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文明開化とモンスター環境問題

帝国歴二十六年。

世界は巨大なる帝国と宗教国家、そして新大陸となった。

世界大戦から数十年、帝国は侵略から統治へと変わっていた。

ルージュ帝国はその領土を広げ、様々な技術を投入した。

数世代先の技術、思想、そして新たな権利、それは人々を変えていく。


それぞれが平等に権利を持ち、そして強い者が優遇され弱い者が淘汰される。

優れた成り上がる者達は増え、不平不満を漏らしながら惰性に生きていく者が減った。

世界は、自由の時代へと到達したのだった。




水の流れる音がした。一定の流れる音、そこに混じるのは誰かの鼻歌だ。

音の発信源、そこは風呂場である。

石造りの壁には穴が開いており、その穴の奥には杯のような魔道具が設置されている。

それは魔力が尽きるまでお湯を出し続け、絶えずお湯を供給する。

穴から溢れ、壁から滝のように湯が落ちて辿り付く其処はちょっとした窪みだ。


人が三人は横になれる広さの小さな石造りのプール。その底には浄化の魔道具が幾つか設置されている。

そして、そんな大きな浴槽に女がいた。

全ての魔道具に魔力を込めて、風呂に入りながらワインを楽しみ鼻歌混じりに湯に浸かる。

その正体は――


「ニート最高ぅー!」


――ルージュ帝国初代皇帝ルージュ・カオスだった。




鼻歌が風呂場から聞こえた。どうやら俺の主人であるルージュがまた風呂に入っているらしい。

今日に入って三回目である。

どうしてそんな風にルージュが暇で、というかニートになっているのかというと訳があった。

実の所、ルージュは長期的な休暇と言う名の隠居を始めた。

色々な事があったので休みが欲しいとか言って、二代目皇帝に引き継いだのだ。

二代目皇帝は帝国で二番目に強い奴がなった。というのも、ルージュを除いた我こそは皇帝という奴らを集めて大きな大会を開き、優勝者を皇帝にしたからだ。

嫌になったら退位していいよ、とルージュ丸投げである。


さて、そんな事をする理由になった色々とは実の所魔王が関わっている。

掻い摘んで話すと、魔王と同盟する際に話し合って、結果ルージュが苦労するハメになった。

あれは、戦争が終わって魔王が復活した直後だった。

ルージュとしては魔王と戦いたくない状態であり、同盟の継続を申し出た。


「魔王様、同盟の件ですが継続して頂けないでしょうか?」


遠慮がちに、というか敵わない相手に機嫌を損なわれないようにルージュは様子を窺う。

魔王は、うむと力強く頷き承諾した。


「本当ですか!?やった!」

「うむ、我が領土を暫く預けてやろう。何、気が向いたら謀反でも起こせばいいからな」

「む、謀反なんてしませんよ!」


内心、今はまだが付いてそうな返答だった。

慌てるルージュを、クックックと楽しそうに笑いながら魔王は理由を話した。


「実の所、現状では天界で戦えなくてな」

「えっ、どういうことですか?」

「余の記憶では、天界の法則は信仰心が関わっていた筈なのだ。信仰心、という名の想念を肉体で流用する事で加護とかいう特殊な能力や、信仰心の集合体である神とか呼ばれる存在がある世界なのだ。因みに神と言ってもピンからキリまでいるから、魔物みたいなもんだな」


