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君と、もう一度。  作者: れんティ
文化祭編
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文化祭:其の八

 「あ、いらっしゃいませ!」

廊下で中庭を眺めていた真澄が、声を上げる。他に用途のない言葉を発したという事は、客だな。

「いらっしゃいませ」

千鶴が座ったまま頭を下げる。俺も右に倣えでその後に続こうとするが、その前に入ってきた女子生徒が声を上げた。

「あの、一部下さい」

「四百円です」

「あ、はい」

ごそごそと財布を取り出し、俺の前に硬貨を四枚置く。俺がそれを確かめる横で、千鶴が文集を手渡した。

「ありがとうございました」

「ありがとうございました!」

会釈した俺に会釈を返して、部室を出て行く。廊下の真澄に挨拶されて、肩を震わせていた。大丈夫だろうか。

 「これで三部目、ね」

「ああ。この調子なら例年通り行くんじゃないか?」

現在、午後二時。俺たちが店番を始めてから一時間が経過した。その間に売れたのは三部。一時間に三部だと仮定すると、一日目が終了する午後五時三十分までに、後十部くらいが売れることになる。残り三十七冊だから、文化祭終了までには売り切れるだろう。明日は一般客も入る。

 何て思っていた時期が俺にもありました。

「……暇ね」

「……だな。これなら本でも持って来るんだった」

「……あさ兄ちゃん、これ、ホントに完売するの?」

「私も心配になってきたわ」

「明日は一般客も入るし、これから後五人くらいは来るだろ。いや、来て欲しい」

 西に面した廊下から、橙が混じり始めた光が差し込んでくる。時刻は午後三時三十分。かれこれ一時間半ほど、客が来ていないことになる。

 「そろそろ話題も尽きたわね」

「……しりとり、する?」

「会話の墓場だな。とうとうそこに行き着いたか」

長机に、三人並んで座る。くるであろう客を待ちながら。ただ、待ちくたびれて声に覇気が無くなっているが。

「そうね、ただやったんじゃ面白くないわよ」

「じゃあ、文芸部らしくいこうよ」

「……文芸部らしさって、なんだ」

キャラの名前とかで行くのか?それは漫画研究会とかラノベ研究会とかに任せた方がいいか。じゃあ、文章でか。主語と述語込みで。あ、そうすると幅が狭すぎるな。

「……セリフでやってみる?」

「なるほどな。でも、それだと幅が広すぎないか?」

「じゃあ、二文節以上で、しっかり意味が通るセリフ、でどうかしら」

……それなら、適度に制約があるか。とはいえ、どこまで続くのやら。

 

 「『なあ、俺はなんでこいつらを守るんだ?』の『だ』」

「『だったら最初からそう言え!』で『え』だよ、ちづちゃん」

「なんで逆切れしてるのよ。……『選りすぐりがやられた?』で『た』よ」

「うお、また『た』かよ。……そうだな。『たとえ世界を敵に回したとしても、俺はお前を守る』で『る』だ」

「『たとえ』で始めたら一杯あるじゃん。『留守の間に何が起こったんだ……』で『だ』かな」

 予想外に、これ続いてるわね。今度から、数人で時間を潰すときはこれにしましょう。

「あの、やってますか?」

「誰がどうとかは知らないが……って、いらっしゃいませ。まだまだやってますよ」

でも、人がいないところに限るわね。これ、見られると恥ずかしいわ。

「一部四百円です」

入ってきた男子生徒が、文集と引き換えに四百円を置いていく。これで、残り三十六部ね。

「じゃあ、俺が『が』だな。……『がっかりだよ、お前には期待してたんだが』で『が』だ」

「ええ!ひどいよあさ兄ちゃん!……えーっと、『瓦解なんて黙ってたってするのにね』で『ね』でいい?」

「確認しなくても、大丈夫よ。……『練りに練った計画を今実行しよう』で『う』よ」

朝陽が考え出したとき、グラウンドからマイクを通したアナウンスが流れてくる。当然のように、私たちの興味はそっちに向いた。

 「あ、クイズ研究部のやつだ!」

「そんな部活まであるのね」

「結構たくさんあるからな。だから模擬店無しでもにぎやかなんだよ」

なるほど、そういうことね。

 『それでは第一問! 「潮時」の意味は、「物事をやめるのに適したタイミング」である。丸かバツか! それでは移動を開始してください! 時間は三十秒です!』

 どうやら、グラウンドを縦に分けてマルバツクイズをやってるらしい。質問につられたのか、朝陽と真澄ちゃんが窓際からグラウンドを見下ろす。

「丸じゃないの?」

「いや、あれはバツだな。たしか、正確には「物事をするのに丁度いい時」って意味だ。頃合、とかチャンス、とかと同じ意味だったはず」

「えー! そうなの? あたしやめる方で使ってたよ」

「ああ、今はそっちの意味で使う方が多いみたいだしな。意味は通じるから、まあいいんじゃないか?」

一つの窓から重なり合って身を乗り出して話をするその空間を見て、私は浮かせた腰を下ろした。だって、あそこに私は入っていけないわ。それくらい、仲がよさげで、楽しそうで、あの間には何人も割って入れないような、そんな雰囲気が漂ってる。何より、目が合うたびにはにかむのが、見ていられない。

 目の焦点が合うギリギリのところに顔がある。たぶん、それくらい近い。正面から向かい合えば、視界がほぼすべてお互いの顔で埋め尽くされるくらい。一つの窓から二人が身を乗り出してるんだから当然だけど、それだって、そこに遠慮も羞恥もない。まるでそれが当然であるかのような振る舞い。

 あなたの隣に私以外が立つことが、こんなに辛くて悔しいなんて、思わなかったわよ。

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