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テレパシー&トレード

「はー…。"テレパシー"に、"トレード"ですか?」


レナが、こてんと首を傾げて驚きのため息をついた。なにそれ便利そう。



今、彼女たちは数日隠れていた森を出て、ダナツェラ近郊とはまた別の草原にいる。

この草原は背が低めの樹や岩が全体的に多く、人の手があまり入っていない印象だ。

索敵して、モンスターのいない大岩の影に隠れて会話していた。



「(そう。こういう感じ)」


「わ!?」



いきなり頭に響いてきたルーカの声に、驚くレナ。

事情をあらかじめ知っていたリリーは平然としているが、スライムたちは新しいおもちゃ感にワクワクした表情をしている。

テレパシーって、なになにっ?

生まれて数日目のスライムは好奇心が旺盛です。




『ねー!レナにはルーカの声、今、聞こえてるのー?』

『頭の中でっ?』


「(うん。こういう感じだね)」


『『わーーーっ!聞こえたーっ!きゃーーっ!

面白いー♪』』


「気に入ってくれたなら良かったよ」


『『うむ。くるしゅうない!ワンモアっ』』


『話、進まないよ…?』



そうですね、ルーカ先生の魔眼の追加効果について説明しましょう。

それぞれについて説明するならば、こういった能力だった。



ーーー

[テレパシー]…目を合わせた相手と念話ができる。術者本人が、複数の対象に同時に声を届けることも可能。


[トレード]…相手とスキルを交換できる。トレードするには、相手の同意が必要不可欠。

ーーー



「これはまたひどい…」


レナさん、思ったことが全部口に出ちゃってます。

まあ、それも仕方ないだろう。

相手の情報ほぼ全てが見れる魔眼に加えて、高いステータス値、それにこの追加効果なのだから半眼にもなる。



「ルーカさん。能力に恵まれすぎたから、[運]が減っちゃったんじゃないですか…?」


彼を見つめるレナの視線が生ぬるい!



「恵まれた力を持たされながらも、不遇だった僕の人生について詳しく聞きたいって?」


対するルーカは、ニコッと微笑んでいた。このセリフと笑顔の合わせ技とか闇すぎる。



大慌てで謝るご主人さま。

あまりに素早い謝罪がおかしかったのか、ルーカも少し笑いながら許してくれた。


テレパシーはさっき使ってみた通り。では、トレードは…?



「今までに、トレードの力を使ったことはあるんでしょうか?」



レナが若干ビビりながら問いかけた。

過去話を警戒しながらの質問なので、声がガチガチです。

彼がトレードの力を使ったことがあるのなら、それは"使わされた"可能性が高いのだろう…



「ないよ?これから、使おうか交渉しようと思ってたとこ」


「そうですか!……えっ?」



無いらしい。一瞬安心したが、彼の続きの言葉が不穏だ。

またも恐る恐る声をかけてみる。



「[溶解]ですか?それとも、き、[吸血]ですか…?」


まさかの従魔スキル!


「なんでそのチョイス。

違うよ?逃亡成功するまで限定で、僕の[身体能力補正]をレナに渡しておこうと思ってね」


「!」


「追手が来た時に貴方は逃げきれなさそうだから。

貸します。

【フェアリー・コントラクト】で契約はしておこうか」


先生、太っ腹ーー!


「!?あ、ありがとうございます…!

…うわ、涙出ないようにしといて良かった。

契約が無かったら、多分号泣してました。

ひとの優しさってありがたいものですね…」


「貴方が逃げきってくれないと、僕も困るからね。

だからだよ」



ツン発言はとりあえずスルーしておいて、レナさんはおおいに感動している様子。

妖精契約前提の善意とはいえ、あとあとのしっぺ返しを恐れなくて済むのはとてもありがたいことなのだ。

彼女の中では、ギルドでのことがまだまだトラウマになっている。

あの酷い体験の恐怖は、ほんの数日かそこらで消えてくれるものではない。



「僕はこれからレナに[身体能力補正]のスキルを渡して、かわりに…そうだな。[従順]スキルを受け取ろうかな?

