじゃないかな」
『そんな僅かな繋がりでー、今までよく自我を保っていられたねぇー』
『それだけ……聖霊は、強い存在、だったの……?』
「うん。僕が視たところによると、かつて聖霊の加護を受けた白炎族は、白い炎でミスリルをも完全に溶かしたようだ。
ドワーフ族が扱える青い炎では、ミスリルを少し柔らかくすることしかできない。
何度も繰り返し熱を入れ直して、槌を打ち、形状を整えてミスリル武器を作っているね。
ミスリルが超高価なのは、人件費と技術料も込みなんだよね」
「貴方、ドワーフ族の脳内を覗いたからそんなに詳しいんでしょう?」
モスラが呆れたようにルーカを見る。
話すほど、ルーカはみんなから三者三様の視線を向けられていた。
「モスラ大正解。すれ違った職人をちょちょいと視ちゃった。
でもこの情報、すごく役に立ったよねご主人様! 褒めてくれる?」
「全部こっちに被せてくるあたりさすがルーカさんですよね。
どれどれ……頭撫でてあげるからこちらにいらっしゃいな」
もふもふに埋もれたレナが、ルーカを手招きして呼び寄せた。
腕にオズワルド膝にハマル腰にシュシュ、動けないのだ。
重大発表すぎて、レナは疲れた顔をしている。
パンクしそうな頭で、必死にここまでの情報を整理していた。
『『ごろにゃーーん♪ にゃんにゃん♪』』
「あ、こら、クレハとイズミ。変な効果音はやめてよ。恥ずかしいってば」
「ええと……ルーカお兄ちゃんの恥ずかしい基準がよく分からない……」
アリスが首を傾げている。
レナの気苦労がちょっと紛れた。
大抵従魔たちがトラブルを呼び込むのだが、レナを癒してくれるのもまた、従魔たちなのである。
「この金属球が私に向かってきたのは、大精霊シルフィネシアの加護が原因ですか?」
レナが自分なりに考えをまとめて発言する。
「その通り。僕とレナの[精霊の友達]の称号、加護を受けた従魔がたくさんいたこと。
あとは緋色がくすんだ朱色だったから、[赤の女王様]に惹かれたのかもね?」
「う! ……叩き落としちゃったんだけど。なにか伝えたい事があったのかなぁ? 太古の聖霊さん」
「レナに向かってきたのはこの金属球の意思だと視た。
けれど、本当に僅かな信仰心のなごりで自我を保っていたから、あの行動だけで力を使い果してしまったみたいだ。
しばらくは意思を表すこともできないだろう。そうなると、僕が思考を読むこともできない。
向かってきた時はただひたすら、接触しなくちゃ、自分を知ってもらわなくちゃって気持ちだったよ。
休息期間をおいて魔力が回復したら、ようやく話ができそうかな」
「ざ、罪悪感が……」
「危なかったから対応は仕方ないよ。
もしレナの無礼者アタックが間に合わなかったら、みんながこの金属球を攻撃してたと思う。
僕が[サンクチュアリ]を展開するか、モスラがマジ殴りで砕くか、シュシュが[衝撃覇]でぶっ飛ばすか……それぞれ準備してた」
「えっ。そうだったの? みんなありがとう」
レナがハッとした表情で、従魔みんなにお礼を言うと、得意げな笑顔で「あたぼぅよ!」的な言葉をそれぞれが返した。
モスラが金属球を砕けたのか? については、レア従魔補正と、金属球の風化による強度の低下で砕けそうな見積もりだった、とのこと。
「この金属球は見ての通り、かなり傷んでいるよね……。信者を失い、マグマの中に何百年も飲み込まれていたから。
幻の金属[緋々色黄金]としての価値は、今の状態じゃあ正直見出せない。
だけど、聖霊が宿る特別なカンテラだ。
本来の力を取り戻したなら、白炎を灯すアイテムとして、命を吹き返すだろう」
白炎がこの現代によみがえるということ。
世界中からの大注目は必須である。
「はい! 私たちがこの聖霊について認識した事で、信仰心が高まる手助けになってる……って考え方もできますか?」
「よい質問です、アリスさん。おっしゃる通り。
あとは、金属球は今はほとんどが付着した溶岩で黒くなっているけど、本来の緋色を取り戻すとより回復が早まる。レナの所有物になったんだから」
「赤判定される緋色かー……どうしよう? あっ、こうしよう」
レナは金属球を掴むと、クレハのスライムボディの中にむにゅんっと埋め込んだ。
『ああーーん♡』
▽クレハの 核が ふたつになった!
