私は新大陸で神になる!
呼吸が聞こえた、吐いた息を時間を掛けて吐き出す音だ。
空気を震わせ、ゆっくりと吐き出される音がデブの方から聞こえた。
次の瞬間、ゾクリと何かの気配を感じ身体が震えた。
「コォォォォォ……」
「ただのデブではないと言う事か」
震える、大気が震える。
それは目に見える変化としてルージュの前に顕現する。
デブの周囲が震えているのだ。その震えの影響で周辺の小石や砂が重力から解き放たれたかのようにゆっくりと浮上した。
何だ、一体何をしている。
原因は分かっている、それはあの独特の呼吸だ。
吸っては吐く、単純な動作であるそれが原因だ。
剛胆流拳、奴はそう言った。
何かの流派なのだろう、ならばアレは何かの技なのか。
ルージュが疑問を抱いた次の瞬間、瞬き程の一瞬で驚くべきことが起きた。
「き、消えた!?」
「フンッ!」
軽い衝撃が背後から伝わって来た。
小突かれた程度、ダメージすら与えられない衝撃だ。
だが、それはルージュの中で恐ろしく変化していく。
背中から、何かの流れを感じた。
温かい、お湯のような物が背中から腹部に向けて浸透していたのだ。
だが、その温もりは熱を孕み加速する様に熱さを増していく。
「うし――」
後ろ、そう言おうとする前にルージュの上半身が爆発して四方八方に身体が飛び散った。
内側からの爆発、攻撃したあの時と同じ現象が起きたのだ。
吹き飛んだ身体が再生し、意識が戻る。
その間の記憶はなく気付いたら別の地点にいたと言った感じか。
何が起きたか分からない、と困惑している間にルージュは自分の下半身を見た。
そして、自分が何らかの攻撃を受けたと自覚した。
今のままでは永遠と攻撃を喰らい続ける。
そう把握した瞬間、ルージュの身体は適した形へと移行する。
それは不定形の、液体のような状態だ。
散らばった肉体は液体となって一点に集まり、血の塊となってデブに相対した。
「やはり、死んでも復活するか。しかし、その瞳の奥には恐怖があるな。なるほど、つまり無限に復活出来る訳ではないと」
「ッ!?」
豚のような見た目、無能としか感じない人物。
だが、それは一皮向けば数瞬の邂逅で多くの情報を分析する一人の将だった。
教えてもいないに真実に、確信を持って近づいてくる。
得体の知れないデブだ。
「さぁ、掛かってこい」
「…………」
ルージュは侮ることなく状況を考える。
先程、消えたように背後に移動されて攻撃された。
それは瞬間移動か、それとも単純な速度による移動だったのか。
しかし、瞬間移動する奇跡など自分は知らない。
ならば、速度による移動なのだろう。
では、どうして常に速度を生かして戦わない。
それは常に超スピードでの戦闘が出来ないという事だろう。
そして、あれは物理ではなく何かを流し込み内側から破壊する技だ。
用いるとしたら、聖気と呼ばれるオーラしかないだろう。
「さぁ、どうした掛かってこい!」
睨み合いが続く、敵は動かず自分も動かない。
何度も挑発する奴は動かず、両手を広げたままの状態で待ち構えている。
「いや、待て」
それは可笑しい。
奴から攻撃しない時間が余りにも長すぎる、そう待ち過ぎなのだ。
奴は動かないのではなく、動けない。
理由は分からないが動けないのだ。
「ほぉ、その顔は気付いたようだな」
「何を、何を待っている」
「良いだろう、気分が良いから教えてやろう。私の剛胆流拳は衝撃を聖気で体内に納め、増幅させて敵へと流す拳法である。攻撃は全て己に返ってくると知れ!」
それは強者の余裕だろう。
現に、不死身でなければ一撃でもって死んでいた。
それに攻められないのも事実だった。
攻撃は防がれ、そして条件が揃うと超スピードで攻撃される。
やりにくい、相手だ。
「チッ、なら刺突ならどうだ!」
ルージュの肉体が血の塊から人の姿へと変わる。
変わると同時に自らの血で出来たランスが右手には握られていた。
凡そ、背丈の半分のそれをルージュは地を蹴ると同時に突きだす。
螺旋を描き、抉るように回転する穂先、それは脂肪に包まれた肉の壁に触れる。
触れて、制止した。
「くっ……くそぉ……」
「フハハ、無駄だ!」
服を貫く事すら出来なかった。
それは、つまり阻まれている事を示していた。
見えない壁、それは固められて纏われた聖気だろう。
微小面積程の壁が形成されているのだとしたら、それ以外あり得ない。
どうやら、奴は聖気を限りなく圧縮しているようだった。
「だけど、無駄じゃない!」
「ぬぅ!?」
唸る声がした。
それは自分の前で制止したランスを見たデブの声だ。
ランスが、静止状態からゆっくりながら回転し始めたのだ。
螺旋を、加速度的に描き出す。
ドリルのように、微小な聖気の壁を削るべく動き出したのだ。
「な、何だと!?」
「ハッ、これは私の血だ。ならば、操作できてもおかしくないだろう!」
甲高い音が聞こえた。
鉄が削られる時にするような高音が、ランスとデブの皮膚の間から響いたのだ。
「いかん、このままでは……」
「やはりそういうことか。お前は攻撃する瞬間、衝撃を吸収できない。衝撃を流しながら吸収は出来ないんだ」
だから、必ず爆発する前に攻撃が制止する。