面倒だな、と言った顔で魔王は説明を続けた。


天界、そこは常に照らさせる世界。そこは信仰心という思いが力になる世界。

信仰を肉体の強化や治癒、攻撃に用いる俺達が奇跡と呼ぶ技術や信仰心の塊である神が存在する世界。

その世界を支配する、魔王と同じ君臨者は神王と呼ばれる未来を予知する存在らしい。

流石の魔王も同じ実力で、先読みされると勝つことは出来ない。寧ろ、負けてしまうそうだ。

しかし、その力は全て天界の人間達からの信仰心が源である。


「だから、余はモンスターを連れてバーンと人間を殺して信仰心を減らそうと考えたのだ」

「どんだけ時間掛かるんですか、てか人間とかいるんですね」

「丁度、有翼種みたいな人間だな。ハーピーが近いかな」

「それ人間じゃない!」


つまり、ちょっと隣の大陸まで行くので留守番していろよという事だった。

ここまでならルージュも苦労する事は無かった、問題はこの後である。

数日後、魔王は文字通りモンスターを連れて新大陸へと旅立った。

文字通り、モンスターを連れてである。

魔王が保有していると言う領土、そこがいきなり隆起したと思ったら空中に浮かんだのだ。

思わずバルスと言ってしまう光景である。


地響きと同時に、大陸の一部が空に飛んで行った。

これだけで大問題であるのだが、もっと深刻な問題を魔王は起こした。

それは、モンスターの激減である。

最初は魔王がモンスターを連れて行ったので平和になったと喜んでいたのだが、それは徐々に経済にダメージを与えた。

魔王が大量にモンスターを大陸から引き連れ、激減したモンスター達は狩りによってあっという間に全滅。

今では、ダンジョンにしかモンスターが生息できない状況になった。


そう、繁殖速度よりも俺達の狩猟速度の方が早かったのである。

驚異的な武器による技術革新はモンスターをたくさん狩ることを可能にした。

そして、モンスターは繁殖する相手が見つからず狩られていく。

いきなり消えたモンスターにモンスターの素材と密接に関わっていた産業が大ダメージ。

物価は高騰して、今ではダンジョンに行くだけで一攫千金出来る程の状態である。


よって、帝国のルージュに対する要望や陳情が増加してストレスの溜まったルージュは皇帝をやめたのだ。

そして始まった特許によるニート生活である。

元皇帝であり、特許の金でルージュは城で生活している。

ニート皇帝の誕生である。


「おいおい、それでいいのかよ。税金で暮らして、働かなくていいのかよ」

「働いたら負けかなと、ほら魔法の習得とか研究とかしないといけないじゃない。あと、最近作ったテレビのドラマとかアニメも見ないといけないし、それにゲームっていうのも最近開発し始めたじゃない。あぁ……そう考えると私、働き過ぎでしょ?」

「アドバイスとかテスターじゃなければな」


結局の所、相談役みたいな立ち位置で帝国の象徴的な地位を手に入れたルージュの自堕落な生活が始まったのだ。

最高級の食事、部屋はメイドさんが片付け、好きな時間に好きなだけ遊べる。

仕方ないかもしれないけど、親でなく国民の脛を齧っているのだ。

スゲー迷惑だわ、いやマジで。


「あっ、そういえば仕事してきたんでしょうね?」

「そうだった、報告だったな」


思い出したとばかりにルージュが声を出した。

そう、俺は仕事の報告をしに来ていたのに忘れていたのだ。


仕事、というのは俺の能力を使った諜報活動の結果報告だ。

ある時、前世のアニメキャラみたいな事が出来ないかなと試したのだ。

それは俺の生み出した分身を帝国内に放って監視すると言う物だ。

ゴキブリなどの虫を始め、カラスやネコなどの小動物、黒曜石や鎧などの無機物まで色々な形で分身が放たれている。

そして、その全てが雷の能力を応用した通信によりインターネットの掲示板のように互いにやり取りできるのだ。更に、記憶の共有も動画を見るようにする事が出来る。

そう、帝国内にはヤンヤンネットワークとでも言うべき物が形成されているのだ。


「それで、何か面白そうなのあった?」

「とある鎧の俺から、皇帝排斥派を作ろうとしている貴族の話とか入ったな。他にも二代目皇帝の支持率が航海支援政策の効果で上がったみたいな。不満とか噂とか色々あるけど、今の所はお前に関係あるのはこんな感じかな」

「そう、大航海時代がやってくるのね。新大陸の食材とか貿易したら儲かるかも……あぁ、でもあっちは宗教だらけで布教しに来たりするのか」

「そういえば、海で見慣れぬ恰好の者がいたという噂もあったな」


結果報告は、まぁ俺の分身が集めるので私的な内容ばかりだ。

最近のトレンドとか一押しの小説や絵師の話、旨かった店や可愛い女の子の話。

俺本体の人格に近い奴らなので命令以外の自由行動は俺規準で、結構適当である。

まぁ、おかげで人材を見つけまくって文化をドンドン加速させてるんだけどな。

今は飢えが無くなって飽食の時代になり、みんな冒険とか娯楽文化に力を注いでいる。


二代目皇帝の苦肉の政策なんか、新大陸に行く時に支援してやったりダンジョン攻略者達の優遇だったり今までの路線とは違う感じだ。

もう戦争なんか昔の話で、世界はグルメと冒険の時代になっていくのだ。


「そういえば、今度料理コンテストにゲストで呼ばれちゃった」

「いいなー!」

「品種改良に私が魔法を使ったら、予想以上に繁殖してしまったのよ」

「うわぁ……」

「突然変異とか時間を加速させる魔法はダメね、軽く進化しちゃったから」


お前、暇だからって何やってるんだよと俺は思った。

聞けば、俺が分身体と情報交換したりルージュの邪魔になるような反乱分子を秘密裏に排除している間。

魔法の習得や研究に飽きたら遊び呆けていたらしい。

俺の情報を元に食べ歩きとか、お忍びで出かけていたそうだ。


「そういえば、この間人工的に精霊を作れるようになったから早速パソコンなるものを作り始めたわよ」

「空想科学がファンタジーを駆逐していく……」

「クーラーとかテレビとか開発した奴は天才よね、今度ボーナスでもあげなきゃ」


そんな感じで俺達はゆっくりだが変わっていく文化を謳歌していく。

まさか、数十年後に俺達の予期せぬトラブルが起きると知らずに生活するのだった。


「そう言えば、雑誌の取材とか来てるのよね。いやー忙しいわー!本当に忙しいわー」

「お前、そんな庶民的な皇帝で良いのか?」

「大丈夫よ、楽しければ問題ないわ!」


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