国外に出たらもう一度トレードして、スキルを元に戻す。

発言、偽って無いよね?リリー」


『…ん!ルーカの言葉、本心なの』



レナがまた首を傾げる。



「[従順]スキル…?

これは自分の従魔にしか効果がないし、ルーカさんには何の得にもならないと思いますけれど。いいんですか?」


「かまわないよ。

レナの戦力を補いたいのが理由だし、僕自身を強化したい訳じゃないから。

他のスキルは、よく使うものばかりでなくなると困るしょう?」


「…いい人…!」



感動が止まらない。

主人に甘い従魔たちも全然それを止めやしない。



「もう少し警戒心を持続させた方がいいだろうけどね…」


「先生は今は仲間ですし!」


「まあ、そうなんだけど。うーん」



ただ一人、比較的常識人な先生だけが呆れたように小さなため息をついていた。

契約は結ばれて、手首の印は2つになりました。




***




「僕のスキル[身体能力補正]と、レナのスキル[従順]を交換します。

【トレード】!」



トレードの力を使うには、相手と目を合わせている必要がある。

あくまでこれも魔眼の技能の一つなのだ。


ルーカの視点の中で、自分と相手とのスキルが入れ替わっていく。

この力を使ったのは初めてだったので、その様子を彼自身も興味深そうに観察していた。


【☆7】魔眼の技能の中に"テレパシー"と"トレード"があることは、政府上層部にも知られていない彼の秘密である。

☆7レアギフトの内容全てを暴くには、低レア度の魔眼では能力が足りなかったのだ。

当然、現状を嫌に思っていたルーカ本人がわざわざバラす筈もない。



「終わったよ」

「もうですか!」


視えないレナには実感がないまま、トレードは無事終了していた。

ギルドカードを確認してみると、確かにスキルが入れ替わっている。


若干ワクワクしながら、試しに鞭を地面に叩きつけてみるレナ。

ーーーピシンッ!

鞭は狙った場所に思い通りの軌道で当たっていて、明らかに運動センスが上がっている気がする…!

運動できないJKはもう卒業かも?



「わあっ」


『『『すごーい!』』』



喜ぶご主人さまと従魔に対して、先生はドライだった。

「もうちょっと攻撃力も増すかと思ってたけど…まぁ、転ばれないだけいいかな?」なんて、ボソッと呟いている。


そう、あのスキルはあくまで[補正]なのだ。

運動のセンスを補うためのもので、もともと低い威力面なんかはこれから上げていくしかない。

補正された動きで敵を倒しレベルアップした時に、運動能力が大きく上がるというのが、このスキルの本領なのである。

動きがマシになっただけでも、今は助かるだろう。





「…じゃ、これから移動しつつ、モンスターが現れたら僕が倒して行こうか。

それでいい?」


ルーカがレナたちに問いかけた。

昨日は従魔たちの戦闘を見たので、今日は先生が実力を見せる番なのだ。



「はい。それでお願いします」


「頑張るよ」



背負った魔剣の感触を確かめつつ、ルーカが先頭になって歩き始める。

あとに続く従魔たちが騒がしい。



『雷でビリビリーーってするのぉ?』

『サンダーボルトー!』

『どっちも、雷…。ぷふっ』



「確かにー。雷魔法って、呪文は何になるんですか先生?」


「ボルトだね」



サクサクと、短い芝のような草を踏みしめて歩く、先生の足運びには迷いが一切ない。

耳をすませながら、前方をしっかり見つめて索敵しつつ草原を進んでいる。


重苦しい貴族服はもうマジックバックにとっくにしまいこんでおり、シャツにスラックス、魔法ローブという軽装になっていた。

あんな無駄に装飾の多いの、大自然の中では邪魔でしかないし、だそうです。



レナは肩にスライムを乗せて、綿毛のように軽いリリーを肩車しながら歩いていた。

パッシブの[身体能力補正]スキルのおかげで、以前よりも危なげのない足取りだ。

ついさっきまで、舗装のされていない道を歩くたびに小石を踏みつけフラついていたので、補正がありとても快適そう。

補正は期間限定なので、今のうちにバッチリ感覚を覚えておいて下さいね!