触れた瞬間に爆発する様に見えるが、良く見れば一度制止させている。
これは反撃の際に吸収、増幅、放出の工程を必要としている事の表れだ。
ランスの突き刺さる瞬間、吸収された。
突き続けている為に発生する圧力は限りなくゼロにされている。
しかし、それは拮抗している間に衝撃を吸収されて続けていると言う事である。
「どういう原理か知らないけど、吸収する限界はあるはず!」
「い、異教徒めがぁぁぁぁ!」
ズブリ、と穂先が皮膚の中に侵入した感触を感じた。
その瞬間、一気に抵抗は無くなりルージュの身体はデブにぶつかった。
デブの胸の中、ルージュの腕は腹から背中に向けて突き刺さっていたのを認識した。
貫いたのである。
「フッ、勝っ――」
「異教徒よ、死んで改宗せよぉぉぉ!」
ガッシリと、肉厚な腕がルージュを抱擁した。
勝利を確信したルージュを事切れたと思ったデブが掴んだのだ。
そして、そのままデブは自身を太陽のように輝かせて爆発した。
パッと目が開かれた。
開かれた視界には空、と横から自分を覗き込むドラゴンの顔。
どうやら、自分が横たわっていると言う事が分かった。
そして、記憶が呼び戻される。
自分が、自爆攻撃に飲み込まれた記憶である。
「う、うわぁぁぁぁ!?」
「うぇ!?な、何だよビックリするだろ」
「何か生々しい感触、やだ抱きしめられた気持ち悪っ!」
「お、おう……」
何だかやけに困惑する使い魔が印象的だった。
長く苦しい戦いだった……
大丈夫だろうな、と上から観戦していたのだがようやくオッサンとルージュの組んず解れつ戦いが終わった。
一瞬でオッサンが背後を取った時は、なんて素早いデブなんだと驚いた。
俺的には実は肥満体系はパワーを温存している状態で、痩せ形に変身するともっと強くなると思っていたのだが結局何か叫びながら爆発した。
まるで、種を埋めて液体をかけると土からでてくる生物兵器のようにルージュを掴んで自爆である。
無茶しやがって……
しかし、俺達がオーラと呼んでいた物は聖気と言うようだ。
そしてそれを運用して戦っていた。
もしかしたら、聖気を纏った黄金に輝く戦士がいるかもしれない。
いや、どちらかと言ったらモヒカンが跋扈してアタアタ言っているかも。
はたまた、手から聖気を集めてビームを撃ったり手裏剣状にして飛ばしたりするかもしれん。
新大陸、一体どんな世界なのだ。
「で、そういえば皆殺しじゃないですか」
「フッ、いつから皆殺しにしていたと勘違いしているのかしら?」
「何……だと!?」
「眷族よ!誰かが吸血してたから、何かいたわ!」
計画性の欠片もない偶然の産物を狙ってやったかのように自慢するルージュの姿がそこにあった。
まぁ、結果オーライである。
戦後処理というか、その後の展開と言うのは面倒な物だった。
何で助けてくれなかったとか助けるのが遅いとか文句をいう奴らと、助けて貰って何て言い草だという信者の口喧嘩が勃発である。
これが国の最高機関である議会で行われているのだから性質が悪い。
正直、帝国議会も小学校の学級委員会も似たような物だ。
いや、まだ子供の方が論理的な会話が出来るかもしれない。
「それで、私を裁判に掛けるって?すごい発想の飛躍よね、不死身じゃなかったら応じないわ」
「死刑とか決まったら、次に新大陸に攻められる事を考えてないと思うわ」
どこの世界でも、自分の国をダメな方に誘導する政治家はいるのである。
そして、裁判に出るとルージュはあれよあれよと知らない罪を着せられて死刑判決が下った。
もはや、茶番劇である。
その内容というのも、創作の中にある木の杭を心臓に刺し続けると言う物だ。
それを一番最初に創作の中で紹介したのがルージュなのだから笑えない、因みにそんな事では死なない。
でだ、どうしてそんな話になったのか本当の目的はルージュが死刑される直前に分かる。
信者達は死なないと分かってるから騒ぎ立てず、これ幸いと信者でない者達は準備を急ぐ。
場所は帝国の中央である広場、見物する国民は皆が怯えた表情だ。
でもって、何故か帝国議員の近くにいる宗教服を着た奴等。
そう、どうやらエルジアと手を組んだみたいだった。
圧倒的な強さに恐怖した民、奇跡を脅威と認識して歩み寄りたい帝国議員。
その他、様々な要因があってこんな茶番が始まったのだろう。
まぁ、俺達も居心地が悪い生活はごめんなので大人しく従っているのだがな。
ここ十年、反発する奴等が鬱陶しかったしな。
「自由ってのも考え物ね、与えたら刃向ってきたし」
肯定するだけの国民が欲しければ全員眷族にすれば良かったのだ。
それをしなかったのは、興味がなかったから。
自分の知り合いのいない帝国が、自分の物からただの場所に成り代わっていたから放置していたのだ。
飽きたら新大陸に行こうとしていたのでいい機会である。
そして、その日。心臓を杭に貫かれて皇帝が死んだ。
皇帝の葬儀は盛大に行われ、丁重に埋葬された。
だが、数週間後に皇帝と瓜二つの人物が現れた。
自分を神だと称してルージュ教の信者達を連れて、その者は新大陸へと海を割って去っていた。
後の帝国歴には記されない伝説のような御伽噺の一幕である。
その真相は悪乗りした俺達のパフォーマンスなのだが、誰も真実を知らない。




