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君と、もう一度。  作者: れんティ
夏休み編
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夏休み:其の九

 「ひうっ……!?」

千鶴の差し出したわたあめを指ごと咥えてみた俺の頭上から、千鶴が発したと思しき奇怪な声が降ってくる。おお、そんな声が出るのか。

 いつまでも咥えてるわけにもいかず、力の抜けた指からわたあめを抜き取る。顔を上げて、俺の唾液がついた指をティッシュで拭ったとき、ようやく千鶴が動いた。

「……な、なに、何よ?」

「何って、くれるって言うから貰ったんだけど」

「そうじゃないわよ! 何で私の指ごと咥え込んだのかってことよ!」

「ああ、だって、親指と人差し指でつまんだわたあめを、俺が手で受け取るのはちょっと不安があったし。後、千鶴の反応を見てみたかったんだよ」

「後者が一番の理由ね」

「ご名答」

呆れたように指摘した千鶴は、今自分の指を物珍しそうに見ている。そんなに嫌だったのか? その割にはあまり怖い顔をしていないから、安心しておこう。ちゃんと拭っておいたし。まあ、イタズラ大成功ということで。

 「あさ兄ちゃん! ちづちゃん!」

俺たちの間に下りた沈黙を破ったのは、後方からかけられた呼び声だった。

「真澄、清水。どこ行ってたんだ?」

「そっち側の道を、ぶらぶらと。って、答える義理なんてないですよね」

「いやいや、俺の可愛い幼馴染を、シスコンはどこに連れて行ってくれたのかと思ってな。なんたって、初めてのデートだし」

「そ、そんなんじゃないよ!」

「ええ、そんなんじゃないです。ただ、向こうの方がゲーム系の屋台が多かったので、柏木が好きそうだと思って。そして僕はシスコンじゃないです」

「受け入れろ、それが定めだ」

「僕の運命がシスコンになることみたいに言わないでください!」

「違うのか? 愛も行き着くところまで行くとドン引きだぞ」

「違いますよ! 僕の愛が重いみたいに言わないでください!普通の家族愛です!」

「知ってるか? ストーカーは自分が一般的な人間だと思っていて、自分のアイや行動は普通だと考えてる奴が大半らしいぞ。自分の基準にして物事を考えてるんだ」

「そういうことじゃないです! 僕は普通に、一般的な家族愛として姉ちゃんが心配だっただけです!」

「清水くんも、変態の朝陽に言われたくないんじゃないかしら?」

「え? あさ兄ちゃん変態なの!?」

「違うって! 何を根拠にそんなこと言い出したんだよ」

「さっき、私の指咥えたくせに」

「あー、ずるいー、あたしも! 食べて!」

俺の口元に手を突き出してそうのたまった真澄。それを必死に避けて顔を逸らした俺の視界には、複雑な表情でこの光景を見ている清水がいた。そして、ほくそ笑んでいる千鶴も。

「千鶴! この状況どうするんだよ!」

「受け入れなさい、それが定めよ」

「見事なブーメランだけどな! こんなのが定めであってたまるか」

「人の振り見て輪が振りなおせ、いい経験じゃないんですか? さっきの僕の気持ちが分

かったでしょう?」

真顔で俺の台詞をそのまま投げ返してきた千鶴と、ニヤニヤしながらどこから目線なのかいまいちよく分からない言葉を投げてくる清水。どう考えても分が悪い。

「ああ、骨身に染みたよ、悪かったな」

「いえ、別にいいですよ。そこまで気にしてるわけじゃないですから」

「あさ兄ちゃーん、食べて!」

「まだ続けるのか? ちょっとしたイタズラなだけで、俺にそんな趣味は無い」

「えー、あさ兄ちゃんになら、食べられてもいいよ?」

体をくねくねさせながらそんなことを言い放った真澄に、すれ違ったカップルが咳き込んでいた。これで気まずくなったりしないといいのだが。胸中で頭を下げておく。

「お前は公序良俗を守ろうとは思わないのか」

「真澄ちゃん、後でしっかりお話しましょう?」

「柏木……さすがに引くよ」

三者三様な反応を見ても、真澄は少し表情をなくしただけだった。すぐに、俺の前で体を左右に揺らして、俺の表情を窺ってくる。実に楽しそうだ。

「あさ兄ちゃん、顔赤くなってる?」

「朝陽も、話をする必要がありそうかしらね?」

「ちょっと熱気に当てられただけだ。その怖い笑顔をしまえ」

「やっぱり変態なんですね。このロリコン」

「ちょっと栄介君? あたしとあさ兄ちゃんは一切しか違わないよ!?」

「シスコンに言われたくないな。それに、俺は別に真澄をそういう目で見たことはない」

「あさ兄ちゃんも!? 聞いてる? 一切しか違わないんだから、ロリコンじゃないよね!?」

「いや……ねぇ? 外見というか、言動というか、そういうもの的に、マズく見えるよ?」

「子供ってこと!? あたしは子供じゃないんだって!」

「その発言自体、『私は子供です』って言ってるようなものだぞ」

「そうなのっ!?」

「はしゃぐのもいいけど、そろそろ花火の時間よ?」

どれだけ俺たちが騒いでいても、千鶴は一人冷静に時計を確認していた。偉いな、お前。

「じゃあ、合流地点に向かうか」

「どっち、ですか?」

「……あっちじゃない?」

「とりあえず屋台の裏手に回れば、分かるだろ」

午前中に決めていた花火を見る場所。誰かが忘れていったパラソルの下。祭りを見ている間にはぐれても、午後七時までには必ずそこにたどり着く。そこで六人が合流して、一緒に花火を見る手はずになっていた。

「ああ、あっちだな」

「せんぱーい!」

真澄がぴょんぴょんと飛び跳ねて、先輩たちに自分の存在を知らしめる。こういうときに一番目立つのはこいつだ。

 二人で笑い合っていた先輩たちが、同時に俺たちの方を向く。

「邪魔しちゃいましたかね」

「これで俺たちが気を使った方が気まずいだろ」

走り寄って行く真澄の後ろから、三人一塊で近づく。

 すぐ横で、空に大輪の花が咲いた。

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