ナマぬるい視線?気のせいです。



進んでいる草原は平地ではあるものの、低樹木などが多く自生しているため隠れられる場所も十分ある。

そういったものの影に身を潜ませながら、一行は、ぐんぐん国境への距離を縮めていった。




だいぶ進んだところで、藪に潜んで休息をとる一行。

結局、ここまででは一度もモンスターにエンカウントしていない。

先生の雷剣の力を見るのは、もう少し先になりそうだった。


皆に食料を差し出すルーカ。追手を増やしたぶんは便利さで補います。



「携帯食料だから美味しくないかもしれないけど。どうぞ」


「ありがとうございます!ホラ、みんなもね」


『『『ありがとー!』』』


「どういたしまして」



マジックバックに入っていた携帯食料を、食べてみる。

…とてもマズいです…!

美味しい食事をことさら愛する日本人気質のレナは、ご飯と聞いて嬉々とした表情から一転、気を遣いながらも「うわっ」という気持ちが滲み出る微妙な表情になってしまっていた。


この、ラナシュ世界の味覚がやばいのか?

いや。そんな事はない。先生もたいがい嫌そうな表情をしていた。

保存食技術がまだ未発達なだけのようだ。


従魔たちは普段血とかも平気で摂取する魔物味覚なので、この味もそこまで辛くは無かったらしい。楽しそうに食事をしている。



『踊り喰いッ!』


▽クレハは携帯食料を千切って体内に入れ、くるくる回転させ踊らせながら喰べた!

まるで洗濯機だ。



『なんの!丸呑みッ』


▽イズミは身体をお皿のように引き延ばすと、そこに置かれた携帯食料をとぷんっ!と丸呑みした!

じわじわと中で固形食が溶かされている。



『負けない…吸引!』


▽リリーが身体をもとの蝶の姿に変化させ、粘土状の食料をずずーーっ!と気合いで吸い込む!

蝶姿にもどっても体長は50cmなのでちょっとしたホラーです。

いくら綺麗な蝶でも、デカすぎると怖いものだと主人はここで知った。


皆さん、楽しそうですけど、食べ物で遊ぶのはやめましょうね?



マズい携帯食料だけど…この逃亡生活中には、大切な栄養源になる。

ヒト族2名は、なんとか粘土のようなご飯をのみこんで、イズミが「アクア」で出した水を飲み喉奥に流し込んだ。

珍しく2人ともの顔に"うんざり"とでかでかと書かれている。

レナが、ルーカに小声で話をふった。



「…美味しい食べ物のことでも話しますか?」


「…余計虚しくならない?」


返すルーカの目が胡乱である。

携帯食料はまだまだいっぱい在庫があるのだ。



「この逃亡生活が終わったら、きっと豪華な食事するんだ…!ってモチベーション上げていきましょうよ」



落ち込みやすくもあるけど、ご主人さまは切り替えが早く誰よりもポジティブ!

というわけで、2人は美味しいごはんの話をしてみる事にした。

まずレナさん。



「私の故郷ではですね」

「ストップ」


止めるまでがとても早かったですね、先生。


そう、あまり声を大にして異世界の話をして、おかしな称号でもついたらあとでレナ本人が困るのである。

その辺の事情をまだ話していなかったため、彼女は話を止められてきょとんとしていた。

ルーカが【テレパシー】で話しかける。

従魔たちがワクワク顔で見ていたので、対象には彼らも入れておいた。



「(異世界の話は、あまり声に出して喋らないようにね…?

レナが異世界人だと多くの人に知られたら、この世界がなにか特殊な称号を与えるかもしれないから。

それを理由に、逃亡後にも貴方が狙われる可能性が出てくると思うんだ。

気をつけるにこしたことはないでしょ?

…話すなら、言い方をボカすか、こうしてテレパシーでも使ったほうがいいだろうね。

通信魔道具とかは、テレパシーの代わりになるよ。

国外に出たら買ってみる?)」


「(…!?

そ、そんな恐ろしい可能性があったとは…!

気をつけます。

…あの。教えて下さって、ありがとうございます)」


「(うん)」


『『(クーとイズも話さないように気をつけるのー!)』』


「(えらいえらい)」



硬直して、目を丸くしているレナ。

また、狙われる?…そんなのイヤすぎる!


