過去からの新入部員
球技大会も終わり、本格的に一年が始まった日。いつも通り千鶴と部室に赴くと、部員以外にもう一人、見慣れない顔がいた。
「お、これで全員揃ったな。こちら一年の……」
「一年二組の、清水栄介です」
その顔を直視したとき、とてつもない気士官に襲われた。そして、清水。どこかで聞き覚えのあるその名前が記憶野を刺激するが、肝心の答えは出てこない。忘れてはいけないと戒めたはずなのに、本能が思い出すのを拒んでいるような。そんなもどかしさ。喉まででかかった記憶が、あと一歩出て来ない。そんな苛立ち。
「……朝陽の番よ」
「っ!あ、ああ。二年七組、八神朝陽だ。よろしく」
「……八神、朝陽?」
自己紹介をした途端、清水の目尻が吊り上がり、唇が真一文字に引き結ばれる。奥歯が今にも嫌な音を鳴らしそうな、そんな表情だった。般若とはこのことを言うのか。全身から放射される怒りと憎しみを幻視しそうだ。
「……お前が……あの八神朝陽?」
あの、とはどの、だろうか。というか、俺はそんな憎しみの篭った視線を向けられることをしでかしたことがあるだろうか。無い気が――――――そうか、一度だけあったか。
脳が抵抗をやめ、それを明確に思い出す。二年と少し前のことなのに、一言一句正確に覚えている。そして、そこに至るまでの経緯もすべて。清水は、あいつの苗字だ。
「……さよの知り合いか?」
「…………弟だ」
やはりか。だったらその人が殺せそうな視線も致し方ないというべきか。そして帰し冠も名前の聞き覚えも。通りで少し似ている。
あのときの、あの顔に。
「そうか、なら君には殴られても仕方ないな」
「それくらいしないと気が治まらない……と言いたいところですけど、姉ちゃんが既に殴っているそうなので、僕はそこまでしません」
先程よりは頭の血が引いたと見えて、敬語に直っている。ただ、睨みつけているのは変わらないが。
「何? 栄介君、朝陽先輩と何かあったの?」
「僕じゃない。姉ちゃんが、ちょっとね」
「あ! 小夜子先輩だ! なるほど」
「え、何だ柏木さん、朝陽と清水君の姉って、何かあったのか?」
あまり吹聴するようなものじゃないというか、黒歴史に分類されるようなものだ。あまり広めて欲しくは無いんだが……真澄のことだ、無理だろう。
「あさ兄ちゃんの元カノですよ。中学のとき付き合ってて、結構有名だったんです。何か凄い別れ方したって」
真澄の言葉に、否応無く記憶が揺り起こされる。
――――――もう、耐えられないんだ
左頬がむず痒くなる。
「へぇー、朝陽にも彼女とかいたんだな」
「さよ一人ですけどね」
正面と右と斜め前からの視線が痛かった。とてつもなく。