「『<雑!!>』」
さすがのモスラも「さすがですレナ様!」と持ち上げずに本音を叫んだ。
しかし、またガルボに彩色を頼んだりすると、何事かと深読みされてしまいそうである。
ルーカの判定によると「赤の魔道具だと認識されてるね……ラナシュ……」とのことなので、当分夜のみこのままでカンテラの回復を待つことにした。
昼間にこの状態で万が一クレハが盗まれでもしたらレナがキレる。
クレハは特に違和感がないらしく、『この金属球の表面の溶岩、美味し〜い! 無限に舐められる飴みたい!』と純粋にはしゃいでいる。
イズミが『いいなぁ〜』と羨ましがった。
溶かしちゃダメだよ、とレナが一応釘を刺し、サイズが少し大きくなったクレハをぷにっとつついた。
「それでは! 今までの説明まとめ。スマートフォン、よろしく」
<スライドショー・オープン!>
ルーカがスマホを視て拍手すると、スマホは話し合った内容を大画面に分かりやすく箇条書きでまとめた!
・金属球=[緋々色黄金]のカンテラ=炎の聖霊の媒体
・由来:白炎族の信仰アイテム
・入手:複合屍喰鬼グルニカ→ドワーフ鍛治工房イーベルアーニャ→レナ様
・回復:クレハの体内にカンテラを埋め込みで赤の魔道具判定○、レナ様が所有する。経過観察。
・見込み:炎の聖霊の加護=強力な炎魔法の取得。
・課題:元王宮宝物の金属球を取り戻しにやってくるであろう、グルニカ及び宰相への対応。
「ちょっと待って!! 最後のって!?」
レナが大慌てで叫ぶようにルーカに聞く。
アイコンタクトで、説明してない部分も先にスマホに伝えたらしい。
ゴホン、とルーカが重々しく咳払いした。
嫌な予感しかしない。
「説明しましょう……。この金属球は、グルニカが購入した骨董品もしくは拾ってきた素材ではありません……。
シヴァガン王国宝物庫にあった、白炎族を知るための貴重な資料として保存されていたものを勝手に持ち出したのです。
誰の許可も取らずこっそり盗んだって言った方が正しいかな?
より悪いよね。
……僕たちがドワーフ鍛治工房イーベルアーニャにそのうち行くだろうと予想して、詳細を隠し、タイミングを見計らってわざと修復依頼を出した。
シヴァガン王国政府から大注目の僕たちが、どのような対応をするのか……価値に気付かずスルーするか、王国の鑑定スペシャリストでも分からなかった金属球の情報を視抜くのか、何か予想もできない展開が起こるのか。
そこに研究者的興味があったんだ」
『……グルニカらしい……』
オズワルドがげんなりと呟いた。
自由奔放なエピソードをいくつか聞くと、相当の変わり者で曲者、というのは本当らしい。
研究者らしく好奇心旺盛で、やってはいけないことにもつい手を出してしまい、仲魔からしょっちゅう制裁として殺されているのだとか。
確かに、これは殺されても文句を言えない粗相である。
懲りない、死なないことを考えるとむしろ生温い制裁かもしれない。
「さすがに宝物庫から物を盗んだのは初めてだったみたいだけど。
それだけ、グルニカにはレナと従魔たちが気になって仕方ないみたい!
万が一僕たちがこの金属球をスルーしてて何事も起こらなかったとしても、また接触を図られていただろう。
やだねー」
「『<嬉しくなぁーーい!>』」
全員が声を揃えた。
「サディス宰相は同伴でやってきそうってことですよね……? うわやり辛い……」
『『誠に申し訳御座いませんが、そちらの金属球を返還して頂きたく! だよねぇー?
身内が自由だと苦労するわねっ。
やぁーーん!』』
『魔王も、グルニカも、常識的に……ごめんなさい、できなさそう……だもんね』
リリーの発言に、オズワルドが頭が痛そうに耳を伏せて、ふいっとレナの腕に顔を埋めた。
レナが癒され、これでギブ&テイクである。
「気分転換にラナシュの昔話をしようか。
レナが知らないことも多いと思うから。
僕がこれまで旅の最中に各所で視た内容と、書籍などに書かれている内容を、絵本のように簡単に話すよ」
ルーカが申し出て、気を抜くようにクッションを抱え込んで、座り直した。
みんなもちょっと楽にしよう、と声をかける。
「それっ……考古学者が目を剥く内容なんじゃないでしょうか……!?」
アリスが驚愕して頭を抱えて尋ねる。
レナパーティといると本当に驚きには事欠かない。
「まあ……確かにラナシュ史として解明されていない超貴重情報もあるけど、身内以外にホイホイ情報を提供したりしないから。安心して。
僕が魔眼を使うのは、自分たちのためだけだよ。
みんなのことが好きだからね」
ルーカは嬉しそうに笑い、「また頼ってね」とアリスに穏やかに語りかけた。
どうやら自分も仲間だと認めてもらえているらしい、と知ったアリスは、首が痛くなるくらいこくこくと頷き、はにかんだ。
「また呪いの魔道具たくさん持ってきます!」と明るく告げる。
字面がひどい。