追われる身というのがどれほどしんどいのかは、今まさに体感中だ。

自分たちはゆるく自由に普通に生きていきたいだけなので、特別な称号なんて全くいらなかった。


先生が異世界のことを知っていたとかはちょっと置いておいて(魔眼でしょ?)…とりあえず、レナはこれ以上失言しないように口を両手で押さえておく。


リリーが真似して、口を押さえる仕草をしていた。

真似しようがなかったスライムたちは悔しかったのか、とりあえずダンシングしている。


先生が安心したように、ホッと小さく息を吐く。



「(気をつけようね。

…じゃ、貴方の故郷のご飯についての話を聞かせてくれるの?)」


「(あ。どうせだったらラナシュ世界の美味しいご飯についての方がいいのかも…?)」


切り替えが早いですレナさん。

少しだけ、さみしそうに笑っている。



「(…これから食べられるものの方が、逃亡後の楽しみになりますよね。

先生、色々な食べ物について、教えてくれますか?

…えーと。前の世界、地球に帰る方法は…知らないですよね…?)」



そう来てしまったか。

…ルーカは申し訳なさそうな表情で首をふって、帰還方法は知らないと告げた。

いい返事を貰えるとは思っていなかったので、ただ苦笑して返すレナ。

そんな彼女に、従魔たちがぎゅうぎゅうと寄ってくる。少し、気持ちが晴れた。


…全く期待していなかった訳じゃないけど。もし方法を知っていたのなら、なんだかんだ世話焼きなルーカは教えてくれていただろうし。

否定の返事の心構えはしていたから、そんなにショックではない。

………



妖精契約のおかげで、レナの瞳に涙が滲むことはもうなかった。


暗い空気を振り払うように、明るい笑顔で皆に話しかける。



「これまでラナシュで食べた美味しいものについて!

教えて下さーーいっ」


『『ぱふぱふーーーっ!』』


『ご主人さまの、生き血です。えへへ』


「リリーちゃん最初からハード…!」



まずリリーさんからまさかの回答が返ってきたが、めげずに続けて行きましょう!

スライムさん。



『『毒殺ヘビ!』』


「チョコよりも!?」



魔物味覚って恐ろしい。甘味よりも旨味が好みなんだとか。毒は美味しいスパイスだそうです。

ルーカさんは?



「人喰い大クマ…?」


意外とワイルドー!

レナが結構本気でびびっている。



「ひ、人を喰べたクマをまた人が食べるんですか…!?」


「狩りレベリングの最中に、野営食で食べたんだけど。美味しいよ。

手のひらの肉をじっくり煮込むとトロトロになってね。

毒味後の冷めきった王宮食よりはよほど良かったかなー」


「へー。美味しいのは正義ですよねー!」



ご主人さまは切り替えが(略)

ルーカ先生の言葉の後半は聞き流したらしい。

スルースキルがそのうち付くかもなぁ、なんて考えているレナさんだった。

お肉に思いをはせる。ヘビ肉は臭くて美味しくなかったなぁ。



「クマのお肉かぁー。それだけ聞くと美味しそうかも」


『『食べてみたいねーー?』』


『じゅるり』


「あははっ、そうだねーー!」



おやおや、声に出してそんなことを言ってて良いんですか?

フラグが立ちますよー。



「めったに現れないレア魔物だけどね。

個体数も少ないらしいし、まずこんな草原ではエンカウントしないはずだよ」



これまた、「やったか!?」並のフラグ言葉である。ルーカ先生ぇ…


[運]:測定不能なご主人さまが望むならば。

ラナシュ世界さんは頑張ってしまうかもしれません。

さあ!きっとくるーー



…グオオオォォォン!!!




「「え"っ」」


『『『…きゃーーーっ!?』』』




わざわざ拠点にしていた森を抜けて草原をひた走り、旨そうな人族をどこまでも求めて。

砂ぼこりを上げてレナたちに迫るのは、黒くてとっても大きな魔物だ。

口の端からテロリと零れるよだれが臨場感いっぱい。




▽人喰い大クマが あらわれた!



「追手また増えたぁーーー!?」



読んで下さってありがとうございました!

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