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君と、もう一度。  作者: れんティ
出会い編
12/126

行事の準備

 清水の入部から数週間。一ヶ月くらい前まで三人だったのが嘘みたいな、六人での騒がしさ。最初は戸惑っていたそれにも、今は随分慣れてきた。

 少しずつ気温は上がり、南の方は梅雨も近づいてきている。そろそろ、文集用に創作を始める頃合だろうか。その前に、二年生にはイベントがあるわけだが。

「えー! 明後日からあさ兄ちゃんとちづちゃん来ないのー?」

「そうだけど……まず呼び方、しっかりして?」

「あ、ごめんね。でも、なんで? なんかあるの?」

「柏木、知らなかったの? 二年生には林間学校があるんだよ。明後日から三日間」

「え! じゃあその間あさ兄ちゃんとちづちゃん二人っきり!?」

「おい、呼び方。それとそんなわけあるか。想像力豊かなのはいいけど行きすぎるなよ。俺、千鶴、良樹、綾野さんの四人班で行動するから、別に二人っきりじゃない」

なにやら聞き捨てなら無い言葉が聞こえてきて、慌てて横槍を入れる。千鶴は実害が出そうな限りとめようとはしないし、清水も俺の不名誉な噂をわざわざ止めるようなことはしないだろう。つまり、俺が止めるしかないわけで。このまま行くとどこまでも暴走しそうだった真澄を止めに入る。

 単純ゆえに一度否定されればそれを信じ込む。そんな真澄の性格が幸いして、そのb話題はそこで終わった。もっとも、俺の横槍のみならず、がわら先輩からも有難い言葉が飛んできたからだが。

「お喋りもいいけれど、そろそろ文集用の作品、考えないと後から辛いわよ」

 そう、文化祭は九月の終わり、まだ早いと思いがちだがこれでものんびりしている方だ。確かに他の文化部はまだ動き出しはしないだろうが、文芸部は違う。文集制作の関係上九月の初めには全員分の原稿を合わせて制作会社のほうに提出する必要があるため、しぴつはもっぱら夏休み中になるが、それを読むのは知り合いではないかもしれない。低クオリティを笑ってごまかすわけにはいかないのだ。誰に見せても恥ずかしくないといえるようなもので無ければならないのは他の部活も一緒だが、文芸部の場合それは露骨に出る。柄の良し悪しは誰にでも分かるものじゃないが、小説の良し悪しは誰にでもある程度分かる。

 そして、あまりに酷いと来年の販売に支障が出る。

 それを回避するために、文芸部員はこの時期から少しずつ構想を固め、周囲との意見交換を経て執筆に入り、そこでも何度か書き直して、ようやく完成を見るわけだ。毎年八月の終わりには目が回るほど忙しい。去年は少し余裕があったが、今年は人数も増えた上に少々不安な奴もいる。早めに始めるに越したことは無い。

 と言った意味のことを昨日がわら先輩から気化されたわけだ。実に二十分ほど。

「うー、でも、あたし小説なんて書けるかなー?」

「不安だったら、誰かと合作にするといいわ。誰かと組んで、二人で作り上げる。三人寄れば文殊の知恵って言うように、誰かと相談しながら作るとやるやすいわよ」

 途端、希望に輝く瞳が俺の方へと向けられる。――――二方向から。

「うん、真澄は分かる。けど、千鶴までなのか?」

「しょうがないでしょ? 私、どちらかと言えば理系なのよ」

「何で文芸部に入ったんだよ」

「興味ああったからよ。それじゃダメかしら?」

「まあ、それはそうなんだろうけどさ」

「あ、あたしが先に言い出したの!」

「あら、結論を出すのは朝陽よ?」

「なら、一人は朝陽と合作、もう一人は栄介と合作にしたらどうだ?」

「それがいいと思うわ。三人だと意見も纏まりにくいでしょう」

先輩の助け舟を得て微妙な睨みあいは終結し、結局俺に結論がゆだねられる。当人同士で解決してくれて全然構わないのだが、そうもいかないらしい。まあ、傍から見れば俺も当事者なのだから、当然といえば当然か。

「ちょっと質問していいか?」

一応の確認を取り、二人が頷くのを待ってから問いを投げかける。これで決められなかったら、もうじゃんけんでもくじ引きでもしてくれ。

「小説を書き始める前に、何をする必要があるか知ってるか?」

普通は知ってる奴の方が珍しい。よほど雑学を積んでいるか、その方面に興味があるのか。それでも、どちらか一人は知っていて欲しいところ。二人とも知らなければ俺の目論見は失敗に終わるのだ。

 最初に口を開いたのは、真澄だった。とはいえ、千鶴は真澄を待っているようだったが。

「……うーん、ネタを作って、キャラクターを作って、それくらい?」

「千鶴は?」

「あら、構想を練って、設定なんかを決めて、あとは、粗筋を立てて置かないと途中で破綻するんじゃないかしら?」

「正解だ」

内心でほっと胸を撫で下ろす。これで、俺の心は決まった。そのための質問だったわけだし。

 そうときまれば、また真澄が騒ぎ出す前に畳み掛けるのが得策だろう。

「そういうことだから、真澄は清水と組んだ方がいい気がするな」

「な、なんで?」

「ちづより考えるのが苦手だからだよ。自分で考えて結論を出せる可能性が少ないなら、よく知って慣れてる奴と組んだ方がいい気がするんだ」

「で、でも、あさ兄ちゃんがいい!」

「いや、俺も別に真澄と組みたくないわけじゃないけど、真澄と組んだら余裕がなくなりそうで怖いんだよ。たぶん、追い込みの時期に入ったら、ただでさえ余裕は少なくなるだろうし」

俺かて、そこまで熱心に頼られて悪い気はしないし、ここのところ千鶴と接点が多かった分、真澄が求めるなら応えてあげたいと思う。もちろん、兄のような立場としてだ。

 けど、今大丈夫でも、忙しくなってから大丈夫だと断言はできない。余裕がなくなったとき、俺は真澄を傷つけるのではないか。両親や小夜子にしてしまったように、二度と修復できない溝を作ってしまうのでは内科と、危惧してしまう。それが、怖い。

 だから、真澄の希望を裏切る形であったとしても、それを避けてしまう。

 それは、真澄が分かるはずのない俺の勝手な考えだけど。

「……分かった。ごめんね、わがまま言って」

「いや、俺も身勝手な言い分だから。そうだ、今度小谷さん家のシュークリームおごるぞ」

「え!? ホント!? やったぁ!」

せめてもの罪滅ぼしは、予想以上にその命を全うしてくれたらしい。よかった。

「じゃあ、清水君と柏木さん、矢上君と安倍さんがそれぞれ合作ということでいいわね?」

「ええ。そういうことで」

 無事平和解決が行われたことに内心ほっとする。たとえ、その代償が一ヶ月の小遣いのうち六分の一だったとしても。

 結構、痛いな。

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