大人数用のテーブルに移動して、モスラが淹れたハニージンジャーティーを飲みながら、全員で昔話に耳を傾ける。
オレンジの柔らかな照明が心を落ち着けてくれた。
主にレナと幼児たち向けに、ルーカからラナシュの歴史が語られる。
かつて、ラナシュの気候は現在よりももっと変化が激しく、火山噴火や大地震などの自然災害が頻繁に生き物たちを襲っていた。
その環境に耐えられるように、強大な力を持つ種族が多く暮らしていたこと。
好戦的な彼らは、なわばり争いにより、部族ごと次々に消滅していった。
このままでは誰もが生き残れない……と感じた者たちの働きかけにより、話し合いが行われた。
長い長い年月をかけて、世界のほとんどの部族、生き物で結束し、ラナシュ世界そのものに対して「生き残るための調和を!」と訴えかけたのである。
天に向かって、たくさんの部族、魔物、動植物たちがいっせいに祈りを捧げた。
動植物たちには、今でいう獣人や樹人が語りかけた。
ひどく曖昧だったラナシュ世界は、この祈りに応えた。
これが約1000年前。
大人数の意思による変革により、ラナシュは変質したのである。
生き物には種族名が与えられ、知恵ある者たちの言語は統一され、ステータスが生まれた。
気候は少しずつ穏やかになっていった。
過酷な環境と言っても、ジーニアス大陸の僻地くらいのものになったようだ。
それと同様に、生き物たちの能力も少し低下していき、破格の力を持つのはレアギフト保持者、レア魔物だけになった。
「……なんて……壮大な……。
じゃあ昔は、生き物の定義がとても曖昧だったということなんですか?」
レナが感嘆のため息を吐く。
「そう。その生き物の家系が自分たちに名称を付けることはあったけど、例えば、ホワイトドラゴンも幻黒竜も全て同じくくりで、そもそもドラゴンという言葉すら、なんとなくお互いが呼び合っている判別文句程度のものだったんだよ。
あの嫌いな尻尾が長い奴、とかでも通じるならそれで通用してた。
フレイムと炎の渦とかの区別もない。本能で炎の出し方を理解していた程度。スキル、と口にすることも無かったようだ。
この辺りは、自然の中に目を凝らして、大地の記憶を視た時に知った」
『『ルーカ、そんなにも旅を満喫してたんだねー?』』
「貴方たちと一緒に行動するようになってからは、ね。それまでは自然の歴史を楽しむ余裕なんて無かったよ? あはは」
『出たーー。ネガティブルーカー』
『フェアリーキック!』
「いたっ」
「ステータスって言葉……やたらとゲーム的表現だと思ってたけど。そういう事情があって、能力なんかが明確に可視化できるようになってたんですねぇ」
「ステータスはかつて、魔眼持ちの者しか見ることが出来なかったんだ。
それをギルドカードに表すことができるようになったのも、大衆の意思を受けてラナシュが調整したから。
人々、魔人族を纏めたのが、各ギルドの創始者たちだと言われているね」
「それは私も聞いたことがあります! "ギルドの創始者たち"って絵本で読みました。
あ……そういえば、"魔王と勇者"のお話も有名な物語ですよね」
アリスが手を挙げる。
マジックバッグをごそごそ漁り、机の上に二冊を載せた。
勇者、と聞いて、レナが真剣な顔になる。
……レナが異世界に呼び出された原因の実験は、ガララージュレ王国による、勇者召喚だったのだ。
"魔王と勇者"は有名な物語なので、魔王国のいろいろな書店で本を見かけた。
近々、演劇団が王都を訪れるらしいので、その時に魔王と勇者の演目を観に行く予定なのである。
「あとで本を読ませてもらってもいい?」
「うん。どうぞ、レナお姉ちゃん」
内容はレナももう知っていたが、改めて演劇の予習をすることにしたようだ。
レナに従魔たちが寄り添った。
「ステータスって言葉はゲーム的、か。
レナに分かりやすい表現に、ラナシュの言葉が翻訳されてるのかもしれない」
「……あ。そういう要因もあるかもしれないですね」
「試してみる? 1000年前の変革は、ファーストインパクトって呼ばれてるんだよ」
「とんでもない大事だったのだと速攻理解できました!!」
語り合い、夜は更けていく。
就寝前には、使徒が世界を襲うアニメをみんなで楽しんだ。
スマホの異空間保存リストには、このような記載が足されている。
・[緋々色黄金]聖霊のカンテラ……変化10%
・[クラーケンストーン]……変化30%
・[スマートフォン]……変化89%
自身の変化率をこっそり確認して、期待感に画面をキラリと光らせたスマホ。
スマホのすぐ側では、主人であるレナの寝息が聞こえている。
▽Next! 宰相&グルニカ襲来
読んでくださってありがとうございました!
ブックマーク16000件もありがとうございますヾ(*´∀`*)ノ
9/10発売のTOブックス書籍の帯に、レアクラ2巻の表紙がひとあし早く載っていますので、よろしければ見て頂けたら嬉しいです♪




