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1-1. ある旅路の一景
「どうだ~?」
進捗状況を伝えると、先生は適当な相槌を打って私の隣に腰を下ろしました。
ちらちらと私の作業を覗き込む視線。
「デリカシーに欠けています。」
私がそう言って睨みつけると、先生は慌てて身体の向きを変えました。
先生が内ポケットをまさぐり始めたのを見つけた私は、さっとその腕を引っ張ります。
手の中に握られている箱を取り上げると、先生は抗議の言葉を口にしました。
「暇なんだし、一本ぐらい良いだろ?」
箱を奪い返そうと伸びる手を叩き落とすと、私はいつもの言葉を返します。
「煙草は害悪です」
先生は恨みがましく私を見つめると、「完成したら起こしてくれ」と言って横になりました。
静かになるのは構わないのですが、なぜ私の膝を使うのでしょうか。
起こして退かしてしまおうかとも考えましたが、再び騒ぎ出すのが目に見えるので、大人しく寝かせておくことにします。
先生の穏やかな呼吸と私の筆の音だけが、展望台に静かに響ました。